1006. タムズ・明け方の雲海で
翌朝。ドルドレンには話しておいたので、イーアンは身支度を整えて、夜明け前に出発。
眠る伴侶にちょっと、ちゅーして『早めに戻りますからね』と囁いてから、いつも通り、青い布とクロークを羽織ってお空へ飛ぶ。
「一人でもこなせるようになりました。やれば出来る」
良かった、頑張って~・・・一人、自分を誉めながら、単独でもどうにか、イヌァエル・テレンへ行けるようになった最近に感謝。
『疲れますけれどね』でもだいじょぶよ・・・うんうん頷き、努力を褒め称える飛翔時間。
と思ったら。
イヌァエル・テレン近くで白い光が現れた。それが誰かは分かるイーアンが、少し速度を緩めると、近づく白い光は、さっとイーアンを包み込んだ。
大きな腕に抱えられたイーアン。銀の広い翼が、イーアンの白い翼を覆う。『タムズ』見上げた男龍に名前を呼ぶと、彼は微笑む。
「一人で来れるとは知っているけれど。龍気を使うだろうから」
「イヌァエル・テレンじゃないのに、気がついて下さいましたか」
「分かるよ。君の龍気は強いから」
ハハハと笑って、タムズはイーアンを抱えた腕をそのまま、速度をうんと上げて、一気にイヌァエル・テレンの空を翔け抜けた。
夜明け直前。素晴らしい明け方の、絶妙で繊細な光の始まりの風景を、男龍に抱えられた女龍は、感嘆の吐息をついて見渡す。
「何て美しい。度々、ここの夜明けを見ましたが。いつでも」
「そうだね。どれほど年月を越えても。このイヌァエル・テレンに勝る夜明けを、私は知らない。ここが一番、美しいと思う」
もう少しだよ、と微笑むタムズは、朝の太陽の一閃を受けて、赤銅色に銀色がかる肌を煌かせる。
「あなたも。大変に美しいです」
ビルガメスに初めて抱えてもらった時も、間近に見た、男龍の不思議な皮膚の色に感動したイーアンは、タムズの肌の色も心底、綺麗だと思う。それをちゃんと伝えると、タムズは柔らかい微笑を向けて『君に誉められるとはね』と囁いた。
「ドルドレンはいつでも、私を好きだと言ってくれる。君には言われないけれど」
「タムズは。人間の好きだ何だと、少し違うでしょう。感覚が違うと思います」
「そう?私はこれでも、君たちに近いと思っているよ。ルガルバンダが一番近そうだけどね」
それはそうだ、と笑う二人。『着いたよ。降りるからね』タムズは笑いながら、イーアンを片腕に抱えて下降。下方に見えた場所は、大きな石が大地に置かれたような所だった。
その大きな石の上に降りたタムズは、イーアンを腕から下ろすと『ほら』と微笑んで前を見る。イーアンも彼の顔の向いた方を見て、息を呑む。
雲海が広がり、その上に生まれ立ての太陽がある。
雲海は白く、淡い淡い、水色だったり、ピンク色だったり。それを、金色の淡い光の中に埋め込んで、柔らかな動きを漣のように繰り返す、たゆたう朝の穏やかさを見せる。
輝く空に、雲海より上に浮ぶ雲がない。その圧倒的な美しさに、イーアンは手を合わせて拝んだ(※習慣)。そんなイーアンを見て『それは?』と可笑しそうに訊ねる男龍。
「あんまり綺麗ですもので。神様に感謝しました」
「そうだね。でも、どうだろう。私には?」
タムズは、自分が連れて来た(※自分には何でないのか?を、疑問に思う男龍たち)のだよ、とやんわり教える。イーアンは大きく頷く。
「そうでした。そうです、タムズのお陰。有難うございます。あなたに感謝します」
「こっちへ来てくれ。そう。こっち」
タムズは、感謝するイーアンの腕を掴むと、ゆっくり引いて自分に寄せる。それから顔を覗きこむと『ファドゥみたいに』と額を指差した。
それを見たイーアン。唸る。ぬぅ・・・ファドゥの『ママ・ちゅー』を求めるのか。
