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2月1日
上司の名は岡村といい、すらっとした長身に豆のような細長い顔をした男で、寡黙で神経質な男だった。
顔立ちもよく、同僚の女からデートに誘われているのをしばしば見かけた。
岡村はマネキンのような無表情のまま、野中に首を言い渡した。
「明日からもう、来なくていいよ。」
その言葉を聞き、野中は崖から突き落とされたような感覚に襲われた。
目の前が真白になり、どっと汗が吹き出す。
周り視線が矢のようにして野中に突き刺さり、生きた心地がしなかった。
野中は十年間の業務に終止符を打った。送別会や別れの品はもちろん、別れの言葉もないまま、二度と戻る事のない会社を出た。
外に出た瞬間、現実感のないふわふわとしていた感覚が急に輪郭を持ち始め、野中はついにそれが自らが抑え込んでいた感情だと知った。
感情は様々な形へと姿を変えた。
自分への恥や、誰にも慕われていなかったという情けなさ、そして最後には一つの感情へと帰結した。
怒り、である。