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魔物資源活用機構  作者: Ichen
交わる世界の片鱗
1060/2953

1060. アギルナン地区ギールッフの町長さん

 

「サブパメントゥって。基本的に、愛情たっぷりな気がするのだ」


 これは付き合ってみたから、分かることだね・・・しみじみとドルドレンは言う。横に座るイーアンも頷き『私もそう思う』皆そんな感じですよと、答えた。



 二人は朝食の後、御者台へ。愛妻(※未婚)は『今日は雲がちょっとあるから』と、御者台に自分から来て座った。


「日差しが強いと可哀相だけれど。本当はいつも、一緒にはいて欲しい。今日は町に着いたら、すぐ別行動だしね」


「はい。本日、私お空もお休みです。町までの間、一緒が良いと思います」



 と、こうした流れで、二人はちょっと涼しい朝の道を、御者台で過ごしている。


 天気の話題から別行動の話、その続きで、話は自然に早朝の出来事に変わり、ドルドレンはホーミットの笑顔を見て『優しく見えた』正直な感想を言う。

 イーアンは、ビミョーそうだが『まー、相手が()()()()じゃあね』と納得はしていた。


 そして冒頭の言葉が出てくる。ドルドレン的には、『サブパメントゥ=地下の国の住人』の印象が、この度を以って、すごく変わったとのこと。


「ミレイオが、一番最初だっただろう?イーアンへのお世話っぷりは、ミレイオが男性と知っていても、嫌ではなかったのだ。オカマだからと言うのもあるんだろうけれど」


 伴侶の話に、フムフムと相槌を打ち、先を促すイーアン。


「次がコルステインだ。ミレイオ一人だと、あの性格なのかなと思うだけでも。

 コルステインは姿も状態も全然別物。それでも、ミレイオと同様に、触ったり抱き締めたりで、本当に嬉しそうにする」


「ドルドレンは記憶に薄いかもですが、某ヒョルド(※某でも何でもない暴露)。彼も愛情の・・・その、使い方がちょっと問題ありましたが、彼なりの愛情は人間なんかよりも、ずっと強かった気がします」


「ああ、そうそう。そうなのだ。彼もである。あの姉妹の経緯を聞けば、思うところはあるが。

 しかし、人間だって。あの状況じゃ、放棄もすれば、見放しそうな内容なのに、彼なりに愛していた。それもずっと、面倒を見て」


 そうなのよ、とイーアンも大きく頷く。『そこはね。知ったら、放って置けなくなりました』心に響く愛情深さです・・・奥さん、伴侶に同感。


「で。今回だろう?ホーミットは、攫ったりぶっきらぼうだったり、正体が明るくないといった、云わば、難しい対象でしかなかった。

 それがどうだ。シャンガマックと出会って・・・えーと、一ヶ月も経ってないのか。あの変わり様。凄い違う。

 シャンガマックを抱き寄せているのだ。あの優しそうな顔。嘘じゃないと分かるから、本当にびっくりした」


「最初、とっ捕まえて()()()()()くせにね」


「イーアン。蒸し返してはいけない(※やんわり注意)」


 だって、とぼやく奥さんに、ドルドレンは丁寧に『誰でも成長するのだ』と教える。

 サブパメントゥは、心優しき存在なんだね・・・そう結んで、さらっとこの話題を終えた(※イーアン、獅子にキビシイから)。



 あれこれ話しながら、馬車はポクポクゴトゴト、道を進む。行き交う馬車も少し多い。


 行く手に見えてきたのは、丘の下りにある町の外れ。『あの辺から町かな』ドルドレンが目を凝らして、何軒か点々とある家屋を指で数えて、範囲が広そうだと言うと。


「もうすぐですよ。ここは周辺に農園が多いので、町の中心部や商店街へ行くまで、少し時間が掛かります」


 後ろから誘導に回ったバイラが、横について答える。手前に見える、間隔の広く開いた家屋は『あれは農家ですね』と指差した。


「中心部はこじんまりしていると思いますが、周囲は広いです。農作物の収穫量が相当なので。多分、これは昔も今も同じに思います。見える範囲は木々も茂っていますし、人も出ているから」


