勇者の協力
俺はレンを訪ねるためレンの屋敷にやってきた。どうやら屋敷は無事のようだ流石は勇者強運だな。
「すみません、レンは居ますか?少しお話があるのですが」
俺はドアを叩きそう言うと、前回と同じようにメイドがやっていて俺を屋敷に招き入れた。メイドの話によるとどうやら今はレンはおらずルンとエレナしかいないようだ。
「よう、久しぶりだな。今レンはいないんだ、すぐ帰ってくるからそれまであたしと話さないか?」
「ルンともお話ししてほしいな、アルトさん」
確かこいつらが王国に残っていたんだよな、お前達が居なければもっと王国にダメージを与えられただろうに。さて、俺と話したいとは何だろうな。警戒はしておこう特にエレナだ。こいつは初めてあった時から俺を警戒している様子だった、ルンのほうは特にそう言った様子はないが、まあなんにせよ余計なこと喋らないようにしなくてはな。
「ええ、構いませんよ?ただレンを待っているのも退屈ですし、お話ししましょうか」
「なら、あたしから質問していいか?」
「ええ、私に答えられる事ならば」
「そうか、ならアルト。お前は何者だ」
直球だな、普通客人に対していきなりお前は何者だなんて聞くか?......いや聞くのか現に今聞いているし。
「何者と言われましても、私はただの旅人でちょっとしたお金稼ぎで冒険者をやっている者ですよ」
「いいや、あたしにはただの冒険者とは思えない。私はお前が怖いと感じた、魔王と戦ったが魔王よりお前に恐怖したんだ」
「そう言われましても、私はただの旅人で、少しだけ腕に自信がある冒険者ですよ。私が魔王より怖いと思われる要素なんて一つもありませんよ」
「そんなことは......「エレナ落ち着いてアルトさんが困るでしょ?すみませんエレナが変なこと言って」
魔王より怖いか、思ったより俺を警戒しているようだ。俺は魔王を知らないからどうか分からないが、俺の方が怖いとはそれでも勇者か?
「いえ、別に気にしていませんよ。もしかしたら私の顔がエレナさんの気分を害しただけなのではと、よく言われるんですよ。あんたの顔は怖いって」
「あはは、そうなんですか?ルンはそうは思いませんよ?優しい方だと思いますし」
「そう言っていただけると嬉しいですね」
少し黙っていたエレナが口を開いて俺に謝ってきた。まあ今回のエレナの話を聞く限りじゃあ勇者一行の間で俺の事を気にかけている事は分かった。これからは慎重にやっていかないとな。さてレンは居ないが本題に入るとしようか。
「所で私もお二人に尋ねたいことがあるのですが、聞いてもいいでしょうか?」
二人は頷いた。さあ、どう返答してくるか
「ありがとうございます、ではお二人はエルフについてどう思われますか?」
「エルフか?王国に滅ぼされた国の連中だろ?10年前に王国と戦争して敗れた結果が今の現状だ。可哀想とは思えないな、だけど嫌いってわけじゃない。良い人はエルフにも居た…魔王国との戦争で死んでしまったけどな」
「そうだね、本当に良い人だった。ルンの命の恩人でもあるし私はエルフを奴隷から解放したいと思ってる。もう居ないけど少しでも恩返しになれたらいいな。でも......皆は良く思ってないみたい」
......これは思った以上の返答だな。もしかして女神様の加護があったりしてな、運が味方している気がする。
「良かったです、お二人がエルフの事を嫌ってはいないようで。私は旅の途中でエルフの人達に会ったのですが国を再建したいと言っていたのです。私も成り行きでエルフの奴隷が居るのですが、その人の話を聞いて力になればと思って微力ながら手伝おうと思っているいのです。そこでお二人に協力をしてもらいたいなと」
「......どうやらあたしは勘違いしていたようだ、すまなかった。あたしはアルトの事を警戒していたがどうやら警戒する必要はないな」
「ルン嬉しい!もちろん協力するよ!レンにも協力してくれると思う、レンもエルフの待遇の事は良く思ってないから」
......協力は喜ばしい事だが君達には失望したよ。そんな簡単に賛同するようなら今後お前達は自分の選択で自分を滅ぼす事になる。何事も疑ってなんぼだ、すぐ信じ信用すれば痛い目に合うのは自分自身だ…所詮信じられるのは自分だけだ。
「そうですか、それは良かったです!ですが協力してくれるのはありがたいですが、ルンさんも言っているようにエルフの事を良く思っていない人も当然多くいます。なので皆さんには暴動が起きないようにしてもらいたいのですよ」
「それくらいなら全然問題ない。でも暴動は起きないと思うぞ?今の状態だとな」
「エレナの言う通り、ルンも暴動は起こらないと思うな。とりあえずレンが来てから話そう」
「そうですね、レンが来てから具体的な事は話しましょうか。一番重要な事を頼む事になると思いますからね」
