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魔物資源活用機構  作者: Ichen
交わる世界の片鱗
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1059. 旅の五十三日目 ~公認の仲へ

 

 明け方前。最近、誰かしらは夜明けよりも早く起きている日々が続く。今日も同じように、夜明けよりも暗い時間に、一日は始まったが。


 連日誰かの早起きと、少し違うのは全員が起こされたことだった。



「突然。何かと思えば」


 早目に来て、これは何なのさ・・・据わった目で、うんざりしたような声を出すミレイオ。


 ザッカリアはまだ寝ぼけていて危なっかしい。彼を荷台に座らせたイーアンは、子供に寄りかかられながら、彼の頭をナデナデしつつ、唐突な朝の始まりに困惑中。


 横に立ったドルドレンも、額に手を添え、目の前の様子に夢か(うつつ)か境目を考えている。それはバイラも同じ。凄い光景だと思いつつ、本当に本当なんだろうかと凝視する。


 馬車の脇に立つ、親方とコルステイン。コルステインとしては、フムフム言いながら、じーっと見ているだけ。親方はコルステインの体に腕を回した状態で、この突飛な朝に、複雑な気持ちを抱いていた。


 この場にいないのはオーリン(&休憩中フォラヴ)だけ。呼ぶかと思ったが、イーアンはとりあえず止めておいた(※彼女といる可能性もある)。



「私はさ。『今日は出かける』って思ってたから、早く来たのよ。

 それが。来ていきなり、こんな()()()()聞くと思わなかったわ。何なの、こんな時間に」


「煩い。お前は黙っていろ。そういうことだ。バニザットがそれで良いと言った」


「あんた、どうせ何か丸め込んだんでしょ!」


「違う、ミレイオ。違う。俺がそうしたいと頼んだ。彼は聞いてくれただけで」


「シャンガマックったら。あんたはこいつがどんな男か知らないのよっ」


「朝っぱらから煩い。黙っていろ」


「お前だよっ!お前が朝っぱらからだろ!」


 キレるミレイオの甲高い怒りの声に、ヨーマイテスは『ああ、煩い』面倒臭そうに顔を背ける(※実の息子イヤ)。

 困っているシャンガマックの肩に手を回して、見上げた騎士にちょっと微笑むと頷いて見せた。


「大丈夫だ。堂々としていろ」


「うん。俺は良い。ヨー・・・ええっと、ホーミットがいれば。俺は平気だ」


「聞こえたか。バニザットは、俺と一緒に動くことを選んだ。馬車の旅はこれまでどおりだが、彼は基本的に、俺と共に行動する。つまり」


 さっと手を上げた総長・ドルドレン。眠いけれど。突然の展開に、頭も付いていってないけれど。手を上げて、サブパメントゥのイケメン(※ドルには重要な点)ホーミットの言葉を止める。


「言いたいことは、分かったが。意味をもう少し確認したい。シャンガマックは俺の部下だ。はい、どうぞ、と簡単に言えそうな内容じゃない」


「ドルドレン。お前の部下だろうが、バニザットは俺の()()だ」


()()()


 棒読みで返す総長。さすがに驚きが瞬間で飽和して、目を丸くする。大男の腕で引き寄せられたシャンガマックの表情は、ちょっと照れている・・・・・(※ドル『うそー』って感じ)


 ミレイオも開いた口が塞がらない。『な。なに。なに勝手な』途切れがちに言い返す言葉を、さっと見た碧の目が、突き刺すように止める。


 イーアンは、一人知っている事実(※1035話)。

 あれ以降、誰かに話すタイミングを得られず、今日まで来ていたが、あの日、シャンガマックが自分だけに打ち明けたのかと思えば、言わないのも当然ではある。にしても。


「本当にそうなのね」


 呟くイーアンを見たシャンガマックは、微笑を返しただけで、言葉は使わなかった。



 胴に回したタンクラッドの手を、そっと外したコルステイン。ちらっと見上げたタンクラッドの後ろに回り、背中から彼を、鳥の足の腕で抱き寄せる。


『ホーミット。バニザット。好き。同じ』


『ん?ああ、そういうことか。俺とお前みたいだ、と言っているのか』


 うん、と頷くコルステイン。

 両肩にコルステインの腕が回って、胸の前で組まれた、鳥の足の腕をナデナデしながら、親方は彼らを見つめる。『コルステインは、彼らがあれで良いと思うか』一応、聞いてみると、青い目が向けられる。


