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魔物資源活用機構  作者: Ichen
交わる世界の片鱗
1052/2953

1052. 穏やかな浪漫話の午後

 

()()()()()は、例外で()()()貴重な存在でもある』


 ビルガメスは、そう笑っていた。



 お昼過ぎまで、ビルガメスの家で子供たちと遊んだ、イーアンとドルドレンの二人は、そろそろ1時ぐらいかもと相談後、男龍にお礼の挨拶をして、地上へ戻る道すがら。


「『龍の端くれ』なんて。初めて聞きました」


 横を飛ぶイーアンが言うので、ドルドレンも『どんな姿なのだろうか』と疑問を持つ。

 ビルガメスに続きを話してもらおうとして失敗し(※毎度)結局、はぐらかされて終わったような、尻切れとんぼの話題。


「教えることでもない、という意味かな」


「そうではありませんよ。男龍(あの方たち)はいつも、ああです。

 話がコロッと変わるけれど、それは自分が言える範囲を超えないためだと思います。最初は振り回されましたが、最近、ようやくそう思います。

 どうせ出会う時が来るなら『それを以って理解しろ』とした、ことでしょう」



 ショレイヤに乗ったドルドレンとイーアンは、お昼過ぎの空を降りながら、馬車を探す。『イーアン。いつも思うのだが。どうやって馬車を見つけるの』不思議である、と伝えると、奥さんは笑う。


「何となくですよ」


「そんな曖昧でどうにかなるのか」


「オーリンもそうですよ。こっちかなーって。そのくらい」


「イヌァエル・テレンのどの辺から戻ると、ここら辺とか。そうしたこともないのか」


「お空の方が面積ありますので、ちょっと動くと、地上の相当な距離に値するような」


 ふーん・・・ドルドレンは不思議なまま。『それは龍だからなのかな』と訊ねると『多分』と答えが戻ってきた。愛妻(※未婚)曰く。魔物もそんな感じで見つけている様子。


「最近は特に、魔物には敏感になりました。この姿になったからでしょうね」


「あ。そういえば。俺も冠を被ったら、魔物がいると感じたな」


 ん?イーアンは伴侶の顔を見る。『冠。いつお使いになりましたの』昨日?と訊ねるイーアンに、ドルドレンは頷く。

 魔物と道で遭遇した時、偶々思い出したことと、一応、被っておこうと思ったために使ったと教える。


 その後も被っていて、風の渦の中に魔物がいると分かったことを話すと、イーアンは面白そうな顔で微笑む。


「ドルドレン。もしかしますとね。冠を被ればドルドレンも、馬車がどの辺か分かるかも」


「言われてみればそうかも知れない。どうだろうか」


 ドルドレンは腰袋から冠を出して、ポンと頭に被せる。少ししてから、彼は顔を一方に向け『あっちに何かあるか』とイーアンに訊く。イーアンは『あっちには魔物』と教える。


「それは、私が行って来ますから。馬車は?どうかしら」


「俺も行くのだ。魔物なら・・・ん。あれ?あ、馬車。馬車かな。この方向じゃないか」


「合っています。馬車にはタンクラッドがいます。彼が多分、()()()()()ですよ。後は、オーリンがいればオーリンとか。私は龍ですので、龍がいる場所には反応しやすいのです。

 ドルドレンの冠は、何に反応しているのか分からないけれど、馬車は見つけられました」


 良かったですね、と笑うイーアン。


「それでは、あなたは先に、馬車へお戻り下さい。龍に変化しなくても、私このままで、倒せそうですから大丈夫」


 そう言うと、イーアンはショレイヤに『ドルドレンを馬車へ運んで下さい』とお願いし、翼の角度をぐっと変えて白い光に包まれ、あっという間に西の空に飛び去った。


 笑いながら消えたイーアンに、あっさり置いていかれたドルドレンは『格が違うのだ』と納得することにした。藍色の龍も、ちょっと乗り手を振り返って、うん、と頷いた(※相手が女龍)。



