05
黙り込んでいた彼女が、はっと何かを思いついたような表情を浮かべたと思うと、勝ち誇ったような表情を作り、口を開く。
「……ずいぶんと妄想がお得意なのね、探偵さん。貴方の作り話とても面白くて、思わず聞き入ってしまったわ」
そう、ここでどんなに完璧な推理をしたところで、ご都合的に犯人が自供を開始する訳ではない。
私たちは、決定的な証拠や証言が無ければ、目の前の人間が限りなくクロだとしても逮捕することは不可能だ。
「ええ、これは犯行現場の状況を見て、僕が推理した、作り話と言われても仕方ない話です。それに今回の事件は、証拠らしい証拠も出ていない。睡眠薬だって彼が不眠症気味だった為、服用した。と言えばそれまでだ」
やはり、先生もそこの所は理解しているようだ。
だが、なぜだろう?先生に対して、違和感のようなものを感じる。
「あら、もう少し悔しがると思ったのだけど」
そう、先生は悔しがるどころか、自分の推理を作り話とされているのに、どこか満足げな顔をしているのだ。
「正直な意見を申しますと、貴女が逮捕されようがされなかろうが、僕にはどうでも良いことなのです。この事件の推理は完成したので、もう、この事件に興味はありませんし」
先程まで余裕の表情を作っていた彼女も狐につままれたような表情になり、私の隣では先輩が頭を抱えている。
斯く言う私も、開いた口が塞がらない。
「僕は、この事件を自分なりに解決できたのでいいのです、悔しいというよりは、これは、良いネタを頂いたと感謝したいくらいです」
その場にいた全員が腰が砕けたように床にへたり込んでしまった。
「こぉぉおぉぉおぉらぁぁぁああぁあぁぁ!探偵!貴様と言う奴は!」
先輩は取調室へ直通の受話器を手に取ると、鼓膜が破れんばかりの大声で怒鳴る。
よくもあんなに怒鳴れるものだ、私はその怒る気力すらも砕かれているというのに。
「仕方がないじゃないか、彼女を捕まえるだけの証拠を、私たちは見つけられなかった。なぁに、何か見つかった時、また、捕まえれば良いじゃないか」
この対応に、流石の先輩も心が折れたらしい。
そんなやり取りを見て彼女は笑っている。
「一つ、良いかしら?」
先程まで、このやり取りを笑っていた彼女の問いかけに、何でしょうと先生が答える。
「もし、私が、あんたの推理通りに殺人を犯していたなら、動機は嫉妬心なんて、そんな無粋な物じゃ無いわよ」
「それは興味深い、後学のためにお伺いしておきたいものです」
「愛よ。愛した人の一番輝かしい時を、一番綺麗状態で、一番美しく止めてあげる、これこそ至高の愛だと思わない?」