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10話

「……まさか上から来るとはな……」

 だが、魔物は死ななかった。それどころか、気絶もしてくれなかった。

 多少ふらつきながらも、魔物は立ち上がる。

「……ん?どこに行った?」

 そして俺はというと、天井から奇襲して魔物の脳天ぶっ叩いて、そのまま華麗に着地、とか、できるわけが無いので。

「ど、どこだ?どこに行った!?」

 俺は現在、魔物の首に脚引っ掛けて!フライパンを振りかぶっています!




 ひたすら絞める。

 ひたすら殴る。

 魔物の首に脚をひっかけ。魔物の肩に尻を据え。

 そして俺はひたすら、脚で魔物の首を絞めつつ、フライパンで魔物の頭をガンガンガンガンやっていた。

 その姿、宿主を殺さんとする寄生虫!或いはホタテ貝を石で割らんとするラッコ!

 最早気でも狂ったのではないか、と自分でも思っちまうぐらい、一心不乱にフライパンを振り続ける。

 ガンガンガンガンガンガンガン。

「ぐわああああああああああ!?」

 ガンガンガンガンガンガンガン。

「きっ、貴様ああああああああ!」

 ……しかし、この魔物、滅茶苦茶脳天が強いのか。

 首を絞め、頭を強打しまくっているというのに、普通に悲鳴を上げて普通にもがいてくれるんだが。

 ……そろそろ死んでくれねえかな!




「っくそっ!」

 そして間抜けな構図は終焉を迎える。

 魔物が思いっきり、俺をふっ飛ばしてくれたからである。

 しかし、着地地点の床をパンに変えることで、そこまでのダメージも無く着地することに成功。奇跡的である。まあ、石がパンになるって事がまず奇跡なんだけども。

 そしてそんな俺が見ている前で、魔物はゲホゲホ咳き込んでいた。さっきまで猛烈に首が絞まってた訳だからな。

「っはあ、はあ……くそ、貴様!我を馬鹿にしているのか!」

 首絞まって頭ぶっ叩かれたんだから死んでくれれば良かったんだが、流石にそこまでうまくはいかなかったらしい。頑丈すぎやしない?

 しかし、これで魔物を挑発できたと考えれば、まあ、うまくいってる!ってことにしよう!

「やーいばーかばーか」

「死ね!」

 ついでにもう一声挑発してみたところ、元気に爪を繰り出してきた。

 さっきまでボッコボコにされてたっていうのに、実に元気な魔物である。

「っぶね!」

 そして俺は死にたくないので避ける。

 続いてやってきた第二撃はフライパンを盾にしてギリギリ防げた。もう俺、フライパンに足向けて寝られねえ。

 フライパン神ガードに感動する間もなく、第三撃が来る前にさっさと逃げ出す。

「どこへ行く!逃げる気か!」

「その通りです!」

 振り向かない勢いで全力疾走すれば、さしもの魔物も追いつけない。

 俺は死にたくないので必死で走る。

「待て!待たんか!」

「誰が待つかばああああああか!」

 必死に走って、走って……俺は再び、魔物が座っていた椅子まで戻ってきた。

 そこで俺は椅子によじ登る。

 ……椅子の上には、俺が空けた穴があるのだ。


 魔物は俺が穴から逃げるつもりだと察したらしい。

「逃がすか!」

 椅子によじ登って、もたもたしていた俺に魔物が迫る。

 迫り、迫って、迫って。

 そして。

「えいっ」

 ばしっ。

「ぐあっ!?」

「それっ」

 べしっ。

「うぐっ、な、なにが」

「もういっちょ!」

 ぱしーん。

 顔面を、おもいっきり、鞭で引っぱたかれた。


 鞭は勿論、エピの物だ。エピが穴から鞭を伸ばして、魔物を攻撃してくれた。

 そう。俺の目的は穴から逃げる事ではない。今の今まで隠しておいたエピが、完全なる不意打ちで魔物を攻撃することが目的だったのだ。

 そして、俺が椅子に登ったのは、魔物を誤解させるためだけではない。

「くそ、目が、見え……」

 顔面、それも目玉を見事にやられたらしい魔物に対して、俺は飛ぶ。

 椅子を踏み台にして、魔物の頭の高さまで。

 そして振りかぶって、フライパンを、フルスイング!

 ごいん。

 魔物の側頭部から、フライパンの平らなところじゃなくて、縁の部分がクリンヒット!

 この猛烈な攻撃に、遂に!

 ごろり、と、魔物の首が、床に転がる。

 ……。

 いや、流石に俺、首をもぐ気は無かったんだが。




「……ふふふふふふ」

 首がもげた魔物が笑う。いや、笑ってるのは、もげた首の方じゃなくて、残った胴体の方である。

「残念だったな……!我の中枢は頭部にあらず!」

「えええ……」

 つまり、腹とかに脳味噌が入ってるってこと?気持ち悪いな!