 収穫しているかもしれないですよ、と微笑むバイラ。今日は、騎士たちが町でお留守番なので、バイラが言うには『町の探索も良いかも(※自分出かけるから)』とのこと。


「町の探索。よそ者の俺たちだけだと、警戒されるような」


「旅人が多いんです。この町は立ち寄る人が多いから、各国からも来ます。総長たちは見た目がその、目立ちますけれど。でも大丈夫だと思いますよ」


 イケメン尽くしだから、そこは心配もあるけれど。ちょっと困っていそうな総長に、バイラは少し笑って『同じくらい格好良い人たちも、きっといる』と励ました(?)。


 横で聞いているイーアンも、伴侶のカッチョ良さは毎度、気にはなる。

 が、最近、自分も人のことを言っていられないくらい(たか)られるので(※自分は珍獣扱い)伴侶の気持ちはちょびっと分かる気がする。


 バイラと一緒に伴侶を励まし(※『出来るだけ顔隠せ』って)それから、自分たちは町の外れで馬車を下りると言った。


「中へ入ってからだと、龍を呼ぶのも。だから手前で。私もこの姿です」


「あ、そうか。寂しいが仕方ない。それでは、イーアンたちが出た後、その足で町長を訪ねよう。龍を使うことを、皆の留守の間に伝えておく」


 宜しくお願いしますと頭を下げて、イーアンは『お土産を楽しみにしていて』と微笑むと、伴侶の頬っぺたにちゅーっとして(※バイラは見ない振り)後ろの荷台へ行った。



「ドルドレン。ここらで止めて。行って来るわ」


 ミレイオの声がして、ドルドレンが馬車を止める。ミレイオは御者台を下りて、荷台のシャンガマックを呼び、彼に御者を代わってもらう。


「町はすぐよ。着いたら、ちゃんと眠って」


 褐色の騎士に心配を短く伝え、ポンと腕を叩くと『早めに食べて、早めに休むの。分かったわね』と、念を押した。シャンガマックは有難くお礼を言って、御者台に座る。


 親方とイーアンも荷台から下り、空袋をがっさり出すと、行く気満々、装備万端で龍を呼ぶ。イーアンは連絡珠でオーリンを呼び、親方の龍とオーリンはすぐにやって来た。


 ミレイオがお皿ちゃんを出し、イーアンも翼を出す。4人が浮上したところで、バイラがじーっと見ていた。


「あ。バイラ。行くんだっけ」


「はい。出来れば(※控え目)」


 と、思ったら。バイラが馬を下りようとした矢先、町の方から来た馬車が『あれ、警護団員か?』と大声を出して呼び止めた。

 振り向くバイラは、声をかけた黒馬車を見て、その窓からこっちを見ている団員に挨拶する。団員は、バイラに気がついたすぐ、真上に浮ぶ龍と人を見て仰天したようで、『あれは?龍?!』と騒ぎ始めた。


 でもこれは、すぐに落ち着く。急いだバイラが事情を簡潔に教えると、彼らはさすが、()()()()()()()()()で、あっさりと『あなたたちが!そうなんだ!』で、納得してくれた(※町は意外と受け入れ早い)。



 こんなことが挟まって。


「では行ってまいります。ドルドレン、早く休んでね」


 イーアン含む職人4人は手を振り振り、南の海方面へ飛んで行く。見送る騎士たち、そして警護団員と、バイラ(※捉まった)。


 泣く泣く見送るバイラ(※行きたかった)。

 町の警護団員と挨拶を交わしてすぐに、駐在所にも届いたという『昨日と今日の報告書。()()()()()が出ていますよ』と伝えられては、さすがに『あ、俺出かけますんで。後で』とは言えず・・・・・ 

