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魔物資源活用機構  作者: Ichen
交わる世界の片鱗
1020/2955

1020. 人情、水の流れの如し

 

 イヌァエル・テレンで過ごすイーアン。


 赤ちゃんもすっかり大きくなった最近、ジェーナイも、小さい子と一緒に遊んでくれるようになった。

 イーアンは、そんなジェーナイのお兄ちゃんぶりが可愛い。



「あなたは優しいです。お父さんのファドゥも優しいから、そっくりです」


「イアン。ファド」


 そうそう、と笑顔で、ジェーナイをナデナデするイーアン。


 ジェーナイは人の姿の時、おなかもポコッとして、まだまだ幼児体型(※翼もあって、髪もクルクルで、アレも丸出しだから、キューピッドみたい)。頬っぺたもプクッとして、本当に可愛い。


 10年もすれば『ムキムキ筋肉質』な男龍になるのか、と思うと、この可愛い姿は、非常に貴重な時期であるとしみじみ思い、カワイイ、カワイイと愛でるのみ。


「あなたはとっても、可愛いです。なぜか少し、お目が垂れている気がしますが(※自分の影響とは気付いていない)。

 でも、垂れ目ちゃんの男龍も、スイートでキュート・・・ぬっ・・・いや。待てよ。この美貌で、この垂れ具合。そしてムキムキになったら。それは()()()の甘いマスクってことか(※男龍は、切れ長Eyes)」


 ええ~~~っ・・・・・ 私の可愛いジェーナイが。『甘いマスクのムキムキイケメン』って。


 そんなことになったら、お母さん(※自分)あなた、外、出せないわよ~~~!! 女が寄って来るじゃないのよ~~(※基本、空在住だから寄らない)!!


 イーアンはぶんぶん首を振りながら、雑念を追い払い、いそいそジェーナイを抱っこして『お母さんが守ります!』と、切なそうに頬ずり。よく分からないけれど、抱っこしてもらったジェーナイは、ニコニコしていた。



 そんなイーアンと、息子を見ていたファドゥ。彼らから少し離れた場所で、他の子供たちと遊んでいたのだが、側へ来て座る。


「イーアン。肌の色も変わって、角も大きく立派に。あなたは悲しんだが、とても綺麗だ」


「その話になると、まだ心が。突然で」


「そうだね。でも本当に、何て綺麗な姿だろうと思う。元からそうだったみたいにも思うくらい。母は変わらなかったから」


 ファドゥは、ズィーリーは角もなかったし、人間の要素のままだったと教える。イーアンが恨めしそうな顔をしたので、ファドゥは少し笑って『嫌かもしれないけれど』と続けた。


「とても恥ずかしがっていたから。だけど服がない姿は、初めて見る()()()()()()と、何かこう・・・遠い記憶が知っている気がした」


 一瞬、裸事件(※伴侶とも揉めてる中)に俯いたイーアンだが、ふと『始祖の龍に近くなる』と、その言葉を思い出す。ハッとして顔を上げると、金色の瞳でファドゥは微笑んでいた。


「ファドゥも、どなたも知らない・・・ご存じないでしょうが。ですが、もしかすると。始祖の龍は、彼女は」


「うん。私もそうじゃないかと思った。そのつもりで、今も話した。

 私だけではない。あなたが中間の地に戻った後、皆でそう話していた。ビルガメスは、とても嬉しかったようだ」


「ビルガメス!彼は始祖の龍を見ていますか?最後のお子と聞いているけれど」


「いや、そこまで話していないね。でも、見ていそうだけれど。

 イーアンが変わったばかりの時も、彼一人だけ、他の男龍よりも嬉しそうだったし・・・あまり言っては良くないだろうが、服のない状態も、彼は実に懐かしそうに見つめたから」


 そう言うと、クロークから出ている、イーアンの腕に視線を向けたファドゥは、そっとその腕に手を置く。


 大きな銀色の手が、イーアンの透けるような白い腕に乗ると、不思議なくらい自然に見えた。

『同じだ。私たちと。私も龍の子だった時、人間に近い肌の色だった。この姿に変わって、誇らしい』独り言のように呟いて、ファドゥは自分を見ているイーアンに微笑む。


「あなたが変えてくれたんだ。私を、母の望んだ姿に。そして、あなたは今また。遥か最初に、龍族(私たち)を生み出し、この空を作った()()()()に似通う」


 受け入れるのに時間が掛かっても平気だよ・・・ファドゥは微笑みを深める。『いつまでも待てる』だから、急がないでと言うと、彼は立ち上がり、また、他の子供たちの所へ行った。



 ビルガメスにも聞きたいと思う、イーアン。だが、『脱げ脱げ』言われる可能性も思うと、おいそれと動けない(※嫌)。


 でも、始祖の龍のことも知りたいし、イーアンは変化と一緒に、山のような、見えない課題を受け取った気持ちだった。



 この日。お昼丁度に挨拶し、イーアンはオーリンを呼ぶ。オーリンに炉場で手伝ってほしいと、ミレイオが話していたからというのもあるし、オーリンにこの姿を見せていないのもある。


