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魔物資源活用機構  作者: Ichen
交わる世界の片鱗
1029/2953

1029. 力より大事なこと

 

 そして夕暮れ。


 野営地に着いてから、ちょっと支度して、ドルドレンとイーアンは、ザッカリアも連れて、夕方頃にジャスールに会いに出かけた。


 ――「夕食は、戻って来て()()()()食べる。保存食でも大丈夫だから、料理は気にせず、皆で食べてくれ」


 出かける前に、ドルドレンにそう言われたミレイオは『分かった』と答えたものの。


 彼の後ろから、寂しそうな目を向けたイーアンとザッカリアに『あの子たちは、保存食の夕食に賛成ではない』と判断し、彼らにちょっと微笑み、頷いておいた(※イーアンたちもニコッと笑って頷く=以心伝心)――



 ミレイオは、馬車に残った6人分の食事を作り、皆を呼んで、夕食の時間を過ごす。

 食べながら、焚き火の火でちょいちょい、薄切り肉を焼いて皿に取り、町で買った卵に、野菜を混ぜて焼いておく。


「それ。どうするんだ。まだ食べれるのか」


「あんた、どうしてそう意地汚いのよ。あんたは、()()。これは、あの子たちの分よ。何でも食べようとしないで頂戴」


 別の料理を目ざとく見つけ、たかる親方に、ミレイオはうんざりしたように、彼の手元の皿を指差して『お前は()()がある』と強調。


「ドルドレンは『保存食でも』って、言っていただろう(※肉食べたいから粘る親方)」


「そうもいかないでしょ。ドルドレンは四六時中、馬車で食べてるから、一食くらい・・・と思うでしょうけど。

 イーアンは昼も食べていないし、魔物退治もしてきて。私の料理が好きなのに、夜も食べれないなんて。

 ザッカリアだって、まだ子供だもの。簡単でも、ちゃんと作ってある料理の方が、良いに決まってるでしょ」


 ミレイオは親方を見ないで、大袈裟な溜め息をつき、自分の食事を一口食べると『あげないわよ』と釘を刺し、親方を追っ払う。


 追い払われた親方は、その後、誰とも喋らず黙々と食事を終え(※イーアンなら味見させてくれると思う部分)食器を返すと、『コルステインが来るかも』と聞こえやすい声で言いながら、退散した。



