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71話

「……様?タスク様?」

「へあっ?」

 ふと、音が戻ってくる。

 気づけば、エピが俺の肩を掴んでガクガク揺さぶっていた。やめろやめろ、脳みそが揺れる。

「どうしたの?ぼーっとしてたけど……」

「え?なんか聞こえたもんだから……」

「聞こえた?何がだ?」

 ……どうやら、さっきの声は俺にしか聞こえていなかったらしい。ということは、こいつ、直接脳内に!

「うーん、タスク様、これに触ってたよね?……私もこれに触ったら何か聞こえるかなあ」

 そう言いつつエピは無防備に星へと近づいていき、やはり、ペタリ、と触った。

 ……そして、ぼーっ、としている。

「あー、こいつ、直接エピの脳内に……」

「天啓を得られる、ということ、か……?どれ、エピの次は俺もやってみよう」

 エピがぼーっと状態から覚めたら、今度はカラン兵士長がぼーっと状態へ移行。

 こうして3人ともぼーっと状態になったところで、内容の開示!

「俺は、『汝は冥府の湖を割る。汝は雄鶏が鳴くまで3度守られる。汝は2つを天秤にかけ、遂には神となるであろう』だった」

「私は、『汝は汝が正しき名を知る。汝は神の声を伝える者。伝えし先は汝が心赴くままに行け』だった」

「俺は『やきにくたべたい』だったぞ」

 ……。

「カラン兵士長!」

「カラン兵士長ー!」

「お、俺だってもう少しまともな天啓を聞きたかった!」

 とりあえず、内容にばらつきがあったことは確かであった。




「タスク様の予言は、『汝は冥府の湖を割る。汝は雄鶏が鳴くまで3度守られる。汝は2つを天秤にかけ、遂には神となるであろう』よね。長いね」

「長いよな」

「俺なんか『やきにくたべたい』だからな……」


 ……さて、考えよう。

 冥府の湖を割る。モーセかな?いや、ちょっとまて、何だ冥府って。俺は冥府にでも行くのか?……え?つまり死ぬのか?

「冥府には湖があるのね」

「まあ、あるんだろうなあ」

 まあ、とりあえず、湖を割る、と。……『湖』が何かの比喩か何かかもしれないが、まあ、ここは考えても仕方ないよな。冥府に行ったら……死んだら分かるだろ、多分……。


「えーと、次は、『汝は雄鶏が鳴くまで3度守られる』。どういうことかなあ」

「つまり世界中の雄鶏を夜の内に全滅させておけば俺は無敵」

「そういう事じゃないと思う」

 じゃあどういうことなんだ。

 これも考えてもまるで分からん。何だろうな。雄鶏、ってのが、何か1羽の雄鶏に限定されるのか……。


「最後は、『汝は2つを天秤にかけ、遂には神となるであろう』か。……神、か……」

「神、ねえ」

「不遜にも程があるよな、これ!」

 救世主ってのは、神なのか?神じゃないよな?神になっちゃいけない奴じゃないのか?

