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魔物資源活用機構  作者: Ichen
交わる世界の片鱗
1061/2954

1061. 愛する騎士 ~地下の国から 

 

 意欲と気構えのある町長に、がっちり応援を受けた、ドルドレンたち。


 地図をもらってお礼を伝えた、立ち去り際。町長が、町営宿場に職員をお使いで出すことになったので、騎士たちとバイラは遠回りして帰ることに決まった。


「お昼までには、宿に連絡が行くと思います。その後に宿へ入って下さったら、すんなりですから」


 協力的な町長に、お礼をもう一度伝えて、町長の提案どおり、時間を潰すために馬車は違う行き先に出発。



「あのう。折角ですし、フォラヴを探しに行こうと思うのですが」


「あ。そうである。行く時間があるかな。遠いのでなければ、馬車で向かっても」


「いいえ。私が見当をつけている所は、かなり距離があります。また1時間以上は、進まなければ着かないので」


 じゃ、どーするの、とドルドレンはバイラに訊く。馬車もあるしねと言うと、バイラはニコッと笑う。


「はい。『龍で乗り降りできる場所』を教えて頂いたので、まずはそこへ向かいましょう」


「そうか。そんな至れり尽くせり。あの町長は、ちゃんと考えてくれているのだ」


「私も驚きました。やり手で熱血漢と噂に上るし、人格者とも聞きますが。会ってみて本当だなと。

 龍で乗り降りできる場所まで考えていてくれて、助かります。昔は空き地だったところですから、町の管理なのでしょう」


 そっちは近いですよ、と教えるバイラに地図を見せてもらい、ドルドレンも了解する。『本当だ。脇に入る道を真っ直ぐ?ここ、何も建ててないのか』広いので、ミンティンでも大丈夫そうに見える。


 ただ、バイラは警戒心は常にある人。一つ提案。


「町長は疑う相手じゃないと思いますが。如何せん、他所の人の往来も多い町です。馬車に何かあっても困るので、ミンティンを呼んでもらうことは出来ますか」


「む。まさか、ミンティンをお留守番に」


 そうです、と頷くバイラ。『ミンティンが守る馬車に、手を出そうとする人間はさすがにいない』自信がある!と言い切った(※自分が怖いから)。



 こうしたことで、2台の馬車は空き地へ向かって、程なく到着。


 ドルドレンとしては、いくら言うことを聞いてくれるミンティンでも(※意外に我慢強いとは思う)お留守番なんか、引き受けてくれるかなぁと思うが、バイラは『あの大きさと迫力なら安全』と力強くお勧めする。


「呼ぶけど。ミンティンが嫌がったら帰すのだ」


「それはもう。龍の意思ですから。そちらが先です。でもお願いしてみるのも」


 そうね、と思うドルドレン。とりあえず『ミンティンおいで』を念じながら笛を吹く。ほんのちょっとで、空はぶわーっと柔らかな白い光に一瞬包まれ、空き地の向こうから驚く人たちの声が聞こえた。


「どうせ。大きくても小さくても、龍が来れば驚く。これはこっちが、慣れないとならん」


 やってきてくれた青い龍。ちらーっと見て『イーアンがいない』みたいな顔でドルドレンを見る。


 ドルドレンはおいでおいでして、青い龍を馬車の近くに降ろすと、早速、相談。

『今日はイーアンも出かけていて、心細い状況である』最初に同情を請う。ミンティン、フムフム頷く(※理解はしてくれる)。


 それでね、と続けて、自分たちはこの町のどこかにいるフォラヴを探すために、ショレイヤたちを呼ぶから、ミンティンはここで馬車を見ていてくれないかと伝えると。


 青い龍はじーっとドルドレンを見て、つーっと顔を背けた。ドルドレン、軽く失敗したと感じる。


「ダメか。やっぱり」


 嫌がっていそうには見えない(※仏頂面じゃない)けれど、お留守番とは思っただろうなと気を遣うと、ミンティンはもう一度ドルドレンを見てから、彼の首根っこを口で摘まみ、慌てる騎士をよっこらせと首に乗せた。


「え。どうしてなのだ、俺の言葉は通じて」


 ドルドレンは、いつもならイーアンが乗るところに自分が乗せられて、驚きながら龍に質問する。通じないのかも知れない。胴体には、ミンティンの背鰭も巻かれてしまった。

 話していたことと違う流れに、バイラも部下もびっくりして、急いで総長に大声で訊ねる。


「どうしたんですか?総長だけ、どこかへ連れて行くとか」


「分からないが」


 俺にもさっぱりと言いながら、青い龍がぐーっと浮上。うわっと声を上げたのも空しく、『総長!』地上で叫ぶ部下とバイラの声は、あっという間に引き離され、ドルドレンはミンティンに攫われた(?)。



