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魔物資源活用機構  作者: Ichen
交わる世界の片鱗
1024/2955

1024. 旅の四十六日目 ~立場の境目

 

 翌日の午前。朝食が済んでから、それぞれの予定を伝えて行動に移る。


 ミレイオは、約束した(※というほどではないが)炉場の職員の気持ちを汲み、親方を誘って炉場へ再び向かった。


 イーアンは、一人でお空へ(※オーリンは、昨晩食事だけ一緒で、空へ戻った)。


 騎士たちは、昨日の水のことで、町役場に呼ばれていたので、バイラと一緒に町役場。バイラは、今日も書類を書かないといけないようで、役場の用事が終わったら駐在所へ行くと話していた。



 炉場に着いたミレイオとタンクラッド。


 職員に笑顔で迎えられ、お礼を言われ、中で作業をしたのだが。ビザエと呼ばれた初老の職人はいなかった朝一番、二人が作業して2時間経つか経たないかで、彼は来た。


 来るなり、『そこは自分の場所だ』と騒ぎ始め、ビザエの知り合いの職人も一緒に来ていたものだから、彼らもビザエの味方をして、親方とミレイオを(なじ)り、追い出す勢いで言い続けた。


 騒ぎに気付いた職員が急いで止めはしたが、説明しても、ビザエはなぜか二人を責めることを止めず、面倒臭くなった親方とミレイオは『ある程度の工程は進んだし、続きは次の町でも』と決定し、荷物をまとめる。職員の男性は謝って、困っている。


「あんたはいい。もう謝りに来るな。あんたじゃないんだ」


「そうね。あんた、イイ人よ。でもこいつらは、私たちがどうやっても嫌みたいだから」


 喚いて罵声を浴びせる地元の職人を無視し、イラつくのも抑えて、ミレイオと親方は職員に挨拶すると、今日も午前中に馬車を出すことに。

 職員は追いかけてきて、最後まで『こんなことになって申し訳ないです』と言っていたが、それも、ちょっと手を振って()なし、馬車は止まることなく道へ出た。



「なんだろうね。でも、ごめん。嫌な思い、またさせた」


「気にするな。自分が辛いと、視野が狭くなる。そんなもんだ」


 気分は悪いけどな、と皮肉そうに笑ったタンクラッドに、ミレイオは少しすまない気持ち。『ねえ。もう、店屋開いてるから。あそこ、あそこ寄って。何か食べようよ』と店頭販売の店を指差す。


 気を遣うミレイオにちょっと笑って、親方は了解してやり、側に馬車を寄せて、ミレイオの好きにさせてやった。ミレイオはタンクラッドの分を多めに買って『これ。多く買い過ぎちゃった。朝、食べたばっかだけど。あんたなら食べれるでしょ?』と押し付ける。


 笑うタンクラッドはお礼を言って受け取り、馬車を停めたそこで、ミレイオの買ってくれた串焼きの肉を食べた。

 笑ってはくれるが、黙って食べる親方に、ミレイオは無理に連れ出したことを反省。


「あのさ、ごめん。ホントに。行かなきゃ良かった」


「あんなもんだ。『俺だけ、自分だけ』ってな。そこに囚われると、誰でもあんなふうになる」


「分かってるけど。でも嫌なとばっちり、受けさせたからさ」


「ミレイオ。お前も俺も、若い時に()()()()()()()を失った。お前は自分の命より愛する相手を、俺は自分の剣が渡った後、その剣が奪った見知らぬ人間の人生を。

 それは決して良い経験じゃない。お世辞を言っても、二度と御免だ。だが、若いうちに、強烈な体験を階段に、それを跨いで超えられたヤツだけが、続く人生を俯瞰できる。


 あのオヤジは、これまでそんな目に遭ったことがなかったんだ。多分な。普通の死だって受け入れるのは辛い。それが攫われたとか殺されたとか、そんなの理不尽に思うだろう。

 あれは、初めて食らった感じの喪失感に見える。俺だけが辛い、俺がどんなに、ってな。他人の話を聞いて、もっと酷い状態を知ったところで、受けた衝撃に経験がないから、すぐには、自分の痛みを超えないんだ。