イーアンは目が据わる。タムズの、『何でも真似したい』この気質。どうにかならんのか、と毎度思うが。いい加減、はぐらかせる時は頑張って交わすのだが、この場面は難しそう。
ファドゥは『ママ(※ズィーリー)』恋しさで習慣化した、ちゅーである。タムズは、その口から『母に会いたい』の一声を聞いたことがない(※薄い)。なのに、ママ・ちゅーをねだるとは。
気分的にはかなり微妙だが、相手がタムズだと、きっと話したとしても伴侶も『俺もしたい』で、済む範囲(※伴侶の恋慕相手だから)かなとも思い、小さな溜め息をついてから、『はい』と答えてイーアンはタムズの額にちゅーってしてあげた(※ママちゅー使用範囲:例外)。
目を閉じて、その額に伝わる感覚を味わうタムズ。
そっと目を開け、口付けの離れたイーアンを見ると『角があるからか。あまりよく分からない』と一言感想をくれた(※鈍いと判明)。
「そんなものですよ」
苦笑いするイーアンは、タムズの立派な、額に反り返る2本の角を見て、『その角の生え際に、及ぶはずがない』とちょびっとお世辞入りで伝えておく。
嬉しそうなタムズは頷く。『そうかもね。角があると、その近くは守られるから』との豆知識(※誰も教えてくれたことない)を教えてくれた。
「ここへお座り」
タムズは自分が先に石の上に座り、真横に手を置く。イーアンも大人しく従い(※駄々捏ねると長引く)横に座る。
真ん前に朝焼けの雲海を見つめ、二人は少しの間、黙っていたが、タムズがそっと話を始めた。
「イーアンに。龍王のこと・・・うん、そのことをね。話したかった」
何も答えず、イーアンは雲海を見つめたまま、首だけ縦に振って頷く。タムズもそれを見ないで、動きだけを目端に捉えて続ける。
「ビルガメスに聞いただろう。もし、あの時、私が相手なら、私もそれと同じことを言ったと思う。
でもビルガメスがイーアンに話した。君は、ビルガメスを諭したが、彼に新たな変化が生まれたのは」
タムズの目が向いたので、イーアンは気配で彼を見て首を小さく振った。『特に意識していませんでした』だから分からないと伝える。タムズは『うん』と頷いて、少し考えてから話を繋ぐ。
「変化が欲しくて、君を呼んだのか。そう質問されたら、私は分からない。両方の答えが同じくらいの重さであるからだ。
変化。それは欲しいだろう。だが、それが目的と言われたら、私は『違う』と答える」
「タムズ。あなたはね。私を好きだと仰るけれど。ルガルバンダや、ファドゥ、ビルガメスのように、分かりやすい『好き』ではないような。それはずっと、そう思っていました」
イーアンはこの際だから、感じていたことは話しておこうと思う。
伴侶に影響が行かないことを祈るが、女龍は利用の範囲にあることも感じる現時点で、男龍に伝えられることは伝える、その義務がある。それは、自分自身のためでもあり、また彼らと一緒に動く位置にいるという、暗喩からでもあった。
タムズは黙ってイーアンを見つめ、彼女が次に何を言おうとしているのかを待つ。
「タムズは、親切で思い遣り深く、人間を理解しようとして下さいますが。
あなたの口にする『好き』は、人間に感覚の遠いビルガメスたちよりも、遠くから聞こえるのです」
「それは。私が嘘を」
「いいえ。嘘ではないです。あなたは誠実。でもね、タムズ。あなたの『好き』は、私の性質や、与えられた能力に向けられたような。そうかな、と思っています」
「違うのに」
タムズは静かに言い返すと、心外かのように眉を寄せ、イーアンから目を逸らして雲海を見た。
見上げて見つめるイーアンは、いつかは言いたかったことを伝えて、この後どうなるのかと心配はした。でも本音なのだ。
「イーアンに、そんなふうに思われていたなんて」
「私も嘘は言えません。そう感じていたのは、少し前から。あなたはいつも」