「驚くでしょうが。いつかは見せるわけだから」


 それなら、ちょっと時間を作って、弱音も吐きつつ・・・そんな感じで、イーアンはオーリンを呼ぶ。暫くすると、ガルホブラフに乗った龍の民が近づき、離れたところで『すげぇ龍気だ』と笑う。


 そして視界の距離が狭くなるにつれ、オーリンの目が丸くなった(※ガルホブラフも)。


「どうした、それ」


「オーリン。昨日の出来事です。そしてこの姿は、多分、今後もこのままです」


「すげえな。ここまで変わると、形はイーアンだけど、もう()()()女龍だ。こりゃ、お供えしたくなるね」


 オーリンの発言に、何よそれ、と笑うイーアン。『お供え』要らないから、と言うと、オーリンも笑いながら『いやそういう範囲だよ』と返す。


「もう帰るの?皆は知ってるわけか」


「そうです。昨日はこの状態で、ビルガメスたちと・・・ええっと。あなたに話したいことが沢山で。だから今日は、あと1時間くらい、一緒に(ここ)で話そうかと思いました」


 ショショウィが昼に来るから、時間もずらしていること。それも伝えないといけないので、イーアンが相談すると、オーリンは頷いて『じゃ、あっち行くか』と以前も話した場所へ、顔を向けた。


 オーリンの、カラッと気さくな性質に救われるイーアン。了解して、二人は目的地へ、昼の眩い海の上を飛んだ。



 *****



 お昼よりもずっと前に戻ってきた、タンクラッドとミレイオは、馬車で作業。暫く無言で、二人は黙々と作業を進め、どちらも炉場のことは口に出さなかった。


 二人が戻って1時間後。『あれ。馬車がある』と外から声がした。

 ドルドレンたちも帰って来たと、分かったミレイオが、馬車を出て『お帰り』の挨拶の後、あっさりと早く帰った事情を伝える。

 ミレイオの表情から、騎士たちは『じゃ。別の町にしよう』そう答えて、この話題は終わる。


「タンクラッドは。いる?」


 小さい声で呟くように訊ね、ドルドレンはそっと馬車を覗く。いると分かっていても、親方は機嫌が悪いんじゃないかと思った。


 ちらっと見たタンクラッドは、意外なほど普通だった。『いるに決まってるだろう』少し笑って返事をすると、親方は作業していた場所を簡単に片付けて『食事でも行くか』と馬車を下りた。


 下りたすぐ、親方はドルドレンの腕をちょっと掴み、彼が見たので『お前と話す時間がありそうだな』と伝える。一瞬、警戒し、その後、割れた小声で答えるドルドレン。


「ある。が。何なのだ。昨日の」


「警戒するな。お前の気持ちを聞こうかと思った。確か『馬車にいると家族』だったな」


 あ、と思って、彼を見たドルドレンに。

 親方はニコッと笑い、総長の背中をぽんと叩いた。『俺を、朝の海へ連れ出した』だろ?と、顔を覗き込む。ドルドレンはちょっと眉を寄せて、うん、と頷き『有難う』しゃがれ声でお礼を伝えた。


「早いが、昼を食べたら。町の外でショショウィを呼ぶから。お前も来ると良い。ちょっと行きたい場所もある。人もいないし、丁度良いだろう」


 騎士4人と二人の職人は、時間を見て『11時。昼にはちょっと早いかな』と気にしながら、『多めに食べる』ことに決定し、食事処へ入った(※夕食まで持たせる)。



 *****



 イーアンはオーリンに、あれやこれやと30分ほど話して、オーリンの意見を聞く時間。


「裸。俺も見ても良い?」


「あなたね。人が悩んでいるのに」


「全部その色なの?ちょっと見せてよ」


「やめなさいっ!これ!何ですか、破廉恥な!」


 笑うオーリンは、横に座っているイーアンのクロークを捲って、龍の皮のタンクトップ(※Byミレイオ製)を引っ張る。

 叱るイーアンが手を叩いて『あなたの知ってる豊かなお胸はありません(※自暴自棄)』と畳み掛けて注意。


「胸云々、そんなのじゃなくて。すげぇ体じゃん。見たいと思うもんだよ」


「どんな『すげぇ体』ですか。バカにして」


「馬鹿にしてないだろ。イーアンは筋肉も引き締まってて・・・そりゃ男龍や総長と比べれば、女だから小柄だし、細くも見えるけど。でもそこまで、筋肉の影の付いた体で、その色だろ?もろに『女龍』って感じだから」


 そう・・・見える?と、ちょっと意見に耳を傾けるイーアン(※単純)。頷くオーリン(※見たい)。

 でも見せませんよ、と言われて『見せてよ』を何度か連発し、イーアンに頬っぺたをはたかれる(※服引っ張り過ぎた)。


「あなたって人は。ドルドレンが聞いたら」


 笑いながらそう言いかけて、伴侶の名を口にしたイーアンは黙る。

 オーリンも、はたかれた頬に片手を添えて、黙ったイーアンを見る。『責めるなよ。総長、言葉を間違えていただけじゃないの』難しいんだよ、と教える。


「総長と個人的に話したことは、時々あったけど。

 彼は、人の相談には、本当に理解が深いんだと思うよ。だけど、総長の立場で話を聞いているから、的確な返事も出来るだけで」


 ちょっと考えたオーリンは、イーアンに『総長は、愛情を伝えたかっただけ』と言う。はーっと息を吐いたイーアンは『それも分かるけど』でもねと濁す。オーリンは女龍の肩に手を置く。



