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58話

永遠の物の他、物として我より先に造られしは無し。

しかして我永遠に立つ。

汝らここに入る者、一切の望みを棄てよ。

 結果。

「どうしてこうなる」

 パンが飛んでいった。




 圧力が滅茶苦茶に高くなってるんだったら、それがある一点からじゃなく、全体から放出されるようにすれば被害は減るだろ、という考えの元、山全体をパンにしたし、地盤もある程度すり鉢状にパンにした。

 更に、溶岩が高温を保ったまま流れ出ていくよりはパンにして質量と体積減らした方がマシだろ、という考えの元、溶岩もパンにした。

 例え高温だろうが、パンが燃えようが灰になろうが、井末が居た所に突っ込んだ時点でエスティの力(つまりフライパンの力なんだろうか……)が何かしてくれたのは分かってたから、そこも問題は無い。というか、もし問題があったとしてもあの時点では何もしようがなかったんだから、まあ、考えなかった。考えても仕方ない事を考えても仕方がない。

 ……だから。

 俺の予想では、とりあえず山が吹っ飛んで、灰と燃えたパンが舞って、そして、俺達は無傷、と。

 そういう風に予想と言うか、期待していたのだが。

 ……現実は非情というか、謎。で、あった。


「すごい、パンが飛んでる」

「すごいな……なんだろうな、これ、なんだろうな……」

 俺達の目の前では、何故か。

 パンが、凄い勢いで山(パンだが)の外へとすっ飛んでいっているのであった。




「……タスク様ぁ、これ、どうなってるの?」

「俺も聞きたい」

 パンが飛んでいく。

 燃えもせずに、飛んでいく。

 訳が分からん。何が起きてる。これは一体、何なんだ。

「えーと、火山、っていうのは、その……こういう仕組みなの?」

「んなわけない、はず、だ……少なくとも、俺が知ってる火山はこれじゃない」

「つまりこれ、タスク様が知らない火山なの?」

「そうとしか言えねえ……俺は知らねえぞ、こんなの……」

 俺達の視線の先には、何やら、奇妙な……金属でできた、魔法陣のような模様が彫り込まれた金属の板が見え始めていた。(つまり今まで溶岩およびパンに埋もれていた。)

 そして、その金属板にはいくつかの宝石が嵌っており……更に、『元々は石が嵌っていたような』、そういう窪みがいくつか、見えるのである。

「……なあ、あそこにさ、ほら、なんだっけ、魔法石?が嵌ってた、とか、あるかな」

「うん、その魔法石、パンになっちゃって、飛んでいった、とか、あるかも、ね……」


 憶測にすぎないが。

 この火山、『井末が普通に居た』ことも、『転移装置があった』ことも、『人工の階段があった』ことも考えれば……この山全体が、救世主だの精霊だのに関係する、何らかの人造物であった、のだろう。下手するとこの溶岩、別に地中から出てきたとかじゃなくて、かなり浅い位置で生成されていた可能性すらある。今のパン状況から見て。

 そしてその人造物には、噴火、というか……溶岩とか炎とかを噴き出す仕掛けがあった、のだ。

 多分、溶岩の底にあったのであろう、あの魔法陣みたいな金属板が、その仕掛けの心臓部だったのだと思う。

 ……井末が持っていった、あの炎みたいな石みたいな奴、あれが何らかの鍵になって、この山の『火山っぽい仕掛け』が発動した。

 だが、その直後、俺の手によって、『仕掛けの心臓部はパンになった』。

 その結果が、空飛ぶパンである!

 ……中途半端に魔法が発動した、ってことなんだろうな、これ……。




「ちょっと、下りてみるか」

「うん。……ここまでして守られてたものが何か、気になるものね」

 大分勢いこそ収まったものの、相変わらず分速80パンぐらいのペースでパンが飛んでいく中、俺達はさっきまで溶岩があった所へ行ってみることにした。

 こんな仕掛けを作ってまで隠しておきたかった何かがあるのだろう、と思われるからな。

 ……そして、案の定。

「あ、この下、空洞だ」

 溶岩が溜まっていた底、魔法の仕掛けの金属板が嵌めこまれた部分を弄ると、あっけなく、金属板が外れる。

 そしてその下に、空洞が見つかったのであった。




「全然暑くないね、タスク様」

「不思議なもんだな」

「強い、魔法の気配を感じます。これは、一体……」

 空洞の中へと降りていくと、そこは不思議なくらい冷えていた。

 底冷えする、というか、なんというか……いや、そういうレベルじゃないぐらい、冷える。ぞっとするような冷え方だ。

 ……もしかして、さっきの溶岩って、これの反動だったりするのか?或いは、この冷えを緩和するために溶岩作ってたとか?謎である。


 ひたすら、奥へ奥へ、深みへ深みへと進んでいく。

 冷えは次第に増していった。だが……物理的に寒い、と言うよりは、こう、魂が冷えるような、というか……なんか、妙なんだよな。

 これがアルセさんの言う、『強い魔法の気配』なんだろうか。俺にはよく分からないが。


 そうして、なんか感覚がぼんやりしてきた頃。

「……ねえ、タスク様、何かあるよ」

 ふと、感覚がはっきりしてきて、エピの示す方を見る。

 俺達が進みに進んだ地点、深い深い地の底に、それはあった。

「扉……いや、門、か?」

 巨大な門が、そびえていた。




 どこか不気味で、しかし精巧な細工の施された門は、ただ門だけがそこにあるだけである。つまり、後ろから見ても、前から見ても、ただ、門が、ぽんっ、と置いてあるだけ、なのであった。