「じゃあ。どうすれば良かった。君を攫うルガルバンダ、押し付けてでも母親の肩代わりを求めるファドゥ、強引に抱え込むビルガメスのように振舞えば、君は私を遠く思わなかった?」
イーアンは、急に切り返すタムズの訴えに驚く。タムズはいきなり顔を向け、見上げる女龍の背中に手を置いて、少し怒ったように早口でまくし立てた。その態度の急変に、イーアンは驚き、自分の言葉が彼を傷つけたことを感じ、すまなく思い俯く。
タムズは、イーアンの背中に添えた手を腕に移す。それから真剣な目で『どうして?君たちの側に何時間もいた。距離を縮めたいと思い、理解もしようとした。それでもそう思うのは、私がそれほど、策略的に映ったか』と問い詰めた。
「確かにね。龍王のことを考え始めてからは、君に悟られないようにしたいと思った。君たちの言う触れ合いが、理解に通じない行動にも思えた。だが、私は私なりに、受け入れて、自分にも使える形としたかったのだ。それは認めない?」
タムズの言葉は、イーアンの胸に刺さる。彼は、そんなふうに思っていたのかと思うと、なまじ自分の意見を先に出したことに、早まったと感じる。
気まずくなったイーアンは、自分を睨むように、眼差しを向ける男龍に向き合い、失礼を詫びなければいけないと、口を開きかけた。
「どうしたら。『君が好き』と伝わった?」
イーアンが何かを言う前に、怒ったタムズから、直接的な質問が飛んだ。
「最初にも言ったはずだ。君に恋をしたって。覚えていないかも知れないけれど」
「タムズ。恋って。男龍のそれは違うもので」
「どうして『私の気持ちが違う』と言えるんだ。恋は人だけのものか?ルガルバンダは?彼はズィーリーに恋をした。ずっとだよ。最近は君にも。
ビルガメスはどうなんだ。彼だって君が大好きだ。彼の長い長い命の中で、君のように、彼の心を揺さぶった相手はいなかっただろう。それは恋じゃない?
恋は、人間だけのもので、龍族にはないと言い切るのか」
タムズの剣幕にも似た言い方が、いつも穏やかな彼には想像もつかない表情を伴い、イーアンは自分が何か一言を言う度に、彼を傷つけている気がした。
怒っているタムズは、口調こそ荒げはしないが、顔がとても怖い。許してもらえるような雰囲気もなく、全てが言い訳になりそうで、イーアンは急いで返事を考える。
こんなに怒らせて、悪いことをしたと思うが。自分の、タムズへの、また龍族に対しても、認識が大きくズレていたことを、今、悔やんでも遅かった。
必死になって、タムズと和解をしようと、言葉を考えるイーアンの沈黙。
タムズは首を大きく振って、イーアンの体を抱き上げると、座った胡坐の上に抱え込む。彼女の驚いて見上げる顔を見下ろして『ちゃんと。知ってくれないと困る』と伝えた。
「私は自分を出さない。それは自覚がある。だけど、それは悪い性質じゃないはずだ。
時々、自分でも自分を探す必要があるくらい、自分の率直な気持ちを静めているけれど、うっかりと迷惑をかけることはない」
イーアンは、うん、と頷く。思ったことが口に出ているタムズ・・・の、印象はあるけれど、思ったことが一々、正直な彼の心境かというと、また違う気もしていた。
言えることを自然に選んで、無害なことを口にしているのかもしれないのだ。だから、読みにくい相手でもあった。分かりやすいと思うこともあれば・・・何を考えているのか、探りたくなるような時も。
タムズは、金色の瞳に朝の光を映し、輝く目に苛立ちを含んで、女龍から目を逸らさないまま続ける。
「私の気持ちは、分かり難いだろうけれど。君たちの言う恋と違っても、それと同じ種類の感情はあるよ。
イーアンがどう思っているのか分からないが、君の力強さ、その目の奥に宿る、裏切りのない色は、私の気持ちを掴んだ。
