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57話

「私はこの町の教会で神に仕えています」

 あ、うん、察しはついてた。

「幼少のころから、神の声を聞くことが、あって……」

 それも聞いてた。

「……そして、今日の夕方、また、声が聞こえたのです。神は、仰いました。ルカの山……この町の一番近くにある山が、炎を噴き、エラブルの町は炎に沈む、と……!」

 あああ、それももう聞いてた!




 既に聞いた話であったので、俺達は非常に落ち着いて話を聞くことができた。

 が、それが良かったのか悪かったのか。

「……驚かれないのですね」

「え、ああ、うん」

「ま、まあ、その……うん」

 驚いた方が良かったか、と、若干の後悔をしつつ歯切れが悪すぎる返事を曖昧にする。

「……神は、もう1つ、お告げをなさいました。ついさっき、あなたとまた、ぶつかった時に」

 ほう、さっきぶつかった時に。

 ……ということは、今度は驚けるぞ!さあ来い!

「この方々に助力を乞うように、と」

「な、なんだってー!?」

「ええーっ!?」

 ……。

「あ、あの、今度は驚かれるのですね?」

「え、ああ……うん」

「えっと……驚いた方がいいかな、って……」




 何はともあれ、だ。

「とりあえず、分かってることは火山が噴火するってことだけなんだな?」

「え、ええ……神は、ルカの山が炎を噴く、と……」

 うーん、神のお告げとやらの信憑性はいざ知らず、火山が噴火するのを止められるなら、なんとかしたいよな。

「うーん、山の口にパン詰めちゃうとか」

「多分、パンが凄い勢いで吹き飛ぶし、燃える」

 というかそんなもん、俺がとっくに考えてる。そしてイメージの中で巨大パンが火山の噴火と共に空へと打ち上げられたところで考えるのをやめた。

「ぱ、ぱん……?あの、山に口があるなら、石で塞ぐ、というのは」

「いや、だから石が吹き飛ぶし、熔ける」

 パンじゃなけりゃあいいのかっつったら、そんなわけはない。そんなことで噴火が塞げるんだったら誰も苦労はしないと思うぞ。

「どうしたらいいんだろ。山から火が出てくるなんて、聞いたこともないよう」

「夏の国では時折起こるらしいのですが……」

 ……ん?

「あの、もしかして、エピ。アルセさん」

「うん?」

「はい」

「火山、とか、噴火、とかって、分かりますか?」

「分かんない!」

「あ、あの、申し訳ありません……」

 なんか、噛みあってないと思ったら。

 そうか、この世界の人達、火山の噴火ってもんを知らねえのか……。




 ということで、秋の夜長にHOW TO 火山の勉強会を開く羽目になった。

 俺だって大した知識は無い。だが、それでもエピやアルセさんよりはマシだった。

「す、すごいね……そんなに大きな火の魔法が、山の中で動いてる、ってこと、だよね……」

 尚、エネルギー源についてはもう、『多分魔法』で通した。

 この世界だし、多分それで合ってるだろう。

「しかし、それほどまでに山の中で火の魔法が動くなんて……それこそ、夏の精霊様のお力によるくらいしか……」

 アルセさんは悩んでいるが。

「エスティはそういうこと、しないと思う。タスク様、どう思う?」

 こそ、と、エピが俺に耳打ちしてきた。

「俺もそう思う。というかエスティはエスターマに居るだろ、多分」

 尚、俺とエピの間で『夏の精霊様』は『エスティ』でもう固定である。駄目だ、一回ついちまった印象って直せねえ……。

「ええと、アルセさん。このあたりでは、山が炎を噴くっていうのは、作為的な何かが無い限りあり得ない事なのか?」

「ええ、聞いたこともありません……もしかしたら、ずっとずっと昔にはあったのかもしれませんが……」

 そういえば。

 ……盗み聞きだった以上、聞けないが。

 さっき、アルセさんと口論してた人、『秋になって久しい』みたいなこと、言ってたよな。

 もしかして、この世界って……季節が国ごとに決まってると思ってたが、『滅茶苦茶ゆっくり季節が流れてる』だけだったり、するんだろうか。

「……ああ、どうして急にルカの山が……」

「急に、なの?ここ最近、変な事は無かった?」

「ええ、何も。ただ神の声が今日の夕方聞こえて、そして、『明日の朝、山が炎を噴き、町は炎に沈む、と……』」

 ……。

「明日」

「はい、明日の朝です」

 それはまずいね!