 青い龍があっさり上空へ飛んだのを見送る、なす術のない騎士二人とバイラ。我が総長と龍が、点になるまで、ぼーっと見つめ『これは』とシャンガマックが呟く。


「あの、バイラ。もしかして、俺たちが留守番では」


「そうですね・・・私たち3人で『ここにいろ』という意味か」


「悪い人来ない?大丈夫かな」


「大丈夫だと思うけれど・・・曇り空でも明るい方だし。この辺はまだ人がいるから」


 ちょっと気にしたように言う子供の心配に答えると、バイラはさっと見渡して『治安は悪くないと思うけれどね』と呟いた。


 シャンガマックは溜め息をつく。朝方、総長に言われたことが体に出ている。

 眠っていない痺れが、少しだるさを感じさせている状態。困ったな、と思う・・・人間相手に万が一、馬車を守るとなれば、剣を振り回すわけにも行かないし、ぼんやりもしていられない。


 見渡す広場はそこそこ広さがあり、この町全体に植樹もあるのか、木陰もぐるっと周囲を囲む。何か、木陰の合間に動いた気がしたが、それは人も多い町で普通かと目を逸らした。


「どうしますか。私は留守を守ってくれる味方に、ミンティンをと思ったのですが」


「うーん。俺の龍を呼んでも良いけれど、大きさが違う。首都では『ガルホブラフを捕獲出来る』と思った輩もいたくらいだし・・・あ、いや。警護団のことでは」


 バイラは少し苦笑いしただけで『いいえ、あれは酷い』とすぐに答え『でも。そうか』と真顔になる。


「では、とりあえず。馬車を道の側に寄せますか。入り口付近に移動して、道から見えやすいように」


 木陰も掛かっている。馬にも涼しいから、とバイラは言う。騎士もそれに従い、2台の馬車を広い空き地の入り口近くへ停め、木陰の落ちる下に落ち着いた。



「まぁ、そんなに犯罪もないと思うけれど。人の出入りが気になる町ではあるので」


「留守番をそこまで気に掛けるとは。バイラの経験から、()()()安全であるための予防ですね?俺とバイラでも難しいでしょうか。ザッカリアも、そこそこ立ち回れるけれど」


「さっきの話です。人間相手だと、私の方が恐らく手馴れているでしょう。でも」


 バイラは荷馬車の壁に寄りかかって、褐色の騎士と、子供を見る。彼らも理解したような気まずい顔を向けた。


「そうですね。俺たちは、魔物相手であれば。でも人間は」


「でしょう?私は護衛だったから。人間が敵でもどうにか動けます。気持ちの問題ですが。だけど騎士はそうも行かないから」


 黙る騎士二人に、バイラも少し困って眉を寄せる。『馬車には荷物があります。馬車を狙う場合、相手の人数が多いです。下手すると10人を超える』バイラの言葉に、シャンガマックは質問。


「それだけの人数が、明るい日中に襲いますか?」


「そういうこともあります。()()()()()()ために。何も襲うのが、一度とは限らないんです」


 中身の確認と、守りの確認をするだけで、一回目は退散する。後をつけて、襲いやすい時間や場所で二回目に『取っていく。こともあります。ものだけではなく、その時は命も』だから困る、とバイラは教えた。シャンガマックは、横にいるザッカリアが一気に怖がっているのを感じ、彼を引き寄せる。



「どうしますか。龍、小型ですが、やはり呼びましょうか」


 シャンガマックも、万が一のためにと、手数もないこの状況で、盗賊相手に急に動けない諸事情を懸念した。その途端、馬が妙な声を出した。グゥと聞こえた、大きな唸り声。


「あ!まさか」


 ハッとしたバイラが急いで前の馬に駆け寄ると、『うおっ』の驚きと共に後ずさる。シャンガマックたちも目を見開いて、さっと馬車から離れてびっくりした。


 人。4人の男が、馬の口に粗布の袋を被せた状態で、自分たちを見ていた。目が合った瞬間、一人が腰の剣を抜く。


「やめろっ」


 馬の首に振られそうになった剣に驚いたバイラが、叫ぶと同時に一度寝台馬車にも目を向けてすぐ、剣を抜き払って、賊の剣の下に滑り込ませる。

 ぶつかる剣の甲高い音が辺りに響き、シャンガマックは思わずザッカリアを抱き締めて『バイラッ』と名を叫んだ。


「シャンガマック、寝台馬車を」


 振り返って短く怒鳴り、バイラは体を屈ませ4人の内、手前にいる二人に突進する。馬を守る形でバイラは、馬と賊の間に入ると、容赦なく相手の腕に向かって剣を突き出した。


「寝台馬車です、早く」


 もう一人の男が剣を抜いて、バイラの剣を叩いた後、彼が身構えて二人の相手に応じた時、背後の騎士に叫ぶ。シャンガマックはハッとして、ザッカリアを片腕に、後ろの馬車へ向かうとそこに既に同じ行為をしようとする賊がいた。それも『増えた』人数が一気に6人くらいに。