 ドルドレンに慰められつつ、しょんぼりと肩を落として、待機組に加わることとなった。


 警護団の馬車は見回りなので、その場でお別れし、旅の馬車は、項垂れるバイラを乗せた馬と共に町の通りを進んだ。



 町へ入って、気を取り直したバイラの案内に誘導され、道を確認しつつ、騎士たちの馬車は人も雑多な通りを、最初の目的地・町役場へ向かう。


 たっぷり1時間使って、ちょこちょこ動きつつ、どうにか町役場へ到着。『結構、距離があったな』町役場の敷地に入った馬車を停め、ドルドレンは馬を下りるバイラに話しかける。


「町の通りが、思ったよりも混んでいました。見たところ、町民以外の人数が多いです。()()()()は、ここはまだそうですね」


 それに越したことはないけれど、とバイラは言う。『これだけの人数が来ていると、万が一が怖い』呟いた心配そうな顔に、ドルドレンも同じことを思っていたので頷いた。


 ドルドレンは、寝台馬車のシャンガマックとザッカリアにも声をかけて、4人で一緒に役場へ入る。


 農業で栄えているからか、役場もそこそこ立派。首都ほどではないけれど、中型の町としては意外にも、お金をかけた造りのようで、広さと天井の高さ、役場内の整然とした感じは、目を引く印象だった。


()()()()()と言うから」


「いえ。()()()()()()()()んですよ。昔は」


 総長の呟きに、バイラは前を見て進みながら囁き声で答える。役場にいる職員も客も、人数が多い。『前に来た時は、もっと小さかったです』と教えるバイラの言葉に『栄えたのだな』うむ、と頷く総長。



 バイラは受付から右に続くカウンターに寄り、早口で自分たちの自己紹介と目的をざっくり伝える。職員のおじさんは、さっとバイラの後ろの3人を見て『ああ・・・』と小さく声を漏らし、ゆっくり頷いた。


「聞いています。警護団に報告書の写しをもらっているので。この方たちですか」


「はい。町長に挨拶をして。魔物退治についてお話をしたいですが。短い時間です、どうでしょうか」


「少々お待ち下さい」


 ぷっくりした丸顔の、浅黒い肌のおじさんは立ち上がって、来客を待たせると、すぐに役場の奥へ行って誰かと話を始めた。その人もドルドレンたちを見てから動き出し、もう一つ裏に続く、壁の向こうへ消えた。


「この大きさになると。予約しろと言われそうだな」


「うーん。多分、大丈夫だと思いますよ。警護団の報告書を、職員まで読んでいる様子です。

 恐らく挨拶くらいなら、不在でもない以上は済ませてくれるでしょう。許可は今日中に発行しないかもしれないですが。それよりですね」


 バイラの言葉尻に、うん?と顔を向けるドルドレン。バイラはちらっと総長を見上げて『そのままでいて下さい』と小声で伝える。

 何かなと思ったら、周囲の声に女性の声しか聞こえないと気がついて、目が据わった(※囲まれたと判明)。


「シャンガマック。ザッカリア。俺の側へ」


「はい」


 呼ばれなくても行きます、と呟く褐色の騎士は、子供の背中を押して、総長の後ろから真横へ移動(※この時、絶対に周囲を見ない)。ザッカリアも徐々に慣れたようで、無表情一徹を決め込んで、俯きがちに総長の片脇に納まった。


 バイラは彼ら3人を見て、()()を超えるのは、なかなか難しそうだなと『同じくらい格好良い人がいるかも』発言を、心の中で撤回した。



「お待たせしました。今、町長が来ますから」


 石の如く固まる騎士3人に、これ以上、女性が接近しないようにバイラが気を遣っていると、後ろから少し大きな声で、先ほどの職員の声がかかる。良かったと振り向いて、おじさんと目が合うと、おじさんも何となく事情を察したように苦笑いしていた。


