1063. 海底の僧院
騎士の二人を無事に連れ戻ったミンティン。近づく馬車の側にサブパメントゥがいると分かり、一声吼えた(※『あっち行け』の意味)。
降り注ぐ大鐘のような龍の声に、町中が大慌て。あっという間に騒ぎになり、空に浮ぶ龍の姿を見た人々が興奮して喜んでいる中。
「派手なことを」
面白くなさそうに空を見上げたヨーマイテスは、横に座らせていたシャンガマックの頭を撫でて『また夜な』と言う。
すぐに後ろを向いた彼に、急いでシャンガマックが『宿の外?』訊ね返した返事に、彼は『外に出ろ。俺が迎えに行く』とだけ答え、影の中に消えた。
ミンティンは、サブパメントゥの気配が消えたことを確認してから、のんびり広場に降り、騎士の二人を降ろすと、わぁわぁ、騒ぎ走って、詰め掛けてくる民衆を見向きもせず。さっさと空へ戻って行った。
「待たせたな、フォラヴは無事だ。急げ。ここを出るぞ」
大勢の人が来ると告げて、総長は御者台に飛び乗り、手綱を取る。シャンガマックも急いで馬車を出し、バイラは馬にひらっと跨ると『こっちから出ましょう』と、空き地を突っ切った反対側の道へ誘導した。
ザッカリアはフォラヴと一緒に寝台馬車へ乗り、帰ってきた妖精の騎士に大喜びして抱きついた。
笑うフォラヴも抱き返し『心配をお掛けして』もう大丈夫ですよと頷く。
「イーアンは空だと思うけれど、タンクラッドたちは?」
「今ね。別行動で、タンクラッドおじさんとミレイオと、イーアンとオーリンで宝探しなの」
「宝。そうでしたか。分かりました。では私たちは次にどこへ?ここは町?」
細かい確認をする妖精の騎士に、ザッカリアは水差しと容器を渡して労い、フォラヴがいなくなった後の砂漠の話から、思い出せる範囲で全部伝えた。
フォラヴが真剣に、子供の話を聞いている、その時間。
二台の旅の馬車は、いつもよりもずっと早く進んで、町民の群れを交わし、バイラの地図の誘導に沿い、町営の宿へ向かった。
時間はお昼前。宿へ馬車を置いてから、昼食にすることに決め『その時、互いに報告』バイラとドルドレンは、お互いの顔を見て了解した。
*****
龍で海に向かったタンクラッド、オーリン。お皿ちゃんでかっ飛ぶミレイオ。翼で飛び続けるイーアンの4人は、次の場所へ向かう最中。
「お前の予想は、この辺か」
タンクラッドが龍の背から振り向いて、斜め後ろを飛ぶイーアンに訊く。イーアンは彼の側へ寄り、海の上から方角を確認して『もうじき』かな、と答える。
「正確ではありません。さっきの遺跡の様子から予想しています」
「ねぇ、結構飛んだわ。こんなに離れる?」
ミレイオが横に並ぶ。だだっ広い海原の色が変わったところで『かなり深いわよ、ここ』潮が違うと教える。
4人は一旦停止。空中で止まって、相談時間。
「『誰かが続きの僧院を造った』って言うなら、さすがにこんな、海のど真ん中はないんじゃないの?」
オーリンも陸地に顔を向けて『相当あるぜ』とイーアンに確認。離れた沿岸は既に、薄青い線のように見える。
「私もちょっと。ここまでは行き過ぎじゃないのかと思う」
ミレイオもオーリンの言葉に頷く。『どうやったって、僧院がある感じではないでしょ?』イーアンはどうしてここまで来たの・・・さっくりとしか説明を聞いていないので、ちょっと教えてと言うミレイオ。
イーアンはタンクラッドを見る。タンクラッドはイーアンの問うような仕草に、少し目を見開き、首を傾げて、態度で『俺?』の返事。
「パッカルハンです」
「ああ!それでか」
イーアンの一言を聞き、親方は一瞬で合点が行く。
一緒に行ったこともあり、単独でも地下から上がって調べた遺跡・パッカルハンの名前を出されても、ミレイオはピンと来ない。オーリンはチンプンカンプン。
「そうか。お前はそれで。じゃ・・・待て。さっきの僧院の壁画では」
「もう少し先です。もう少し先に『向かい合う陸』が見えるでしょう。その場所の」
「下だな?ってことは、そこにミレイオを出せば」
「ちょっと、ちょっと。待って。私が出るのは海ね?でも何?何か、二人で通じてるけど、教えて」
イーアンのヒントと、自分の見た壁画の内容を照らし合わせて、親方も納得したところで、ミレイオが止める。オーリンは自分で考える気はないので、状況を見守る(※考えても分からない)。