「シャンガマック!」


 ザッカリアが叫ぶ。『剣、ないよ!』馬車の中だ、という子供にシャンガマックは頷いて、焦る心を抱え込んで呪文を呟き始めるが。それより早く、寝台馬車の馬の首に剣が落ちた。


「セン!」


 袋を被されて、剣を振り下ろされる馬の首に走った褐色の騎士。剣と馬の間に跳び、腕を体ごと差し出したその時。カッ、と辺りに青い閃光が走った。



「おおあ!」 「うおっ!」


 閃光の瞬間に、賊の男が叫んで弾かれるように倒れ、シャンガマックの腕に乗った剣が灰に変わった。


 跳んだシャンガマックの体が、馬に当たって地面に落ちる数秒で、目の前の光景にザッカリアは目をまん丸にした。


 褐色の騎士の体は、次の一秒で大きな男の腕の中に抱えられていた。


 瞬きの間に現れたような、木々の陰に突然姿を出した大きな男。金属質な焦げ茶色の筋肉を日中の光に輝かせ、金茶色の長い髪を振り上げた、その顔。厳しい顔に憤怒が浮ぶ。


「ヨーマイテス!」


 彼の腕の中に抱きかかえられた騎士は、息切れと一緒に見上げた父の名を呼ぶ。碧の目は自分を見ない。


「俺の息子に。ふざけたやつらだ」


 ぎゅうっと片腕に抱えた騎士を締め付け、絶対に離さないと分かる力の前で、シャンガマックは困惑しながら、ヨーマイテスと賊を見た。が、遅かった。


 怒りに満ちたヨーマイテスと目が合った賊が、叫び出す顔を歪ませ口を開いた途端、彼らは灰になって消えた。


「だめだ、ヨーマイテス」


 シャンガマックが止めようと急いで口走った顔に、サブパメントゥの大きな手が乗り、口を塞がれる。


『名を呼ぶな』低い声でそれだけ言うと、後ろを向いたヨーマイテスは、荷馬車の馬の側で凝視する、バイラと、彼を襲う輩を見て『お前も助けてやる』一言そう呟くと、バイラの前に剣を振り上げた男4人が、次の瞬間、声も立てずに消えた。


 息も乱れたシャンガマックは、目の前で何の許しの時間もなく消えた人間に、発作でも起こしそうなくらいに取り乱していた。


 バイラも同じ。だがバイラは、影があるとはいえ、日中に現れて助けてくれた大きな力に、すぐにするべき態度を取る。大男に振り返って膝を地面に着き『有難うございました』と、大声で感謝を捧げた。


 ヨーマイテスはバイラの礼を見て、ちょっとだけ普段の余裕を戻したように止まり、『気にするな』と静かに答えた。


 ザッカリアも体がガクガク震えている。怖いのは。何も躊躇わずに()()()()()その行為――


「ホーミット・・・俺。俺、そんな怖いことしなくても良いって思う」


 頑張って、泣きそうになりながら気持ちを伝える唇が震え過ぎて、言葉が言葉になっていない。碧の目は子供を蔑むように見つめ『それでお前も仲間も死んだら。お前は満足か』と返した。



 彼の腕に抱えられたシャンガマックは、善悪に取り乱す気持ちを、歯を食いしばって思いっきり抑え付ける。そして、自分を守った父を見上げて『あなたを。一生慕う』忠誠を取り戻したと同時に、決意の上書きを告げた。


 碧色の瞳は、腕に抱えた騎士に静かに向けられ、怒りに満ちていたその顔は、穏やかに変わる。


「そうだ。昨日の夜。お前は俺にそう誓った。俺はお前を守ると約束した。恐れるな。俺はお前を守り続ける。お前を、誰の手にも触れさせない」


「はい」



 褐色の騎士の、荒い息の中。短く肯定を告げた言葉に、ニコッと笑ったヨーマイテス。ゆっくり騎士の額に口を寄せて、丁寧に口付けする。


「お前は俺の息子だ。この魂がいつ消えても、お前と俺は繋がっている」


 シャンガマックは、彼の口付けを額に受け、体に衝撃が走る。額から全身の内側に駆け抜ける、激しい放熱が、褐色の騎士の肉から血から骨の髄まで、跳ね回るように貫く。

 精霊の加護たる金色の腕と首は特に激しく熱を高め、焼けるような、それでいて目が眩む恍惚が、激しくぶつかり合って混じり合い、熱を帯びて、シャンガマックの肉体に溶け込んだ。



 激しい力の授与に、息が止まりそうなほどに驚いた。そして、知る。ヨーマイテス()は。


 やはり。そう。()()()()での()()を授ける立場の存在なんだと、荒い息とびっしょり濡れた汗に包まれたシャンガマックは、はっきり理解した。

お読み頂き有難うございます。

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