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魔物資源活用機構  作者: Ichen
交わる世界の片鱗
1007/2954

1007. 旅の四十三日目 ~恋未満で愛情あり

 

「イーアン。今日はこのまま、お昼まで戻らないのかしら」


 もう食べ終わっちゃうわねぇと、ミレイオは鍋を火から下ろす。

『イーアンの分、また皿に取っておくか』熱いうちが良いのに・・・ぼそぼそと、料理の状態を寂しそうに呟くミレイオに、側に来たバイラが微笑む。



「ミレイオの料理は、どんな温度でも美味しいですよ。鍋にこびり付いた残りだって、美味しいんだから」


「あら。嬉しいこと言ってくれるわねぇ。でも、こびり付いたのなんて食べさせたくないわ」


 アハハと笑うミレイオに、バイラは『私は食べたいです』と笑顔で伝える。笑った顔のままで、ミレイオがバイラの腕をぽんと叩き『有難う』とお礼を言う。


「イーアンも総長も作ってくれますが。ミレイオはいつもです。こんなに連続で、朝昼晩と、誰かの料理を連続で食べさせてもらうことは、初めてなんですよ。

 だから本当に、何て言うか。毎回感謝するし、いつも美味しいし、ミレイオが愛情を持って、作る料理だから本当に何でも良いっていうか」


 バイラの屈託ない、素朴な評価。ミレイオは、素朴な誉め言葉に、年甲斐もなく照れる。少々、固まり。


「片付けるのは手伝わせて下さい。邪魔かと思って、手は出さないでいたんですけれど。やっぱりお礼もしたいし、片付けだけでも」


「あ、ああ。あのね、いいのよ、別に。大したことじゃないし」


「ミレイオの料理・・・テイワグナからいつか、皆が移動したら。そんなことを思います。食べれなくなるんだなと思うと、ちょっと今から寂しくて」


「何よ、いきなり。バカねぇ!まだまだテイワグナ、魔物だらけじゃないのよ。来たばっかりで、寂しくならないで」


 困って笑うミレイオは『困って笑っている』はずなんだけど。恥ずかしくて、取り繕うのに焦り、つい言い過ぎる。

 バカと言われて、情けなさそうに頭を掻くバイラは、苦笑いで頷き『そうですね。まだ』と呟くと黙ってしまった。


「ごめ。ごめん、言い過ぎちゃった。バカとか言っちゃって。そのね、違うの、タンクラッドにいつも『バカ』って、私言ってるから、つい(※親方引き合い)」


 悲しげなバイラに慌てて、ミレイオは急いで言い訳する(※あっちで親方が怒ってるけど、無視)。


「いいえ。俺も・・・あ、違った。私も、その。昨日、ちょっと久しぶりに酒なんか飲んだから。ダメだな、こりゃ。すみません、変なことを言いました」


 片付け物をそっと引き取る、ミレイオの心配そうな顔にちょこっと笑いかけて、バイラは『昼の片付けは、手伝います』そう言うと、何かすまなそうにその場を離れた。


 自分の馬の方へ歩くバイラの背中を見つめ、ミレイオは暫し、不思議な感覚を感じていた。


 歩き去るバイラも、首を少し回して、歩きながら独り言を漏らす。


「ふーむ。料理を誉めて・・・の、つもりが。どうしてか、あしらわれてしまったな。

 ミレイオは誰にでも優しいから、あまり困っているところを、見たくないんだけどなぁ。料理を誉めたら、少しは気も紛れるかと思いきや」


 俺は言葉が上手くないしな、とやり切れなさそうに、ぼやくバイラ。途切れがちの思いを、口にしていることにも気がつかず、バイラは馬の準備に入った。



 そんな二人の会話を・・・こそっと近くで、聞き耳立てていた総長(※意外にこういうの好き)。