 ミレイオと親方のやり取りの間は、黙って食事を進めていたバイラ。

 食器を戻す時に『これが、イーアンたちの分ですか』別の皿に載せられた料理を見て訊ねる。


 ミレイオも食べ終わっていて、騎士二人とオーリンの皿を受け取りながら『そう。生地に挟んで食べれば、出来立てじゃないにしても、気持ちは違うじゃない』と答える。


「ミレイオは優しいのです。皆がミレイオに頼りますが、時々、甘えにも変わるほど」


 コロコロと笑う妖精の騎士はそう言うと、ハハハと笑うミレイオに手を振って『今夜も、大変美味しかったです』と礼を言って立ち去った。バイラも彼の言葉に微笑む。


「そうですね。思い遣りとは。大きい場面のものばかりではない、と・・・この旅に参加して、私は何度も思います。日常に思い遣りが、いつもある、って」


 バイラは思うことを静かに伝え、それからミレイオの横にしゃがむと、洗い物を始める。

『私はこの年で、ようやくそんな、大切なことを学んでいる』ちょっと自虐的に笑ったバイラは、その後何も言わず、ただ食器を洗うことを楽しんでいるようだった。


 ミレイオも話しかけづらい。彼は子供の頃から恵まれない生活だったと、少しドルドレンから聞いた事があった。


 多分。彼は、自分の行動に好意を持ってくれている。それは分かる。

 だけど、()()()()自分をはっきり分からないうちは、こっちも態度を変えないでいようと決めているので、ミレイオ的には複雑だが、取り繕ってバイラに接する。


 横で片付けながら、ミレイオはバイラに『あのね。私が昔、()()()()()()も』ハッとするバイラを見ないで、ザンディの話をポツリポツリし始めた。


 ザンディも苦労人だったから、ミレイオのすることなすこと、全てに喜んだ。


 バイラの背中にそんな影の揺らぎを見て、ザンディを思い出したミレイオは、特に深い意味なく、自然に昔話をする。

 バイラは最初こそ驚いたようだったが、打ち明け語られる、悲しく温かな思い出話が、貴重な時間のように感じ、素直に受け止め、身を入れて聴いた。



 この時。親方はコルステインと、ちょっとだけ揉めている最中。結果から書くと、いつもどおり親方が負けた。


『今日も。今日も?何があったんだ。俺に話せないような』


『話す。ない。サブパメントゥ。話。人間。違う』


 サブパメントゥの話だから、人間に言うのは違うんだ、とコルステインに告げられて、親方は口がぱかっと開く。


『な。なん。お前、俺に何でも話すだろう。毎晩一緒にいたのに、これで3日も離れていることになるんだぞ。理由くらい教えてくれたって』


『タンクラッド。待つ。する。魔物。戦う。コルステイン。呼ぶ。来る。倒す』


 魔物が出たら呼んでくれれば倒すから、と。そうじゃないなら、待っててくれと言われ、親方は唖然とした。


 コルステインとしては、見離してはいないし、魔物退治なら呼んでくれて良いと、妥協しているわけで、一緒に眠れないのは仕方ないでしょ(※『くらいの、理由がある』と本人は)そう思っている。


 でも親方は。一緒に眠ることも出来ないで、理由も教えてもらえないし、自分よりも家族を大事にされていると思うと、『はいそうですか』と言えるものでもない。

 気持ちが静まるわけもないので、この後、コルステインを問い詰め、結果―― あっさり『帰る』と消えられるに至った。


「一緒にっ!『一緒に死ぬ』って言ってたじゃないかっ!ありゃ、何だったんだ!俺が今死んだら、お前、どうするんだよっ」


 キーキー怒る親方の声は、他の者に筒抜けで、その怒鳴り散らす独り言の内容から、誰も可哀相な親方の側に寄ることは出来なかった(※八つ当たりされる可能性)。




 親方の怒りも落ち着いた頃(※ふて寝)。ミレイオは荷馬車へ移動し、バイラも寝台馬車へ戻った。


『待っていて』と総長に言われたオーリンは、荷馬車の荷台で弓を作っていたが、外から聞こえる親方の文句を聞き続け、荷台に上がったミレイオに苦笑い。

 ミレイオも、声を立てずに少し笑って『そっとしておこう』と囁くに留めた。


 フォラヴとシャンガマックは、寝台馬車に入ったバイラに『総長は』と、帰っていないと知っていても訊ねる。

 バイラは『何も変化ナシです』と答え『総長たちは、遅くなるかもしれないですね』馬車歌は長い、と話していたことを教えた。


 それから、馬車歌の謎めいた導きについて、バイラは騎士たちにその概要を質問し、知っている範囲で二人が答えていると、暗がりの空が一瞬、ぱっと白く光った。


「イーアンかな」


「いえ。でも。どうでしょうね、今の光り方。空から降りてくるなら分かるけれど」


 バイラが振り返って外を見たので、シャンガマックも立ち上がって、馬車の扉の側へ行く。すると、さっと馬車の横から影が動いて、笛が鳴った。


「え。タンクラッドさん」


「バニザット、ちょっと行ってくる。多分、イーアンだ」


 笛の音の後、柔らかい光が空を渡り、親方の龍が降りてくると、息を吹き返した魚のように、タンクラッドは龍に飛び乗って行ってしまった。


「シャンガマック。どうしてタンクラッドさんは、イーアンとすぐに分かるんですか」


「俺もよく知りませんが、何か探知する力みたいなものを、男龍にもらったみたいです」


「探知する力・・・ハハハ。言い得て妙です。そうですね、私よりミレイオより、龍の民のオーリンよりも先に、タンクラッド()はイーアンを見つける」


 それで怒りの気持ちが晴れるなら、何よりです・・・フォラヴは笑って外を眺める。その空色の瞳の先に、薄っすらと向こうで白く輝く光を何度か捉えた。『魔物でもいたのかも』呟いて微笑むと、二人を振り向く。


「もうじき戻ってくるでしょう」


 その言葉のすぐ、空と大地に響く振動が伝わり、空はもう一度白く光って、離れた場所に龍が見えた。


「ほら。イーアンですよ。やはり魔物でした」


 もう緊張もないフォラヴは、ニコッと笑って、遠くの夜空に浮ぶ、白い龍を楽しそうに見つめる(※娯楽)。シャンガマックとバイラも、そんな妖精の騎士の慣れ方に少し驚きつつ、『そろそろかな』と帰りを待った。


