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53話

 そうして俺達は、宿の食糧庫に居座っていた。

「……タスク様ぁ、これでいいのかなあ」

「多分」

 俺達は山と積んだパンに埋もれ、いや、隠れながら、盗人の登場を待った。

 今晩来るとは限らない訳だが、どうせ、そんなに急ぐ旅路でもない。むしろ、ここで時間を潰して井末をやり過ごすっていうのも手かな、という気もするので、むしろ積極的に待ってやる所存である。

 ……が、パンに埋もれていると、こう、眠くなってくる。

 如何せん、パンだ。

 ふかふかの、パンである。

 ましてや、最近の俺達は野営する時には必ずと言っていいほど、パンを布団にして寝ているのだ。

 ……半分ぐらいもう条件反射で、パンに埋もれたら眠くなるようにできているのである!

「ふわ……眠くなってきちゃった」

「俺も正直もう眠い」

 ましてや今は、腹もいっぱいになって眠気が強い時間である。眠い。もうこれ、眠い。

「……寝るか」

「えっ!?だ、駄目よっ、タスク様っ!」

 エピは却って目が覚めたらしいが、俺は眠い。眠いったら眠い。

 ……なので、寝てもいいようにした。

 つまり。

「要は、盗人向けの罠を仕掛けておけばいいんだろ?」




 そして俺達がうつらうつらしつつ迎えた丑三つ時。

「うわああああああああ!?」

 中々に楽しいアラームで目が覚めた。

 もそもそ、とパンを退かしつつパンの山の外に出て、食糧庫の外を見ると、そこには見事にパンの落とし穴に嵌まった人が居た。

 ヤマザ○ダブ○ソフトの柔らかさ、思い知ったか。




 そうして俺達は盗人を捕獲した。

「さて、口を割ってもらおうか。お前らのアジトはどこにある?」

「な、何を言っているんだ、知らない、アジトなんて知らないぞ」

「口を割らないならこの子の鞭が飛ぶぞ」

「えっ私がやるの?」

 捕獲ついでに拷問まがいの事もやっている。じゃないと折角捕獲した意味がないからな。

 ……『大規模な魔法』が行われた以上、こいつらは単独犯じゃないはずだ。なら、折角だし組織丸ごととっ捕まえてやろうと思うのである。そして気持ちよくコロッケ食って、勝利の美カニ○ンに酔いたい。

「ほら見ろ、この子の鞭さばきを。エピ、見せてやれ!」

「ええー……」

 エピは不満げながらも、鞭をひゅ、と華麗に降り抜くと、ズビシン、と激しい音を立て、地面を打った。

 途端、地面がメキリ、と、割れる。

 ……。

「さ、さて。この鞭をくらったら貴様の手足は簡単に飛ぶだろうなあー」

「い、言います!言いますから!」

 俺も盗人も、エピの方を何となく見ないようにしながら、話し始めることになったのであった。

 うん、至近距離で見てると、迫力と恐怖が半端じゃなかった。




 そして、30分後。

「……そっかあ、大変だったね」

「はい……うう、ぐすん」

 すっかりしょんぼりした俺とエピと、ぐすぐす言いながら肩を落とす盗人が居た。

「……まさか、この世界にも奴隷ってあるとはなあ……」

 どうやらこの盗人。

 とある組織の奴隷であるらしい。




 エピも盗人も仲良くパンに埋もれて寝たところで、俺は1人、盗人から得た情報を整理する。

 まず、彼は盗人であるが、この食料盗みは生きるために仕方なく、といったところらしい。

 つまるところ、奴隷として働かされている以上、食べるものが満足に与えられる環境ではなく、しかし、働かされている場所からこの宿までなら、抜け出してちょっと走れば一晩で行き来できるのだそうで。

 ……では何故彼が逃げないのか、というと、彼には友人がおり、その友人は『逃げられる体じゃない』んだそうだ。だから、その友人の為にも逃げるわけにはいかないし、代わりに食料を調達しては分け与えている、という状況なのだそうだ。


