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31話

 そうして舟は進んだ。大分マヌケな絵面だが、進んだ。

 そのうち、エピが空を飛びながら舟を後ろから押し始めたので、ますます速く進むようになった。

 ……そして。

「あれか」

「あれね!」

 ドラゴンが住まうらしい洞窟に、俺達はたどり着いたのであった。


「エスティは……居ないな。もう中に入ったのか」

「多分、そうだよね。ほら、見て、タスク様」

 エピが見せてくれたのは、超カラフルなヘビの死体であった。

 中々にショッキングな物体だが、重要な手がかりだな。

 ヘビは頭を切り飛ばされて死んでいた。多分これ、エスティの斧槍でズパッとやられたんだろうな。

 切り傷はまだ新しい。ということは、エスティはこの洞窟に入ってまだ、そんなに時間が経っていない、ということだ。

「急ごう!」

「うん!」

 俺達は意を決して、洞窟の中へと進んだ。




 洞窟の中は暗い。

 ランプに火を灯して進む。

「うわ、また……」

「道に迷わなくて済むけどな……うん」

 道中には、魔物の死体が点々としている。おかげで道には迷わないんだが、うん。

「精神衛生上、よろしくはねえな!」

「うん!よろしくない!よろしくないよ!」

 よろしくないのだった。


 そうして魔物の死体や血痕を辿って俺達が進んでいると、ふと、地の底から響くような、低い獣の声が聞こえてきた。

「うわっ!」

 そして直後、地面が揺れる。

「た、大変っ!これきっと、ドラゴンよ!」

「エスティはもう戦い始めたのか!」

 まずい、まずいぞ!急いで助太刀しに行かねえと!助太刀になるのかはさておき!


 俺達は走った。洞窟の中を走って、走って、走って……そして、俺達の目の前に、突如、光が見えてきた。

 その光の先。そこには。

「エスティ!」

 炎に包まれた地面。

 唸るドラゴンは火を吹き、そして、尾を鞭のようにしならせる。

 そして、吹き飛ばされるエスティの姿があった。




「エスティ!」

 慌てて俺はエスティの着地地点となるであろう場所をパンにして、エスティを受け止めた。

「っ……んっ!?」

 突然のパンに驚くエスティ。そこに襲い掛かるドラゴンの牙。

「くそっ!」

 咄嗟に俺は、岩壁からフランスパンの剣山を生やしてドラゴンの牙からエスティを守った。

 ……そして。

 ドラゴンの口は、エスティに届く前にフランスパンに遮られ、フランスパンを噛み砕くのみに留まり。

 更に!

「ぎゃおっ!?」

 ドラゴンは悲鳴を上げてのけ反った。

 ……えっ?


 小さく火を吹いたり、首をぶんぶん振ったりするドラゴンの姿を見て、俺は思い至った。

 あっ。もしかして。

「も、もしかしてあのドラゴン、フランスパンの硬い所が歯と歯茎の間に刺さっちゃったのかな!?」

 あれだ!ポテチの破片を縦にして噛んじまうと歯茎に刺さって滅茶苦茶痛い奴だ!

 ……敵ながら同情するぜ。




「大丈夫か、エスティ!」

「あ、ああ……タスクにエピ、どうしてここに?村は?」

「村は大丈夫だって、おばあさんが!でも、ドラゴンを倒しに行ったエスティが心配だから行ってあげて、って」

 ドラゴンが痛がっている間にエスティをパンから引きずり出して、事情を説明した。

「それは後だ。とりあえず逃げるぞ。あのドラゴン相手じゃあどうにもならないだろ」

 そしてドラゴンがまだ痛がっている間に、逃げる!

 ……と、思ったのだが。

「いや、それはできない!」

 エスティの賛同を得られなかった。

「つったって、勝てないだろあれ!」

「それでも、だ!あれをあのまま放っておいたら、また村や……エスターマ王国自体が、危ない!」

 エスティはそう言うと、斧槍を手に、立ち上がった。

「タスクとエピは逃げてくれ。私は刺し違えてでもあのトカゲをぶっ殺す!」

 ……俺とエピは顔を見合わせた。

 うん。だよな。

「エスティ、勇気と無謀は違うぞ」

「なっ」

 激昂しかけたエスティを宥めつつ、俺はフライパンを見せた。

「俺の武器はこのフライパン。それから、石をパンにする能力と、水をワインにする能力を持ってる。パンは伸ばしたり生やしたりすることが可能だ。それから、降ってる雨を集めるのと、フライパンが浸かってる液体を雨として降らせることができる」

「……は?」

「えっと、私はね、鞭が武器!魔法は使えないけれど……ええと、空を飛べるよ。それから、小雨を降らせることと、小雨を避けることができるの」

 エピも鞭を手に、エスティに笑いかける。

 ぽかん、としているエスティに、俺は畳みかける。

「さて、俺達の手の内は晒したぞ。エスティの手の内も晒してくれ。そうしたら、もしかしたら、あのドラゴンを倒す方策が見つかるかもしれない」

「そ……それは」

 エスティの瞳が、輝いた。

「俺達も手伝うよ」

「ね。だから、一緒に考えよ!」

 エスティは、一瞬、驚いたような、泣きそうな、そんな風に表情を歪め……そして、力強く、にっ、と笑みを浮かべた。

「ああ!」




「私は火を操ることができる。火の魔法は一通り使えるぞ。それから、ドラゴンの吐く炎は一切効かないと思ってくれていい。あとは、武器はこの斧槍。体はそこそこ動くつもりだ。……まあ、この洞窟じゃあ、足場が少なくて森の中のようには動けないけど」

 聞いといてなんだけど、聞きたくなかったぜ。俺達の能力のしょぼさが際立つからな!