「う、うーん、ほ、ほら、もしかしたら、変なパンの神様とかかもしれないじゃない?」

「成程」

 まあ、あれだ。この世界、どうも一神教っぽいからそっちの感覚に引きずられたが、俺は元々多神教の国の人だ。

 トイレにだって神様は居る。米には7人神様がいるし、きっとカニ○ンの神様も存在する。というか俺が多分カニパ○の神になる。そんな気がする。

「……そ、それは結構だが、タスク。『2つを天秤にかけ』とはどういうことだ?」

「さあ」

 それこそ、考えても仕方がない事である。

 が……何かを天秤に掛ける。うん、何か二者択一を選ぶ日が、来るのかもしれん。




 次に、エピだ。

「後ろ2つはよく分からないの。うーん、最後のは、『心赴くままに』、だから、好きにしていいよ、ってことだと思うんだけれど」

「神の声を伝える者、は……巫女だからか?」

 何かこの先、エピの巫女能力が発揮される日が来るのかもしれない。うん、期待しておこう。


 さて、そして……最初の奴、だよ、なあ……。

「エピはエピという名ではないのか?」

「わかんない」

「分かんないのか」

「うん。だって私、捨て子だったもの」

 ……あー、うん、言われてみれば、そう、か。

 エピ、ファリー村を出発する時、至極アッサリと、出たもんな。家族が居たらあんなにアッサリ出てこないか。

 それに……村長が、エピを村の外へ旅立たせることに積極的だったのは、エピのルーツが村の外にあることが分かっていたからだった、のかもしれない。

 何にせよ、納得と驚きと半々ではある。至極、けろっ、とした顔でエピが言うので、そこまで深刻に捉えないで済むが。

「じゃあ、エピ、っていう名前は」

「あっ、これなの」

 エピは襟の中から何かを引っ張り出した。

「これ、私のおくるみの中に入ってたんだって」

 そこにあったのは、深い青色をした宝石のペンダントだった。

「ああ……削れてしまっているが、『エピ』と読めるな」

 カラン兵士長がペンダントの裏を見て頷く。ふむ、成程。ということは、エピは『エピなんとか』か『なんとかエピ』って名前なのか。

 ……そういや、ベーコンエピ、っていうパンが……あ、いや、違うよな……。

「でも、探せ、ってことは、削れちゃったところが何だったのか、知らなきゃいけないのよね」

「この星の言う事を聞くなら、な」

 うーん、と、エピは考え込み……やがて、おずおず、と、言い出した。

「あの、もし、そんなに寄り道じゃなかったら、ちょこっと探してみても、いい、かな」

「そりゃ勿論」

 むしろ、多少どころじゃなく寄り道になったとしても、付き合うつもりだ。エピは俺に付き合ってここまで来てるんだし、俺もそれくらいは、なあ。

「えへへ、ありがと、タスク様。……うーん、でも、探せ、ってくらいだから……私の名前、そんなに変な名前なのかなあ……」

 ……ベーコンエピ……。




 そして、最後にカラン兵士長の奴だ。

「やきにくたべたい」

「やきにくたべたい……」

『やきにくたべたい』。どう考えても、お告げでも予言でも天啓でもねえ。

 だが、こんな言葉がもたらされた以上、やるべきことは決まっている。俺とエピは、顔を見合わせた。


 俺が鞄から石を出して肉にしたら、エピはエピで、火鞭で火を熾していた。

 なので、焼いて、星に供えた。

 焼き肉を供えた途端、星がくるくる回転し始めた。もうそこら辺の原理とか理由とか細かい諸々は気にしない。好きに回っててくれ。

 とりあえず、拝んでおいた。

 南無。




「うまい」

「うん、おいしーい!柔らかくってとろけるみたい!」

「驚いたな、何だ、この柔らかい肉は」

 そして星にだけ焼き肉供えるのも癪なので、俺達も焼き肉パーティーを始めた。

 昔親戚の結婚式で食ったやたら柔らかくて美味かった牛肉みたいな肉をイメージして作ったところ、相当に美味いものができたので、とりあえずただ焼いて塩振って食ってる。うまい。最早、このうまさに余分な語彙などいらぬ。うまい。

「わーい、こんなにお肉ばっかりいっぱい食べられるなんて幸せー」

「まだ増えるぞ」

「何故肉が生えてくるんだ!しかもなんで伸びるんだ!」

 いい加減俺のフライパンの精霊パワーも高まりまくっているからな。最早、こぶし大の石からひたすら肉を生やして増やしまくることも容易!思う存分肉を食うぞ!白米が恋しいがそこはパンで我慢だ!




「さて、帰るか」

「結局、この塔に登った目的が焼き肉だったみたいになったな……」

「いいじゃない、お肉美味しかったもん」

 そして、俺達はたらふく肉を食べ、帰路に就くことにした。

 ……の、前に。

「さて、カラン兵士長。焼き肉は供えたんだし、もう一回星に触ってみては?」

「う、うむ」

 ここまで盛大に焼き肉パーティーしたんだ。星にはちゃんとした予言をしてもらわなきゃ困るぞ。

 カラン兵士長は、ぺたり、と星に触れ……。

 ……。

「『ジャムを詰めたパンが無ければお前は死ぬ』だそうだ」

 ……ひでえ!




 とりあえずジャムパンを大量に供えておいた。作りすぎたのでエピとカラン兵士長にもジャムパンを分けた。

「もし私達の後にこの塔を上る人が居たら、きっと驚くね」

「血の塔を上った先にあるのは肉とジャムパンの星だもんな」

 ジャムパンと焼き肉を供えられた星は、くるくると回りつつ輝いている。これだけ貢いだんだからよろしく頼むぜ、ホントによお……。


 そうして俺達は帰路に就いた。帰り道は簡単であった。地面からパンを大きく生やしておいて、飛び下りた。

「ナイス着地」

「わーいふかふかー!」

「き、肝が冷える……」

 パンは万能である。




 イスカの村に戻って、その日はまた鳥人の家にお邪魔した。今日も今日とて鳥の巣ベッドの寝心地は至高であった。


 そして翌朝。

「……ふむ、名前探し、と」

 リザードマンのレーゲンさんに駄目元で聞いてみることにした。

 なんてったって、エピの名前探しなんぞ、とてもじゃないが材料がほぼほぼ無い。砂漠に落ちた針を探すんだったら磁石でガーッとやりゃ済むが、エピの名前は磁石にくっついてくれないからな。砂漠に落ちた針探すより大変である。

「すまないが、占いの類は苦手でな。力になれずすまない」

「ううん、分かんない方が当たり前だもの」

 エピは割とけろっとしている。まあ、駄目元、ってのは駄目で元々だから駄目元なのである。一々がっかりしていられないか。

「うーん……これ、なんで削れちゃったのかな」

 エピはペンダントを取り出して見つめつつ、首を傾げている。

 ……俺も見せてもらったが、宝石の裏、金属の部分に彫りこまれた名前の文字列らしきものは、見事に後半が削れて読めなくなっている。……あ、後半が削れているってことは、『ベーコンエピ』の可能性は限りなく低いな。ああよかった。

「……ん?ちょっとそのペンダントを見せてくれないか?」

 レーゲンさんはペンダントを見て、目を瞬かせた。エピもつられてか、きょとん、としつつ、目を瞬かせる。

 エピがペンダントを手渡すと、レーゲンさんはためつすがめつペンダントを眺め……驚愕らしい表情を浮かべた。

「……驚いたな」

「え?」

 そして、興奮気味に語り始めたのである。

「この石は昔、ハイヴァーのとある鉱山でだけ採れていたものだ。随分昔に廃坑になってしまったから、もうこの石は採れない。かなり希少なものだ。今はごく僅かに流通するだけで……」

 ……レーゲンさんは石マニアなのか。いや、それはともかく、だ。

「つまりこの石が手に入る環境は限られるんですね?」

「ああ、そうだ。……今は廃坑となったが、行ってみたら何か手がかりが得られるかもしれないな」

 エピと顔を見合わせる。

 ……駄目元って、案外、いけるもんだなあ。


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