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Dearest  作者: 水上翡翠
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エピローグ

蛇足的最終回


 暖かな、心地のよい昼下がり。王宮の奥の宮には高貴なる人々が集っていた。


「おとうさま、見てください!」


 幼い娘が父親を呼んだ。呼ばれた彼は、にこにこしながら娘に近寄る。


「どうしたんだい?メル」


「ケティがくれたの!」


 娘──メルティアが、頭上の花冠を誇らしげに見せる。それに父親──フェルディアドは頬をひきつらせた。

 ケティというのは、今隣国アルセニアから訪れている、メルティアの従兄でケティスという。


「へぇ、ケティが。」


 娘のメルティアを溺愛しているフェルディアドは、早くも敵が現れたことに気付いたようだった。


「メル、ケティにお返しの花冠をつくって差し上げたら?」


「そうね、おかあさま!」


 リシュエールの言葉に、メルティアはいそいそと花冠を編み出す。幼い割には器用な子である。


「……すみません。」


 ケティスの父親のユクトルードが無表情でぼそりと呟いた。そんな彼を、フェルディアドはじろっと見て笑う。


「いいえ?こちらこそ私の娘と遊んでいただいているようで、ありがとうございます。」


「いえ……」


 険悪である。先が思いやられるなぁ、とリシュエールは頭を抱えた。


「メル、いいよ僕には。」


 ケティスがメルティアの手に触れて止めた。……フェルディアドが睨んでいる。


「でも、ケティ、わたくしも贈り物がしたいわ。」


「それは男の子から女の子へ贈るものだから。メルは、僕に笑ってくれればいいよ。」


「こう?」


 にこっと、メルティアが天使のような微笑みを見せた。ケティスの頬がうっすらと赤く染まる。言葉だけはませている王子さまだが、やはりまだ小さな男の子だ。


「……うん。」


 ケティスが照れるので、メルティアもつられて照れていた。初々しくて、こちらまで恥ずかしくなってくる。


 しかし、ケティスはわかっているのかわかっていないのか。侍女が一枝手折ってきたライラックの花を、ケティスはメルティアへの花冠に入れていた。

 ライラックの花言葉は、


「……初恋、ね」


「えっ!」


 分かりやすく落ち込むフェルディアドは置いておいて、リシュエールは可愛らしい子どもたちを見る。こんなに幸福過ぎて良いものか。


「さて、そろそろお茶の時間にしましょう。リディエ、ミレーニア、準備を。」


「かしこまりました。」


 公務の合間を縫って、フェルディアドとユクトルードにも来てもらったのだ。無駄にしてはいけないと思い、リシュエールもお茶の用意を手伝う。

 ふと見ると、ケティスがフェルディアドに話しかけているようだった。


「フェルディアド陛下、今の僕が渡せるのは、まだ庭の花だけだけど…」


「うん…?」


「だけどいつか、ちゃんとメルに花束を渡すから!」


「えっ!……そ、そうか。」


 周りの大人たちはこっそりと笑う。リシュエールは少しいたたまれない気持ちになった。

 花束というのは、リシュエールがフェルディアドから貰った、あのDearestの花束のことだ。あのあと、どういうわけか花束の話が広まっていき、イザリエでは男性が恋人や妻を贈るものというものだったのが、エスティグノアでは夫が妻へ初夜に贈るものになっている。

 ケティスが言っているのは、つまりそういうことに違いなかった。


「ケティ………私より強くならないと許さないぞ。」


「もちろんです。」


 早くも娘の結婚が決まってしまったようなフェルディアドは、しばらく落ち込んだままだろう。


「さぁ、お茶の用意ができましたわ。」


 皆が席につくと、侍女の一人──モニィが泣きそうな顔で、ぐずる幼子を連れてきた。


「王妃さまぁ、申し訳ありません。わたしでは力不足でした……」


「あらあら…」


 そういえば今日は、乳母が一時的に家に帰っているのだ。幼子は先程までよく眠っていたので、モニィに見ていてもらえば大丈夫かと思っていたのだが…


「あなたもお茶会に参加したいの?」


 二歳になる男の子だが、少々甘えん坊でいけない。次男ではあるが、長男の王太子を支える人物になって欲しいものだ。


「ちちうえ…」


 フェルディアドが膝によじ登ろうとするのを、ひょいっと持ち上げて座らせた。


「これでいいか?」


 こくり、と頷く。


「よし、では勉強中の王太子には悪いがお茶をはじめようか。」


「そうですわね。」






今日もまた、幸せな一日であれ。


 


ありがとうございました。


回収できていない伏線や、多すぎるどうなったかわからないキャラたちは後日番外編で明らかにしたいと思います。

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