 うーんと唸って、真剣な表情で『もしや』これは出会いなんでないの?と呟く(※超小声)。


 出発準備を続ける間、ドルドレンはいろいろと妄想する。


「これは、イーアンにも言わなければ(※別に言わなくても良い)。きっとバイラは、ミレイオが好きなのだ。

 ホントは、普通に女性が好きなんだと思うが・・・ミレイオの刺青にも全然引かないし、むしろカッチョ良いくらいの誉め方をしていた。

 料理で胃袋捕まれるのは、古今東西、何気にバカに出来ない要素である(※かく言う自分も、その口)。

 今の時点で、バイラは男のミレイオに、恋愛感情なんて持っているとは、さすがに自覚していないだろうが(※ドルの希望)ありゃ、きっと好きになっちゃう系統だぞ」


 独り言は、控え目なドルドレン(※イーアンの独り言は会話レベルの音量)。ぶつぶつ言いながら、馬の世話をして、ぶつぶつ言いながら、御者台に乗る。


「もし。そんな兆しが出てきたら。応援せねばなるまい。総長だし(?)」


 うん、と青空に頷く総長は、奥さんが戻ってきたら、すぐに教えてあげようと決める。


『イーアンも、男同士がくっ付くのは好きなのだ・・・何でだろう?』趣向として知ってるけど、いつからそんなになったのかな?と、今更疑問に思ってしまった。



 こんなタイミングで、お空は光る。猛烈に光る。『うおっ、眩しい!!いつもの男龍以上に眩しいっ』何これ~! 御者台で目一杯、光を直視してしまったドルドレンは、ビックリして頭を抱える。


「何?誰?イーアンじゃないでしょ」


「何だ、これは。おい、ドルドレン!大丈夫か」


「総長!眩し過ぎて・・・目がやられました」


 後ろでミレイオたちも驚いて騒いでいる。『男龍と一緒だと思うけれど』と、目を開けることも出来ずに返事だけ返す、総長。

『誰だかは』言い掛けてすぐ、すぐ上から『ドルドレ~ン・・・』間延びした愛妻の声が降り注ぐ。


「イーアン!イーアン、誰かと一緒か?」


「はい。タムズ」


「タムズ?」


 こんな眩しくなかっただろうと、目をぎゅ―っと瞑りながら、ドルドレンがぼやく。上で『タムズ、光を抑えて下さい』『光。そう、少し眩しいか』のやり取りが飛び交い、すぐに明度は下がる。


「うう。聖なる光は武器のようである。あ、まだ見えない」


「ただいま戻り・・・って。んまー。眩し過ぎましたか」


「んまー、で、毎回済まないんだよ。見えないほどの眩しさは」


 あらあら、と慌てるイーアンは、伴侶の側に来て、目を閉じてる顔にナデナデすると、後ろも覗いて『んまー』を連発。『ミレイオも直視しましたか。あらやだ、シャンガマックも』ちょっと光が強いですねぇと暢気な声が響く。


「イーアン。服はあるかね」


「ああ。そうでした。少々お待ち下さい。お持ちしますよ」


 まだ見えないけれど、タムズの声がすぐ近くで聞こえ、ドルドレンは両目を閉じたまま『タムズ。服、ということは少し一緒に?』どこにいるか分からない男龍に訊ねると、すぐに頬に温かな手が添えられた。


「すまないね。目が痛いか。そう、少しの間。一緒に過ごそうかなと思って来たんだ」


「大歓迎なのだ。目は痛いわけではない。ただ、ちょっといつもより、眩しくて」


 答えるドルドレンの両瞼に、タムズは顔を寄せてふっと息を吹きかけた。


 タムズの息で、興奮で倒れそうなドルドレンは、ぐっと胸を鷲掴みにしてどうにか耐える。『目は。どう?』タムズの笑う声で、ハッとして。そっと瞼を開けると、もう何ともなかった。


