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魔物資源活用機構  作者: Ichen
交わる世界の片鱗
1057/2953

1057. 時の剣、対の力・香炉の船と母の姿

 

「最初に話す。煙が形を成す前に」


 ベッドに寝そべり、体を横向きにしたビルガメスは、二人の客に伝える。



「イーアンには、シムから伝えたようだが。タンクラッドよ、お前にも言っておこう。お前たちの仲間の一人は、新たな力を得た。

 その力は、中間の地において、非常に強力な存在だろう」


「何だって。コルステインか(※非常に強い=Myコルステインの意識)」


「違うな。()()()()()()()()()()が、コルステインは多くを望まない。

 話を続ける。その者は、()()の力とよく似た状態を作り出すが、力の意味は全く逆だ。

 彼の者の力は『自分の中にある力と同量であれば、別の存在が与える力を取り込む』ことが出来る。取り込んだ力を、自分の持っている力と混ぜて使う。限界容量は気力の範囲で増減する。

 だが、無駄に恐れることもない。『己の気力が減っていれば、その分しか取り込めない』という意味でもあるわけだ。


 つまり、漲る力の状態で対戦を臨まれれば、向こうの漲る力と同量を持っていかれるし、弱っている状態で対戦するなら、取られるにしても、その『弱った分』と同じくらいで済むわけだ」


 タンクラッドは寒気がした。ビルガメスの話を聞いていると、それは()()()しか思い浮かばない。その力の保有者として、最も見合う男。その姿が脳裏に浮ぶ。


 ビルガメスはタンクラッドの瞳を見つめたまま、一呼吸置いて、もう少し続ける。


「ルガルバンダがお前に思ったそうだが。『時の剣』の使い方も分かっていない、とか」


「う。そうだ。きっと、俺はまだこの剣のことを知らない」


「ふむ。今すぐ知る必要もないと俺は思うが。これまで、お前が()()()()()()()理由は、分からないでもない。

 イーアンもそうだが、『お前』も役回りがその都度違うんだろう。知るべき時が、満ちていないとも言える。それなら、知らずにいるのも分かる。お前は鈍くなさそうだし」


 おじいちゃんの言葉の最後に、イーアンはちらっと彼を見る。ビルガメスはちょっとその視線を返し『イーアンは、()()()()()()()()』と付け加えた(※鈍さは否定しない)。


「タンクラッド、よく聞け。お前は今。人の姿をした『時の剣』。お前が背中に添えた剣だ。

 ニヌルタの祝福は、今回、この世界に『2本の時の剣』を作り上げたも同じ。

 『時の剣』は、ぶつかる力を中和する。お前が力を注ぐ時、ぶつかる物同士の特性を外す」


 黙って聴くタンクラッド。こんな形で、自分の剣と、自分自身を解き明かされるとは思いもしなかった。


「分かるか。『時の剣」自体が、そうした存在だ。光の力も影の力も、その剣の前には混ぜられてしまう。それを操れるのは、どの要素も持っている者だけ。別の言い方をすれば、どの要素にも染まらない。

 お前もそう。ズィーリーたちと共に、動いた男もそう。始祖の龍、俺の母と出会った男も、そうだった。

 どこに属してもいない。『人間』という、大きな力を持たない形で、善悪・明暗・過去未来のどちらにも偏らず、どちらにも踏み込め、どちらからも抜けられる、その存在でなければ使えない。


 『時の剣』に、()()()()()()者しか使えない。

 その剣の増幅は、無限だからだ。正しさを知る。罪を知る。裁きを知る者でなければ、これほどの力を持つ剣は与えられない。剣は、今回もお前を選んだ。お前を探し、お前と共に立ち向かう。


 世に在る、俺たちの存在全てを『混沌に引き込める使い手』、それがお前だ。タンクラッド。

 そして今回に至っては、()()()()も既に、2本目の『時の剣』として存在が許された。

 ニヌルタの祝福が働くかどうかは、世界の決定に託される。その判断を通過し、力を得たお前の存在は、特別」


 ビルガメスの話に、タンクラッドは目を見開いて驚き、黙って頷く。



 ――それで。それで、別名『正邪眼の剣』と呼ばれるのか。

 タンクラッドの頭の中で次々に結び付く、自分に(もたら)された、一本の(いにしえ)の剣の謎。

『時の剣』その名前も理解した。過去から続く自分は、常にこの剣と共に生きていた。時を越えて存在を繰り返す、使い手たる自分が、この剣の運び手だったのだ。


 そして気が付く。ルガルバンダの言った『使い方を分かっていない』その意味。

 剣の意味を理解していれば、もっと多くの動きで、旅の仲間を導けるという意味だったのだろう――



 イーアンもびっくり。親方が、ニヌルタの思いつき(←そうとしか思えない行動多発)で、至極の存在となってしまったとは。固まる親方を見つめ、確かにそれっぽい!(※表現難しい)と思う。