 そして、暫く飛ぶと。下方に見えてきた、二台の旅の馬車。


『思えば。お前はいつも、呼べば正確に来てくれる。そりゃ、俺があっちだこっちだと言わなくても、お前に任せておけば、帰れるのか』だよね、と訊ねるドルドレンに、ショレイヤはちょっと微笑んだ(※優しい)。


 ハハハと笑うドルドレンに、ショレイヤもニコーッとしたまま、一人と一頭は、旅の馬車の昼休憩に到着。



「お帰り。何だか楽しそうね。イーアンどうしたの」


「魔物を倒してくると言って、俺は置いていかれた」


 皆で笑って、ドルドレンを迎え、ミレイオが食事を渡す。お礼を言って受け取ったドルドレンは『奥さんは、もう少ししたら戻るだろう』と伝えておいた。


「龍に変わらないでも、倒せる範囲らしいから」


「それで置いていかれたのね」


 いいじゃないの、と笑うミレイオは、ショレイヤを見て『この仔、待ってるわよ』とドルドレンに教える。


「あ。そうだった。ごめん。もう戻って良いのだ。有難う」


 そうなの・・・藍色の龍は一度頷くと、ふらら~と空へ戻って行った。

 その後姿を見送って、ミレイオは『あんたと似てる』と呟く。ドルドレンもそう思う。『あれは、律儀である』良い性格なのだと答えた。


 食事をもらったドルドレンは、タンクラッドの横にオーリンがいるのに気が付いて『お使いに出てくれて有難う』とお礼を言う。オーリンはニコッと笑って手を軽く上げると『別のイイ話もあるぜ』と言う。

 タンクラッドもフフッと笑ったので、食事を食べながらドルドレンは『何の話』内容を教えてもらいたいと頼んだ。


 ドルドレンの横に座るミレイオが、掻い摘んで内容を説明。ドルドレン、いよいよ宝探しかと(※遺跡荒らし?)慎重な面持ちで了解する。


「それ。いつなの。今日は時間がないのだ。明日とか、明後日に行くのか」


「それを話していたんだ。さすがにな。真面目な騎士に付き合えとは言わん。俺とミレイオ、オーリンと」


「イーアンですよ。後は、私もかな」


 タンクラッドは可笑しそうに、声の主を見る。バイラはアハハと笑って『ちょっとは役に立てる気がする』と言う。

 ドルドレンは少々気になるけれど、バイラも()()()()()()と知っているので、とりあえず了解した。


 シャンガマックとザッカリアは、お宝探しに、少々関心を持つものの、自分たちが足手まといかもと思えば、何も言えず。

 そして二人とも、例え『行きたい』と言ったところで、総長が止めるだろうことも分かっていた(※騎士修道会の教えとして)。



「あ。イーアン。帰ってきたわね」


 向かいの空から、6枚の翼がこちらへくるのが見えたミレイオは手を振る。『お帰り』大きい声で呼ぶと、イーアンも『ただいま~』の間延びしたお返事をする。

 イーアンはすぐに降りてきて、それと同時でミレイオに、服に付いた土を払ってもらった。


「どうした。汚して」


「土から出た魔物とぶつかりました。でも大丈夫です。すぐ倒しました」


 クロークとズボンの黒に、白っぽい土埃。目立つわよと、気にするミレイオがぱんぱん叩く。『毎日着ているし、この際、別のにしなさい』そう言われて、クロークを脱ぎ、ズボンも替えるイーアン。


