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68話

 

 すっかり気持ちよく寝て起きたところで、俺達は。

「いやあ助かるよ」

「ありがとうねー、ユーちゃんのお友達の皆!」

 二日酔いだったり元気だったりマチマチな住民たちからお礼を言われつつ。

「いつぞやを思い出す。カラン兵士長も居る辺りで特に」

「あの時はパンだったけれどな……」

「ゆ、雪って重いのね……」

 雪下ろしだの、雪かきだのをすることになった。

 理由は簡単である。

 エピとカラン兵士長がやりたがったから!




 俺からすると、アホか、という程度の感想なのだが。エピとカラン兵士長からすれば、雪と触れ合う事にはとてつもない意義があり。そのついでにイスカの村人たちの役に立つなら万々歳、ということらしく。

 ……結果、二日酔いの村人が多い中、元気な俺達が雪下ろしだの雪かきだのをすることになった。

 勿論、やり始めて20分ぐらいすれば、エピもカラン兵士長も後悔し始めていたが。

「だが、いい経験にはなったな。雪の実物に触れるのは初めてだった」

「うん。冷たくて白くて、軽いようでも、重いの。こんなの、やってみなきゃ分かんなかったもの」

 一通り仕事が終わってしまえば、後はまあ、『いい経験になったね!』ぐらいで済むのだが。

 済むのだが……。




「……タスク様、大丈夫?」

「寒い」

「すまない、タスク。俺が下を確認していなかったばかりに」

「私も追い討ち掛けちゃってごめんね……」

 ……俺は。

 この2人が雪下ろしをしている下で、雪かきをしていて。

 見事に!2人が下ろした雪が俺にクリンヒット!

 倒れて雪に埋もれてしまったところに、更に雪が降り注ぎ!

 結局!俺は!雪に埋もれたのであった!この寒い中で!