 横の馬車でも、顔を出したオーリンとミレイオが『あら。また魔物だわよ』『俺は行かなくて良かったね(←タンクラッドが駆けて行ったから)』と笑っていた。



 こうして、皆が思ったとおり。この5分後に、出かけた4人は戻る。


「戻ったぞ」


 ドルドレンは龍を降りて、仲間に挨拶。親方とザッカリアも龍を戻し、イーアンも降りてきた。


「そこで魔物が。といっても、離れているが。あれがなければもう少し早く戻れた」


「見ましたよ。イーアンが龍に」


 バイラが満足そうに(※花火みたいな扱い)総長とイーアンに言うと、二人は少し笑って『誰もいない場所だから出来た』と答える。


 それから、ミレイオが夕食を出すと、『向こうでも少し貰った』とのこと。ミレイオもそうじゃないかと思って、少なめに用意していたので、3人は『丁度良い』と喜んで食べた。


「どうだった?まぁ、こんな時間だから、もう明日にした方が良さそうだけどさ」


 イーアンとザッカリアに水を渡しながら、ミレイオが訊ねると、ドルドレンも食事を頬張って頷く。


「そうだな。朝が良いかも知れない。馬車歌は明日だ。今夜話したら、寝るのが夜中になる」


「総長、もう一つの話は?話したいことがあるって言っていただろ」


 オーリンは『残ってくれ』と言われていた理由の話を訊ね、総長はそれにも頷く。


『それは今。ちょっと待て。飲む』ごくっと食事を飲み込み、水で押し流すと、皆を荷台に集めて『イーアンとザッカリアは、食べながら聴いて』と頼み、皆に向き直る。



「よし。聴いてくれ。

 今日の午前。俺はシャンガマックの心に、大いに感心し、また考えさせられた。これは皆が今後、得た方が良いと判断し、彼の話をここでする。

 先に言っておくが。俺はこの話を終えた後、恐らく気を失うか、会話も出来なくなるだろう」


 ギョッとした顔で皆が総長を見ると、シャンガマックはとても困ったように『また、そんな』と呟いた。

 イーアンは、旦那さんの危険な発言に『な。なぜ突然』と言いかけたが、ドルドレンは悲しそうに『すぐ分かる』と答えた。


「話すぞ。これは、二度は話さん。俺の命に関わる。だから、思うところあれば、シャンガマックに訊いてくれ。

 今日、彼は。時の勇者とされる、ギデオン・・・うう、この名前が嫌だ。うむ、()()()()()()()()()()の様子を、俺に教えた」


 苦渋を飲む表情で、黒髪の美丈夫は苦しみつつも、大切な話を教える。


 美しい顔が歪むのが、心配になるイーアン。ギデオンの話なんてしたら、伴侶はシワが増えてしまう・・・ぎゅうぎゅう、寄せられる眉根にハラハラするイーアンは、頑張って話す伴侶の横顔を見ていた(※話関係ない)。


 そんな。どーでもいいイーアンの心配はさておき。ドルドレンは、皆にしっかりと大切なことを伝える。


 ホーミットが話して聞かせた、『ギデオン』の登場。ギデオンの動き、その素行。そして周囲が振り回された話(※ここでドルは一旦休憩)。

 そして、胸を掴んで苦しむドルドレンが休憩している間に(※よせば良いのに)親方が、『俺もコルステインから聞いた』と、ギデオン話余談を教え、ドルドレンはイーアンにしがみ付いて、苦しさに耐える。


「死ぬかと思ったが。しかし、皆のために耐えなければ」


 はーはー息切れしながら、ドルドレンは血走る目で『ここからが大切だ』と、前半を忘れても良い、くらいの勢いで巻き返す。


「こんな。どうしようもない男だったらしいが・・・分かる、フォラヴ。その哀れみの目を俺に向けるな。気持ちはイタイほど分かる。

 やめるんだ、ザッカリア。何も言うな。今、お前の子供らしい朴訥な発言に、俺は恐らく、耐えられない。オーリン、笑わないでくれ。頑張って笑うのを堪える顔が、非常に分かりやすくて、傷つく。


 それでな。『この男のせいで』と誰もが。俺でさえ、そう思うのに。シャンガマックは『彼の状況』に焦点を当てて、思ったことを教えてくれた。その尊い心こそ、俺たちに語りかける力だ」