 タンクラッドは聞いたばかりの大きな話に、ごくっと唾を飲み込み、男龍に質問をする。


「ビルガメス。そうした話ならば、だ。その、()()()()の『俺と似たような効果を持つ力』の持ち主に、俺が何かをする意味もあって」


「そうだろうな。そのために、ニヌルタのような性格の男龍がお前に関心を持ち、その結果、お前が()()()()()()()と思うべきだ」


 先?イーアンが引っかかって呟くと、ビルガメスはちらっと女龍を見てフフンと笑う。『先であることは強いこと』不思議な言葉を呟き返すと、タンクラッドに視線を戻す。

 困惑と覚悟を()()ぜにした、鳶色の瞳を向ける男に、男龍はゆっくりと頷く。


「時はまだ、だ。俺が今、お前に教えたのは何の予告でもない。ただ、お前が知っておくと、理解に急ぐこともないだろう。その時が来るまで、自分を見つめろ。剣たるお前自身を」



 そう言うと、ビルガメスは天井を見上げ『もういいかな』と、口端を上げた。

 天井には白い煙がたゆたい、おぼろげな絵が、少しずつ生まれ始めているところだった。


「煙が。絵とはこれのことか」


 ビルガメスは寝そべったまま、煙の中の映像を眺める。親方は何度も見た、その映像。イーアンも数回。

 船が現れて、空を飛び、始祖の龍に迎えられた乗船した人々。勇者と、時の剣を持つ男と、始祖の龍。そして他の人たち。


「なるほど。確かに母だな。お前、お前も実にそのまま。少しこっちの男の方が、体が年を取っている」


 煙を指差し、ビルガメスは静かにタンクラッドにそう言うと、目が合って微笑む。『常に剣と共にある』呟いてまた、煙を眺める男龍。タンクラッドはその言葉を胸に刻んだ。


「しかし。母もなぜ・・・この男の声に応えたのか。ドルドレンがこの男と似ていなくて良かったな、イーアン」


 勇者を示すビルガメスに、苦笑いするイーアン。何も言えずに頷く。タンクラッドも失笑して、顔を俯かせる。


「ふむ。それで戻ったところが海だな。なるほど。この続きは俺たちも知らないが」


 おじいちゃんは一度言葉を切ってから、煙が消え始めるのを確認して、二人に言う。『船が動いた』誰かが出したんだろうと、教えた。


「船?この船を誰が」


「誰だろうな。俺が見ているわけではない。この船の龍気が動いたから、知ったんだ。イーアンじゃ分からなかったかも知れないが(※鈍いから)タンクラッド。お前は気が付かなかったのか」


 タンクラッドも戸惑う。そんな龍気が地上で動いたなら、自分は気が付きそうだがと思ったが。ビルガメスは、何かを思い出したように『ああそうか』と一声。


「タンクラッド、お前。()は確か、コルステインと一緒なんだったな。

 じゃ、コルステインが気が付いただろう。あれは『特に害がない』と思えば、恐らく何も言うまい。お前のことを守るだろうから」


 イーアンもタンクラッドも、ちょっと分かり難い。

 だが、さっき聞いたばかりの特性も、何かに応じたのか。コルステインと一緒の夜、大きな龍気に気が付かない理由があった様子。今はとにかく、そこではなくて。


「船は。どこに。動いたということは」


「俺は知らん。動いたのは分かったし、煙に出てきた船以外には思えない。しかし、今はまた龍気が閉ざされている。感じようがない」



 タンクラッドの質問に、おじいちゃんはそう答えると、次の香炉に手を伸ばす。


 船についてはここで終わり・・・すごく中途半端な情報のように感じる二人だが、ビルガメスだけではなく、男龍はこういう話し方をすると知っているので、訊きたいのも我慢して大人しく従う。


