1027. お空の一場面・女龍降臨魔物退治
もうそろそろ、お昼も1時を過ぎたくらい・・・・・
イーアンは女龍になっても、体内時計が機能している、人間的な部分に有難く思う。
「女龍の状態も、便利は増えました。免許がなくても移動可能で、空も飛べます。エネルギーは採掘しなくても、空気でOK(←龍気)。もしお金なくてご飯食べれなくても、空にいればお腹も減りません」
トイレも行かなくて済むしね・・・うんうん、頷くイーアンは、龍とイヌァエル・テレンの状態に、改めて感謝してから、『でも人間の名残も助かりますよ』と続ける。
「こうして。『そろそろ1時かしらね』と感じるのは、私の体が人間時代・・・うう、この言い方寂しい。うむ、話を戻す。人の時代に培った、大切な機能です。お空は時計、ありませんからね」
『誰も時間なんか、気にやしません。だから体内時計必須』大きな独り言を、淡々と続ける女龍の側、シムとファドゥは、彼女をじーっと見て『あれは(こっちに)話しかけてはいないんだな』と、お互いに確認し合う。
「イーアンはすっかり、俺たちと同じ体だ。見ているだけで嬉しい」
シムは、異様に大きい独り言を、呟き続ける女龍にちょっと笑って、ファドゥに伝える。
ファドゥも微笑み『そうだね。服は、今後も着るだろうけれど、彼女の姿は全く私たちの状態』嬉しいだけ、と答えた。
「皆が、あの姿の女龍がいることに喜びを感じる。昨日も俺はタムズとニヌルタと一緒にここで、彼女を見ていた。
自分たちのいる間に、空の時代が来たと実感するのは同じ。とは思うが、ビルガメス。全然来ていないような気がするが。昨日は、俺たちの後に来たか」
シムは、誰よりも通い詰めそうなビルガメスを見ないことを、不思議に思う。
彼の名前が出たので、ファドゥも少し心配そうな顔になり、首をちょっと振って『見ていないね』そう呟く。
「ビルガメスはどうしたのか。イーアンを中間の地に送り届けた、あの後。そう言えば、彼を知らない」
「子供部屋に来ないから、私も分からない。彼の子供たちは元気だし、問題はないけれど。子供たちに会いに来ないのも珍しい」
毎日来ていたのか、と訊ねるシムに、ファドゥは『大体、毎日だと思う』と思い出す。たまに一日来ない時もあったが、それは前の日に早く子供を戻して、翌日遅くに来るような具合であり『丸一日という意味ではない』と。
「ふーむ。おかしなもんだ。しかし、ビルガメスだからな。この時間で何かしているかもしれん」
シムはそう呟くと、少しファドゥを見つめてから『俺は出かけてくる。子供たちを連れて帰るのは、夜にする』と言って出て行った。
彼が動いたことにも、ファドゥは気になったが、男龍になったばかりの自分には分からないこともある。
これはこれで、皆の動きを邪魔しないように受け入れていようと思った。
「ファドゥ。私はそろそろ戻ります。それでは明日」
イーアンが立ち上がって、赤ちゃんたちを抱っこから下ろすと、皆にナデナデして『明日来ますからね』と挨拶して、ファドゥの元にも近寄り『ではまた』と笑顔を向ける。
「オーリンを呼ぶ?それとも、誰かに送ってもらう?」
ファドゥはイーアンと一緒に、扉まで歩きながら訊くと、彼女は首を振って『オーリンを呼びます』と答えた。
子供部屋の外でオーリンを呼び、すぐに来た龍の民は、変化を遂げた銀色の男龍を見て、一瞬怯んだように止まったが(←ガルホブラフが)少し躊躇うように『イーアン。行こう』と降りずに促す。
フフッと笑うファドゥは、翼を出して浮んだイーアンに、さっと額を指差す。
イーアンは笑って、浮んだまま、ファドゥの2本の角が生える、額の真ん中にちゅーっとしてから、『ジェーナイに宜しく』と挨拶して飛んで行った。
手を振って見送ったファドゥ。額に口付けをしてもらうのは、自分とイーアンの挨拶みたいで、毎回嬉しい。
『母も・・・こうして。帰る時はいつも挨拶してくれた』そう呟くと、懐かしそうに目を細め『母の時は口だったけど』と続け『ジェーナイには口合わせするのに』とか。