「油断した愚かさを悔ふべらっ!」

 まあ、うん。

 腹に脳味噌入ってるんだなって分かったら、口上とか聞かずに、腹ぶん殴るよね……。




 それからまたホタテ貝を割らんとするラッコよろしく、気が狂ったようにフライパンでガンガンガンガンやり続けた結果、魔物は死んだ。


 そうこうしている内に、エピが階段から降りてやってくる。

「タスク様ー!やったねー!」

「おう。上手くいったな」

 ……うん。

「正直、なんでこんなにうまくいったのか良くわかんね」

 正直、『一撃目で駄目だったらアウト』ぐらいの気持ちで居たんだよな。

 それで、駄目だったらエピの鞭で隙を作って、その隙に逃げる、ぐらいの気持ちで居たんだが。

 だが、まあ、魔物が結構、乗せられてくれる奴だったので。いける気がしていったらいけた。

「でも結構危なかったもん。タスク様、もうこれ、次からはやめよ?」

「うん。正直これ、床から掘り抜いてやった方がいい気がする」

 それから俺とエピは、今後の戦略についてああでもないこうでもない言いながら、更に遺跡の奥へと進んだのだった。


 が。

「行き止まり、だよね……?」

 俺達の目の前には、壁があるだけであった。

「春の精霊の声を聞ける、っていう雰囲気でも無いよなあ……」

 祭壇があるでもなく、なんかご神体があるでもない。

 壁である。ここにあるのは只の壁である。

「ええと、精霊様ー!聞こえますかー!」

「精霊様ー!」

「居たら返事してください!」

「お願いします!」

「春の精霊様出てきてくださーい!出てきてくれないと目玉をほじくりますよ!」

「えっ!?ほ、ほじくりません!ほじくらないので出てきてください!」

 ……呼びかけてみたが、答えは無し。

 これは……うーん。

「やっぱり、精霊の声を聞ける、ってのは迷信だったのか……?」

 ここまできて、骨折り損の予感。




 それからしばらく、あっちこっち探してみたんだが、結局精霊は見つからなかった。

「どうしたもんかな」

「ね」

 俺達はとても困っていた。

 何故困っているって、俺が元の世界に帰る方法を聞けないっていうだけじゃない。

「これ、このまま地上に戻ったら、俺達、王都の兵士をぶん殴った犯人としてバレバレだしな……」

「うん、よく考えたらそうだよね……」

 イマジン。想像してみよう。

 ……今、遺跡前には、王都の兵士達がぶっ倒れている。

 そこに人が集まって、何があったのかと囁き合っている。

 そして、そこへ、遺跡から俺達が出てくる。

 ……俺達が犯人だって言っているようなもんである!

 それはまずい!流石にまずい!王都の兵士達としても、『酒で酔ってぶっ倒れましたー!』って言うよりは『この不審者達に不意を突かれ……くっ……!』みたいな事を言って責任を軽くしたいだろうしな……。

「だから精霊様に会って、どっかにワープでもさせてもらえれば良かったんだが」

「もしかしてタスク様ってあんまり後先考えてなかったの?」

「うん」

 エピが微妙な顔をしているが、仕方ない。

「いっそ、遺跡の壁をパンにして掘り進んで、ちょっと離れた場所から地上に出るか……」

「うう……嫌だけどそれが一番いいかも……」

 俺達は俺達の為に、遺跡の壁をまたしてもパンにすることにした。




「じゃあ、折角なので一番奥の壁をパンにしよう」

「うん。ここから掘り進んだら、町の外に出られるもんね」

 ということで、さっきの突き当りにあった石壁をパンにした。

 ら。

「……ねえ、これって……」

「……当たり?」

 壁をパンにしたら、その先に、通路があった。

 ……どうやら、この壁もまた、偽物だったようだ。




 通路を進む。

 通路は暗いし狭い。俺、閉所恐怖症じゃなくてよかった。むしろ狭いところ大好きである。

「狭い……暗い……」

 だがエピは狭い所がそんなに好きじゃないらしい。可哀相に。でも進む。


「……わ、綺麗」

 だが、しばらく進んだ先には、地下とは思えない開放的な光景が広がっていた。

 小さくドーム状に広がった部屋。

 部屋の中央には泉が湧き、泉の中央には巨大なクリスタルがあった。

「……春の、精霊様……?」

 恐る恐る、エピが呼びかけると、静かに空気が動いたような、不思議な気配があった。

 そして。

『はーい』

 ……とても軽い返事が返ってきた。


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