「着替えた?ほれ、お昼食べな。これは今夜洗っちゃうから、今日はその格好のままでいて」


 ミレイオに世話されて、イーアンは有難く洗濯物をお願いし、お昼を頂戴する。


 ミレイオがあれこれ家事(?)で動く間、イーアンはお昼を食べながら、伴侶と親方とオーリンの話を聞いた。『宝ですか』それはそれは、と頷く。


「いつ行くのですか。お空をお休みしましょう」


「子供たちがいるのに、行けるか?一日休むと」


 親方が気にしてくれるので、イーアンは微笑んで『昨日は、泊まりで一日。空でしたから』大丈夫でしょう、と答える。それからオーリンに質問。


「どの辺ですか。近く?」


「いや。もう、海」


「海」


 全然遠いじゃないの、とイーアンが驚く。オーリンは笑って『龍だから』と。『大した距離じゃないよ』などと普通に言う。困るイーアンは、馬車にドルドレンたちだけを残す懸念を伝える。


「何かあったら。馬車を置きっぱなしですよ」


「それ言ったら、いつもそうだろ?馬車番に騎士たち、()()()()は俺たち。何、そんな大きなところじゃなさそうだし、見て回っても、行って戻って3~4時間程度だろ」


 下見は行ったのか、と訊ねる女龍に、オーリンは頷く。『一応見た』僧院だったんじゃないかと、自分の見てきた感じを伝え『でも。普通の僧院にしては』にやっと笑う。


「高位僧かもな。これ見るか」


 オーリンが腰袋から出したのは、神具。それは香油入れで、やけに模様が凝っている。縁周りには曇った小さな赤い石がずらっと並んでいた。受け取ってしげしげ眺めたイーアンは、どこにあったのかと訊いた。


「これ?部屋の端っこに落ちていたな。他には見当たらなかったから、結構、漁られてそうだけどさ。でもこんなの置きっぱなしで、立ち去るってことは」


「これ以上、持って帰れるなら。()()が転がったところで、気にしないでしょうね」


 オーリンの話を引き取り、後ろに立ったミレイオが笑顔でイーアンに言う。ミレイオも行く気満々ですよ、と頷いたイーアン。かと言って、昨日の今日で『ではドルドレン、後はお願いね』とは言えない。


「せめて。行くなら、次の町に着いてからにしましょう。バイラ、次までどれくらいありますか」


「次の町ですか?明後日には着くと思います。そう、遠くありませんから。今日これから、夕方少し遅くまで動けば、明後日の午前中に着くかもしれないです」


 早く行きたいミレイオとタンクラッド。そしてオーリン。うずうずするけれど、イーアンの言うことは、まぁ。配慮の範囲だなと(※配慮が消える宝探し)思えば、そこは了承する。


 横で聞いていた騎士たちは、イーアンにお礼を言って(※荒野に3人で馬車番はイヤ)次の町まで急ぐことに決めた。



 こうして決定した、2日後の宝探し。

 資金集めと思えば、これも必要と理解して、ドルドレンは御者台でぶつぶつ独り言を落としながら、手綱を取る。自分も実は、行ってみたい。イーアンが宝をどうやって探すのか、見れるかもしれない。


 だが。自分は総長。部下がいる手前、『よし、俺も』なんて、そんな軽いノリで動ける立場ではない。

 それに、出発前にイーアンに『次の町にフォラヴがいる』と聞いては、部下ほっぽり出して宝探しなんて、行けるわけもないのだ。


 イーアン曰く、『フォラヴは次の町のどこか。大きな樹がある、そこにいます。ですので、あなた方はフォラヴを見つけて下さい』らしいので、騎士3人は必然的に『仲間探し』。

