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魔物資源活用機構  作者: Ichen
交わる世界の片鱗
1043/2954

1043. マカウェ地区警護団 地方行動部 ~砂の城

 

 バイラの『見えてきた』発言から10分程度。旅の一行は、低い壁が長く続く、施設の敷地に入る。



「壁の内側に、建物が見えない」


 ドルドレンは、壁自体は低いのに、近づいたら見えそうな施設がないことに、変な造りだと、バイラに訊ねる。バイラはちょっと頷くように頭を動かしたが、彼も目を凝らしているようで、すぐに返事はない。


 もう一度、前を行くバイラに声をかけるドルドレンは、どこが入り口かを確認しようとする。


「砂嵐ってほどじゃないのだ。ここまで近づけば、入り口は見え」


「変です」


「え。また」


 やっぱりそんな気がしたんだよ・・・嫌そうな顔のドルドレン。砂で、口の中も手の平もジャリジャリしているのに、休める場所もないなんて。


「うう。そろそろお昼である。腹も空いてきたし、ザリザリ感が余計にツライ」


「総長、どうしましょうか」


 振り向いたバイラは、目を細めて飛び砂を遮る。ドルドレンは、馬を寄せるように彼に言い、側に来たバイラに『どうしましょうとは、どういう意味』かを訊ねる。


「入り口がないというか。施設がないというか」


「俺に、それをどうするかと訊くのか」


「えー・・・私の意見ですが。明らかに怪しいです(※強調)。

 先ほどのこともありますし、()()()()()()分からない場所からは、離れた方が良いと思って」


「なかなか優秀な答えだ。俺も同感だ(※今、面倒イヤ)」


「では。仕方ありません。白い服は諦めて。このまま通過し、この先の辻から元の道へ戻ります」


 そうして、と頼んだドルドレンは、バイラの後ろを追って馬を進めるが、右手にずーっと続く、壁の不自然さが気になって仕方なかった。



「バイラ。この壁。本当はその、どのくらいの」


「はい。()()()()なくなっている予定です」


 ホンットに。彼の正直さに、度々思わされること『聞くんじゃなかった』。


 ドルドレンは眉をぎゅ―っと寄せ、心の中で、明るく美しく清々しいイヌァエル・テレンの空を、必死に思い浮かべ、どうにか嫌なことを考えないようにした。



 ――おかしいのだっ どう考えてもおかしい。


 場所が危険、とか。そうしたことは、ハイザンジェルではなかった気がする。

 唯一、場所がらみで異変があったとすれば、イーアンとの()()()()()くらいだ。あれは『危険』じゃなくて『素敵な運命』だったけど。


『場所が変』とは、やりようがない。魔物なら戦いもするが、場所そのものと戦えるわけでもないし、どうにも手が出ない。


 延々、続く壁なんて、どうかしている。これは絶対に怪しい(※危険)場所に立ち入ってしまったのだ!



 この場合は、どうすれば良いんだろう~・・・悩むドルドレンは、バイラに話しかけるのも怖さが増しそうで(※正直者だから)うーんうーん、唸るだけ。


 前を進む馬に乗るバイラは、荷物の袋に左手を突っ込んで、さっと布を取り出す。それをどうするのかと見ていたら、あっという間に頭に巻きつけてしまった。


「砂が。耳にも入ると大変ですから」


 振り向いて説明したバイラは、目元だけが出ている状態。ドルドレンとしては、こんな砂の吹く乾いた大地に、黒い馬と白い頭衣の男の組み合わせが、ちょっと新鮮に映る。


 気持ちが少し変わったので、それを彼に言おうと口を開いた時、バイラの目がぐっと後ろへ釘浸けになる。また、気分が落ちるドルドレン。『どうした』と言い掛けて、すぐに遮られた。


「馬車が!フォラヴたちの馬車がいません!」



 *****



「武器を積んでおけば良かったな」


 シャンガマックは小窓の外の風景に、小さな声で呟く。ザッカリアも心配そうに、脇から小窓を覗き『ここ。どこ』と褐色の騎士に訊ねる。


「分からない。総長たちの馬車がいるのか、どうかも・・・馬車が止まったということは、フォラヴが止めたんだろうとは思うが」


 前で話しているには、少々長過ぎるなと、子供に言う。


「ねぇ。戦うの?何もいないよ」


「何もいないような()()()()だけかもしれないぞ・・・武器は荷馬車だ。寝台馬車に乗せてあればな。少しは気持ちも違ったか」


 不安な色を浮かべたレモン色の瞳に、シャンガマックは静かに言い聞かせる。『俺から離れるんじゃないぞ』一緒に行動だと伝えると、ザッカリアは思い切り頷く。



 そのすぐ後。コンコンと扉を叩かれる。シャンガマックはザッカリアを自分の後ろに回し、『何だ』と答える。扉の向こうから『開けて下さい。馬車がはぐれました』フォラヴの声がしたが。


