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125話

パンの国を後にした俺達がやるべきことは、そう多くはない。

あとはもう、魔王を倒してジ・エンドである。

だが。

……折角だ。

最後の最後まで、絞りつくせる限界まで絞りつくそう。

具体的には、こう……。

「神が居なくなったからか……開いちまったぜ……」

「開いた、な……」

「あ、開いちゃった……」

「食べたい」

「うむ。同感だ」

神を失った天国では、本来開いていないはずのものが開いていた。

「知恵の実もさぞ美味い事だろうな」

具体的には、知恵の実へ続く門である。




「ほ、本当に食べちゃうの?」

「まあ、折角だし」

エピは俺が知恵の実を食う事になんとなく抵抗があるようだったが、まあ折角なので食べる。

既にユーディアさんと魔王ルカスはもっしゃもっしゃ食いまくっているので、俺も倣って木から林檎みたいな実をもぎ、食べる。

……。

「た、タスク様……」

俺が微妙な顔をしていると、エピが複雑そうな顔をしつつ、恐々、と聞いてきた。

「帰っちゃうの?」

知恵の実を飲み込み終えた俺は、正直に答えることにした。

「ああ。戻る」


「え、えええええええっ!?も、戻っちゃうの!?」

「うん。荷物だけ取りに」

「えっ?えっ、えええっ……?」

「あ、あと時々ゲームの充電しに帰るかも」

「え?え、えええ……」

「食い物とかの行き来もしたいし」

「……あ、あの……?」

「でも住むのはこっちにしたいな」

完全に頭が追いついていないエピに、俺は説明した。

「いや、ほら。なんか、普通に行ったり来たりできそうだから、異世界間反復横飛びしようかと」




「え?え?ど、どういうこと?わかんない……行ったり来たり……?反復横飛び……?え、ええ、と、じゃあなんでさっき、変な顔してたの……?」

「いや、だからつまり……あー、説明が面倒くさい。ということでエピ、これ食え食え」

「え?な、なもむにゅっ!?」

エピが頭の上に疑問符を大量生産しながら目をぐるぐるさせていたので、もうこっちの方が手っ取り早いかな、と思い、エピの口にも知恵の実を突っ込んだ。

……すると、エピもまた、俺同様に複雑そうな顔をする。

「……これで俺が言っていたことも分かったな?」

「うん……」

「そして、俺が知恵の実を食った瞬間、微妙な顔をした理由も、分かったな?」

「うん……これ……」

エピは口の中の実を飲み込んで、何とも言えない顔で、言った。

「おいしくない!」


この知恵の実、なんと、美味しくないのであった。

「でも食べられないぐらいまずい、って訳でもない……喉が渇いてたら食べてもいいかな、ってぐらい……」

この絶妙なまずさ、絶妙なおいしさのバランスがなんとも言えない。

「……頭が良くなりそうな味?」

「そうとも言えるかもしれないな……」

俺達は暫し、無言で知恵の実を咀嚼するのであった。


尚、頭が良くなったかと言われると微妙な気がするが、元の世界に帰る方法分かったし、100マス計算をやってみたら1分切ったし、ルービックキューブやってみたら10秒で6面全部そろったのでやっぱり頭良くなったんだと思う。多分。




さて。

非常に残念ながら、どのようにして元の世界に帰るのか、また、どのようにして戻ってくるかを説明することはできない。が、やればできる。当然のようにできる。できた。なので今現在、自分の家に置いてあったカニ○ン(本家本元の本物である)をエピに食べさせている。エピからは不評である。何故だ。

……ということで、こう、できることはできるし、何も問題は無いんだが、この感覚ってのは……あまりにも頭が良い人が『何故分からないかが分からない』為に勉強を教えるのは上手くない、みたいな感覚、なのかもしれない。

できるのに説明できない。それでも説明しようとするならば『頭の奥の方と記憶と目の前の空間に気合を入れると繋がるので、右手の意識でこじ開けながらリアル右手突っ込んでスイッチ押す感覚(時々チャンネル間違えるのでチャンネルの修正はここで行う)』なのだが、多分これ、全く何の説明にもなっていない。その自覚はまだある。

「……ま、先の事はまた後で考えよう」

「う、うん」

エピ自身も知恵の実を食べまくっていたら、異世界移動ができるようになってしまったらしく、いつのまにかバームクーヘン齧っていた。美味そうだな……。

「いいのか、そんなにホイホイと異世界へ行っていて」

「駄目ですかね」

「別にいいと思う。美味しい物が増える」

「かにぱーの本家に出会えるとは僥倖だな!うむ、美味である」

エピも相当であったが、この面子のこの様子を見ている限り、適応は相当速そうである。多分問題ないだろ。




ということで異世界間反復横飛びもできるようになった俺達はそのまま門を作り直して天国を通って地獄へ戻ることになった。

道中、エピのご両親とまたしてもご挨拶したり増やしすぎたパンを片付けたり何だりしながら恙なく天国を通り過ぎ、煉獄はパン獄になっていたのでこのままいっそ真のパン獄にしてしまえということで小麦畑と美味しい水が湧く泉と川と粉挽水車小屋と竈と豊かな自然とその他諸々を用意して、ひたすら好きなだけパンを焼ける環境にした。

