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17話

 俺とエピは布でマスクをしつつ、アジトの中で看病にあたっていた。

「はい、お薬ですよ」

「うう……不味い……」

「これでも相当美味しくなったんですよ」

 エピは病人達に薬を与えていく。

「こういう風に、水に塩を混ぜて病人に飲ませてください。この水瓶一杯の水に対して、この匙で3杯ぐらいの塩を入れて。それからそちらの果物の果汁も入れましょう。果物はよく洗ってから果汁を絞り、絞った果実は加熱して使いましょう」

「あ、ああ」

 俺はスポーツドリンクもどきみたいなものを作らせている。

 多分、塩だけでも摂らせとけば違うだろ。果汁入ったらカリウムとかも入らねーかな。

「病人には水を飲ませて下さい。何も口にできない者にはこの塩と果汁入りの物を。そうでない者にはパン粥に塩を振って食べさせてください。できれば野菜も。ああ、でも、ここの食糧庫にあるパンは使わない方が良いでしょう。病の元が巣食っている可能性が高いですから」

「しかし、そうなるともう食料が無くて……その、買いに行くにも、ちょっとなあ、その……」

 ……あー。そうか。

 こいつらは盗賊だから、村八分されるよな!街で買い物なんてできないんだよな!可哀相に!

「ご安心ください、パンも持って参りますよ」

 だが安心しろ。俺にはパンが付いている。というか憑いている。

 パンならいくらでも出してやれる。それでこいつらが『悔い改める』なら安いもんだろ。


 そこら辺の石壁をパンにして清潔な部屋(つまり俺達が腐れパン液を一切撒かなかった部屋)に入れたり、病人に薬を飲ませたり水を飲ませたり、とやっている内に、ふと、俺達を案内し続けていた見張りの盗賊が、言った。

「……なあ。アンタ、分かってんだろ?俺達は盗賊だ。天罰が下ったんだろうよ。なのになんで助ける」

 ……そんなもん、マッチでポンプだからです!っつっちまえばそれきりなんだけどな?

 だが俺は、『救世主』なのだ。

 どんな形であれ。かくあれかし、とこの世界に召喚された、『救世主』なのである。


「神は悔い改める者を皆、お許しになります」

 それらしいことを言ってやると、盗賊は気まずげな顔をした。

「今更許されたってな。今まで散々、神に背いて生きてきたんだ。もう遅いだろ」

 ……ふむ。まあ、そう思うんならそうなのかもしれんが。

「『もう遅い』と。『今まで散々神に背いてきた』と。そう思っているのなら、あなたの心には神が光を投げかけているということなのですよ。罪悪感は光によって落ちる影。光が無かったのならば、あなたは罪を罪とも思わなかったでしょう」

 盗賊が意外そうな顔で俺を見る。俺は笑って続ける。

「もうあなたは許された。これからでいいんですよ。これからで。『もう遅い』ということはないはずです」

「でも……一体、何をすれば」

「まずは、あなたの仲間を助けましょう」

 ほい、と、盗賊に瓶を渡す。スポーツドリンクもどきが入っている瓶である。

「それから、仲間の外側に居る人を助けるのです。魔物を退ける。食事を人々に分け与える。人の輪に戻って、働きましょう。人の為、自分の為に」

「……そんなこと、俺にできるのかな」

 俺は盗賊の背を叩いた。

「適当に、それなりに、ぼちぼちのんびり頑張れればそれでいいと神は仰っております」

 俺が浮かべた笑みは聖職者らしくはなかったと思うが、盗賊は俺の顔を見て、固いながらも笑顔を浮かべて頷いた。




「ありがとうございます、シスター。俺、故郷に戻ります。それで、今度こそ、真人間として……」

「あんまり頑張りすぎないでね。まずはのんびり病気を治そうね!」

 一方でエピも、何やら懺悔を聞かされつつ看病を続けていたらしい。

 まあ……あれだな。

 病気の時は、気が弱くなる!




 そうして俺達は盗賊団の看病を続けた。

 時には懺悔されて励まし、温かい言葉を掛け。

 時には感謝されて、社会貢献を促し。

 時には多少元気になった途端に生意気になったので仕方なく腐れパン液と説教を与え。

 ……俺は実に、『救世主らしい』ことをやっていたのだった。




 5日程看病を続けると、盗賊団は概ね元気になった。

「本当にどうもありがとうございました」

「これからは真人間として生きていきたいと思います」

 最初に会った時とは見違えた。

 何よりげっそりした。うん。そりゃあそうなる。まともな医療で治療した訳でもないし、5日の間、薬草と塩水とパン粥で何とかしのいで自然回復まで持ちこたえさせたってだけなんだし。