「馬車がはぐれたって?どこへ」


『すみません。開けて下さい。聞き取り難いです』


 シャンガマックはぐっと気持ちを引き締める。さっき、タンクラッドたちの話していたことが、頭に()ぎった。人の()()()の魔物――



「ザッカリア。俺の結界の中にいるんだ」


 ハッとするザッカリア。見上げたシャンガマックの顔つきが変わる。唇はかすかに動き始め、聞いたこともない言葉が流れ出し、彼の漆黒の瞳に、水色や赤い色の揺らぎが見え出した。


「フォラヴは?フォラヴが外かもしれないよ」


「 ・・・・・フォラヴ。彼は、俺の結界に入れる・・・彼でなければ入れない」


 ザッカリアは、答えたシャンガマックの声が、少しずつ二重に響くのを聞き、既に彼が、精霊を呼び出していると気が付いた。

 武器を持たないシャンガマックが、結界を張るくらいの危険を感じたと察する。そしてそのレモン色の瞳も、映像を見る。


 周囲をどんどん包んでゆく、黄金の煙の中。


 シャンガマックの胴体にくっ付いたザッカリアの目は、この馬車の状況の()()を捉えた。

 それは不思議な光景で、馬車を上から見ているザッカリアは、自分たちの寝台馬車が、あたり一面砂の中に佇み、丁度、馬車の左横の先。離れた場所に、平たい城のようなものがあることを知る。


 どうもこの場面は、馬車が()()()()迷い込んでしまった直後らしく、平たい城から何かが出てきて、馬車に近づき、フォラヴが見えなくなった。

 その後、御者台をウロウロしていた奇妙な影は、荷台へ回って、フォラヴの姿を現して扉を叩いている。


 これがさっき、と気がつくザッカリア。場面はまだ動いていて、喋りかけたフォラヴの形は再び崩れた。


 そして馬車の荷台が徐々に光り始め・・・結界だ!と分かったすぐ、崩れた影は逃げるように城へ戻った。

 城の近くも大きく見えてくる。砂地の地べたから続く、階段もない入り口には、たくさんの人がいる。

 彼らはバイラのような格好をしていて、どうしたことか。その場に座り込んで動かない。


 平たい城の中も見える。扉のない通路が開いた場所を潜ると、暗がりのがらんどうの部屋の真ん中に、大きな黒い蝋燭が燃えていた。燃える炎は、気持ち悪く見える、赤黒い炎。


 蝋燭の煙は天井に黒い煤を付け、その煤は動いている。蝋燭の溶けた一滴が、燭台から溢れて下に落ちると、それは床から立ち上がり、石の床を滑りながら表へ出て、座り込んでいる男の一人にへばり付く。


 蝋にへばり付かれた男はゆらゆら頭を揺らしながら、そのまま仰向けに倒れ、彼の口元から黒いものがにょきにょき生えたと思いきや、それはそのまま彼の姿に変わって、歩きだした。


 城から出た、男の姿をした()は、ゆっくりと馬車へ向かって歩いている――



 そこまで見て、ハッとしたザッカリア。直感で、あの黒い蝋燭が魔物だと感じる。

 急いでシャンガマックにそれを伝えようと、彼の顔を見上げると、シャンガマックは意識が精霊と共にある状態。


「シャ、シャンガマック!起きて!」


 ザッカリアは金色の光の内側にいる自分たちに、一先ず安心するものの、彼の服を掴んで揺らし『起きて、起きて!魔物を倒さなきゃ』と大きな声で訴えた。


 しかしシャンガマックは、身動きしない。その目は既に瞳の色も違い、彼の首と前腕に着いている黄金に輝く加護も、一層、深い光を放って結界の内にいる二人をがっしりと守る。


「どうしよう」


 結界は、どの広さまで守っているだろう。馬車ごと包んでいるのだろうか。

 馬車が魔物に壊されないなら、それは助かるけれど・・・『フォラヴ。フォラヴは?』ザッカリアは心配になる。見えた様子では、彼は消えてしまったのだ。


 そうしているうちに、馬車のすぐ近くまで、さっきの蝋が近づいたと分かった。一瞬、結界の中にいる自分たちに何かが振動で伝わる。それが結界に触れた魔物かも、とザッカリアは思ったが、確かめようもない。


「シャンガマック。フォラヴがまだ外かも」


『龍の目ミコーザッカリア。異界の門の鍵・ドーナルは守られる』


「誰。シャンガマックじゃないの?後ろの人?(←精霊)」


『フォラヴは妖精の手に。お前とバニザットは()()()


「どうしよう、魔物がいるんだよ。守ってくれるのは嬉しいんだけど、でも倒さないと」


 ザッカリアは理解している。このままでは、無事を守られていても、動けないと。

 あの、蝋にやられた男の人はどうなったのか。死んでしまったのか。まだ何人もいるのに、皆、あんな怖い目に遭って死んでしまうのか。


「ねぇ。後ろの人(※精霊)!黒い蝋燭があるんだよ。あの蝋燭が悪いんだ!あれを」



『待ちなさい』


 縋りついて焦る子供に、褐色の騎士の微笑みは向けられた。その微笑みは、何も恐れることはないと、心にすとんと落ちるほど、ザッカリアに大きな安心を与えた。

お読み頂き有難うございます。

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