 貴族のボンボン君からざっと写させてもらった地図を広げる。

 奴隷の人の証言によれば、ここから街道を外れて東へ向かった山奥に、奴隷たちが働かされている場所があるらしい。

「……邪神の神殿、か……」

 そしてそこは、邪神を祀る神殿の建設地なのだそうだ。

 邪神、か。

 ……なんか引っかかるんだが、一体何だったか。




 そして翌朝。

「はいよ、お弁当!」

「ありがとうございます!」

「ありがと、おばさん!」

「僕にまで……ありがとうございます……ううう、ぐすん」

 俺達はコロッケ女神こと宿のおばさんに弁当を持たされた上で、奴隷が沢山いるというその邪神の神殿建設地へと赴くことにしたのであった。


 山道を歩く。ひたすら歩く。それこそ、獣道より酷い悪路をひたすら進む。

 ……だが、あまり疲れない。何故か!

「秋の精霊様、本当に助かります!ありがとうございます!」

「わあい、らくちーん!」

 エピが先頭に立って、鞭をぶんぶんやりつつ歩く。

 すると、エピの鞭に叩かれた地面は、ふにゃり、と形を変え、ある程度歩きやすい道のような形になるのである。

 これはあまり長い時間は持たないらしく、俺達が通り終わったあたりで再び、ふにゃり、と形を変えて元に戻ってしまうのだが。

「いっそ馬車で来た方が良かったか」

 悪路を想定していたので徒歩で来てしまったが、こんなに瞬間舗装ができるなら、馬車を借りてくればよかった気がする。

「いいえ、そんなことをしてはすぐに見つかって怪しまれてしまうでしょう。……ほら、あそこを見てください」

 だが、奴隷の人はそう言うと声を潜め……そっと、木々の間からちらりと見える向こう側を示した。

「あそこに居る見張りは、奴隷の脱走を監視しているのです。徒歩でなければ見つかっていたでしょう」

 ふむ、そういうもんか。

「うー、どうする?この先、見張りの人、何人か居そうだけど……」

 更に、俺より数段目の良いエピは、俺には見えない見張りを数人、見つけたらしい。

「あああ、そういえば僕、夜の間に戻らなかったから……!」

 成程、見張りが多いのは、『脱走した奴隷』が1人ここに居るからだな。

 ということは、あんまり無闇に進めないな。

 ……よし。

「パン掘るか」




 パントンネルの悪夢があるからか、エピは非常に乗り気でなかったのだが、他にこれよりいい方法も無い。

 適当に小雨を降らせて視界を悪くしておいて、俺達は地面をパンにして掘り進み、ここから先を移動することにした。

「パン……パン……ずっとパン……」

 ある程度深く掘ったら、後は水平に真っ直ぐ、パンの中に突っ込んでいきながら進むだけである。

 つまり、パンに埋もれて視界も碌に効かない状況が続く訳だ。

 エピは早速、疲れ始めていたが仕方ない。

 そして一方、奴隷の人は滅茶苦茶元気であった。

「こんなに!こんなにパンがいっぱい!夢みたいだ!」

「悪夢じゃなくて……?」

 あ、そうか。この奴隷の人には、パンは食料以外の物には見えないんだな。

 ……俺達、パンは武器で建材で食料、だからなあ……。




 パンを抜けると、そこは神殿前だった。

「ここです!ここが邪神を祀る神殿なのです!」

 石造りの建物は、現在進行形で建設中であった。人々が石材を運ばされているのが見える。

 また、神殿の上部では、大きな岩を鑿で打ち、巨大な石像を彫っているらしい人達の姿も見えた。

 巨大な石像も、威厳ある建物の様式も、『神殿』にふさわしいものであった。

 ……だが。


「タスク様ぁ」

「おう」

「あれ、タスク様の好きなパンに似てるね」

「いや似てねえよ!カニ○ンはもっとかわいいし浪漫溢れる形状してるだろ!」

 ……俺達の目の前には、四角っぽい胴体に、8本の腕だか脚だかが生えた、異形の神の石像があったのである。

 だが決してカニパ○ではない。別の何かだ。中華製カニ○ンとか、そういう何かだっ!


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