レンには国王をどうにかしてもらわんといけないからな、まあ駄目だとしても今の王国の戦力じゃあエルフの国の再建に口出しは出来んだろ、その為の王国の襲撃なんだからな。
暫くしてレンとニーナが帰ってきた。
「アルトさん、待たせてしまってすみません。事件がありましてニーナと一緒に現場を見て行っていたものですから」
事件......もしかして。
「いえ、こちらが急に来たのですから謝らないでください。それでレン、事件とは一体何があったのですか?」
レンとニーナから、事件の詳細を聞いた。今朝がた魔術師の死体が見つかったとの事だ、目撃証言もなく刃物で心臓を一突きされているという事しか分かっていないらしい。
......どうやら本当に上手くやったようだな上出来だ。だがやはりレンが動いたか、優秀な魔術師の損失はこの国にとっては大きいだろうな。
「それは悲しいですね。一刻も早く犯人が見つかることを祈ります。それでその影響はどのくらいなのですか?この国に滞在している身としては不安があるのですが、しかも今は魔獣の襲撃で食料もやられ建物は破壊されている状況ですし国王はどう思っているのですか?」
「私もアルトさんと同じ意見です......レン。国王はこの状況をどう見ているのですか?襲撃から国王は姿を見せていない。この中ではレンだけが国王と会っているのですから何か聞いていないのですか?」
「そうだねニーナ、アルトさんそれに皆も聞いてくれ。今この国は過去にない危機的状況にある、国王は獣人国に使いを送り食料と人員を回してもらうつもりだ。だからもう少しすればこの状況も変わると思う、だから心配はいらない......と言えればカッコいいんだけどね」
「まったく、レン。最後のは余計だぜ?レンはいつだってカッコいいんだからな」
そうか、やはり獣人国と繋がっているか。まあ詳しい関係は分からないが王国の方が上の立場にあるようだ。
「はは、エレナありがとう、嬉しいよ」
だけどレンの口振りだとどうやらまだ使いを送っていないようだ、この段階で食料と人員が来るのは厄介だな。
「べ、別に本当のこと言っただけだし///」
後で獣人国に向かわせたバロンに連絡をする必要があるな、使いを殺すのは簡単だろうが殺したらレンはこの話を聞いた俺達を疑うだろう、だが自分の仲間を疑うようなことレンはしないだろうな。なら疑われるのは間違いなく俺だ。
「エレナだけずるい~ルンもレンの事カッコいいって思っているんだよ~」
疑われてレンと敵対するのはエルフの国の建国に邪魔になる可能性が高い、それに今の俺の力でレンにどこまで通用するのか分からない。こんな状態ではリスクがでかすぎる、なら魔獣を襲わせれば…駄目だそんなピンポイントで襲わせれば不自然だ使いは魔獣が少ない場所を通るだろうしな。くそ!こんな事ならこういう知識をもっと身につけておくんだった......はぁ意味のない事を考えるのは辞めよう。取り合えずレンにエルフの件を話さなくちゃな。
「二人とも、アルトさんが居るんですよ?ごめんなさいアルトさん、またこんな所をお見せしてしまって…アルトさん?大丈夫ですか?顔色が悪いように見えますが」
「......あ、いえ大丈夫ですよ。こんな悲しい事件があるのにも関わらずレンに頼むのはどうかなと考えていただけですので」
「僕に頼み事ですか?護衛して頂いた事もありますし僕が力になるのなら協力しますよ」
俺はエレナとルンに話したことをレンとニーナにも話した。
「そうですか、エルフの国の再建ですか。勿論協力させていただきますよ!僕もエルフの人達の待遇には疑問があったんです。いくら戦争して勝ったからってその国の人達を道具のように扱っていいはずがありません」
「レンの言う通りですね、それにアルトさんが建国に携わるのであればこの王国と少なからず戦争になんてならないはずですし。いえそんな事は私達が許しません、国王は私達が何とかしてみせます。ですがエルフの国は獣人国が支配しているはずですそこはどうするのですか?」
「そうですか!ありがとうございます!勇者の皆さんが協力してくれるのであれば建国も可能でしょう。獣人国の方はこちらで何とかします、なるべく平和に事をなしたいですが獣人国次第では少し手荒な行いをすると思います。なので少しの犠牲は覚悟するしかないでしょう」
「......そうですね、僕も平和にやってほしいですがそう甘くはないと思っています。この世界に来て綺麗ごとだけじゃやっていけないことは思い知りましたから」
それから、俺は細かい事を確認しレンの家を後にした。
(バロン......聞こえるか?報告をよこせ。追加の命令を与える)
俺はバロンに追加の命令を与えるために連絡をした。