「他の者はどうだろう。ちょっと見てこよう」


「えっ!皆は別に大丈夫だ(※『ふー』は自分だけが良い)!」


 そうもいかないよ、と微笑み、タムズは馬車の後ろへ回ってしまう。うぐぅ、と唸るドルドレンをよそに。

 次々に後ろの方で、きゃあきゃあ声が響き(※喜ぶ人続出)タムズは、眩しくし過ぎた責任をちゃんと取った後、前に戻って来て、イーアンが渡してくれた服を身に着ける。

 彼の着替えをじっと見ていて、ふとドルドレンは気がつく。


「タムズ。何だか・・・体色が変わったような」


「ふむ。そうか。そうかもね。イーアン、どう?」


「少しそう見えます。私の体が混ざったからかしら?」


「な!なん、何て?!」


 ドルドレンは聞き捨てならない、愛妻(※未婚)の言葉に、ぎょっとして振り向く。イーアンは、ぴたっと止まって『ああ』と普通に返そうとしたところで、タムズに遮られた。


「嬉しいね。見て分かるほどに、君の体が私に入ったか」


「ええええええええっっ??!!(※裏声)」


「イーアンの体にも。私の体が混じったんじゃないか?肌の輝きが」


「あら。本当に?自分では分かりませんねぇ。でも、輝く肌って素敵ですね」


 アハハと笑う愛妻に、タムズも軽快に笑う。『重なった時間が長かった』それかもねと、タムズが微笑む。イーアンが答えようとする間もなく、さすがに血相を変えたドルドレンが間に割り込んだ。


「せ、説明。説明、しなさいっ」


 幾らタムズでも、俺は許せないよ・・・息荒くして震えるドルドレンに、ビックリするイーアン。目が血走っている伴侶に、ははぁ~と、見当を付け『ご想像が逞しいかもしれません』と先に伝える。


 あのね、と説明を始めるイーアンは、お空で話していた時に、この前のビルガメスに起こった変化が、タムズにも起こったと教える。


「でもですね。その時の光は、非常に驚きます。爆発みたいなのです。

 それで、ビルガメスの時もそうでしたが、何か分からない光に、タムズも急いで、私を抱え込んで守って下さいました。

 それが理由かどうか知りませんが、光が引いた後、男龍の体に私の体が・・・って、龍のですよ。()()()()()()()私の体の要素が、移るみたいなのです」


「む。そう。そうだったのか。ビルガメスの要素は?イーアンにも移ったの?タムズの肌の輝きがどうこうって」


「どうだろうね。彼女にビルガメスの影響は、私には見えないけれど」


 タムズが覗き込んで、イーアンの顔や髪や肌を見つめ、首を傾げる。『私の肌に近い色は少し、入った気がする』と、不安そうなドルドレンに微笑む男龍。


「私の体の色は、少し白銀に光るように変わったね。イーアンの龍の色と、私の元の色が混ざり合って」


 ドルドレンはようやく理解したが。何とも心臓に悪い会話に、どっと疲れた。



 ともあれ。イーアンは誤解を解いた後に、ミレイオに呼ばれて朝食を食べるからと、荷台で食事。馬車は動き出し、異様に疲れたドルドレンは、タムズに寄りかからせてもらって、手綱取り。


「連日でタムズに会えて、幸せなのだが。俺は・・・イーアンがよく、俺以上に、男龍に愛情を注がないでいてくれるものだと、毎度思う」


「それはどういう意味?私は喜びたいけれど。ある意味、切ないね?」


 そういう意味、とドルドレンはタムズを見て頷く。笑うタムズは、ドルドレンの顔を見て微笑む。


「君から見たら。私はイーアンの愛情の対象なんだね。君よりも、と」


「俺だけじゃないのだ。きっと人間である以上、どんなに優れた男でも、男龍に敵う気がしない。当然のことを言って申し訳ない。だがイーアンが奥さんだから、こんなことも思う」