思うことを、ぶつぶつ落として、子供部屋に戻った(※一生ママっ子)。
「イーアン、男龍と一緒の状態で、俺を呼ぶなよ」
オーリンはイヌァエル・テレンを抜けてすぐ、横を飛ぶイーアンに文句を言う。イーアンは彼を見て『いたって、別に。何するわけでもありません』何が嫌なの、と聞き返す。
「ガルホブラフも緊張するし、俺もそうだ。あれ、ファドゥだろ?髪の色とか肌の色が変わって、もっと強く見える。
昨日は離れた場所で呼ばれたから、直に会わないで済んだけど」
彼らに対し、オーリンは苦手意識が消えないまま。もっと増えた気もする。イーアンは頷いて『次から一人の時に呼ぶ』と答えた。
「それとさ。何あれ。まだファドゥに」
「あれはもう。彼の場合は、お母さんですもの」
「あんな見た目になっても、まだ?まだ、母親みたいに、イーアンを慕うのか」
呆れたようなオーリンに、笑い出すイーアン。
『仕方ありません。彼の母への情熱は、何百年越しですから』今更、変わらないでしょう・・・私は諦めていると教える。オーリンは、納得行かない様子。
「だって。息子の男龍もいるんだろう?その前に『龍の子』で、彼の子供たちは、何十人もいるって」
「いても。彼自身は変わらないでしょうね。
思うのですが、ファドゥは男龍になってからの方が、甘くなりました。
『龍の子』の皆さんも、自由奔放な感覚ですけれど、『男龍』は、またもっと根本的な意味で、自由ですね。魂からして自由のような。
だから今が、ファドゥの一番垣根のない状態かも」
「そうなのか。言われりゃ、そんな気がするけど。
だけどあの大きさで、あの迫力で、まだイーアンにちゅーとかしてもらうのか、と思うと」
二人はアハハと笑って、『自由ってそういうもの』と、この話を片付けた(※ファドゥ⇒ママっ子認定上塗り)。
地上の風景が近くなってきた時、イーアンはすっと顔を横に向けた。オーリンが気が付き『何かあるか』と訊ねると、頷いた女龍。
「魔物です。数は多くないと思うけれど・・・いえ、違う。数はそこそこ。凄まじい量ではない、という意味です」
「どうするの?行くか」
そうですね、と笑ったイーアンは向きを変え、馬車の方角から大きく、反対方向へ飛んだ。オーリンも後に続き、眼下の風景から『この先は涸れ谷の方面』と気付いた。
ぐんぐん地上に近づくイーアンもまた、涸れ谷からの道を逆に進んでいると知る。だがその手前に、目的が見えた。
遠目は利かない。それは、女龍の今も健在。『こんな部分も、人間の体のまんまです』これはどうなの、と自分に笑うが、感覚で分かる相手に息を吸い込む。
「どなたかが。旅の最中に阿鼻叫喚なんて、冗談じゃありませんよ」
助けを求める誰かと、戦おうとしている気力を高める誰か。そして彼らを包んだ魔物の群れ。一頭ずつが大きい。ミミズのような姿に『イオライみたいです』と呟いたイーアンは、両手に爪を出す。
「もしイオライと似ているなら。この魔物の体液は危険」
うんと加速し、魔物が地中から出る音が届く位置まで来たイーアンは叫ぶ。
「逃げて下さい。その魔物に触ってはいけない」
大声で逃げるように伝えたすぐ、3台の馬車の側にいた人影が、空に向かって騒ぎ始める。イーアン的には『それは正常な反応です(※空から誰か降ってくる)』と思うところ。
彼らの反応はさておき。加速して魔物の群れに突っ込んだイーアンは、両腕の白い爪を振りかざしては、頭を立ち上げた大きな魔物の体を斬り続けた。
馬車から近い場所の魔物を最初に倒し、体液が飛ぶ前に、頭は斬り飛ばし、胴体は爪で殴って切り口を反対側へ倒す。
力は無尽蔵に思える今、疲れ知らずの女龍は、体を振り回すミミズ(←10mくらいある)をばんばん切り裂き、次々に出てくる地上すれすれで飛び回って、出てくる側から切り刻む。
その間、ふとした時に、後方の馬車から『龍の女だ』と声援(?)が聞こえるが、振り返って笑顔を向けるほどには、余裕もない(※スターには、なれない性格)。