『コルステイン。良い。思う。タンクラッド。何。ダメ?』


『ダメじゃない。何だか不思議な感じがしただけだ』


『ふしぎ。何?好き。守る。する。近く。大事』


 不思議については気にするな、と伝えてから、コルステインの直接的で素朴な感性に、親方も納得する。

 ホーミットの動きがまだ不透明で、その面では気がかりもある。だから唐突に『バニザットの旅の半分を預かる』と言われたら、それはどうなのか?と複雑にも思ったが。


 考えてみれば、皆から見た自分()もそうなんだろうなと。タンクラッドは考える。

 異種族と行動を共にする、それは恐らく、理由は何であれ、警戒されたり戸惑われたりしやすい印象なのだ。


 単に、()()()()()()がサブパメントゥだっただけで・・・イーアンは龍と、自分はサブパメントゥと。異種族と付き合う、それだけのこと。シャンガマックも、そうなっただけ。


 ふと。この時間をホーミットが選んだのは、コルステインにも紹介するためだったのかと、親方は思った。すると、自分の前で組まれた腕が少し狭くなって、見上げるとコルステインがニコッと笑った。


『そう。ホーミット。好き。見せる。する。バニザット。好き。教える。大事』


『そうか・・・・・ 』


 コルステインの答えに微笑を返し、タンクラッドは、それにしても・・・と、目を移す。


 ミレイオの愕然とした様子。あいつは変なところで真面目だから『得体の知れない相手に、バニザットが』と思っているのかもしれない。


 後で一緒に出かけた時にでも、ミレイオの気持ちを聞いてやろうと、親方は思った(※コルステインに筒抜け)。



「女龍、イーアン」


 不意に、ホーミットはイーアンに顔を向けて名を呼んだ。イーアンは彼を見て、黙っている。


「随分と変化したな。(まさ)に龍だ。その姿それこそ、女龍。ズィーリーが到達しなかった強さを得たか」


「いきなり何を話しているのやら」


「俺との()()を覚えているか。ついこの前の」


 この言い方と流れ。嫌な感じだなぁと思いつつ。イーアンは少し瞼を下ろして頷く。彼女の表情に、ニヤッと笑ったホーミットは『()()()()()あってくれよ』と呟いた。


「例外なんて作らないだろ?龍は」


「そうね。()()


 イーアンはそこまでしか答えなかった。

 ホーミットを倒せるのはイーアン(自分)だけだ、と言ったのは、誰でもないホーミット本人。


 今、目の前のホーミットの両腕が、異様に気になるイーアン。何だ、あの模様はと、目を凝らして見ていた。


 あの細かい絵柄に、とんでもない力が籠もっている気がする。

 さっきから、彼がシャンガマックに普通に触れていられるのは、絶対あれの効力だと。嫌でも意識する、昨日のビルガメスの話。これがその力なのかと、溜め息をついた。


 ホーミットが良からぬ暴走をした時。それが心配だった。約束をした自分は動けないが。もしそんな最悪なことが起こったら――


 その方向を見ることはないが、イーアンは親方を思う。中間の地で、様々な条件を潜って、それでも対抗出来るとすれば、それは特殊な力の持ち主でなければ。



「さて。伝えるべきは伝えたぞ。これからは毎夜、バニザットは俺と会う。

 日中も、場所や状況によって、彼を連れて行くこともあるだろう。それを皆が承知しておくようにな」


「お前の息子と言うが・・・シャンガマックは眠らないと倒れる。少しは、彼の体も労わらなければ」


 ここまで決まりきった様子に、総長は、言い返す気はなかったが、忘れていはいけない大切なことを教えた。ホーミットは少し止まってから、さっとバニザットを見て『眠いのか』と訊く。


