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16話

 非常に幸運なことに、盗賊のアジトは洞窟をそのまま利用した天然の住居空間であった。いや、想像はしてたけど。

 だって盗賊が真っ当な木造建築とかに住んでるイメージ無いし。大人数だって聞いてたから、やっぱり、家を用意するのは難しいだろうと思ってたし。うん。

 ……まあ、つまりだ。

「鍵がかかってる部屋にだって入り放題!」

「地面から出てくるなんて、誰も思わないよねぇ。ふふふ」

 俺達は盗賊団のアジトの地下、岩盤をパンにして、スニーキングミッションし放題。

 最初に目指したのは食糧庫。そこに腐れパン液ぶちまけてやった。

 次に、水場。水瓶とかあったらそこに腐れパン液ぶち込んでやった。

 そして、生活用品。テーブルとか食器とか、とにかくなんにでも腐れパン液ぶっかけてやった。

 それらを適当に済ませたので、一旦撤退!さっさと撤退して感染拡大と発症・症状の悪化を待つ!

 盗賊団がいい加減弱ったら、そこを狙って叩く!

 完璧!




 ということで撤退した。

 盗賊団のアジトからしばらく地下を進んで、それからようやく地上へ出る。

「わー、もう夜中だ」

「お月様きれいね」

 森の中ではあったが、月も星も明るいから、そこまで暗くもない。

 いざとなったら火の魔法札を使って火を点けることもできるが、それは最終手段にしたい。火の明かりが目立って盗賊団に気付かれたら色々とおしまいだからな。

「今夜は野宿かな」

「だな」

「……毛布とか持って来ればよかったね」

「……そうだなあ……」

 しかし、まあ、仕方ない。

 食料はパンで我慢するとしても、とりあえず今は、水場を探さないといけないな。




 盗賊団のアジトがあるんだから水場もあるだろ、と思ったら、案の定、あった。

 ただし、盗賊が1人居たので、居なくなるまで待ってから使うことになったが。

 そこで俺達はよく手を洗い、着ていた薄手のコートを脱ぎすてて、もう一度よく手を洗い、更に手を洗った。

「念のため」

「それ、意味あるのかなあ……」

 意味があるかは微妙だが、水を汲んでワインにして、アルコール消毒もどきもやってみた。

 うん、まあ、やらないよりはマシだと思う。




 気が済むまで手や脚を洗浄したら、寝床の確保だ。

「俺、思ったんだけどさ」

「うん」

「さっきの盗賊団みたいにすればいいんじゃないかって」

「……うん?」

 ということで早速、地面が岩場なのをいいことに、地面をパンにする!

 イメージは穴蔵!地面をある程度パンにしてからパンを千切って投げてしまえば、寝るのに丁度いい具合の穴ができるのである。

 最後に穴の中の床に当たる部分を適当に柔らか系フランスパンみたいなパンにすれば、眠るのに丁度いい。

 これを2つ作れば、2人の寝床が完成する。

 寒かったら、適当にパン布団を作ればいいかんじだ。意外とパンは暖かい。


「じゃ、お休み」

「お休みなさーい!」

 色々あって疲れたし、それぞれにパン穴に入ってさっさと眠ることにした。

 エピがパン穴に入る様子を見守っていたら、中から「わーいふかふか!」と、エピの歓声が聞こえる。うん、ふかふかだよな。パン。俺も寝よ。お休み。

 ……俺にとってパンとは、最早、食料ではない。

 食料兼、建材兼、交渉材料兼、寝具。時々武器。

 そんなかんじである。




 朝、起きたら盗賊団のアジトの様子を外からこっそり窺う。

「……特に動きは無いか」

「うーん、すぐに食あたりするものでもないの?」

「ものによっては、食べてから症状が出るまでに丸1日から3日ぐらいかかるようなものもあるからな。気長に待とうぜ」

 アジトは静まり返る、という程でもなく、適度に活気があるように見える。

 まあ、昨日の夜に到着して、今朝だからな。

 まだパンを食べていない奴だって多いだろうし、気長に待った方がいいだろう。

「ってことで俺は二度寝するけど、エピは?」

「うーん……私ももうちょっと……パンって寝心地いいんだね、タスク様」

 なので俺達は、パン布団の誘惑に負けた訳ではない。これは戦略。戦略なのだ。




 日が高く昇り始めたので、そろそろ起きようか。

 アジトの様子は……あんまり変わらないように見えるな。まあ、仕方ないか。

 エピはどうしているか、とエピのパン穴を覗いてみると、中でエピがすやすや眠っていた。それはそれは気持ちよさそうに。

 ……俺も三度寝しよう。




 気づいたら夕方になっていた。流石にもう起きる。

 アジトは静かだ。特に何も無いのか、それとも、全員ぶっ倒れているのか。どっちだ。わからん。

 これは突入しないと分からないので、エピを起こす。

「おはよう」

「おはよ……うーん、本当にパンのベッドって、寝心地がいいのね。ふかふかで、とってもいい気持ち」

 それは良かった。

「タスク様。盗賊はどう?」

「分からん」

「そっかー。じゃあ、また地面を掘ってモグラ戦法ね!」

 モグラね、モグラ。確かにそうか。地面掘って地下を進む。

「そういうことだ。じゃ、行くか」




 昨夜使った穴をもう一度通って、アジトの中へと潜入した。

 尚、アジト内にパン穴空ける時は、ちゃんと物の下になって隠れるような位置に穴をあけるか、空いちゃった穴をうまく塞いだり隠したりしてやりくりしたので、多分、昨日の今日なら大丈夫だろう。実際大丈夫だった。

「……静かね……」

 しかし、入ったアジトは、静まり返っていた。

 何だ?敵側がスニーキングしてるってのか?