「ど、どうしよう!とりあえず町の人の避難かなあ、タスク様っ!」

「そうだな、多分それが一番いい」

 明日の朝に火山が噴火するってんなら、打てる手はほとんど無い。

 だったら町の方、というか、町の人の方を動かしちまった方が良いだろ。うん。

「それが……駄目でした」

 が、駄目らしい。

「ど、どうして?」

「誰も信じてはくださらなかったのです。秋の精霊様の治める大地において、そんなことはあり得ない、と……それに……」

 ふと、アルセさんが、暗い表情を浮かべた。

「ルカの山には、救世主様が居られるのだから、と」




 ……救世主の方。

 俺はそいつを俺の他にもう1人しか知らない。

「それは、井末、って人ですか」

「ああ、ご存知なのですね」

 やっぱり!

「え、ええ……まさかあの人、何かやるの?ねえ、やるの?」

「俺が知るかよっ」

 だが、この時点でこう、なんか……嫌な予感がする。

「……井末が居るから火山が噴火する訳ない、っていう理論な訳だよな、この町の人達は」

「ええ、救世主様が居られる以上は、と……」

 だが、だがな。

 俺の考えは、逆だぜ。

「井末が何かやらかして、火山が噴火する、って、いう考えには至らない訳だな?」




 10秒ぐらい、考えた。

「アルセさん、ルカの山まではどれくらいですか」

「え、さ、さあ……馬を飛ばせば、二刻程でしょうか……町の北に、ほら、見えているあの山がルカの山です」

 あ、あの山か。滅茶苦茶近いじゃねえか。

 ……あれが噴火したら、この町どころか、その他諸々もやばいんだろうなあ、やばいんだろうなあ。

「そっか。アルセさん、馬、2頭借りられないかな」

「……え?」

 俺が申し出ると、アルセさんはきょとん、とした表情を浮かべた。

 一方エピは、もう何も言わずに出発の準備を整えている。

「あ、あの、違います、私が助けて頂きたいと申し上げたのは、エラブルの皆の説得を」

「多分間に合わないだろ?」

 何せ、もう夜だ。

 寝ている人の家の扉を叩いて、一軒一軒説得して回る、ってのは、流石に無理だろ。

 それに思い至ったのか、アルセさんは絶望したような表情になったが……俺は、まだまだ十分笑える心境である。

「それに、ちょっとアテはあるんだ」




 そうして俺達はエラブルの町を出発した。

「タスクさん、エピさん!このまま東に回ると、ルカの山の山道がありますので、そちらへ!」

「分かった!」

 ……どういうわけか、アルセさんも一緒である。

 彼女もまた、何もしないでいる訳にはいかない、と、同行を申し出てくれたのである。

 火山は危険だぞ、という旨を伝えたのだが、神官である彼女には神の守りがあるから大丈夫とか、戦力にはなれる、とか、なんとか、かんとか……。

 ……まあ、いいならいいんだけど。


 結局、山の麓に着くまでに1時間半ぐらいだった。

 それから山道を上って、中腹にあった『転送装置』みたいな奴に乗った。

 そしたら急に頂上であった。アルセさん曰く、古代の魔法の品なのだとか。尤も、山の頂上に用事がある人なんざそうそう居ないので、最早使われていないらしいが。

「わ、わあ……なんか、あったかいね」

「あったかい、で済んでるうちが華だろうな」

 そして、頂上から火口、にあたるのであろう穴を覗き込む。

 気のせいかもしれないが、奥から熱気が漂ってくるような。

「見てください、あちらに階段が。間違いなく、人工のものです!」

 アルセさんが示す先を見ると、火口の淵から火口の中に向かって、下り階段が設置してあるのが見えた。

 ……こんなところに下り階段、か。

 つまり、この下に用事があった人が居た、って事だよな。

 いよいよ、なんかきなくさくなってきたよなあ……。




「……あづい」

「あづいな」

 が、暑い。

 活火山だって事は分かってたし、中で今にも噴火が起きそうだって事も分かっちゃいたが、それだってこれ、暑い。

 ましてや俺達は冬服に衣替えしているのだ。暑い。暑い。暑すぎる。

「……も、もう駄目……あつい……」

 諦めたらしいエピが、もそもそ動いて上着を脱ぎ、襟のボタンを外した。

 尚、俺はとっくに袖を捲ってボタン全開にしている。いっそ全裸になりたい。

「わ、私も……は、はしたないかしら……」

 そしてアルセさんも、胸元のボタンを外した。

 ……元々がなんというか、こう、貞淑な、というか、そういう品の良い服だったこともあり、着崩すと、こう、なんか、こう、こう、妙な背徳感がある。本人の恵まれたプロポーションも手伝って、益々……。