 シャンガマックの伝えたこと――


 ギデオンの性格が、もし『気ままで女性が好きというだけの男』そのままだったなら。

 突然に告げられた『勇者の旅』にどれほど悩んだだろう。不安で自信もなく、いつまで逃げ回っただろう。


 魔物があまりに増えた時、決意して動いた後でさえ、不安に取り巻かれては、行きずりで女性に頼り、これまでの平和な日常を思い出したのでは。


 とうとう仲間の迎えが来て、いざ旅路となったものの。周りが優秀過ぎて、自分が小さく見えること。無力に感じること。その行いから、比較されること。


 共にいるはずの女龍は、真面目で耐え忍ぶ性格のために、ギデオンに心を開いたかどうかも分からない。顔にも態度にも出さない静かなズィーリーは、自分よりも強く、真面目で正義感が強い。


 その女性と一緒に動けと命じられても、味方もいない孤立した気持ちを抱えて、ギデオンは仲間と一緒にいられなかったのでは。



「シャンガマックは、アホ呼ばわりされても仕方ない男に。ここまで思いを寄せてくれた。

 そしてここからだ。ここからが俺たちにも通じる。

 ギデオンに対し、これほどまで考えたのは、シャンガマックも『力』の強弱、その幅、種類の開きを、味方の中で感じていたからだ、と打ち明けてくれた。


 俺もそうだ。俺も、勇者と言われながらも、戦うより手綱を持って馬車に乗っている時間の方が長い。こんな勇者でいいのだろうか?と、何度も自問自答は続いていた。


 シャンガマックは答を出してくれた。自分たちは、()に意識を持つように仕向けられていない、と。そんなのおかしい、と。

 この長く続く旅で、これほど早くから、天地の味方をつけた俺たちの旅に『力の差を考える必要があるだろうか』と、彼は言ったのだ。


 俺たちは。()()()()()()()()()に出発し、()()()()()()()()退()()()()()()進むのだ。


 民を助ける為に。()いては、()()()()()世界を救う為に、だ。その意味は何だ?強さで守るだけなのか。

 いや、違う。『守る』という意味は、『人々が、魔物から自分たちを守れるようにする』意味だ。

 そのために、危機であれば一時的に強さを用いて『守り』はするが、目的はそこじゃない。民が自力で立てるように、魔物を恐れないように『導く』こと、そこに本当の目的がある。


 シャンガマックは俺に言った。『魔物に負けたくないんじゃない。勝ちたいんだ』と。そうだ、そのとおりだ。


 だからこそ、『一時的に守る』そのことを強調してはいけない。つまり『力に(こだわ)る』ことはないのだ。

 ()()ためには、民もまた、一緒に勝たねばならない。それには『恒久的な導く』意志こそ、適うだろう。


 この賢いシャンガマックが教えてくれた、これもまた、導きだ。俺たちの中に、根を張り、自ずと勝つために、意識が向かう方向を導いてくれる。


 これから先。戦いの場で、辿る道筋で、力の強い味方が目立つだろう。

 だが、そこに押されてはいけない。イーアンやコルステインの強さは、一時的に俺たちを、民を助けてくれる強さだ。そこだけに目を留めてはいけない。

 イーアンも。だから『自分が目立つ』と気にして、隠れなくて良い。そして俺やバイラ、特別な力を持たない人間の身であっても、卑下することはない。

『これを履き違えては、今後、ギデオンのように、苛まれる危険があるだろう』と」



 ドルドレンはここで話を止め、部下の褐色の騎士を見た。微笑むシャンガマックは何も言わない。ドルドレンも微笑を返し、皆を見た。


「俺は。彼の言葉に胸を打たれ、目を開かされた。皆もそうではないかと思う。お互いを愛せ。お互いを支え、自分も愛せ。そして進もう」


 総長の話が終わると、ミレイオが小さく拍手をする。その拍手はすぐに連鎖し、ドルドレンは恥ずかしそうに首を振ると『シャンガマックへ』と呟いて、ぱたっとイーアンに倒れた(※力尽きた)。

お読み頂き有難うございます。


お菓子の話で、ちょっとだけ活動報告を書きました。もし、ご都合宜しければお立ち寄り下さい。



挿絵(By みてみん)



今日も暑い一日でした。真夏の文字通りなので、どうぞ皆様、お体に充分お気をつけてお過ごし下さい。

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