「こちらへどうぞ。相談室に入ってもらった方が良いかな」


「お願いしよう」


 ドルドレンは耳ざとくその言葉に反応し、二人の部下に回した腕を狭めて『離れるな』と注意してから、先を歩くバイラの後ろを、大股で進んだ(※逃げ)。


 4人がカウンター沿いの部屋に案内されて、そこへ逃げ込むと、背の低い60代のおじさんが椅子から腰を上げ、笑顔で挨拶した。



「遥々ようこそ。どうぞ、私はこのギールッフの町長、ハムザ・ジンダヤです。ここら辺一帯、アギルナン地区の村落も、私が担当しています」


「急がしい中を、時間を取ってくれて有難う。俺は、ハイザンジェル騎士修道会総長ドルドレン・ダヴァート。短く済ませるので、暫し時間を頂きたい」


「はい。大丈夫です。今、都合を調整したので。20分ほどでも良いですか?他の町村での、あなた方の要望内容を報告書類で読みましたから、同じようなご要望かなと思うのですが」


 ドルドレンは示される椅子に腰掛け、部下とバイラも同じ並びに座る。

 話が早いなと思いつつ、ドルドレンは早速、自分たちの任務説明と、この町での諸々の行動に対する許可の申請、それから近隣の魔物被害の状況を訊ねた。


 喋り慣れたもので、総長の流れるような内容に町長もすんなり聞いて、すんなりその場で了解と許可を出す。


「炉場と宿屋に関しては、こちらから手配しておきましょう。宿屋は町営がありますから、そちらで良ければ7泊まで無料でお貸し出来ます」


 お風呂もありますよっ・・・町長が自慢そうに胸を張る(?)。


「すまないな。そこまでしてもらうと恐縮だが」


「いいえ。ご活躍は警護団を通して、耳に入れております。隣国から、魔物を退治に派遣された客人の、短期滞在を支えるくらいしか、お手伝いしようがありませんが。

 でも。辺鄙な土地は賛否両論もあるし、過疎化や資金的な問題が生じて仕方ないにしても・・・ここの町くらいの規模なら、魔物材料の加工なども()()()()()()()()()()()()と、私は考えています」


「む。本当に?そう思うのか」


「ハイザンジェルはあの恐ろしい時間が『2年』と聞いています。その最後の半年で、立ち上がったでしょう?これはテイワグナに避難した貴族に聞きました。

 大変な苦労の末だったと思います。それでも生き残ることを選んだ、その魂の力に私は、テイワグナもそうあるべきだと考えます。

 無論、全体が私と同じようには思わないにしても、私の言葉が幾分、融通の利くこの町なら、協力とは言わず、皆さんに学び、教わったことを国に役立てることも出来る」


 背の低い、がっちりした体格の町長は、黒い髪を後ろへ撫で付けると、大きな黒い目で総長と彼の部下たち、そして同行する警護団員を見て『私に出来ることなら、相談して下さい。頼って下さい。あなた方が魔物を倒すその意味を、私たちも学ぶべきだ』そう力強く伝えた。


 ドルドレンは、こんなことを言う町長に会うと思っていなかったので、ぽかんとする。

 バイラも、意外そうにゆっくりと頷き『素晴らしい』と小さな声で呟いた。ザッカリアもシャンガマックも顔を見合わせて、前向きな言葉を聞けたことに微笑む。


「何日滞在されるか分からないですが。次への動きから『あなた方は長居はされない』と伺っています。その短い期間、どうぞこのギールッフの町を、足掛かりにお使い下さい」



 町長はしっかりと微笑んで、その体に似合わない、大きな分厚い手を総長に差し出す。

 その手を見つめたドルドレンも、静かに頭を垂れてから顔を上げ、微笑んで、差し出された手を握った。


「では。最初です。町の地図を渡します。町営の宿場の場所と、炉場、龍の乗り降りが出来る広場を確認して下さい」


 握手をしたまま立ち上がった町長は、4人に歓迎の言葉をもう一度伝えると、残った時間を有効に使うよう、一緒に役場内に戻った。

お読み頂き有難うございます。

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