「……タスク様のすけべ……」

 気がつけば、エピにじっとりとした目で見られていた。

 ……アルセさんは気づいていないようだが、エピには視線の行き先がバレたらしい。

「……エピ、誤解だ。俺がスケベなんじゃない。男は誰でもこうなんだ。視界に珍しい物が入ったらつい見てしまう習性があるんだ。仕方ない事なんだ」

「う、嘘でしょ?嘘だよねっ!?みんなこうなの!?」

 エピから絶望したような文句を頂いてしまったが、仕方ない。

 俺もエピも、多分アルセさんも、暑さで頭が動いていない。多分俺の脳細胞、着々と死んでいる。

 何やらブツブツ言うエピと、ひたすら暑がっているアルセさんと共に、俺は脳味噌死んでる状態でひたすら、火山の奥へと入っていくのであった。




 ふと、眩しいような、煌めくような、そんな光の欠片を見た気がした。

「見て、タスク様!」

 エピの示す方を見ると、岩壁の一部がひび割れている。光はそこから、ちらり、と漏れていたらしい。

 俺達は岩壁の中を覗きこむ。

 ……すると。


「これが、ウェルギリウスの炎……!」

 覗き見る先で、井末他数名が、ちらちらと煌めく石のような炎のような、不思議な物体に手を伸ばしているのが見えた。

 そして、井末の手が、それに触れた瞬間。

「きゃっ、な、何っ!?」

 地面が、いや、山が、揺れた。


「まずい!イスエ様がウェルギリウスの炎を手にされたことで、この山の魔力の均衡が崩れたか!」

「ぺモロ!すぐに転移の魔法の準備を!」

 覗いていると、井末御一行はそんなことを言いながら、何か魔法の準備をして……。

「おい、待てっ!」

 岩壁をパンにして突入した俺の手が届くより先に、その姿を消した。


「ま、まずいよな、これっ!」

 途端、凄まじい熱量が俺達を襲った。一気に火山が活性化したような気がするぜっ!

「エスティ、助けてっ!」

 ……が、エピの声に呼応するように、熱が和らぐ。

 エスティ、夏の精霊様のご加護が俺達を守ってくれているらしい。ありがてえ!

「おい、これどうする!?」

 俺達の目の前では、赤熱する石がとろけだしている。なんだこれ。というかこんなところに居て無事な俺達もなんだこれ。

「だ、駄目です、神の声が聞こえない……」

 アルセさんはパニックに陥っており、アテになりそうにない。

「エピ、雨でどうにかなるもんじゃないよな、これ」

「う、うん、駄目、だよね……」

 ……雨は駄目だな。

 熔けだした岩、溶岩をフライパンで雨として降らせる、ってのを一瞬考えたが……被害が広がるだけだな、それ!

「どうしよう、逃げなきゃ」

「いや、どのみち間に合わねえ!」

 あの野郎、せめて俺達も連れて逃げろってんだよ!




 ……考えろ。

 火山が噴火する。その原因は、何だ。

 或いは、火山が噴火することによって、起こることは、何だ。


 火山が噴火するのは、内部に溜まった溶岩を抑える圧が下がって、溶岩が噴出するからだ。

 そして、火山が噴火すれば、溶岩が噴出する。規模にもよるが、周りの物が溶岩で焼ける。延焼する。

 アルセさんが聞いた神の声とやらが正しいのなら、エラブルの町は紅葉じゃない赤色に包まれることになるのだろう。

 だが、解決策は、ある。

 要は、圧力だ。圧力の抜き方を変えればいい。そうすれば、一点から一気に吹き上がるようなことは無くなる。そのために、山の岩をパンにして……いや、或いは、溶岩を。




 ……ここまで考えて、気づいてしまった。

 ああ、溶岩って、岩、だ、と。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 溶岩って岩なんですかー!?石かあ…そうかあ…ならばカニ○ン! 実際、ここでカ○パンをよく目にするので、近所のスーパーで買ってしまいました。 布教されたー!
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