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66話

 なんとなく切ないレギオンとの別れを終え、俺達はとりあえず。

「休憩」

「同意」

「ど、どしたの、ほんとにどしたの……」

 休憩することにした。

 はー、レギオンパワー、偉大だったな……。




 雪の上だと岩が出ていないのだが、雪の下にどうせ岩ぐらいあるだろ、という予想の元にパンを生やしてみたところ、無事、パンが生えた。

 適当に生えたパンを成形して、パンかまくらみたいなものを作って、そこに入って休憩。

「わーい、あったかーい」

「風よけになるし、保温効果もあるもんな」

 意外とパンは侮れないもんである。ちゃんと壁を厚めに作れば、そこそこあったかい。

 この冬の国において野営とか間違いなく自殺行為だと思うんだが、こういうふうにパンかまくらを作成すれば案外いけそうな気がする。


 それから休憩と食事。食うものは相変わらず種々のパンであるが、飲み物はこんな気候だから、温かいものを選ぶ。

 エピとカラン兵士長は温めたワインを飲んで体を温めた。

 俺はお湯を飲んだ。お湯うめえ。




 そうして俺達はまた雪道を歩いて、今度こそイスカの村へと向かう。

「どんな村なんだろうね」

「カラン兵士長、何か知ってますか?」

「悪いが、俺は生まれも育ちもエスターマだったからな……そうでなくても、ハイヴァーの地理に詳しいものはそうそう居ない。こんな国だからな」

 まあ、他所の国の人がわざわざ来る国じゃあねえよなあ、ここ。

「ただ……通行証、か?それは」

 そして極め付けが、これ。

 ユーディアさんから貰った、手紙っつうか、通行証、っつうか。

 これを見せれば大丈夫、みたいなことを言ってたが……。

「……逆に考えれば、それが無いと村に入れない、ということだな?」

「あ、そっか。……うーん、他所の人に厳しい村なのかなあ」

 エピは、「ちょっと寂しいかも」なんてことを言っていたが……それで済めばいいんだがなあ。




 結局、夜になるまでに村に着かず、一回野営した。

 というか、吹雪いてきたので一回野営した!

 パンかまくらは念入りに三重構造にすることで、入り口をつけてありながらも直接冷たい風が入ってこないようにした。じゃないととてもじゃないけど寒い。

「すごい、びゅーびゅーいってる……」

「エスターマじゃあこんな光景、見る事が無いからな……」

 この中では俺が一番、雪に馴染みがある。日本は四季があるからな。

 ……だが、エピもカラン兵士長も、春の国と夏の国の人であるだけあり、雪には全く馴染みが無い。

 そのせいで、さっきから子供のように、吹雪に興奮しているのであった。


 そんな2人は置いといて、俺は今、パンかまくらの出口付近で、例の結晶を見ていた。

 つまり、『神の乳香』から出てきた、星みたいな結晶である。

 案の定、というか、結晶からは光が溢れ、地面(パンだが!)の上に模様を描き出している。

 が、地図じゃない。

 もっと複雑な……模様?