ミレイオに言われた『二人で通じている』の言葉に、親方は無表情で理由を教える(※本当はにやけてる)。
「思い出せ。あの島は傾いていた。理由は何だ」
「はん?理由ですって?そりゃ、あれでしょ。地震であの島が出たとか・・・あ。あ、そうか」
それだ、と頷いた親方は『同じくらいの時代だろ。さっきの僧院も』と続ける。イーアンは、説明が長くなりがちなので、ここは要点を上手に伝える親方にお任せ。
「あの僧院も、国は違えど、パッカルハンと同じような特徴があった。
ここは場所としても、パッカルハンと相当離れている。だが、同じような文明が広がっていないとは限らん。
逆があるとしたら?パッカルハンが浮かび上がった島なら、俺たちが行く先は」
「沈んだ島ってことね。ここが、7年前のテイワグナ南沖地震の直下だから」
「そういうことだ」
ミレイオも納得。そうかそうか、と頷いて、イーアンを見る。『あんたはあの僧院の壁画で、それを読んだのね』確認すると、女龍はニコッと笑う。
「あくまで推測です。だけど地下通路があり・・・浸水していることから、ミレイオが見に行った通路は『壁も天井も、崩れて進めなかった』とした話であれば。
通路は本当に在ったわけです。続く方向をまずは仮定して、壁画に残った二つの向かい合う僧院と、親方に読んでもらった言葉を繋ぐと、どうしたって対は現れるのです」
探せばある物を、行かないのも勿体無い・・・そう、笑うイーアン。そして、鳶色の瞳をキラッと輝かせると『もう近くでしょう』と、何かを捉えたような微笑を向けた。
親方。こんな時のイーアンが大好き・・・肌の色が変わろうが、翼が出ようが、角が生えようが。俺のイーアンは俺のイーアンだ、と。恋する瞬間タンクラッド(※コルステインいるのにね)。
イーアンは俺の浪漫だ。ずーっと宝探しでもシアワセだなと、思える自分がいる(※イーアン&謎解き&お宝=浪漫)。
「よし、じゃ。もうちょっと飛ぶか」
オーリンがパンと両手を打ち、親方のぽえ~っとした意識は戻される。龍の民は『海面近くを飛ぼう』と提案。
「影なんか見えやしないだろうけど。様子は上空より分かりそうじゃないか?沈む前は、地続きか、浅瀬で繋がってるか、したならさ。視線は低い方が良いんじゃないの」
そうしようと皆で了解し、高度を下げて、4人は海面に近い場所を飛ぶ。飛んで5分もしないうちに、オーリンが眉を寄せた。
「おい。あれ。向かいの陸地じゃないか」
「そうよ、どこだろ。でもそう見える」
オーリンとミレイオが確認し、遠目の利かないイーアンは、うん、と頷く(※分かんない)。
親方もバーハラーを止め、真下を見て『ミレイオ』と一声。ミレイオは上着のベストを脱ぐと、イーアンに放って、そのまま海に飛び込んだ。
「見つかるかな」
「どうでしょうか。でもミレイオなら勘も良いし。探し物慣れしていますから」
「何もないと思えば戻る。あいつは鼻が利くから大丈夫だろう」
昼に近い日差しの、凪いだ海の上。静かに揺れる水面を見つめる3人は、ミレイオが戻るのをドキドキしながら待った。
潜るミレイオ。音の消える深い海をひたすら、暗闇に向かって進む。
最初の僧院には目ぼしいものがない。入ってすぐに皆が判断した。相当な量はあったのだろうと、タンクラッドは部屋を回りながら、思うことを教えてくれた。
『あるにはあったんだ。だが。ここは場所が悪いな。馬車でもすぐ手前まで入れるし、宝があると分かれば、長い年月で呆気なく消えただろう』
オーリンが持ち帰った香油入れは、オーリンが拾った場所に案内してもらったら『ここは死角かな』と思える場所。
祭壇さえ運ばれてしまった様子の祈祷室で、荒らされたままの奥の部屋の隅を、オーリンは指差した。
そんな場所、暗いし、光も届かない。手前には空っぽで引き倒された棚が幾つも床にあり、よほど調べる気でもないと、部屋の隅まで目を光らせる気になれそうにない状態だった。
小さな壊れた宝は少し見つけたので、とりあえずそれは持ち帰ることにしたが、全員未消化(※勢い勇んで来たから)。
イーアンは気になっていることがあったらしく、タンクラッドにお願いして、壁画の周りに描かれた文字のような絵を読めるかと質問していた。
