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Dearest  作者: 水上翡翠
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2、国王フェルディアド

う~ん、フェルディアドの性格が・・・

 ────フェルディアド陛下は、真面目で優しい。そして時に冷酷な、国王に相応しい人だ。

 それがエスティグノア王国国王、フェルディアド・レーヴェル・イゼ・ラシェットに対する、周りの評価である。






 結婚、という言葉を聞いたとき、フェルディアドはあぁついにきたか、と思った。本当にただそれどけで、いわゆる恋人という立場にいる彼女と結婚したいとか、それでは彼女のことは愛人にするのかとかは全く考えていなかったのだ。


 もしそれを、今目の前にいる彼女の兄であり、フェルディアドの側近たる男に言ったら、彼はどう思うのだろうか。


「……私の花嫁はなんだか面白い姫だね。」


 いずれ結婚する姫と晩餐をともにしたあと、姫───リシュエールを部屋へ送り、フェルディアドは執務室に戻ってきた。


 自分の長いプラチナブロンドの髪を指先に巻き付けてくるくると弄びながら笑うと、側に控えていた男────トリストは心底嫌そうに顔をしかめる。


「……また性懲りもなく変なこと、しないでくださいね。皆が迷惑します。」


「変なことってなにかな?」


「ご自身でお分かりにならないと?……ではご説明しましょうか。初めは私が貴方に仕え始めた10歳の頃に遡ります……」

 

 きらっと目を光らせてフェルディアドの黒歴史を暴露し始めたトリストを、フェルディアドの他に聞く者はいないというのに、慌てて止める。


「いやっ!分かってる、大丈夫だから。」


「おや、せっかくの思い出話なのに……では仕事をなさってくださいね。」


 トリストが書類をどさりと執務机に降ろした。


「分かってる、分かってる。」


 フェルディアドの花嫁を出迎えていたので、午後の分の政務が滞っている。それくらいはなんてことないフェルディアドだったが、怠けるのはいただけないとトリストはせかした。


「まぁ、美しい方でしたけどね。王族らしい振る舞いもきちんとしていて……はい、こちらに判子を押してください。」


「あぁ。……だが、思考が明後日の方向へいっていたよ?」


 小説の悪役になってしまっただの、フェルディアドの恋の応援をするだの。

 どこの世界に、夫(まだ未来の、だが)が別の女とうまくいくように応援する妻がいるのだろうか。……おっと、この国にいた。


「それくらい可愛いものではありませんか。」


 確かに。初めて会ったロスフェルティの王女リシュエールが、フェルディアドが思っていたよりも美しい女性であったことは間違いない。


 緩く波打つミルクティー色の髪は甘そうで、ロスフェルティ王族特有の琥珀色の瞳は不思議な色合いだった。

 白磁の肌で、頬だけうっすらと桃色。ぷっくりとした赤い唇は魅惑的で、男ならばみな視線を送ってしまうだろう。何より、垂れ目がちの目元が優しいげな雰囲気と愛嬌を生み出していた。

 それに、小柄で華奢に見えるが、ドレスにうっすらと透ける身体のラインは緩やかな曲線美を持っていた。胸元はふっくらと丸みを帯びて……どちらかというと、大きいほうだとみた。


「……陛下、何を考えているか知りませんが、とりあえず手を動かしてください。仕事が終わりませんよ。」


「……はい。」


 と、口ではいくらでも殊勝なことが言えるもの。頭の中にはまだリシュエールの姿が浮かんでいた。


 末娘として生まれた姫だ、少々抜けていてもおかしくはないし、あの天真爛漫さも可愛げがある。

 しかし彼女はフェルディアドに恋人がいることを知っていたのだ。知った上で、自分は対立する気はないと言ってきた。


(……恐らくあの姫、かわいいだけではないのだろうな。)

 

 フェルディアドは自分の口元に手を当てた。

 こういう考え事をしているとき、フェルディアドは優しげな美貌を冷たくする。自分でも気づいてはいるが、それを見せているのは他ならぬトリストであるし、なによりこの親友兼側近には隠してもバレるのだろうと思うのだ。


「ねぇ、トリスト。」


「何でしょう、陛下。」


「……あの姫は、私の王妃に相応しいと思うかい?」


 見つめてくるのは、きんっと冷え切った青灰の瞳。トリストは知らず身震いをしていた。


「……まだ、わかりませんが。そのためにいろいろ用意はしてあります。」


「そうか……」


 フェルディアドは書類の最後の一枚にサインをする。予想どおり、仕事はさっさと終わってしまった。


「さて、今日は終わりだよ。もう休む。」


 ぐぅっと伸びをすると、肩がばきばきと痛い。尋常ではない、凝りようである。近頃また疲れがたまってきているようだ。


「畏まりました。……リリシアナを呼びますか?」


 トリストが口にした女の名に、フェルディアドは反応に困った。……リリシアナはフェルディアドが“恋人と呼ぶ”娘である。


「……しばらくは会わないほうがいいのだと思う。」


「しかし、会わないとあれは煩いですよ。」


 トリストがそう言うと、フェルディアドその様を想像しては苦笑した。


「確かに、そうだね。」


 その笑みは愛しみを湛えていて。だが、それが真実恋人に向けるものかと言われれば、トリストには判断しえない。


「でも、政略結婚をすると決めたからには、ある程度リシュエール姫も大切しなければいけないと思うんだ。……トリスト、兄のおまえの言うことならリリシアナも聞くだろう。言っておいてくれ、しばらく会えないと。」


 そう言って、フェルディアドはまた笑った。


「……私は王なんだよ。」


 



リリシアナ(愛人もしくは恋人)が出てこない!

しばらく出てこない!

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