分かってもらえたことだけ感謝して、イーアンは最後の一頭を切り倒すまで、高速で飛び続けた。
イーアンが倒したすぐ横で、オーリンもガルホブラフにお任せ状態(※こんな場面で弓は使わない)。
ガルホブラフが吐く赤紫の炎は、刻まれた相手を瞬時に溶かして消す。そこら中に、鼻を突く臭いが立ち込める煙の中で、女龍と龍の民は、魔物を一頭残らず退治した。
「イーアン!もう終わりか」
「いいえ。下がっていて。この下にいますよ」
オーリンの声に答えたイーアンは、一度ぐっと上へ飛ぶと、地上から50mほど離れた場所で、龍に変わる。
見ていたオーリンが『えっ。龍でやるのか』驚いて声に出したのと同時くらいで、ガルホブラフが逃げた。
真っ白いイーアン龍は、口をガーッと開けて、地面に向かって攻撃する。
炎も音もないその攻撃は、直に見た者だけが恐れをなす、異様に歪む空間の捻れを生む。すぐにイーアン龍は口を閉じると、光を放って人の姿に戻った。
「魔物。地中で消滅しましたね。宜しい」
大事ですよ・・・ちゃんと倒さないとねと呟きながら、ぴょろろ~と降りてくるイーアン。
馬車の人たちは怪我をしたかどうか、気になっていたので馬車へ向かうと、誰かが駆け出して来て両腕を広げた。
え、ハグ?それはダメよ、とイーアンは空中で止まる。
見知らぬ人にハグはいけませんから・・・ちょっと警戒して、距離を持って見ていると、若者らしき男性は『龍の女!有難う』と叫び、イーアンの下まで来て、走ってきた足を止めた。
「降りてきてくれ!俺と、俺の家族を助けてくれて有難う!」
大声で笑顔を向けた男性は、見ればその手に剣が(※剣持ったままハグ希望)。
彼は戦っていたのかと分かると、お礼と希望に答える前に『怪我はしていませんか』の質問を、爪を引っ込め、イーアンは先に訊ねる。
「怪我?怪我なんて。大したことないよ!ちょっと火傷した程度だ。来てくれ、そんなことより、あなたが見たい」
「ご家族は?ご無事ですか」
「家族か。家族の心配までしてくれて。大丈夫だよ、俺が戦い始めてすぐ、あなたが助けてくれたから」
イーアン、とりあえずキョロキョロ。ガルホブラフは逃げたか、と思う(※親方バーハラーに基づく)。とりあえず・・・まぁ。挨拶だけはするべきかしらと思って、イーアンは降りた。
彼は明るい笑顔で、イーアンを見て『何て綺麗なんだろう。龍の女って、こんなに凄いのか』と感動した。
分かっていること=①。この『綺麗』は人間的な意味ではない(※肌の色おかしい&角生えてる&でも人間型)。
これで私が、国民的アイドルとはいえ『ドラちゃん』的な形だったら、きっとこうは言わないと思う。
イーアンは作り笑顔でお礼を言って、『旅の途中ですか』と挨拶代わりに訊ねた。
「そうだ。といっても、俺たちは常に旅をする。この前、やっぱりあなただったと思うけれど、白い龍を見て。それでこっちへ進んでいたところだった」
彼の言葉に、イーアンは『ふむ』と止まる。彼を見ていると、ドルドレンのお父さんの馬車にいた、バアバックを思い出す・・・何となく、肌の色や雰囲気が似ていて。
「こっちで正解だったんだな。ハイザンジェルの旅人を追って、彼らに龍のことを訊いたけれど、知らないようだったから、戻ったんだ」
む。え。それ。あなた。もしかして――
「とにかく、来てくれ!俺の家族が見ている。ほら、皆、あなたを待っていた。
俺たちはテイワグナの『太陽の家族』だ。馬車の民、って言った方が分かるかな。ドルドレンがそう教えてくれたけど」
ぬはぁっ!! 尻もちつくかと思うくらいに、驚いたイーアン。
だが、彼は満面の笑みでイーアンの腕をちょっと掴んで『触っても良いかな。怒らないでくれね』と頼み、びっくりし過ぎて固まる、イーアンのまん丸の目を見ながら『こっちへ』と、女龍を馬車へ引っ張って行った。
お読み頂き有難うございます。




