勇者が唯一頭が上がらないのは妻である
私は勇者である。
現在ダメージ床に正座して一時間。
何で家の近くにこんなもんがあるのか分からないが、目の前の檻の先に立って魔王以上のプレッシャーを与えてくる鬼に身動きがとれない。
元々妻とは職場恋愛で結婚した。戦うことしか能のない私に武闘家の彼女は私の面倒を見てくれた。魔王討伐後に彼女のプロポーズを受け、国全体の祝福を受け結婚した。
その為、妻には強く言えない。
いくらリジェネ付きの鎧があっても痛みは消せない、拷問じゃなかろうかと口に開きかけて……止めた。
冷や汗が床に垂れてバチバチいってる、無言のプレッシャーに下を向いて事の始まりを思い出す。
そう、あれは数日前……
日課の転移で国の見回りを終えて家に帰ると妻がいない。
リビングには書き置きが残されていた。
『学校が夏休みの娘と私の両親で実家近くに出来たダンジョンに数日行ってきます。テーブルにある物を食べてね。妻より』
因みに娘は親バカに聞こえるが結構強い、いつか私を越える彼氏を連れてくるのだろうか。しょんぼり。
まだ十歳なんだけどお父さんは嫌われている。父親が勇者なんてプレッシャーだもんな、娘には強く育って欲しい。
後、汚いとか臭いとか言われる。そうなんだ、父さんは魔物の血に汚れ、血の匂いが染み付いている。しかし、これも皆の為に頑張った結果と理解してくれる日を待っているよ。
しみじみと思いながらテーブルのお皿に盛られている山盛りの薬草と数個のパンを見て薬草特売だったのかな?と考える。
……そうだ!釣りに行こう。暇潰しと食事、一挙両得だ!
盗賊も呼んでみるか……捕まってなければ。
パンと薬草を道具袋へ入れて彼の町まで転移する。飛んでたワイバーンを倒して肉を得たので聖剣でパンの真ん中を開いて薬草と挟む。
何かダメージ入るけど薬草のお陰で直ぐ回復する。ワイルドなお味で。
見つけた盗賊と港町まで転移した。酒好きはちょろいな。
何だか町が騒がしい、船がクラーケンに襲われているだと!
急ぎ海へと行き、海へと聖剣を振り下ろす。
船を襲うクラーケンの触手を切り裂き海を割る斬撃。
魔力を手に込め空を指す、閃光と鳴り響く轟音。
数秒後、町一帯に雨が降り注いだ。
その後、宴会が行われて盗賊と綺麗な人達と飲み明かした。
ゆったりと魚を釣り、楽しいひとときだった、帰るまでは。
そして現状に戻る訳だが、謎の奥様ネットワークでバレてしまった。盗賊はとんずらしており姿が見えない、あのやろう。
今の私はお土産の魚のような目をしているに違いない。
勇者はダンジョン出禁です。昔、娘に良い所見せようと聖剣使ってダンジョン崩壊させた前科有り。