表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/134

78話

 動かせない機体だと考えるから駄目なのだ。

 この機体は、物理攻撃に強い。つまり、滅茶苦茶硬い。

 そして魔法にも強い。こっちはよく分からんがとりあえずなんかすごい。

 そんなパンだ。この機体は、『滅茶苦茶硬くてすごくてでっかいパン』なのである。

 ……そう考えれば、まあ、当然のように、こうなるよな。


 突っ込んできた悪魔のパンレムのタイミングを計りつつ、俺は、俺の機体というかパンの踵部分の下の石畳から、パンを生やしたのである。

 踵を持ち上げられたパン機体は、当然、そのまま前のめりに倒れることになり、ついでに、四方八方から伸びるパンの腕が、俺の機体パンごと、悪魔のパンレムを押し倒したのであった。

「わー……全然、ゴーレムの良さが活かされてないよね、タスク様」

「ゴーレムだろうが何だろうが、パンはパンだからな」

 スーパーパン大戦みたいになるとでも思ったか!なる訳ないだろ!パンはパンだ!俺はどうせこんなこったろうと思ってたぜ!




「お……おのれ……」

 やがて、パンレムから悪魔が這い出してきた。

 が、今回は逃がすわけにはいかない。

「さて、教えてもらおうか」

 俺は悪魔の前に立ちはだかり、問う。

「『神の玉梓』って、何だ?そして、『誰』だ?」

 対する悪魔は、しばらく、口を閉ざしていた。

 しかし、俺が周りの石畳からパン剣山を伸ばして、悪魔をつつき始めると、ようやく喋ってくれたのである。

「か、神の玉梓は、魔王様を滅ぼす使命を神より受ける者と言われている!だから我らは魔王様の命で、その小娘を捕らえるべく動いていたのだっ!」


「神の玉梓って、俺じゃないの?」

「お前ではない!そっちの小娘だ!」

「え、何か間違えてなあい?」

「ない!我らに誤りなど無いのだ!」

「間違えてたけど意地張ってるとか」

「そういうんでもない!」

 ……俺は。

 俺は、てっきり、今まで、『神の玉梓』ってのは神の使者、って意味で……即ち、『救世主』である俺の事だとばかり思っていたのだが。

 違った、らしい。




「……つまり、エピが」

「わ、私が……魔王を倒す……?」

 そして、俺達は続いて、悪魔の言葉を吟味することになったのだが。

「ええー……わ、私が?私、があ……?」

「悪いことは言わないからやめとけよ、エピ」

「うん、やめとく」

 まあ、こういう結論になるよな!


「な、な……き、貴様っ、『神の玉梓』っ!本気かっ!?」

「ええー……だって、ねえ……?」

「魔王っつってもなー……」

「エピが、と言われると、何とも微妙なかんじがするな……」

 俺達が歯切れの悪い会話をしていると、悪魔は次第に、愕然としていく。

 そして。

「大体、私、私が『神の玉梓』なんだって、あなたに教えてもらって初めて知ったんだもの」

 エピのこのセリフで、悪魔の心は折れたらしい。

「わ、我々は、我々は……今まで、一体……」

 悪魔はすっかり意気消沈し、とぼとぼ、と歩いて去っていった。なんとなくその背中があまりにも哀愁に溢れていたので、追いかけて殺す気にはなれなかった。多分、殺しても第二第三のパンレムが来るんだろうしなあ……。




 ……さて。

 悲しい悪魔の後姿を見送ったところで、そろそろ野営なり何なりしないといけない。

 そろそろ日も沈むし、そうなったらこの寒空の下で過ごす、ってのは頂けない。

 折角、廃村とはいえ村だった名残があるのだから、それを利用して野営することにした。


「壁をパンで補修しただけだが……案外暖かいものだな」

「パンなめんなよ」

 比較的破損の少なかった家屋を借りて、穴が開いて隙間風が吹きこむような隙間はパンで覆ってしまった。

 更に、1層パンかまくらを追加して、室内で古い暖炉に火を入れれば、かなり快適に眠れそうな環境が整ったのであった。

「おーい、エピ、ホットワインできたぞ」

「……あ、うん」

 が、そんな中、エピは、ぼーっとしているのであった。

 ……考え事をしているのだろう。色々あったし。

「エピ、ホットワイン、飲むか?」

「うん……」

「ホットワイン、やめとくか?」

「うん……」

「ワインにカニパ○入れとこうか?」

「うん……」

 この有様である。お言葉に甘えて、ホットワインにカニ○ンを浸しつつエピに手渡せば、エピは、温かく甘いワインを吸い込んだカ○パンを吸うようにして食べながら、やはり、考えに浸っている。すげえ。ここまで考え事に没頭する人、初めて見た。