 だが、げっそり以上に、目に活力が戻っている。

 死んだ魚みたいな目をしている奴はもう居ない。刹那的、自棄的な生き方をしていた盗賊達は、気がつけば、皆、何かしらかの希望を抱いていたのである。

 ……これならもう、大丈夫だろう。盗賊団を壊滅させる、という手段として、必ずしも暴力を用いる必要は無い。

 殺さなくて済むなら殺さないに越したことは無い。人間だって限りある資源だ。再利用できるならその方がいい。

「では私達はこれで失礼します」

 俺達は安心して、盗賊団のアジトを去ることにした。


「本当に、本当に……感謝してもしきれません」

「苦しんでいる時はどうしてこんな目に、とも思いましたが……思えば、俺達には天罰が当たってよかったような気がします」

 それは気のせいだと思うぜ。

「我々は神の御言葉に従ったまでの事ですから」

「みんな、元気でね!頑張ってね!」

 まあ、なんとなく釈然としない気持ちと、すっきりしたような気持ちを抱えつつ、俺達は歩き始め。

「お待ちください!どうか、これを」

 歩き始めたところで呼び止められて、袋を手渡された。

 受け取った袋は、ずしりと重い。

 中を見ると、袋には金貨がぎっしりと詰まっていた。

 ……俺とエピは顔を見合わせて、にっこり笑う。

「これは受け取れません。これはあなた達がこれから使うものです」

 盗賊に、金貨の袋を返した。

「でも、これは」

 戸惑う盗賊を制し、袋を握らせる。

「盗品なら尚の事。あなた達が神の御言葉に従って、貧しい人、困っている人の為に使いなさい。そして人を助けた後は、1杯のワイン、1つの菓子。そういったものを貴方たち自身に与えるために使うのです。人を幸せにするあなた達自身もまた、幸せにならなければなりませんよ」

 盗賊達は返された金貨袋を手に、深々と、頭を下げた。

「ありがとうございます。……あなたは俺達の『救世主』様です」




 俺達は歩いて宿まで戻ることにした。

 馬車に揺られて2時間かもうちょいぐらいの道程だったと思うから、まあ、歩いて1日ぐらいもすれば着くだろ。多分。ファリー村からブーレの町までの道よりはマシなはずである。

「結局、お金、返しちゃったね」

「まあ、アレは受け取れないよな」

 エピはにこにこと笑いながら、頷いた。

「うん。それでよかった、って思うの。ちょっぴり残念な気もするけれど」

「そうか。ところでエピ」

 ご機嫌なエピをつつく。

「こいつを見てどう思う」

 俺はポケットから金貨を取り出した。

「……えっ?も、持ってきてたの!?いつの間に!?」

「滞在中に宝物庫見つけてちょっと分けてもらってきた。ほら、まだ出るぞ」

 別のポケットからは宝石が出てくる。

「えっ、えっえっ……」

 こっちからはまた金貨と、銀じゃない白っぽい金属の貨幣。

 それらを見て、エピは目を丸くして……笑い出した。

「あはは、やっぱりタスク様はタスク様ね!」

「おう」

「持ってきたお金、宿の人にも分けてあげようね」

「勿論」

 ま、生憎だが俺は聖人君子じゃないもんで。




 宿に戻ったら夕方だった。ま、日が暮れるまでに着いたんだから御の字。

「……やはり、あんな少年少女を、たった2人で送り出すべきじゃなかったんだ……」

「ああ、神よ、もし居られるなら、どうか、あの2人をお助け下さい……」

 が、宿がお通夜みたいになってた。

「……えーと」

「た、ただいま……?」

 そこに俺達が踏み入った途端。

「……い、生きて、生きていたのか!」

「無事か!ああ、ああ、良かった!神よ、感謝いたします!」

 これである。

 どうやら俺達、何日も戻らなかったもんだから、死んだと思われていたらしい。

 冗談じゃねえ!




 今までのあらすじを(適当にそこそこかなりぼかしつつ)説明して、俺達は皆を感心させていた。

「そうか……盗賊団を改心させることで、盗賊団を壊滅させたんだな」

「にわかには信じられんが……いや、アンタならやりかねないよな」

 俺の評価どうなってんだ。

「元々そんなに悪い人達じゃなかったのよ」

 まあ、あの盗賊団、殺しは基本的にしてなかったみたいだし、罪悪感もあったみたいだし、そう言う意味では『そんなに悪い人達じゃなかった』のかもな。

「やれやれ。これでこの辺りも平和になるだろうよ。ありがとう。……しかし、湧いて出てくるパンといい、盗賊団を改心させちまったことといい、アンタには驚かされるよ。まるで『救世主』みたいだな」

「まあ……あはは」

 エピと顔を見合わせつつ、曖昧に笑って誤魔化しておくことにした。




 その日の夜もパン食であった。

 当然である。まだ、盗賊団が壊滅したなんて情報はブーレの町にも、俺達がこれから行くマルトの町にも伝わっていないはずだからな。食料の供給が来てくれないんだからしょうがない。

「俺、そろそろパン飽きた」

「えー、そうなの?」

 エピや他の人にしてみれば、クリームパンだカレーパンだと色々なパンがあるから飽きないらしいのだが……俺、そろそろ米食いたい!

「ははは、パンの精霊様がついていらっしゃるんだろ?ならそんなことを言うもんじゃない」

「まあね……ついてるっていうか、憑いてるっていうかね……」

 因果な能力を手に入れちまったよなあ、と思いつつ、トルティーヤ齧って中身欲しいなとか思いつつ。

 ……そんな折。

 ふと、俺の耳に、何かが聞こえた。

 それと同時に、何かの気配。

「……何か、来る!」

 窓の外を見れば、そこには、巨大な……2足歩行する豚がいた。


 そういえば、思い出す。

 盗賊団は、裏で魔物と繋がっていた、とか、聞いてたわ。


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