「……1つ目と重なる、か」

 王の黄金から出てきた結晶の光を重ねると、それらは意味を成した。

 王の黄金の地図につけられた印の上に、神の乳香の文字が重なる。

「文字、だったりすんのかな」

 が、読めないので駄目である。駄目であった。


「エピー、カラン兵士長ー」

「なになに?」

「どうした?」

 2人を呼んで、地図を見せる。

「これ、何だか分かるか?」

 2人は地図と、地図に刻まれた文字?を覗き込み……。

「すまんが、分からないな」

「うん、読めないよ。だってこの字、虫食いだらけだもん」

 ……。


「むしくい」

「え?うん、だって、ほら、ここ、『い、か……とう、うえ』って書いてあるけど……これだけじゃ分からないもの」

 エピは、地図の、ハート形の島の横、大陸の上にある点と、そこに並んだ模様を指さして、そう言った。


「いか?とう?うえ?……凄いな、エピはこの模様が読めるのか」

「えっ?えっ?よ、読めないの!?」

「俺には読めん」

「俺も読めない」

 カラン兵士長が、感嘆のため息を吐く。

「エピは、古代文字を修めているんだな」

 あ、これ、古代文字なのか。凄いな。エピは読めるのか。俺には模様に見える。

 だが、エピはそう言われて、きょとん、とした後、慌てた。

「え?ううん、違うよ。そんなお勉強、したことない。だって私、ファリー村でずっと育ってたし……」

「そうなのか?すまない、てっきり、古代魔術の勉強をしている魔法使いなのだとばかり……」

 カラン兵士長も困惑気味である。エピも困惑している。

 ……エピには読める文字、かあ。

 うーん、巫女には読める、とかなんだろうか。

 まあ、何にせよ、このままじゃあ意味を成さないからな。しばらくこれも保留か……。




「おーい、ホットワインできたぞ」

 そして再び吹雪を見始めた2人を再びパンかまくらの中に呼び戻し、中央に造った簡易竈で温めたワインを見せる。

 なるべく甘い種類のワインになるように意識してはいるんだが、如何せん、俺が飲むわけじゃないので味がどうなのかはよくわからん。

「わーい!いただきまーす!」

 エピとカラン兵士長のカップに温めたワインを注ぐと、それぞれぐいぐい飲み始めた。

 この旅でもう分かった事だが、エピは意外と飲む。いや、もしかしたらこれが普通なのか?俺が飲めないだけなのか……?

「タスクは飲まないのか?」

「あー……下戸なんで……飲むと寝ちまうからなあ……」

「あとは寝るだけだろう」

 ほらほら、とばかりに、カラン兵士長が俺のカップ(さっきまでお湯が入ってた)にワインを注いでくれてしまったので、飲む。

 ……。

「美味しい?」

「あー、うん、嫌いじゃ、ない」

 割といける。煮るとアルコール飛ぶからかな。それでも多少、酔っぱらいそうな味がするが。

 うん、なんか、こう……。

「……本当に弱いんだな」

「そうなの。タスク様、すごくお酒、弱いの」

 なんかエピとカラン兵士長が言ってた気がするが、眠くなったので寝ることにした。




 起きたら朝だった。おはよう。

 見れば、竈の熾火を囲むようにして、俺達はそれぞれ行き倒れていた。

 俺にもパンの掛布団が掛けられていた。自分で掛けた覚えが無いので掛けてもらったんだろうな。うん、これだからアルコールは!


「ふわ……おはよ」

 ワインに心の中で文句を言っていたところ、エピがもそもそと起き出してきた。

「あ、音がしない。吹雪、止んだのかな」

「おはよう。もう止んでるみたいだ」

 吹雪は一晩でなんとか収まってくれたらしい。本当にこの国、旅をするには向かないよな……。吹雪で足止めされるし、下手に野営すると死ぬし……。

「じゃあ朝ごはん……は、パンね。そこらへんに果物が生ってたりしないもんね」

 更には、そこらへんに食べ物が無い。

 プリンティアでは野草とか摘んで食べられたし、エスターマでは果物が結構あった。熱帯っぽいかんじの奴が。

 そして言わずもがな、オートロンは実りの秋だからな。食べ物に困るようなこともほとんど無かったんだが。

 ……だが、このハイヴァー。外にあるのは雪と氷。

 食糧難待ったなしである。

 ……これから行くイスカ村、確かにこれじゃあ、食べ物に困るよな……。


 そのうちカラン兵士長も無事起きてきて、朝食(カニ○ン)を済ませる。

 そしてパンかまくらを出て、俺達はイスカ村に向かって雪の降り積もった中を歩き始めたのであった。




 真っ白な雪の上に太陽の光が反射して眩しい。

「ううー、眩しい……」

「ゴーグルとかあればいいんだけどな」

「なんというか、エスターマの日差しとは違った厳しさだな……」

「あ、雪の反射でも十分日焼けしますよ」

「なんと」

 そんな中をひたすら歩いていくこと数時間。

 湖をぐるっと迂回して、反対側へもうちょっと進んだ辺りに。

「あ、見えてきたな」

「あれがイスカの村?」

「地図の上では」

 ようやく、ユーディアさんの故郷であるらしい、イスカの村が見えてきたのであった。


 村はこじんまりとした様子である。雪国の村らしく、建物の屋根は傾斜が激しい。木材があまり無いのか、建物は大体石造りだった。

 そして。

「うーん、本当に食べ物に困ってそう」

「畑っぽいものは見えないな」

 村の入り口にまで近づいてみても、畑やその類は一切見当たらなかった。

 ……冬の国、だもんな。地面が雪に覆われているような状態で育つ作物なんて、微々たるものか。

「さて、じゃあ早速、村長かそれっぽい人に話をして……」

 パンの提供ないしは、カニパ○の布教を行うぞ、と。

 そう、思ったの、だが。

「止まれ!」

 村の門を潜ろうとした俺達に、鋭い声が掛けられた。

 俺達がそちらを見れば……。

「人間風情がここへ何の用だ!」

 ぎらり、と光る眼。

 多きな口と、そこから覗く長い舌と牙。

 ついでに、皮膚を覆う鱗。

 ……リザードマン、とでも言うべき人が、そこに居た。


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