「大丈夫だ。日中に休むから」


「シャンガマック。日中に魔物退治があったら、お前は眠っていられないだろう。疲れを癒してもいない体で戦って、怪我でもしたらどうするんだ」


「総長・・・それは。そうですが」


 ホーミットを気遣って、うっかり『大丈夫』と答えたのを、横から総長に(たしな)められ、シャンガマックは戸惑う。ホーミットも眉を寄せて、ドルドレンの言いたいことを考えている様子。


「お前を起こさないで、俺たちが戦えば済む話かも知れん。だが、それを毎回繰り返して、お前はそれで平気でいられるのか?お前の性格では、そんな状態を良いと思えないだろうに」


 あ、と声を出して、すぐに黙るシャンガマックに、ドルドレンは溜め息をついて首を振った。


「お前とホーミットの関わりだ。この旅路で逢ったのだ。運命の導きもあるだろう。俺は邪魔する気はない。

 だが、最初の頃のタンクラッドを思い出せ(※771話以降の夜)。今でこそ、双方に良い状態を作り上げたが、お互いの性質が異なることを考慮しないと、体に響く。気持ちがどれほど募っていても、だ」


「はい」


「ドルドレン。彼を叱るな」


「ホーミット。お前も分かる。シャンガマックが人間の体であるために、思わぬ小さなことで傷つくのを。それが自分の配慮で防げるなら、それを選ぶだろう。

 父と言い切るなら、彼を常に守れる状態を作るに、何が必要か。今一度二人で話し合ってくれ」


 後ろで聞いているイーアンとミレイオ、バイラは、『さすが総長』と思う部分。言うことが違う(※ザッカリアは寝ている)。


 タンクラッドは、自分の例を出されて、後ろで何の話かと『?』を連発していそうなコルステインに、最初の苦労を悟られないよう、必死に意識を保った。



 結論。ドルドレンの意見に、大男は気を悪くしなかった。


 サブパメントゥの自分と人間の違いは、ただの優劣程度にしか意識していないのも、バニザットを息子として守るにあたって、今後見直そうと決める(※言わない)。


 困惑しているシャンガマックは、冷静に考えたつもりでも、意識がどこか抜けていたと反省する。誰かの側で生きようなんて、こんなに固い決意をしたことはなかったし、大きな転機で浮かれたのかもと立ち止まった。


 二人は顔を見合わせ『今夜、話そう』と約束し、すぐにホーミットが『いや』違うな、と呟く。


「夜だが。俺と過ごすが、今日から眠れ。タンクラッドとコルステインが一緒にいるようにだ。それなら良いだろう」


「有難う・・・優しいな、ヨー・・・ホーミット」


 ふわっと心が温まる一言に、シャンガマックは嬉しさを顔に滲ませる。その顔に微笑んで、ホーミットは頷いた。『お前を休ませる。無理はするな』そう言って、ちらっとドルドレンを見てから、もう帰ると告げた。


 見れば地平線が白っぽくなっている時間。


 タンクラッドは振り向いて『お前も』と言うと、コルステインも、うんと頷く。

 それからサブパメントゥの二人は、夜明けの一歩手前。皆の見ている前で、あっさり、すっきり、その姿を消した。




「眠いのだ」


 呟く総長。いつもより1時間も早く起きちゃった、とぼやく。イーアンはよくあるので、平気。『今日は町で休んで』と伴侶に頼むと、彼をベッドにもう一度戻し、そのまま朝食を作り始めた。


 シャンガマックも少々気まずそうに、こっそり馬車へ入って仮眠を取る。ザッカリアは、さっさとベッドに戻っていた。


 見るからに機嫌の悪そうなのは、ミレイオ。バイラは、ミレイオの顔に出る感情を気遣いつつ、ミレイオの側で甲斐甲斐しく立ち回って、朝食の準備を手伝った。


 それはイーアンも同じで、ミレイオのうんざりした様子にちょいちょい機嫌を伺いながら、いつもよりも味見を頻繁に渡した(※ちょっと機嫌戻る)。

お読み頂き有難うございます。

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