 ……今、鳥人が用意してくれた毛布にくるまり、火の側に陣取り、お湯を飲んでいる。

「た、タスク様が風邪ひいちゃったらどうしよう……」

「むしろひきそう」

「ほ、本当にすまない、タスク」

「ずび」

 体は温まってきたし、そこまで軟弱な体でも無いが……今回のは、効いたぜ……。




 俺が不幸な目に遭ったところで、イスカの村の朝食兼昼食をご馳走になることになった。

「いやあ、助かるわねえ。タスク君が沢山食料をくれたから!」

 とん、と、俺達の前に、皿が置かれる。

「血のスープよ!」

 ……。

 この村の食事ニアリーイコール魔物の食事だって事を忘れてた。




「意外といけた」

「うん、まろやかだったよね……」

「香辛料の使い方なのだろうか……」

 だが、完食。

 血のスープ、っつう名前と、見た目がモロに血でブラッドな以外は、至って真面な味であった。

 スパイスやハーブが複雑に効いており、そして、具として入っている肉もまた、程よく味付けしてあり、煮込まれて柔らかで。

 ……普通に、美味しかった。

「こんな土地でしょう。だから、狩りをして獣をとったら、血までしっかり食べないと勿体ないのよね」

 成程、土地柄か。

「それから吸血鬼もこれなら一緒に食卓を囲めるし」

 成程、土地柄か……。




 カルチャーショックをボディーブローっぽくじわじわくらいつつも食事を終えた俺達は、最初に会ったリザードマンの所へと向かっていた。

 どうやら彼(男らしいよ。リザードマンは男も女も大して見た目が変わらないように見えるけどな!)はそこそこご長寿らしく、物知りなんだとか。

 なんでも、ドラゴンの血が入ってるとかで、特殊な魔法を使えたり、特殊な文字を読めたりするらしい。

 つまるところ、あれだ。

『王の黄金』と『神の乳香』から出てきた結晶の光の地図。

 アレにあった文字列を見てもらおう。という事である。

「……ねえ、タスク様、私、気づいちゃった」

 そんなリザードマンへのお宅への道すがら、エピが、ふと、零した。

「もしかしてあの人って、リザードマンじゃなくて、ドラコニュートなんじゃないかしら」

 ……うん。

 ドラゴンの血が、入ってる……。

 ……。

「トカゲだってドラゴンだ!」

「そ、そうよね?そういうことで、いいよね……?」

 それとも、失礼にあたったりするんだろうか。だとしたら呼び方、考えておかないとな……。

 ……。

 ヨッ○ーさんとかでいいか……。


「○ッシーさんこんにちは」

「だ、誰だそれは!?我が名はレーゲンだぞ!?」

 気を遣ったら却って失礼にあたった。まあこんなこともあるよね。




「ふむ、これは……」

 さて、改めてリザードマンだかドラコニュートだかよく分からないレーゲンさんに、例の光の地図を写したものを見てもらった。

「読めるの?」

 が。

「古代文字のようにも見えるが……こんな文字は見たことが無い」

 駄目であった。


「えー……だって、これが、とう、で、こっちが、うえ、で……」

「ふむ……?」

「これは、多分、いか……でしょ?」

「む、むう……?」

 エピがレーゲンさんに読み方指導をするが、ピンとこないご様子。

 終いには、レーゲンさん、ありとあらゆる辞書っぽいものであったり、道具であったり、色々持ってきたのだが、全滅。

「駄目だ。これは私には読めん」

 レーゲンさん、どうもすみません。


「ここまで来ると、どうしてエピが読めるのかが分からないよな」

「私だって分かんないもん」

 エピ本人にも分からないなら、やっぱりこれ、どうしようもない気がする。

 いつか、何か分かるといいんだがなあ……。なんかスッキリしないし。


「ふむ、しかし、これが……とう、いか、うえ、だったな。そして、この地図、か」

 しかしここで、レーゲンさん、地図と文字の写しを見ながら、にやり、と口を歪めた。(いや、俺、未だにこの人の笑顔が笑顔なのかそうでないのかよく分からないんだが。)

「文字は読めなかったが、この地図が何を示しているのかは分かったぞ」




 レーゲンさんに連れられて、俺達はイスカの村の外れに出た。

 外はまた雪が降り始めていたが、明かされるのであろう謎への期待で、雪の冷たさは気にならなかった。

 俺達はやがて、村外れの、冬枯れした巨木……に見せかけた見張りやぐらへと上る。

「あそこだ」

 そして、レーゲンさんが示す。

「イスカの、塔の、上。……そういうことなんじゃないか?」


「イスカの、塔……」

 俺は、レーゲンさんが示す方を見て、思った。

「何も見えねえ……」

「えっ!?タスク様、目、悪いっ!」

「い、いや、俺も見えん……エピ、レーゲン殿。本当にあそこに塔が?」

 いや、だってさ。だってさ、雪で煙ってるじゃん……見えねえじゃん……。




「あれはイスカが冬の国になった時に現れたと言われる塔だ。……正直、私が生まれた頃か、それよりもやや前、だ。詳しいことは知らない」

 そう言われてもよく見えない。

「あの塔は全てが氷でできているらしい。尤も、外から見た事しかないが……だが、余りにも透き通った氷でできているから、中に入った者は皆、迷い惑わされるという」

 そう言われてもよく見えない。

「塔の上、と、その古代文字にはあるらしいが……塔の上まで登った者を知らないのだ。何があるかは、分からぬ」

 そ、そうか。つまり、正体不明の塔、ということか……。

 ……でも。

 エピには、何故か読める文字。

 俺に与えられた、『王の黄金』と『神の乳香』。

 何かの意味がある気がして、仕方がない。

 2つのアイテムとエピの何かが、その塔を示しているのだとしたら……行ってみるしか、ないよな。


 その後、滅茶苦茶に目が良いエピとレーゲンさんに教えられて、目を凝らしたら、ギリギリうっすらなんとなく見えた。

 確かに、見えた。雪煙の向こう側に、なんとなく、塔って言われればそういう気がするようなシルエットが見えた。

 はあ、あれが……。

 ……やっぱりよく見えない。




「どうもありがとう!」

「お元気で!」

「塔から戻って来たらまた寄ってね!」

 イスカの村の人達に見送られつつ、俺達はその日の昼の内に村を出発した。

「あったかいね、タスク様!」

「ああ、行きとは大違いだな」

 道は雪道であったし、天候も雪であったが、それらが気にならない程度に、俺達は元気であった。

「火の鳥の羽、というものはすごいな」

 理由は、俺達がイスカの村人の1人に貰った羽である。

 ……具体的には、俺とエピが泊まった家の家主。あの鳥人の羽である。

 あの鳥、どうやら、『遠い祖先が火の鳥』らしい。

 その結果、その羽には暖かな火の力が宿っており、羽を持っているだけで、寒さから身を守ってくれるのだとか。

 素晴らしい能力ゆえに、彼は『イスカのストーブ』と呼ばれているとか。

 ……切ない。


 火の鳥の羽の恩恵にあずかりながら、俺達は雪の上を進み続ける。

 途中で一回、パンかまくらの野営を挟み、そして、翌朝また歩き。

 遂に。

「わあ……!綺麗!」

 晴れ渡った冬の青い空の中、冷たく暖かい冬の朝日に煌めく、氷の塔が、目の前にそびえていた。


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