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115話

「只今戻りました魔王ルカス様!」

 天国を抜けたらほとんどもう地獄みたいなものである。煉獄は一瞬で通り抜けた。

 そうして俺達は無事、再び、地獄の底、氷の湖の底へと戻って来たのであった。

「速かったな。ふむ、そちらが神の玉梓か」

「タスク様!なんでこの人かにぱーちゃん食べてるの!?なんで!?」

 そして、エピとルカス様はここで初対面。

 ……エピが当然のように当然な反応をしてのファーストコンタクトと相成った。


「このかにぱーとやらは美味いからな」

「タスク様、こんなに作っていったの!?」

「いや、買った、というか、部下に買わせたのだ」

「買ったの!?」

「部下をファリー村という、のどかな善い村にお使いにやってな、買って来させたのだ」

「よりによってファリー村!」

 天国に行っている間にすっかり浦島太郎状態、つまり最新情報から取り残されてしまっているエピは、一々リアクションが新鮮である。いいな。俺はもうすっかりスれちまったからな。こういうみずみずしいリアクションが出てこねえ。


 が、リアクションのすばらしさはさて置き、このままエピが1人だけ情報周回遅れなのはあんまりなので、現在の俺達の状況を話した。

「へー……つまり、私がいない間に、地獄がかにぱーちゃんまみれになって、煉獄はパンになって、天国もかにぱーちゃんまみれになったのね」

「まあ大体合ってる」

「いいのか?タスク、それでいいのか?」

 まあいいと思う。そこら辺は別に、『そしてパンだけになった』だけで話が済むところだ。

「それで……この人が、魔王、なのね」

「魔王ルカスだ」

 済まないところ、つまり、ここが分かっていれば何ら問題ない。

 エピは、『魔王討伐』を掲げてはいたが、旧い魔王に対しては、むしろ好印象すらあったようだ。イスカの事もあったし、吹雪の城の魔物達の話もあったし……もしかしたら、天国で色々見聞きしてるのかもしれないな。