君が『イヌァエル・テレンを助けるために戦う』と言ったことを、ビルガメスに聞いた後。君の目を見て、私はとても好きになったんだよ。
龍王のことだって。伝説の話にしても、力量の無限を見たい思いと、君を越えるほどの力を得てしても、君と共に空を統べると、想像したからで。
力や能力だけを望んだ相手と、いつまでも一緒に居られるとは、私は思わないけど。イーアンはそれでも、私の気持ちが『恋とは違う』と言うのか」
「タムズ。怒らせてしまって、悪いことをしたと思います」
真剣に訴えるタムズに、イーアンは謝る。タムズの言う『恋』は、確かに恋なんだろうと思う。ただ単に、何かが人間の価値観と異なっていて、遠い感じが否めないだけで。
そう感じるのが、自分だけなのかどうか。
イーアンは、そこもよく分からないままだったが。とにかく、彼の気持ちを傷つけたことに、反省した。
そして、自分のことも。この際だから、タムズに話しておこうと決めた。
「私は。龍王の話を聞いた時。はっきり言えば、利用されていると思ったのです。
これについては、怒らないで下さい。私が、あなたの恋や、他の男龍の恋の気持ちを、蔑ろにしていると・・・そう、思うでしょうけれど。
私も、人間の状態から女龍に変わり、その続きで、自分の力の変化を見つめ、あなた方の目に、自分がどう映っているのかを考えた時。何か変だと、思わずにいられた方は」
「ファドゥか。ニヌルタも」
「そうです。ニヌルタのことは、あまり気にしていませんでしたが、ファドゥは常に、最初と同じ態度で、私に接しました。彼が『龍の子』だった時から同じ、あのままで。
でも他の方は。ある一時期から・・・・少し、動きが変わった気がしました」
「その前は?」
タムズは、龍王の話を出す前の、自分たちに感じていた彼女の気持ちを訊ねた。イーアンは小さな溜め息をつく。
「今思えばですが。皆さんに共通していたかは分からないにしても、どなたも龍王を意識されていたのでは、と思います。卵を孵す話を思い起こせば、最初から」
「そうかも知れない。ここで打ち明けるのは違う気もするが。
君の猛々しい龍気を知った、最初の日。ルガルバンダが君を攫い、イヌァエル・テレンで二度目の、龍への変化をした君を見て。私たちの全員に、恐らく『龍王』の言葉が浮んだだろう」
ずっとじゃないし、ファドゥは違うにしてもね・・・と、タムズは呟く。
もうその顔は怒っておらず、イーアンは何度か頷きを繰り返し、『そうだと思う』言いにくいけれど、素直な気持ちを伝えた。
「いつから。皆さんがそう感じ、そう思い、それを行動に移していたのか。
私は気がつくはずもないですが、人間の感覚が長い自分と、皆さん男龍の感覚が、異なることを差し引いても、迎えられていることに、どうしても素直に喜べませんでした。
顕著に感じるようになったのが、最近です。卵を突然、たくさん孵すとか。生まれやすい・男龍に変化しやすいと、それは大切です。
ただ、皆さんに良くされる理由、一緒に居ようと動かれるその理由が、それだけではないような気がして。それが龍王の」
「私たちも。イーアンと距離が。イーアンの中でも、私たちに距離があった。そういうことだね」
下を向いて話すイーアンの声に、静かに耳を済ませてくれていたタムズは、イーアンの俯く顔をちょっと持ち上げて、上を向かせて頷く。イーアンも頷き返した。
タムズとイーアンはお互いの目を見つめる。金色の瞳の透ける向こうは、遥かな年月を越えた時間。鳶色の瞳の透ける奥には、短い人生の時間が、互いに通う。
朝焼けは次第に、明るさを増し、すべてを穏やかな金色の世界に染める。音もなく吹く柔らかい風は、地上の熱気など関係なく涼しくて、イーアンは心地良さと澄んだ空気に、暫し、この会話の重さを忘れる。
「あのね。ビルガメスが君と、龍王の話をしただろう?