 職人軍団とバイラ(※護衛上がり)は、宝の匂いを嗅ぎつけて回収する『宝探し』と決定した後。


「うーむ・・・俺もイーアンが、どんな()()()状態か。見てみたかった」


 ぼそっと呟いた声に、ちらっと見たバイラが『ワンコ?』と繰り返す。ドルドレンは頭を振って『何でもない』気にしないで、とお願いした(※お宝ワンコの意味だった)。


「今回、総長はご一緒出来ないから、何ですが。このまま旅を続ければ、通過地点にもありますから」


「え?そうなのか。宝があるところ、通るのか」


 はい、そうですと微笑むバイラ。

 思い出した(ついで)、荷袋から白い服を出して総長に渡し『それに着替えて下さい』と言った。『警護団からもらってきた』その服に、ドルドレンはいそいそ着替える。


「あ。これ。バイラも似たような感じだな」


「そうです。普通の服とちょっと違うのですが。生地が、ざっくりしているんです。たくさん汗をかいても、すぐに吸って、すぐに乾くような繊維で織られていて。ごわごわして、嫌だという人もいますが」


「俺は問題ない。本当だ。何だかサラサラしている。見た目は普通だが、生地が違うのか。織り目が大きいし、袖や首元も広くて風通しも良い。快適だ」


 ドルドレンの喜んでいる顔に、バイラも嬉しそうに頷いて『テイワグナの人みたい』と笑った。


「そのうち、海にも入るかも知れません。水に入ったら、もっと分かりますよ。漁師たちはそうした服を好みます。濡れてもすぐ乾くし、涼しいんです」


 楽しみなドルドレン。『海も行きたい』と笑顔を向け、ハイザンジェルは海がなかったからと言うと、バイラはニコニコしながら『是非行きましょう』と答えた。


「どういうわけか。海の方面も、遺跡は数があります。辺境の山岳地にある印象ですが、海も『龍の女』の信仰があるから、きっと立ち寄る時もあるでしょう」


 ドルドレンは、バイラに海沿いの遺跡なども教えてもらって、テイワグナのざっくりシャツに涼みつつ。


 早く、海に行きたいなと思った。ちょこ、ちょこっと、行きはしたが、じっくり長くはいなかった。

 明後日の宝探しも『海』と聞いているので、イーアンに海のお土産をお願いしようと思いながら、バイラのしてくれる海話に、引き込まれる午後を過ごした。



 荷馬車の荷台でも、午後は賑やかで楽しそうな時間。職人たちが宝の話に夢中(※全員中年)。


 そんな、中年の生き生きした笑顔を笑い声を、後ろの馬車で見つめる褐色の騎士。横に座るザッカリアに、奏でてもらう音楽を聴きながら、彼らの明るい笑顔に微笑む(※毎度のこと)。


 聞いていれば、何て想像力が逞しいんだろう。シャンガマックは、微笑ましく彼らを見つめる。


 オーリンの持ち帰った、小さな香油入れ一つを前に、大の大人が、時も忘れてはしゃいで喜んでいる(※童心)・・・この一つを中心に、『こんな時代のものがまだ』とか『同じような装飾があるとすれば』とか、『隠し部屋があるかも』とか『造りが分かれば』とか。


 何て楽しそうに、何て、幸せ一杯の笑顔で・・・全員が、上機嫌で話しているのか(※まだ想像の域を出ない段階でも幸せ)。


「共通の趣味があるって良いな」


 ホンワカした笑顔のシャンガマックの呟きに、ザッカリアはちょっと彼を見て『共通の趣味って何』と訊ねた。褐色の騎士は、彼に『同じことを好きでいることだ』と教える。


 ザッカリアは、レモン色の瞳をじっとシャンガマックに向け『俺もそういう友達欲しいな』と答える。


 シャンガマックも頷いて『きっと、出逢う』大丈夫だと笑いかけた。『俺も出逢ったんだ。ザッカリアも、いつかは出逢うだろう』そう言うと、子供は嬉しそうに頷いて、また曲を弾き始めた。



 長閑な馬車の午後は、宝の話と海の話、気持ちを分かち合う話を紡ぎながら、ゆっくりと過ぎて行った。


 バイラが『夕方も進もう』と提案したので、馬車は夕暮れ近くまで動き、野営地に入る頃には、空はもう、しっかりした夕焼け色だった。

お読み頂き有難うございます。

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