 あの状態じゃ、何を見ても自分が情けなくなる。そして見える全てに」


「当り散らすのね。分かるわ。私たちが倒したって聞いたから、余計・・・そうか」


「こんな場所も。今後は出くわす。これまで、礼を言われることが多かったから、気になるかも知れない。

 だが、テイワグナは、ハイザンジェルの魔物騒動が始まったばかりの頃を、たった今、通過している」


 タンクラッドの声は静かで、ミレイオにちょっと目を向けて『お前の家の。アードキー地区から出て行った人間も』そう呟くと、ミレイオも少し目を伏せた。


「そうね。そうよね。イオライセオダも凄かったものね。誰に当り散らして良いか・・・って、そんな感じで」


 そういうことだ・・・親方は二串目の肉を齧り『食べたばかりでも、美味いもんは美味いな』頬張った顔で、ミレイオに微笑む。

 ミレイオも野菜の焼き串を食べながら、頷いて微笑んだ。『そうね。別腹かも』と答えて、食べ終わるまで、二人はそのまま味わって、店頭販売の焼き串の感想を言い続けた。



 *****



 町役場でも、騎士4人とバイラはちょっと躊躇う時間。『水を通してくれた、お礼の挨拶をしたい』と言われて、挨拶に来たものの。



「そこまでは出来ない。次がある」


「周期的に回ることは無理ですか」


「理由がないのだ。他も行く必要がある」


「龍が飛ぶと早いと思うんですが、それで」


「龍をどう動かすかは、こちらの采配だ」


「魔物と戦わなくても。もしかしたら、また岩場が崩れるかも知れないし」


 総長と町長は、こうしたやり取りを何度か続けた後、お互いに黙る。ため息が静かに落ちて、騎士4人とバイラ、町長と役場の職員が向かい合う席は、重い空気が漂っていた。


 通って来た小さな村も、こうだった。他所から来た人間が、自分たちに出来ないことをした上、それに利点があると思った時、もっと頼もうとする。


 カヤビンジアは町だけれど、小さい町で周囲に何もないから、警護団よりも頼れる見回りを求めた。

 それをハイザンジェルの旅人に託したのは、魔物もすぐ退治し、次の日には水も通し、不思議な水で潤すまでしてくれたから。

 それも『龍といる彼ら』でもある。龍の女さえ味方にいるとなれば(←イーアン、オマケ)。


 『ここでお礼も何ですから。お話もしたいことがあって』


 外に出てまで馬車を迎えた町長の言葉に、何の話だろうと思って役場に入ってみれば。

 これかと思ったのは、騎士たちだけではなく。バイラは、顔を片手で拭うと、そのままこぼれ髪を撫で付けて、困ったように溜め息を吐く。


「警護団じゃ、頼りないのは分かりますが。だけど今後は、武器も揃えて、警護を厚くしますし」


「だからね。バイラさん。警護団の交代の時に襲われた、私たちからしたら、もう信用が難しいんですよ。

 こんなこと直接言うのも失礼だけど。被害の数時間後に来た警護団、何もしてくれなかったですよ。

 被害者の確認を家族にするとか、魔物の詳細を聞くくらいで。警護に付く人数も増えなかったし、体制も二交代制そのままで」


「それを言われると、こちらの対応も問題はありますが。だけど、総長たちに頼むことじゃないんです。

 彼らはテイワグナを回る任務で来ているし、ちょくちょく見に来るなんて約束も出来るわけ」


 バイラが最後まで話をするのも遮り、町長は首を振る。


「それは、バイラさんが決定することじゃないからっ。私はね、一町長として、町を守る責任がある。彼らのように、経験値も高くて、魔物退治に挑んだり、町の被害に素早く向かい合って、対処出来る人たちに、安全をお願いするの当然ですよ」


