馬車での思い
俺達は馬車で目的地である獣人国を目指していた。
初めての馬車で尻が痛い!場所によっては凄く揺れるしとにかく尻が痛む。馬車はこの世界の主な移動手段だそうだけどよく我慢できるな......それとも何度も乗るうちに慣れるものなのだろうか。
「はぁ、空でも飛べたらなぁ」
思わず口に出してしまった言葉に二人は反応した。
「アルト様?どうしたのです?」
「人は、飛べない、飛べるのは一部の種族だけ」
「なあ二人とも少し聞きたい、空を飛ぶような魔術は無いのか?」
これは前から気になっていた事だ、魔術なんてものが存在するんだ空を自由に飛ぶ魔術だってあると思っていたんだが。未だに空を飛んでいる人間を見たことが無い、これは人間にとって不利な事は確実だ魔王国はエイミーのように空を飛べる悪魔も居るだろう。そうなれば空の支配権は魔王国にあるという事になる、戦況もひっくり返す事も可能だろう。
「いいえアルト様、私の知る限りでは空を飛ぶような魔術は聞いたことはありません」
「姫様の言う通り、聞いたことない」
「そうか、聞いたことがないか。なら勇者なら飛べるとかは?」
「さすがの勇者様でも飛べないかと、その様な噂もありませんですし」
「勇者でも無理、そしたら、勇者もっと強い」
「そうか、二人ともありがとう良い情報だった」
「いえ、お礼を言われるほどでは///......ではジェイクさんに聞いてみるのはどうです?何か知っているかもしれませんよ」
確かにジェイクに聞くのが一番だな、もしかすると禁術であるかもしれない。まあ有ったとしても禁術なら何かしらの不利な事があるのは間違いないと思うが......。
うーん......他にいい方法はあるだろうか?他の奴等が空を飛べないとなれば飛ぶことで優位に立てる事は間違いないからな。
「そうだな、聞いてみるとしよう…最後に一つ聞いてもいいか?二人は痛い所とかないのか?」
「いいえ、ないですよ?」
「痛くないの」
「......そうか、いや特に理由があって聞いたわけじゃない。さあそろそろ飯にするか」
「「はい(なの)」」
どうやら痛がってるのは俺だけのようだった。俺はごまかすために飯を食べることにした、勿論この飯も力を使いせしめた......頂いたものだ、馬に乗っている奴の分はない。あいつは今や人形同然、馬を運転するためだけに居るようなものだ。人形に飯なんていらないだろ?
「じゃあ私はあの人に言ってきますね」
「その必要はないよ、ミランダ。どうやら自分の食べ物はあるようだからさ」
「そうなのですか?分かりました、では私達は私達で食べましょう」
「やっとご飯、私お腹減ったの」
こうして俺達は馬車で最初の食事をして会話をしながら過ごした。ずっと馬車が動いていると違和感があるだろうから不自然に思われないように夜は馬車を止めさせた、そして俺は交代制で見張り役を立てることにしようと提案したが二人は反対した。
「見張りなら私とカナンちゃんに任せてください、アルト様に見張りをさせるなんて奴隷として容認出来ません」
「私に任せて、お兄ちゃんは、休んでいてなの」
ミランダは意外と頑固な所があると知っていたから反対してくると思っていたがまさかカナンまで反対してくるとは思ってもみなかった。
「カナンお前もか......お前達が言うことも分かるが、俺はそれほど強くはないお前達にも力を借りることもある。お前達が無理して体調を悪くしたら俺の利益を損なう、だからこれは命令だ」
「......仕方がありせんかアルト様の命令なら従うしかありません、ですがアルト様の見張りの数は少なくしてもらいます!ここは奴隷として譲れません!」
「姫様と同じなの、お兄ちゃんはそんなやっちゃ駄目」
「ああ、それで納得するならそれで構わないさ」
「では最初は私ですね、アルト様とカナンちゃんは休んでください」
さてまあ、これで一人になる時間は確保出来た。交代までゆっくり休ませてもらうとしよう、動いていなければ馬車の中も案外良いところかもしれないな......尻はまだ痛いが。
俺は横になり段々と夢の中に落ちていった。
「アルト様は寝たかな?」
「うん、お兄ちゃんは寝たよ。疲れていたみたいなの」
「そうだね、ここ最近のアルト様は疲れているように見えた。それにそういった時にアルト様がミカって言ってる。カナンちゃんはミカって聞いたことある?」
「知らないの、でも私も聞いたの、その時のお兄ちゃん悲しい顔してたの」
「うんアルト様の大事な人なのかな?なんか妬けちゃうなアルト様にそう思って頂けるなんて......」
「姫様はお兄ちゃんの事好きなの?」
「......うん。私はアルト様に助けられた時から好きだった。昔よく読んでいた本に出てきた王子様に見えたの、颯爽と現れて姫を助ける王子様に。」
「でも、姫様、お兄ちゃんは誰の事も好きじゃないの。分かるの、私も姫様も使える者としか見ていないの」
「......うん分かってる。私も含めて誰の事も好きじゃないし信用してないと思う、それでも私はアルト様の役に立ちたいし好きって気持ちは変わらない。例えアルト様に切り捨てられたとしてもね」
「私もお兄ちゃんが好きなの。役に立ちたいの、姫様と一緒なの」
「じゃあ一緒にアルト様の為に頑張らないとね!いつか必ず好きにさせてみるわ!」
「おおーなの」
二人はアルトへの気持ちを確認しあいアルトの役に立つと改めて誓ったのであった。
「......美香」
アルトのその呟きは二人には聞こえなかった。




