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Dearest  作者: 水上翡翠
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8、フェルディアドの側近

R15?な台詞あり。お気を付けて。

ごめんなさい、リリシアナでなかった。

 リシュエールが王妃になって最初の公務は、フレライン王国の使者との謁見と歓迎のパーティーだった。もちろん、フェルディアドとともにである。


 謁見では、国内の情勢によりエスティグノア国王夫妻の結婚式にでられなかったことへの謝罪と、祝いの言葉を受けた。

 昼間の謁見でロスフェルティで学んだ社交術をフル活用したリシュエールは、フェルディアドに褒められて気分よくパーティーに出席していた。


 だからうっかり失念していたのである。


(まさかっ、まさかリリシアナさまがいらしていたなんてっ!)


 考えてみれば、今日のパーティーは伯爵位以上の家の者ならば誰でも参加出来るものなのだ。伯爵令嬢であるリリシアナが来ていてもおかしくはなかった。


(こ、心構えが出来ていませんでしたわ!)


 ここで、「わたくしの夫に色目を使わないでよ!ふんっ!」と高飛車に出来るほどリシュエールの心臓は鋼では出来ていない。

 むしろこちらがいわゆる二号さんだと思われる。


 リリシアナこそ、リシュエールを恋人をとった女と恨んでいるのではないだろうか。もちろん、噂に聞く優しいリリシアナならばそんなことは微塵も感じず、ただ悲しんでいるのかもしれないが。


 チェリーピンクのドレスを着たリリシアナはとても可愛らしく、兄にエスコートされながら微笑んでいた。(この兄というのはフェルディアドの側近、トリストのことだ。)

 ドレスはフェルディアドが贈ったのだろか。少し幼い気がするものの、暖かい雰囲気がリリシアナによく似合っている。


 対してリシュエールの今日のドレスは、王妃にふさわしいようにと母から贈られたものだった。

 光沢のあるグレーはとても落ち着いた色。でもその生地を覆い尽くすように青い糸で刺繍がされているため、ドレスはまるでフェルディアドの瞳のような色をしていた。ところどころに縫い付けられているのは、リシュエールの瞳の色の琥珀だ。

 リシュエールの優しげな面立ちに、凜とした美しさを生み出すドレスである。


 フェルディアドとリシュエールが最初にダンスをして、パーティーは始まった。

 踊っている間中リリシアナがこちらを悲しげに見ているのが見えて、本当に申し訳なかった。


 パーティーも盛り上がりを見せ始めた。今なら、フェルディアドがリリシアナと踊ってもあまり目立たないかもしれない。


「……陛下、陛下。」


「なんです、王妃?」


 リシュエールが呼びかけると、フェルディアドは隣の玉座からリシュエールに微笑んだ。

 今日も今日とて、冴え冴えとしたプラチナブロンドに引き立てられた美貌が神々しくも美しい。その上、頭上で王冠が輝いているとあれば、一枚の宗教画のようで……と、違う違う、話が脱線した。


 ちなみにリシュエールはこの王妃という呼び方が、正直言うとあまり好きではない。しかしここは公の場であるし、二人だけの時は名前で呼んでくれるので、そこまで我が儘は言えなかった。


「踊りに行きませんの?」


「……踊りたいのですか?いいですよ。」


「そうじゃないですわ!」


 リシュエールがダンスに誘ったと勘違いされた。


「踊りたい方がいらっしゃるでしょう、と申しましたの。わたくしはここで待っておりますし、一度くらい……」


 そう言うと、フェルディアドは微妙な表情をした。あたりまえか、妻が愛人と踊ってこいと勧めているのだから。


「あのね、王妃……」


「フェルディアド陛下。」


 フェルディアドが何か言いかけたとき、声をかけてきた人がいた。フレラインの使者、ジャスパー・アラルレインだ。フェルディアドと同年代の青年である。


「……これは、アラルレイン卿。楽しんでおいでか?」


「えぇとても。」


 フェルディアドとジャスパーが何かやら小難しい話をはじめた。ジャスパーに心の中で、ナイスタイミング!と感謝をしておく。


「王妃さま、よろしかったら私と踊りませんか?」


 ちょうど見計らったかのように、声がかかった。


「まぁ、トリスト殿じゃありませんの。」


 リリシアナのエスコートはやめたのか、トリストがダンスに誘ってきたのだ。


「喜んでお受けしますわ。」


 特に断る理由もないので、リシュエールはトリストの手をとった。





「私は驚いているのです。」


 踊りながら、トリストは唐突に話始めた。


「……何のお話ですの?」


「陛下の話です。……陛下は、昔はもっと冷たい方だった。冷酷さは、国王には時として必要なものですが、陛下のそれは自らを滅ぼしておしまいになりそうだったのです。でも……リリシアナに出会って、陛下は変わられた。」


 ……この男はデリカシーというものを知らないのか。それとも新手の嫌がらせか。そう思ったのが顔に出ていたのか、トリストがクスリと笑った。


「まぁ、聞いてください。……変わったと言ってもほんの少し。それも三年かけてやっと、リリシアナはその存在を陛下に慣れさせた。三年も、かかった。それなのに。ねぇ、王妃さま。あなたは一週間だ。」


「……なにがですの。」


「陛下の心を開かせた。」


 トリストの言葉にリシュエールは首をかしげた。心当たりがない。


「…よく、分からないのですが。陛下とはまだ壁があるように感じますわ。」


「えぇ、一筋縄にはいきませんから。」


 トリストは苦笑いをしていた。まるでトリスト自身が苦しいかのような笑い方だった。或いはこの忠実な臣下は、本当にフェルディアドの心の重みを分けあっているのかもしれない。


「……陛下が心を閉ざしておいでなのは、陛下の母君が関係しておりますか?」


「それは、私の口からは言えません。」


 トリストは少し表情を険しくして答えた。それくらい、ここエスティグノアにおいて、陛下の母君、は禁句なのである。


「ただこれだけ、はっきりしていることがあります。…陛下がともに眠ることをお許しになったのは王妃さま、貴女だけです。」


 眠るときは無防備になるから。たとえ行為をした相手でも、一夜の恋人に気は許せないということか。・・・それはリリシアナもなのか。と、聞くことは、なぜだか出来なかった。


 曲が終わった。

 

「……ありがとうございましたわ、トリスト殿。貴方は本当に、陛下想いね。」


「そうですね。何よりも、陛下が幸せになることを望みます。」


 玉座の隣までエスコートしたトリストは、にっこりと笑い、小さな声で言ったのだ。


「ですが、王妃さまにも幸せになっていただきたいですね。」


 貴女はなんだか、陛下に似ているから。


 リシュエールにしか聞こえないように、そっと囁かれ、じんわりと心が温かくなるのを感じた。



心なしかリシュエールの心がトリストに傾いているような文章に感じられる・・・笑

違いますよ?笑笑

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