「これは、1晩そっとしておいてやった方がいいかもしれないな」

「そうですね」

 こんな状態のエピに、何かするわけにも、何かしてもらう訳にもいかない。

 今後の予定の相談など、したいこともあったが……今日は、そっとしておこう。うん。




 そうして俺達は暖かなパン寝袋の中で眠りに就いたわけだが。

 ……ふと、物音がした気がして、目を覚ました。

 体を動かして見ると、エピが静かに、音を立てないように支度をしている姿が見えた。

 ……少し迷ったが、俺は起きることにした。

「え、あっ、タスク様、ごめん、起こしちゃった?」

「いや、勝手に起きちゃっただけだ、気にするな」

 エピは俺に気付いて申し訳なさそうな顔をしたが、それ以上に、何か……落ち着かなげ、というか、そういった色があった。

「で、どこか行くのか?」

「う、うん。ちょっと……なんとなく、落ち着かなくて」

 自分の故郷かもしれない村の跡地、である。やはり、気になるんだろう。

「つっても、この夜に1人で出ていくのはおススメしないぞ」

「そ、そうよね、ごめんなさい……やっぱり、明日、もう一回」

「だから俺も付き合うから。ちょっと散歩して戻ってこようぜ」

 慌てて鞄を下ろしかけたエピは、きょとん、として目を瞬かせてから……満面の笑みを浮かべた。

「うん、ありがと!タスク様!」

 まあ……ちょっとばかり寒いだろうが。でも、それくらいはどうってこともない。




 暗い中ではあったが、月が出ていたのと、雪明りとで、歩くに困る状態では無かった。手元にランプがあれば尚更である。

「綺麗ね」

 冷え冷えとした空気の中ではあるが、景色が美しいことは確かだった。

 目の前の山に降り積もった雪も、廃村の、壊れた建物を覆い隠さんとする雪も、石畳を覆う雪も、全てが月光に輝いて、ぼんやりと明るい。

 幻想的な風景の中、さくさく、と、雪を踏みしめて歩く。風も無く、音も無い。俺達が雪を踏む音だけが、ぽつぽつ、と宙に浮く。

 アテがあって歩いている訳ではないし、何か見つかる事を期待している訳でもない。むしろ、何も見つからない事を確認しに出てきたようなものだった。

 エピもそれは同じなのだろう。石畳の1つ1つを踏み、壊れた家屋の壁に触れ、空に輝く月を見上げて……しばらく、そうして歩き回って、眺め回って、触れて。見上げて。

「……戻ろっか」

 ぽつ、と呟いたエピは、寂しげではあったが、どこか、さっぱりとした顔をしていた。

「ああ」

 特にそれ以上、何も言わず、俺はエピを連れて、野営場所まで戻る。

 さく、さく、と、雪を踏む音が響く。

 ……エピも俺も、何も喋らない。エピが喋らないなら、俺が無理して喋りかける必要もないだろう。

 多分、この空間には、雪を踏む音以外は要らな

「ねえタスク様、ちょっとそこの石畳」

「えっ?」

 カツ、と、靴が石畳を踏む音がした。

 そして。

 ずぼっ。

「うおわあああああああああ!?」

「たっ!タスク様ーっ!」


「いたい」

「た、タスク様、大丈夫……?」

 なんか、あれだ。きっと、あまりにも空気が重いから、笑いの神様が落とし穴を生成して下さったのだろう。決して合わないセンチメンタルな事なんぞ考えていたから、天罰か何かで落とし穴が生成された訳ではないはずである。そうだ。きっとそうに違いない。




「タスク様ー」

 ぴょこ、とエピが飛び下りて、俺が落ちた穴の中に一緒に落ちてきた。そうそう怪我をする高さではないが、この薄暗さの中、中々の無茶をする。

「大丈夫?お尻打ってない?」

「打ったけど大丈夫だ」

 エピにピンポイントな心配をされつつ、俺は、ふと、足元で光るものを見つけて、拾い上げた。

「……これは石板、か?」

 それは、月明かりに煌めく石の板、であった。


「あ、そういえば落っこちた穴の上にあった石畳だけ、雪が積もって無かったよね」

「あ……あー、言われてみれば」

 雪が積もってたら、カツ、とか音がするわけないんだよな。で、踏んだ瞬間落ちた訳だから、この石板、あれか、回る床みたいな奴だったのか。なんて迷惑な。

「ちょっと見せて」

「ん」

 エピに石板を手渡すと、エピはランプの明かりを石板に近づけて、表面を指でなぞった。

 俺も覗き込むが……謎の模様が彫り込まれていることしか分からなかった。

 が、エピには読めたらしい。

「……『救世主さんへ、地下に死の没薬があります、持っていってね♪』だって。呼ばれてるよ、タスク様」

「えっ嘘だろそんな軽い文体で書いてあるのかよ」

 しかも用意してある物の名前が物騒だ。何だ、『死の』没薬って。死ぬのか。俺は死ぬのか。

「あっ、追伸もある」

 俺が悩んでいると、エピが、続きを読み上げた。

「『追伸、これ読んでるあなたもおいでませ』だって……あれっ?これって……?」

 ……どうやら。

『何も無い確認』なんてもんは、失敗したらしい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