要は、地上と何ら変わらない環境である。あとは好きにやってくれ。

ちなみにパン山はそのままだと腐るので、一度石に戻した。

それから別途、カニ○ン像を建設した。満足した。




続いて地獄に到着した。

「いい湯である」

「そういやここ、温泉になってたっけ」

「魔王よ、浸かっている暇はないぞ!?」

地獄の最下層は温泉もとい銭湯である。湯気がほこほこと立っている。やっぱり地獄じゃねえなここ。

ここは潔くきっぱりと風呂にしちまえ、ということで、階層丸ごと改装した。マッサージ機とかも置いたらなんか大分それっぽくなった気がする。

それから他の凍っている部分は寒いので普通の土地にした。

大分住みよい地獄になった。満足した。


それから各階層を適当に改装しつつ戻った。

結果として、ワイナリー階とか、飴玉とか金平糖とか降ってくるエリアとか、焼き肉階とか、金貨とコインチョコいっぱい階とか、わくわくふれあいケルベロス広場とか、白い砂浜と青い海とか、なんかそんなかんじの地獄が量産された。

そもそもこれらの階層全部行き来するのめんどくさいという事に気付いたので、エレベータを設置した。全階層ぶち抜いたので移動が楽になった。




「……それでこうなったわけね」

そうして俺達は幽霊女もといリュケ嬢に今までのいきさつを報告がてら、休憩しているところである。

「満足した」

「もう地獄じゃないじゃない……」

窓から見えるカニ○ン像を見て何故か溜息を吐かれたが俺は満足である。

……何というか。

地獄は全階層ぶち抜いたので、各階を移動できるわけだ。

それぞれの罪人もとい死者がそれぞれ自分にとって住みよい階に引っ越し始めたので、地獄は大きく様変わりしている。

「レギオンがワクワクふれあいケルベロス広場に行ったのが意外だったな……」

お金大好きエリアに居たレギオンは地獄を行き来できるようになってケルベロスと出会い、ケルベロスの魅力に気づいてしまったらしい。

今はお金大好き根性を発揮して、見事、ケルベロス調教師兼ケルベロスショー開催者としてお金を集めている。なんというか、ケルベロス広場の運営が勝手になされ始めたのでこれでいいかなって気がしている。

「それと、思ってたより個人用地獄の利用者が少なかった」

そして、地獄をぶち抜いてしまった都合上、『地獄に落ちろ!』と願った人と地獄で再会してしまう不幸が勃発しやすくなったため、避難場所というか、『余生というか死後は静かに暮らしたい』人のため、その人個人とその人が招いた人しか入れない個人用地獄……要は、個室みたいなものを一応作っておいたのだが。そちらの利用者はあまり多くなかった。要は、地上とほとんど変わらない環境で、多くの人の中で生活することを選ぶ人が多かった、ということになる。

「やっぱりみんなと一緒に居たいんじゃないかな。私だったら、そうするもん」

「現在の状況だと、死んでから第二の人生がスタートできる訳だからな。やり残したことがある者や新たにやりたいことがある者は地上と変わらぬ環境で過ごしたいと願うのだろう」

そういうことなんだろうか。まあ、死んでニューゲーム、というわけにはいかないが、コンティニューができるだけでも違うか。

「……で?私はこれ、どうすればいいの?」

「リュケ嬢は好きな地獄行くなり、天国行くなりパン獄行くなり好きにして下さい」

「私ここから動く気無いわよ、気に入ってるもの……ってちょっと待ってパン獄って何よ」

「あ、そうですか。じゃあ地獄のスタッフ全員サンズリバー近辺に配置したんで元締めよろしくお願いします」

「ちょっとまってスタッフって何よ、サンズリバーって何よ、元締めって何よ!」


ということでリュケ嬢にも話を通しておいたのでこれで地獄は多分大丈夫である。

まあ、あとは死んだ奴がそうそう生き返らなければ大丈夫だと思うので、サンズリバー逆行だけ注意してもらう事にしよう。




そうして三途の川を越え、地獄の門をくぐり、火山の奥底から戻り……遂に!

「うおっまぶしっ」

「なんというか……生き返った心地、というか……奇妙なものだな、別に死んだわけではないのだが」

「私は実際生き返った」

「久方ぶりの地上である」

「なんか変なかんじ……」

俺達は地上に戻ってきた。

俺としてはまだ『帰ってきた』という感覚だが、エピとユーディアさんは一回死んでいるからな。感慨も一入、だろう。

秋の国オートロンの爽やかな空気はやはり、天国のものとも地獄のものとも異なる。言うなれば、『娑婆の空気』っていうかんじだろうか。この、『生きてる!俺、生きてる!』感がすごい。すごくいい!

「まあ、何はともあれ、だ」

俺は適当にそこら辺の石をカ○パンにして食べた。やっとそこらへんの石食えるようになったぜ。

「魔王倒してハッピーエンドといこうぜ。その後の事はその後考えよう」

カ○パン片手に、俺達は海に向かって歩き出した。

まずはパン橋でプリンティアに渡り……向かうは元・プリンティア城である。

そして魔王をぶっ殺して、ジ・エンドだ。

……ただ。

「問題は、魔王モルスがどこに居るか、だな……」

カラン兵士長が、深刻な顔で呟いた。


「そういやカラン兵士長は最後まで生き残ってましたけど、魔王って」

そういえば、俺達は死んでいるので魔王が結局どうなったのか、詳しく知らないのである。

俺はその後無人島で生き返ったが、その時点では魔王の姿が見えるとかは無かった。要は、魔王城が空に浮いてるとかそういうことは特に無かった。

では、魔王はまだプリンティア城に居るのか?

その答えは、カラン兵士長からすぐに出てきた。

「ああ、消えた」

「消えた!?消えたの!?」

消えたらしい……。


次回か次々回が最終回です。

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