「罠、とかじゃ、ないよね?」

 エピが不安げだが、正直、俺も不安だ。


 アジト内を普通に歩き回ってみるが、昨夜とは違って、人が居ない。

 何故だ。何故、誰も居ない。

 ……罠、なんだろうか。だとしたら、一体、何の。

「……何か聞こえる」

 内心焦っていたら、エピがふと、立ち止まった。

 そして耳を澄まして……青ざめた。

「何か……獣の唸り声みたいな……血が滴る音みたいな……ううう」

「どこからだ?」

「あっち」

 エピが指さす方は、暗がりになっていてよく見えないが、何か札のようなものが掛けてある。

 ……だが、俺にはなんとなく、この先にあるものが分かった。

「……成程な」

「タスク様、何か分かったの!?」

 俺は音のする方と反対に向かって歩き始める。

「タスク様?」

「エピ、あっちに行っちゃ駄目だ」

「あっちには何があるの?」

 エピの疑問に答えるより先に、暗がりの向こうから音が聞こえた。今度は、はっきりと。

 ……。

「……トイレの邪魔は、するもんじゃない……」

「……うん」

 食中毒起こしたら、そりゃ、全員トイレに行っちゃうよね……。




 ということで、俺達は早速、悩み始めた。

「親玉だけ討ち取れればそれが一番いいんだけどな」

「トイレに居そうだよね……」

 親玉なんて、特に優先的にトイレを使用しそうだよね……。

 なんというか、盗賊達を弱らせるのが目的だったわけだから、これでいいんだが。いいんだが……トイレに押し入って盗賊を討ち取ろう、ってのは、流石に、ちょっと……。

 俺、想像力が欠如してたよ。ははっ。


 淡い期待を抱きつつ、アジトの奥の方に向かう。

 すると、割と普通に人が居た。謎の安心感!

 パンを食った量が少なかったのか、むちゃくちゃに胃腸が丈夫な奴だったのか、或いは単にまだ発症していないのか。

 それはともかく、とりあえず普通にぴんぴんしている奴も居た。もうむしろ安心感!

「おい、大丈夫か。しっかりしろ!」

「うう……腹痛い……」

 ……だが、ぴんぴんしてる奴も憔悴していた。

 元気な奴は元気じゃない奴の看病にあたっている模様。まあ、そうだよな。

 俺達が覗いている部屋では、2名の元気な奴が8名ぐらいの元気じゃない奴を看病しているらしかった。

 これはもう全員弱ってるし、ここを叩けば、それはそれはもう簡単に制圧できるとは思うが。

「痛い……痛えよお……」

「神様……」

 ……うん。

「エピ、ちょっと、相談があるんだけど」




 俺達はアジトで適当な物資を拝借して、アジトの外に出た。

 アジトの外はすぐ岩場なので、少し歩いて草地、さらにもう少し歩いて林の中に入る。

「えーと、うん。あったあった。これよ。タスク様」

 林の中には、少し変わった形の葉っぱの草が生えていた。

「これがお腹に効く薬草。すごく美味しくないけれど、効果はちゃんとあるのよ。すごく美味しくないけれど」

 2回も言った……。そんなに美味しくないのか、と気になって葉っぱを1枚食べてみた。


「だから美味しくないって言ったじゃない……」

「後悔してる……」




 その後、俺達はひたすら、すこぶる不味い葉っぱを集めまくった。

「これ飲ませるのは可哀相だろうか」

「ええとね、タスク様。ちゃんとこの薬草、ちょっと美味しくない飲み薬にする方法があるから大丈夫」

 美味しくはならないんだな?




 そして葉っぱを煮たり絞ったり、別の葉っぱ混ぜたり、盗賊の所から持ってきた蜂蜜混ぜたり、と色々やった結果。「すげえ……あの葉っぱが『ちょっとまずい』レベルにまで……!」

「ね?すごいでしょ?」

 すげえ!これはすげえ!滅茶苦茶不味い葉っぱの謎味が中和されて、ただちょっと苦味と微妙な酸っぱさみたいなのがある甘味になってる!つまり美味しくはないけどな!

「じゃあ、これを瓶に詰めて、と!」

 ちょっとまずい薬を瓶詰にしたら、籠に入れて……そして俺達は、再び盗賊のアジトを訪れた。




「な、なんだお前達は!」

 盗賊のアジトの正面では、見張りが1人で頑張っていた。人員不足か。人員不足なんだろうな。

 ナイフをちらつかせながらも、見張りの盗賊は焦っているようだった。まあ、こっちは2人だしな。

「どうぞ、剣をお納めください」

 だが俺は、脅しのナイフに慌てることなく、にっこりと笑う。

「私達は神様のお告げを聞いて来ました!」

「か……神のお告げ……?」

 エピの言葉にぽかん、とした盗賊に、俺が続けて言う。

「病に苦しむ人々が居るのではありませんか?薬を持って参りました。お助けします。……神の名の元に!」


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