「ドルドレン」


 タムズは白髪交じりの黒髪を撫でて、寂しげな騎士に諭す。


「正に今日。私は彼女に愛の話をしていた。恋や、愛について。だけど、彼女の愛は、私たちの子供に大きく開放され、イヌァエル・テレンを守る愛だ。安心しなさい」


 灰色の瞳は、自分を優しく諭す男龍を見上げ、もしかして・・・タムズも、ビルガメスみたいに、彼女と一緒に空で生きたいのかなと思った。


 普通の人間の女性ではない、イーアンを。人間の自分が妻にしたことを、ドルドレンは改めて感じる。彼らの希望を奪ったような感覚も、一瞬、後ろめたく脳裏を掠める。



 でも。イーアンは――


 俺は、彼女が龍になる前から好きだったんだもの、と思う。普通の、笑っているイーアンで良いのだ。

 今はエライことになっているけれど、そんなになる前から好きだったんだから、と思える。


 ドルドレンの胸中を汲んだように、タムズは彼の顔に指をなぞらせて、自分を見上げた騎士にニッコリ笑った。


「いつか。君も。イヌァエル・テレンで暮らせたらね。()()()と、()()()()()()()()()()()は、一緒に過ごせる」


 優しい提案に、うん、と頷くドルドレン。そうなったら、それでも良い(※男龍、好きだし)。


「ところでね。昨日はお祝いだったかな。そうかね」


「そうなのだ。昨日、皆が祝ってくれて。タムズも来てくれた・・・あ。もしかして、それで」


 フフッと笑う男龍に、ドルドレンは嬉しい。大きな体に腕を回して抱き締めると『タムズ。有難う』とお礼を伝えた。片腕で抱き返すタムズも『大切なことだよ』と囁いた。



 荷台では、ミレイオがそわそわ。『タムズ、いるのに』ドルドレンがべったりだから、側に行けないわと、残念そうに言うので、イーアンは『行っても平気だと思う』と促したが、ミレイオは結局行かなかった(※遠慮)。



 前後の馬車の間に馬を進めるバイラは(←こっちも遠慮して後ろにいる)そんな会話を聞きながら、男龍のタムズに溜め息を付いた。


「タムズか・・・この前に来た、薄緑色の男龍もそうだったが。何回見ても、彼らは凄い体付きだ。顔も格好良いし、迫力が桁違い。見るからに龍の人。さすがに、彼らが相手では」


 そこまで呟いて、ふうっと息を吐く。ちらっとミレイオを見て『男龍が好きなのかな』と思う。ぼんやりそんなことを思いながら、ハッとして『俺は何を考えているんだ』と慌てた。


「おかしいぞ。何だか。酒、飲み過ぎてはいないはずだが。滅多に飲まないからかな」


 頭に手を置いて、自分の感覚を疑うバイラ。でも視線は知らぬうちに、ミレイオに動く(※あらーんっ、て感じ)。


 荷台にいるミレイオは、イーアンに食事をさせて、笑って話し、食べ終わったイーアンの顔に手を添えて、口を布巾で拭いてやっている(※イーアン44才だけど)。


「イーアンとも、本当に仲が良い。彼女が大事なんだと分かる。兄と言うよりは、姉のように振舞って。イーアンも普通に受け入れているから、姉妹みたいに感じる。

 何があっても、二人は離れないんだろうな・・・ってことは。旅が終わって、ハイザンジェルに戻ったら。そうか、あの人たちは全員、ハイザンジェルに帰るから」


 俺はテイワグナだけなんだよな・・・また、そんなことを思う。


「もし。動いても良いなら。俺も彼らが帰る頃。連絡をもらえれば、ハイザンジェルに・・・・・

 ザッカリアが、騎士修道会に入れば良いと最初に言ってくれていたが。あれ、本当になるのかな」


 もし、そうなれば。『ミレイオにも会いに行きやすいか』離れた場所で、度々元気な顔を見れるだけでも違う―― と、ここでまた意識は戻る。



 自分で自分の思いに驚いて、バイラはぶんぶん頭を振る。『おかしい!絶対に、俺はおかしい!』何だ、これは!と、馬上で苦しむ警護団員に。


 斜め後ろから、ずーっとその様子を見ていたシャンガマックは、眉を寄せて心配の眼差しを送っていた(※さっきから、情緒不安定のバイラに心配)。

お読み頂き有難うございます。

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