 町長の言い方は、警護団がそれらしい動きをとっていないことを、非難する内容。

 耳が痛いバイラは、返す言葉も本当はないところだが、それでも『総長たちに頼むのは、お門違い』と言い聞かせるしかない。


 今日も仕事が遅れそうだと、うんざりして時間を見ては、早く町長が下がってくれと願って、あれこれ正論で撥ね付けたが、その努力は実らないまま、15分経過。



 ここで。シャンガマックが口を開く。

 堂々巡りで話が先に進まなくなると、彼は自分の役目を理解しているかのように、積極的に正義の気持ちから動く。


「以前にも。別の地域で、同じような話を頂戴したことがありました。でも、俺たちは動き続けないといけないし、どこかに定期的に関わる約束は、応えられないんです」


「あなたも強そうな騎士ですね。一人ずつでも、動きは無理ですか?龍に乗って」


「今。こうしている間に。この町が襲われた一瞬、その日が別の場所で。突然、魔物の襲来を受けている誰かが、この時間にもいます。

 分けて各地を見回って、それで大丈夫な保障なんてありません。全員で魔物に挑む時もある。誰かの力が足りないだけで、守りきれないこともあるんです」


「龍の女がいますよね。彼女はいつも一緒じゃないですか?」


「町を守る義務は理解します。ただ、俺たちにも義務はあります。その義務は、ハイザンジェルを背負っている。

 魔物に叩かれ続けて、国が傾くまで戦ったハイザンジェルを、俺たち全員が、その背中に背負ってここにいます。魔物が出現し始めたテイワグナに、魔物を恐れないようにと応援する為にです。その仕事は、既にここの町では終えました」


 龍の女がいれば大丈夫では、と仄めかした町長の粘りには答えず、シャンガマックは『ハイザンジェルの義務のために』と言い切る。町長は黙って、褐色の騎士を見てから、総長を見た。総長も小さく頷く。


「心細いのは分かる。だが、警護団もいる。頼れるかどうかを問うなら、育つまで時間は掛かるだろう。だがそれは、ハイザンジェルもそうだった。

 仮に、見回ったところで、間に合わない時もある。間に合わなければ、同じことだ。だからこそ、立ち向かうことを考えるのだ。

 これを渡す。これは龍の鱗。魔物が出たら、鱗を一枚、宙に吹くのだ。龍の風となって、魔物を倒す」


 総長はもう話すことはないとばかり、腰を上げ、それと同時に、片手に持っていた袋を机に置く。


 龍の鱗は、魔物以外に反応しないことも教え、『無事を祈っている』と挨拶すると、町長が何を言っても、もう答えずに、部下とバイラを連れて役場を出た。



 町長は役場の中で立ち止まって、追いかけては来なかった。

 ドルドレンたちはそのまま、役場に顔を向けることなく、馬と馬車に乗って役場を出た。道に出たところで、バイラは総長に謝る。


「内容を聞いておけば良かったです。申し訳ない」


「バイラが謝ってはいけない。町長は、事前に聞いても、内容を伏せただろう。警護団については、()()()()だ」


 すぐ近くにある駐在所に馬を向け、バイラは『昼に戻ります』と伝えると、中へ入って行った。ドルドレンは、横に座るシャンガマックを見て、ずっと黙っている彼に『有難う』とお礼を言った。


「いいえ。断り難い気持ちも分かるので。総長は優しいから」


「お前の方が優しい。お前の厳しさが、本当の優しさから来ると分かる」


 総長の言葉に、少し微笑んだシャンガマックは、ちょっと考えたようにゆっくり答える。


「イーアンの姿は。もう・・・テイワグナの人々からすれば、何でも叶えてくれると、妄信的に思える見た目でしょう。その力も。それに、俺たちの乗る龍も、その意味を強くする。


 ・・・・・俺は、あなたに話したいことがあります。


 これから先『守る立場と守られる立場』を、口にしない方が良いのかも知れないですね。知らない間に、言う側も言われる側も、それを信じ込むから。

『教える立場と教わる立場』と常に意識していないと、相手が()()()()()()()()()()感覚しか持たなかったり、それが理由で、俺たちが分断されることになりかねない気がして」


 褐色の騎士の言葉は、的確で重要、ドルドレンは彼を見つめて頷く。


『お前の言うとおりだ』そう答えたが、でもなぜ彼は『あなたに話したいことがある』と初めに強調したのか、続きがあるのだろうかと、様子を伺って待った。


「あなた以外の誰かに話しておこうと思ったんです。本当は。

 だけど、さっきの町長の言葉や、昨日、イーアンたちが戻ってきた時の、町の人の様子を見たら、やはり()()()伝えようと思いました」


「シャンガマック。それは何だ」


「はい。総長の先祖、ギデオンのことです」



 ドルドレンは、真っ直ぐに向けられた、漆黒の艶やかな光を受け、しかしその音の響きに真逆の濁りを感じて、一瞬息が止まった。

お読み頂き有難うございます。

ミレイオが屋台で買った、お肉。

写真では『買い過ぎた』ほどの量ではないけれど、ご紹介~



挿絵(By みてみん)



こうした串のお肉は、いろんな町で売っています~

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