「イーアン。こんなこともあるよ。いつも仲良いのは結構だけどな。今までどおりじゃないんだ。

 君は体も変化して、龍気も増えた。それでこれまでと同じように怒ったら、増えた龍気がうっかり溢れる。

 攻撃したつもりじゃないにしても、初めて怒らせた奥さんにそれを食らったら、『攻撃』だと、口走っても仕方ない。俺だってこの前、イーアンの龍気で痺れたんだ(※980話)。人間じゃ、もっと痛いぞ。


 総長が君に謝らなかったのは、前までなら『ヤキモチ』だろうが、男龍に躾けられてからは、ちゃんと学んだからで。

 彼は、君の状況を理解をして、愛情も伝えたつもりだったかもしれないけど、単に、言葉が上手くなかったんだ。

 どんなに伝えても、イーアンが怒るだけで、どうして良いか分からなくて、抱き締めたんじゃないの」


「オーリンに説得される」


「悪くないだろ?何だ、その言い方」


 笑う龍の民に、イーアンも苦笑い。ちょっとお互いの目を見てから『そろそろ戻ろうか』どちらからともなく言う。


「では。戻り・・・あ。ミレイオ、炉場にいるのか。オーリンは直に向かって頂いて」


「ん。そうか、あれだな?肋骨の金属の。昨日の夜、使ったやつ」


 そうです、と頷いて、イーアンはミレイオに連絡。応答したミレイオの返事を聞き、眉を寄せたイーアンは、ふむふむ答えているようで、連絡を終えた側から『別件を片付けてからのが良いかしらね』とオーリンに言う。


「どうした。炉場?」


「いいえ。炉場で水が使えなかったそうです。それで今は、宿にいると。

 どうもあの大地震で、町の先にある岩場が崩れたようで、流れている川に岩が。それが節水の原因とかで、まだ町が対処出来ていないと」


「そうなのか。じゃ、帰り道でそこ、見て行くか。岩、退かせられたら退かしてやろうよ。脇に流れた水は、どうにもならないけど」


 そうしましょうと賛成し、イーアンとオーリンは、町に入る川を目指して、地上へ飛んだ。



 *****



 お空の二人が移動する、ちょっと前。


 宿屋に教えてもらった、岩場の川へ向かった親方とドルドレン。龍で向かって、あっという間に到着。


 地霊のために、一度龍を帰すと、親方は『ショショウィだな』何より先に、まずショショウィ・・・と、語呂の良い呟きを笑顔で言いながら、地面に座って、指輪を擦る。ドルドレンも横に座って待つ。


 しゅ~っと出てきた煙と一緒に、白いネコ。傷心のドルドレン、白いネコに癒される。


「抱っこする。抱っこさせてくれ」


「仕方ないな。今日だけだぞ(?)」


 呼ばれて出てきて、きょろきょろしているショショウィを、ドルドレンはそーっと抱き寄せて、膝の上に乗せる。


「俺より先に、抱っこか。本当はダメだからな」


「今日は仕方ないと思ってくれ。可愛いなぁ。可愛いのだ。お前に癒されるよ」


 でも、ビルガメ・ヘアのある首元は寄せられない。しきりに、ナデナデを繰り返すドルドレンに、ショショウィは大人しくボケーッとしてくれていた。


 そんな総長に苦笑いしながら、親方はショショウィの寄せてくれた長い尾を腕に絡ませつつ、5mほど先に流れる川を見る。


「あれじゃ。水量も(まば)らになるか」


 親方の呟きに、ドルドレンもそちらに顔を向ける。

 川は浅く、幅があるものの。上から崩れた落石で、川の部分は殆ど潰されていた。本来、流れているはずの水は、脇へ溢れたか。染みこんでしまったり、干上がっている様子。


「一度、溢れて。その後、雨が来ていないのだろうか」


「どうかな。川を作るはずの()()壊れているからじゃないか?水が散っている」


 親方はドルドレンに、後ろを見るようにと指差す。示された方を見ると、岩壁を伝う水も、斜めに好き放題で流れ落ち、その続きは川のあった場所ではない、横の森の中らしかった。


「上も戻さないとダメなのだ。でもそんなことしていたら、町は」


 総長が困ったように、そう言うと。突然。親方とショショウィがさっと上を見た。



「来る。来るぞ、ショショウィ、今日は帰れ!」


『龍、来る。怖い』


『早く、早く戻れ!また明日な』


 何が何だか分からないドルドレン。いきなり消えた地霊と、慌てる顔の親方に『どうした。何だ』と驚くと、親方はさっと空を見た。


「龍だ、イーアンだ」

お読み頂き有難うございます!

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