「見て、何か書いてある」

 だが、門の上部には、何か、文字のようなものが彫り込まれていた。

 目の良いエピが、それを読み上げる。


「えーと……うーん、と……『汝らここに入る者、一切の希望を棄てよ』」

 ……。


「はい!退却!退却!」

「えっ」

「あ、あの?」

「見なかった事にするぞ!これは駄目だ!すぐ戻るぞ!」

「た、タスク様?」

「この近辺既にやべえんじゃねえのかこれ!ほらエピ!アルセさん!ぐずぐずするな!退却!退却ーッ!」

 ……『汝らここに入るもの一切の希望を棄てよ』。

 つまり!この門は!

「これ地獄の門だッ!」




 逃げるように上に戻ってきたら、パンが空へと飛んでいく牧歌的かつ狂気的な眺めが俺達を出迎えてくれた。

「まさかこんなに空飛ぶパンが心落ち着かせてくれるものだとは」

「うん……」

「ま、まさか、こんな所に、地獄の門があるとは……」

 ということはあの門の近辺、既に半分あの世に突入してたんだろうか。生きてる?俺達、まだ生きてる?滅茶苦茶心配になるんだが!

「もしかしたら、あの溶岩、地獄の門を隠すためにあったのかもね」

「不用意に人が立ち入らぬように、という、ある種の封印だったのですね」

 はー、そういうことか。まあ、うん。分かる。

 地獄の門なんつうものの上には溶岩でも溜めておいて、その下に一切人が立ち入れないことが望ましいッ!


「……しかし、救世主様が何かをお取りになった時、炎が噴き出し始めましたね。ということは、救世主様がお取りになったあれが、封印を解く鍵だったのでしょうか……?」

 うーん……確か、『ウェルギリウスの炎』なんて言ってたか。

 正直俺、ウェルギリウスなるものが何なのかは知らないんだが……まあ、多分、あれで魔法の均衡が崩れた、とか言ってたから、あれを取ると『地獄の門』への道が開ける、ってことだったんだろうな、多分。


「だ、だとしたら、救世主様は……エラブルの町を炎に沈めるおつもりだったのでしょうか……?」

 何やら、茫然としているアルセさんに、掛ける言葉が見つからねえ。

 正直これ、井末の目的が全く分からないから何とも言えないが、状況証拠だけでいくと、『エラブルの町を炎に沈めて逃げた』みたいなことになっちまうんだよなあ……。

「……うーん、アルセさん。もしかしたら、さっきの人達、こうなるって知らなかったかも」

 だが、エピがアルセさんを元気づけるように、声を掛けた。

「さっきの様子見てたら、想定してなかった、みたいなかんじだったもの」

 だから元気出せ、というようにエピがアルセさんの背を優しくぽんぽん、と叩く。

「そ、そうですよ、ね……救世主様は、何か、目的があって……」

 ……尚、その目的は俺達には分からんぞ。アルセさんが聞いてくれ!

 そして俺達に教えてくれるとすごく嬉しい!




 俺達は町へ帰ることにした。このままパンが飛んでいく様子を眺めている意味が無いからな!

「わー、パンがいっぱい」

 尚、帰り道はパンであった。

 パンである。最早、見渡す限りのパンである。

「……あれっ、タスク様、これ、いつもの変なパンじゃないのね」

「カニパ○よりも軽くてふわっとしてスッカスカのパンをセレクトした」

 勿論理由は、『燃え尽きた時に出てくる灰を減らすため』である。カ○パンよりも更に軽いパン、幾らでもあるからな。でんぷんで作ったパンみたいなパンじゃないような微妙な奴とか、かなり灰分少ないはずだし。

「しかし……不思議な眺めですが、もしかしたらこれがすべて、燃え熔けた石だったかもしれないのですね……」

 ……アルセさんの言葉に、しみじみと、今のパンまみれの光景の平和さを噛みしめるのであった。

 ついでに、落ちてたパンも噛みしめる。

 もう朝日が昇っているから朝食だな、これ。

 ……朝日に煌めくパンの大地が眩しいぜ……。




「あっ、見て見て!なんかあれ、かわいいね、タスク様!」

「か、可愛いかは置いておいて、ユニークではある、な、うん」

 そうしてパンの上を急ぐわけにもいかず、のんびり馬を歩かせて帰ってきたところ、エピが目の前の光景を指してはしゃいだ。

「あ、あれはもしや、救世主様のお力……!?」

 そこには、エラブルの町が光のドームに覆われて、そのドームに落ちたパンがぽいんぽいん跳ね返っては周りに落ちていく、非常に不思議な光景があった。

「……パンじゃなくて溶岩が降ってたら、かっこよかったかもね」

「言ってやるな……」

 まあ、パンから町を守っても、なんか、なんか……なんか、アレだが!うん!


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