 だが、そうも言ってられないからな。うん。この際、エスティが強くて助かった訳だし。うん。

「そっかー、エスティ、すごいね」

「私からすると、タスクとエピの力の方が不思議なんだがなあ……」

 まあ、凄さっていうか、不思議さでは他の追随を許さない自信があるけどな!

「ということは、エスティは足場さえあれば、ドラゴンを倒せるってことなのか?」

「まあ、そうだな。自信はあるぞ」

 成程。ということはこれで大丈夫か。

 パンで足場を作ってエスティをサポートすればいい。何といっても俺のパンは、伸びるぞ。


「じゃあ、あとはドラゴンの能力が分かればいいんだが。あいつって、火の類は効くの?」

「まあ、効かない訳じゃない。あいつだって生物だからな」

 それ、つまりエスティさんは生物じゃないんですか?

「だが、ほとんど効かないだろう。何といっても、あの鱗だ。ドラゴンの鱗は火に強い。外から焼いたんじゃあ話にならない。かといって、内臓を焼くのは難しい。だからこそ、私の炎は防御にしか役立たない訳なんだ」

 ほー。成程成程。

 つまり、物理攻撃にかなり強くて、火もほとんど期待できない、と。

 雨が攻撃手段になるとは思えないし、パンも多分、さっきみたいなラッキーなことが起こらない限りはダメージにならないだろう。

 ……うん。

「ちなみに、ドラゴンって呼吸はしてるのかな」

「は?そ、そりゃ生物だからな、呼吸はしている、が」

 うんうん。なら、なんとなく、筋道は立ったな。


「よし。じゃあエスティの為に、俺が足場を作る。いくらでも伸ばせるから、高さはいくらでも用意できる」

「それはありがたい!よし、ならばまずはドラゴンの目を狙って」

「それから、ドラゴンの足下もパンにする。埋めよう」

「えっ」

「最終的にはこの洞窟の壁をパンにして、天井を落とす」

「……えっ」

「それでドラゴンは埋まる。脱出する体力が無ければ死ぬと思う!」

 どうだ!という思いを込めてエスティを見ると、何とも言えない顔をしていた。

「……あ、ああ……そ、そうだな」

「……あ、この洞窟、崩したらまずいか?」

「いや、まあ、崩さなくて済むならその方が……落盤なんてさせてしまったら、ここら一帯の地形が変わってしまうからなあ」

 うーん、成程。

 それは考えてなかったな。

 うっかりこの洞窟がぶっ壊れたら、この洞窟の脇にある川の流れも変わりそうだ。洞窟の上は崖になってるから、その上の地形も危ない、と。

 ……大きな地形破壊は無し、となると……地中奥深くへとパンで沈める、ってのも、避けた方が良いのかな……。

 うーん、精々、数m分ぐらいしかパン化させずに、うまいことドラゴンを生き埋めにするのが良いんだろうか……。




 考えている間に、ドラゴンは歯の間のフランスパンの欠片を除去できてしまったらしい。

 俺達の方に向かって、歩を進めてくる。

「まずいぞ!来る!」

「と、とりあえず壁を作るぞ!」

 まだ作戦会議が済んでねえんだよ!ちょっと待ってろ!

 ということで、できるだけ頑丈なフランスパンの柱を何本も生やして、ドラゴンの目の前に壁を作る。


 はずだった。




「駄目だ!速すぎる!」

 突如、ドラゴンは翼を使って加速した。

 壁が生み出される前に、とばかりに、一気にこちらへ向かってくる!

「くそっ!」

 俺はパンを生やした。ひたすら生やした。

 ドラゴンの速度よりも早く、パンの壁を生み出さんと、必死にパンを生やした。

 ……それが、いけなかったのだ。

「ぐぎゃっ!?」

 素早く生えたフランスパンは、ドラゴンの翼の薄膜の部分を貫いて、天井へと突き刺さった。

 ……。

 翼を偶然にも縫い留められてしまったドラゴンは、そのまま、生えてきた他のフランスパンによって押し上げられ……。

「ぎ」

 天井に、激突する……!

「させるか!」

 だが、そんなことをしたらこの洞窟が崩れるかもしれない!

 地形破壊云々よりも先に、俺達が洞窟の中に居る状態で洞窟が崩れたら俺達まで生き埋めなんだよ!

 俺は咄嗟に、『天井を』パンにした。

 ふわふわで柔らかくてもっちりしているかんじの、パンにした。

「ゅっ……」

 そうして、ドラゴンは、ふわふわで柔らかくてもっちりしたパンに首をずっぽりと突っ込み、そこで止まった。

 ……。

「と、突撃いいいいいい!」

「お、おう」

「わーん!やっぱりこうなるのねーっ!」

 何が起きているのか分かっていないらしいドラゴンが我に返って動き始める前に、仕留めるしかねえ!こうなりゃヤケだ!やってやれー!


 とりあえず俺はエスティの為の足場を作って、ついでに、ドラゴンの首回りのパンを育てて首絞めつつ、ドラゴンの口の中に向かってパン生やしておいた。


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[一言] 僕のパンをお食べ(強制)
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