「うん、よろしくね、魔王ルカス様!私はエピ!」

「うむ。話は聞いている。こちらこそよろしく頼むぞ、蟹の玉梓、エピ」

「蟹じゃなくて神」

「うむ。紙の玉梓」

「あの、それだと普通に紙に書いたお手紙、って意味になっちゃうから」

「おや」

 とまあ、この調子で、エピと魔王ルカスは割とすぐに打ち解けたのであった。




「それで、私がルカス様の封印をなんとかすればいいのね?」

「うむ。神の封印は其方の力で解けるはずだ。さすれば、残るは地上の魔王、魔王モルスの封印のみ。奴の封印如き、単品であれば余の敵ではないのでな」

 それは心強い。つまり、セットメニューが単品になったが最後、ちゃぶ台返しは待ったなし、ということか。うん、自分で言っててよく分からん。

「えーと、それで、封印を解くって……どうすればいいの?」

「ああ、其方が思うように『封印を解く』のだ。封印も魔法であるからな、イメージ次第ということだ」

 魔王ルカスの言葉に、エピは首を傾げている。

 なんというか、『勉強ができる人は勉強ができない人がどう分からないのかが分からないから教えるのが下手』みたいなかんじだな、これ。

「要は、手段は其方自身の中にある、ということだ。好きに何でもやってみよ」

「分かった。色々やってみればいいのね?」

 そして最終的にはこういうところで落ち着いてしまった。いいんだろうか、これで。




「じゃあ、いくね!」

 そうして、『本当に色々やってみる』ことにしたらしいエピは、特に悩むことも無く、鞭を手に取った。

「うむ……うむ?」

 魔王ルカス様は、目の前で鞭を手に満面の笑みを浮かべるエピの姿に、一抹の不安をお覚えになられたらしいが、

 時、既にトゥーレイトである。

「封印とけろー!」

 ひゅ、と、風を切り裂く鋭い音と共に、鞭がしなる。

 そして、スパシン、みたいな音と共に、魔王ルカス様が横っ面を鞭で叩かれたのであった。

 ……。


 その後も、エピはひたすら鞭を振りまくって、縦横無尽に魔王を叩きまくった。

「ちょ」

 パシーン。

「ま」

 ピシーン。

「神の!」

 ズバシン。

「神の玉梓あああああああ」

 ビシン。

「なあエピ、魔王様の下半身が発光してるけどこれもう封印解けてるんじゃ」

「玉梓あああああ!解けた!もう解けたぞ!解けたから!」

 ズドッ。

「えっ、本当?」

 ひゅん。

「あ、ああ……最初の一撃で解けていた……」

「えっ?えええ、ご、ごめんなさい、いっぱい叩いちゃった……」

「う、うむ。いっぱい叩かれてしまった……」

 魔王ルカス様は叩かれ損であったらしい。

 何故だろう、封印が解けたというのに、手放しで喜べない自分が居る。


「……まあ、これでやっと忌々しい封印が解けたのだ。感謝するぞ、神の玉梓」

 が、魔王様は寛大であらせられる。

 鞭でビシバシ無駄に叩かれまくったというのに、感謝の言葉を述べた。

 そして、よいしょ、とばかりに、下半身が埋まった氷の上に両手を着いた。

「どっこいしょ」

 そのまま、ずるん、と、氷から出てきた。

「……出ましたね」

「ああ。ようやく、だ」

 俺は今の光景を見て、封印が解けた、というよりは、こう……カニカマをビニールから出した、とか、蟹の脚から綺麗に身が剥がれたとか、なんか、そういうかんじの印象を受けた。


 魔王ルカス様はそのまま氷の上に座ると、静かに瞑想を始めた。

 ……確か、神の玉梓としてエピが解ける封印は、神の封印だけなんだったな。

 残る、新魔王こと魔王モルスの封印を解くのは、魔王ルカス様ご本人、ということだ。

 そうしてしばらく、瞑想する魔王を見ていたところ。

「あ、光った」

 突如、魔王ルカスが光り始めた。

「きれいだね、タスク様」

 尚、エピからすると、イルミネーション扱いらしい。

「これは……発熱しているのか」

 しかも魔王ルカス様は発熱までなさる。

「イスカにこの状態の魔王を置いておいたら暖かいから皆喜ぶ」

 だが、ユーディアさんからすると、暖房器具扱いらしい。しかも公共物にしようとしている。

 俺達は光りながら発熱する魔王をしばらく眺め、ついでに暖を取って待ち続けた。

 ……そして。

「うおっまぶしっ」

 一際強く光った、と思ったら、遂に。

「……やれやれ。これでようやく、元の姿に戻れた。感謝するぞ、救世主らよ」

 ……俺達の目の前には、とんでもないレベルのイケメンが立っていたのである。


「あの、誰ですか」

「何を言うか、余は魔王ルカスぞ」

「いや、俺の知ってる魔王ルカス様は首が3つぐらいあって下半身埋まってて上半身でひたすらカニパ○食ってるお方なんですが」

「封印が解けたからな、ついでに掛けられた呪いも解いた。それにこの姿に戻ってもかにぱーは食すぞ。味覚は変わっておらんでな」

 言いながら、魔王ルカス様はカ○パンを手に取り、召し上がるのである。

「うむ、美味い」

 そして満足げに微笑まれるのであるが、何か、何か……何か、釈然としない何かを感じるのは俺だけだろうか。いや、恐らく俺だけではないはずだ。カラン兵士長も何とも言えない顔をしている。エピは単純に驚いているだけだし、ユーディアさんは何を考えているか分からない顔をしているが何も考えていないのだろうから特にどうとも思っていなさそうだが。

「む、どうした?お前達も食べるか?」

 俺達の内心を知ってか知らずか、魔王様はカニパ○を差し出してきた。

「私はあんまりお腹空いてないからいい」

 エピは断った。

「ああ、俺も遠慮しよう」

 カラン兵士長も断った。

「私は食べる」

 ユーディアさんは食い意地が張っている。

「俺も食べますよルカス様!」

 俺はカニ○ンが好きだ。愛している。

「……やっぱり私もちょっぴり食べようかな……うん、ちょっと食べてから時間経ってるし……」

 そしてエピもやっぱり宗旨替え……ん?

 ん?

『食べてから時間経ってる』だと?


「エピ」

「なあに?タスク様」

 俺は、内心、滝のように冷や汗をかきつつ、エピに確認した。

「天国で何か、食べたか?」

「うん。ご飯食べたよ。あんまり美味しくなかったんだけれど……」

「食ったのか」

「え?うん」

「あの世の飯を、食っちまったか」

「うん。……もしかして、駄目だった?」

 駄目だった!




 エピだけは事情が分かっていないが、他の面子はこれがどういうことなのか分かっている。

 彼岸の飯を食ってしまった、という事は、だ。

「エピは……冥府から現世に戻っても、生き返れない……?」

 一縷の望みをかけて、魔王ルカスに問う。

 すると、魔王ルカスは……頷いた。

「そういうことになる」


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