彼に変化が起こった、あの日の夜。中間の地から戻ったビルガメスが、私たち男龍を前に、伝えたことを教える」
タムズは静かにそう言うと、じっと見ている鳶色の瞳に、丁寧に、伝わりやすい言葉を選んで話した。
「彼は。『龍王一歩手前まで、男龍全員が近づこう』と言った。君がそれを望んだからだ、と。
イーアンが、イーアンよりも強い存在を望まないなら、ビルガメスは『それに従う』と言ったんだ。その代わり、イーアンが願う空を見つめ、共に愛し、全員で彼女の力を受け取ろうと・・・ね」
イーアンは、少し眉を寄せた。そこまで言っていない・・・・・
自分より強い存在を望まない、なんて。思いはしたけど、ビルガメスにそれが理由で『龍王やめて』とは話していない。
そして気がつく。ビルガメスは、私を本当に、愛してくれている。
だから、赤ちゃんたちのことも『皆が同じ方向を見て、守れば良い』と、あの日に自分が話した気持ち、そのまま。『彼女が願う空を、共に愛せ』そう、話に伝えてくれたのだ。
「彼の気持ち。恋でもあるし、愛でも。ある。ビルガメスは本当に、イーアンのために生きている。
彼が龍王を望んだのは、二人の命の時間が延びるからだ。その類稀な存在に生まれ変わるのも、さることながら、それよりもビルガメスは、自分とイーアンが、一緒に生きる時間を延ばしたい、とそれを求めたのだろう。
もう、死を受け入れて待つだけだった、彼が。君が来てから、卵を生んで、皆の卵も君と一緒に孵し、龍王になろうとした。
私も、力試しに龍王を望んだけれど、気持ちは近いよ。君が早く、その命を終えると分かっているから、もっと、一緒に居られたらと・・・そう思うのだよ」
赤銅色の男龍は、腕の内に抱えた小さな女龍を見て。少し微笑んだ。イーアンも笑顔を返し『有難う』とお礼を伝える。タムズは少し、彼女を見てから訊ねた。
「私も。君に近づける?君を守り、君の祝福をたくさんもらった、私たちの子供たちのために。君の命を長く保つ、その手伝いは。私にも出来る?」
タムズの質問に、イーアンは止まる。タムズは躊躇うような表情をしてすぐ、思い切ったように続ける。
「好きな君が。どうにかして、一年でも長く。笑顔で生きていてほしい。そう思うのは」
「それは恋の先の、愛と言うのです」
イーアンは、彼の言葉を笑顔で繋いで、笑い出した。一瞬、言葉を攫われたタムズも、その返しにぽかんとしてすぐ、笑い出す。
笑いながらイーアンを太い腕に少し強く抱き締めると、背を丸めて、白い角の生えた頭に頬ずりするタムズ。『そうだね。そうだと思ったよ』嬉しそうに呟き、イーアンの頬に手を添えて顔を上げさせた。
ニコーッと笑うイーアンに、タムズは笑顔で頷いた。
「ビルガメスがね。君に愛されているとしたら、自分は子供たちの愛と並んでいるって。私もそうなんだろうね。でも、何故か嬉しいよ」
ハハハと笑うイーアン。一緒に笑うタムズ。見下ろす彼の顔に、イーアンは片手を伸ばし、赤銅色の頬に添えた。優しい笑顔で見ている男龍に言う。
「一緒に。私と一緒に、龍王一歩手前まで進みましょう。長生きしようとは思っていないけれど、あなたの注ぐ深い愛情に応えられるよう、私も空を守るため、努力します」
「イーアン。君を愛しているよ。ドルドレンと同じように。君も、君の愛も大事にするよ」
自分の本音を言わない、タムズが。心の真ん中から湧き上がる喜びを、その表情に出した時、とても綺麗な笑顔をイーアンは見る。
彼の心からの微笑みに『私も愛していますよ』笑顔で告げたその時。
爆発するような広大な白い光が、二人を包んだ――
お読み頂き有難うございます。