 この時。イーアンは鈍いなりに、話には敏感に反応していた。

 夜。夜に動いた船、とは分かった。つまり、()()()()()()()だ。分かるのはそこまでだが、このことは覚えておこうと思った。



「これか。母と『時の剣を持つ男』の噂話が、本当だったと。どれどれ」


 面白そうにまた、香炉の蓋をコンと叩いて煙を上げさせると、天井に這う白い筋を眺めて、ビルガメスはイーアンを引き寄せる。


「何ですか」


「こっちへ来ていろ。一緒に見る」


「見えますよ。こちらでも充分」


「一緒に見る、と言ったんだ。分かるか。()()()見る(※躾)」


 目の据わるイーアン(※ベイベと同じで自由が好き)。

 ビルガメスのお腹の前に移動させられて(※足元にいたのに)大きなおじいちゃんの腕を回され、片腕に囲まれた状態で天井を眺める。


 長椅子から、それを見ているタンクラッドは、少し複雑な気持ちを抱く。

 しかしこの二人が一緒にいるのは、以前も思ったが、まるで元からそうだったように感じる部分でもあった。


 特に、今のイーアン。変化した肌の色、角の伸びた姿では、本当に龍族として、ビルガメスと一緒にいるのが、困るくらいに似合う気がした。


 そして煙は天井を覆う。金色の結界の壁に煌きながら、白く雲のように重なる煙の中に、始祖の龍と、時の剣を持つ男の、二人だけが現れる。


 この煙も、タンクラッドは何度も見た。何度も何度も。最近は、コルステインと一緒の夜だから見なくなったが、彼女が居なかった短い期間は、一人の夜に繰り返し見ていた。


 煙の中の、仲睦まじい二人を見つめるビルガメス。イーアンはちょっと微妙な場面もあるので、目を逸らしていたが、ビルガメスはイーアンに回した手で、女龍の足をポンと叩いて、自分を見させた。


 イーアンが振り向くと、金色の目と目が合い、すっと伸ばされた彼の指が天井を指す。


「あれ。何でだ。お前も子供たちにする。母はどうしてこの男にするんだ。母がしていると祝福もありそうに見えるが、タムズが言う愛情の方なのか」


「え。それ、また訊きますの。そりゃ、お母さんは人間でしたから。ずーっと昔から、人間にはこういった愛情表現が、変わらずにあったでしょう」


「何で、俺にしない」


「ええ~~~???」


 ビルガメスは何やら、始祖の龍のちゅー場面への解説『愛情表現』とした言葉に引っかかったらしく、なぜ自分には愛情表現をしないのかと、しつこく訊く。


 イーアンは悩んで『だって』『無理です』『誰でもじゃない』と、これまで何十回も言い続けていることを、繰り返し答えるのみ(※他に言いようがない)。


 ビルガメスも分かっているはずなのに、目の前でまざまざ見ると、やっぱり『何でだろう』と気になるらしかった(※しょっちゅう繰り返す系統)。

 ビルガメスはさっとタンクラッドを見て、彼が驚いたように体を動かすと『タンクラッド。お前はイーアンにこれをしたか』と急に振る。


 首を横に振った親方は『そう願ったことは何百回もあるが、一度もない』と正直に答えた(※イーアンげんなり)。ビルガメスはその答えに、ふーん・・・といった具合で頷く。


「そうか。人間同士ならするわけでもない。タムズもそんなことを言っていたな。

 ドルドレンと子供たちにはする。待て。おい、この前『子供たちと同じ愛情を、俺にも持っている』とお前は言っただろう。じゃ、何でしない」


「やめて下さいよ。変なところで突っ込まなくても」


「変じゃないだろう。お前の言っていることはおかしいぞ。説明しろ」


「ビルガメス、あの状態(←ちゅー)どうとも思われませんでしょう。真似ばっかり求めないで下さい」


 もうヤだよ、この人たち~ 毎回これ気になるんだって、どうして何だろう~


 イーアンは困って、良いから煙を見てくれとおじいちゃんに頼み、おじいちゃんは『次に来る時まで、答えを待ってやろう』上から目線で渋々、今は諦めてくれた。



 こんなやり取りを見ながら、タンクラッドは思う。イーアンは毎日大変なんだろうなと(※相手が男龍)。

 男龍を見ていると、彼女が前にも話していたが、確かに『真似をしたがる』ふうに見える。


 口付けに心を惹かれる、そんな情熱ではなくて。

 単に『何で口なんだ。愛情の差があるのか』と、そんな感じに見えるし『差があるのかどうか知りたいから、しろ(※強制)』今の状態を見ているだけでも分かるが、四六時中、言われてもいそうで。


 これを毎度、どうにか交わしているのかと思うと、イーアンの苦労が伝わる気がした(※この前、ニヌルタに脱がされかけたのも過ぎる親方)。


 そしてビルガメスは、あっさり最期を迎えた男と母の涙の場面を眺め、その後、小さな龍と遊ぶ母を見て。

 最後の最後で母の声を聞き、ハッとしたように目を開いた。



「声が」


「はい。彼女の声が、毎回聞こえるのです」


 ビルガメスは、振り向いたイーアンを見てから、ニッコリ優しい微笑を向けると『お前もこの声を聞いたのか』と満足そうに頷いた。


「イーアン。やはり。お前を連れて行って見せたい。母の力の在り方を見れる、その場所へ」


 そう言うと、驚く女龍の頬を撫でて『お前は、母と同じ』と囁く。


『その力を恐らく。与えられる』大きな男龍の笑みは、いつもと同じように穏やかで神秘的だが、その金色の瞳は、ずっと意味深に力強く輝いていた(※タンクラッド蚊帳の外)。

お読み頂き有難うございます。

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