タンクラッドも、この前の涸れ谷で、館長に教えてもらった文字は理解できるようで、イーアンに細かい質問を受けながら、一緒に考えていたのが―― 『ここってことね』頭の中で呟くミレイオ。
本当に在ったわよ。
誰にも聞こえない、頭の中の独り言。目の前に、海に沈んだ遺跡が佇む。陸で見た僧院と似ていて、それは海底に通路の瓦礫を並べた様子から、ここが到着点と分かる建物だった。
意外にも、すんなり見つけた理由。それは『深海』ほどの深さではなかったことが、まず第一の理由。
イーアンの読みは当たっていて、僧院の周囲にもある、不自然な石や建造物の基礎を見るに、沈んだ島なのかもしれないと思えた。
真っ直ぐ潜って辿り着いたわけではなく、壊れた船がところどころに沈んでいたり、明らかに人工物と思える遺物が、少しずつ見えたことから、辿ってきたら僧院を見つけた。
ミレイオは上を見上げて、自分がどこまで左右に移動したのかを考える。それから、僧院の中に入り、泳ぎながら見回ると『あるよあるよ。ゴロゴロ』スゴイ、と笑みが浮ぶ。
沈んだ際に、床でも転げたか。手前に幾らも宝の品がある。ミレイオは手に取れるものを、ひょいひょいと掴むと、僧院から出て真上へ向かって浮上した。
浮上する久しい誰かの影を、僧院の奥で静かに見つめる者は、入ってきた命ある相手の善し悪しを味わうように感じていたのを、ミレイオが知る由はなかった。
待つ時間は長い、海面の3人。
まだかな、まだだろ、もうすぐかなと言いながら、揺れる波の奥をじーっと見つめ続けて暫くたった頃。
『ん。ミレイオ』イーアンが気配を察知。他二人の職人はさっと女龍を見て、さっと水中に目を戻す(※お宝?!)。
「来るか」
「来ます」
「来た!」
中年3人は、少年少女のように、はち切れんばかりの笑顔で、水中から上がってくるミレイオに、わぁわぁ喜ぶ。その両手に美しい輝き付きと、見て分かる!
ざばっと頭を出したミレイオに、大喜びの3人は『宝どうだ』と最初に訊ね、ミレイオに冷めた目で見られる。
「お疲れ様とか。お帰り、じゃないの?私だって頑張ってるのよ」
「分かってる。お疲れ様だな、お帰りミレイオ。どうだ宝(※早口)」
『その言い方ムカつく~』親方に文句を言いながら笑うミレイオは、イーアンに手伝ってもらって、お皿ちゃんに乗ると、その両手に持った宝に釘付けで、目が離せない仲間に、苦笑いして渡してやる。
「すごいな。かなりのもんだぞ、これ」
「すっげぇ。香油入れなんてショボいもんだったな。こんな大きさのがあるのかよ。まだあるの?」
親方とオーリンはお互いの龍を寄せて(※龍仏頂面)宝を交換で観察する。
イーアンも宝を見ながら、宝の装飾と模様、形の作りを、記憶している情報と照らし合わせつつ(※業務的)持って来た袋を広げる。
ミレイオが持ち帰ったのは、中型の花受けのような金属壷1つ。聖杯にも似た、特別な儀式用なのか、高さ30cmほどの大きめの杯が2つ。燭台らしき形の置物が1つ。
これらは金色、及び銀色の金属で作られていて、大変に凝った絵柄と、きちんと嵌った宝石がその表面を飾っていた。持ち手は何の生き物か。架空の生き物を模した、細かな技巧を凝らした持ち手が、何個も付いている。
「まだまだ。どっさりよ。でも困るのは、私一人なのよね、運ぶのが。どうしよ」
ミレイオは濡れた顔を両手で拭い、髪の毛をぐっと後ろへ撫で付けると、量は結構残っていることと、運ぶ方法を相談する。
広げた袋にお宝を入れて、中年組は考える。そして答えはすぐに出る。
「私ぃ?一人で往復すんの?袋持って、って・・・扱いが酷いんじゃないの?」
やり切れなさそうに、大声で反対の意思を伝えたが、ミレイオもそれしかなさそうな気がしていたので、結局、この案が実行されるのに時間は掛からなかった。
お読み頂き有難うございます。
昨晩から事情ありまして、投稿が出来ませんでした。気にはなっていたのですが、ようやく身動き出来る様になったので、遅くなりましたがここにお詫びいたします。
いつもお立ち寄り下さいます皆様に、ご迷惑をお掛けしました。申し訳ございませんでした。
詳しくは本日の活動報告に、後でまた載せようと思います。
投稿予告も追いつかず、本当に申し訳ございませんでした。




