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Dearest  作者: 水上翡翠
28/49

27、騎士団剣技大会にて

いやぁ、ぐだくだですね。

今回は進まない回です。

次回へのつなぎというか……まぁ、はい。

 

 ゆったりと流れる青い裾。胸元を彩るのは、アクアマリンのダイヤモンドの首飾り。

 華美すぎないその姿は凛と美しく、ドレスの型が伝統的なものということがさらに、リシュエールの神々しさを引き立てた。

 纏うのは王妃にのみ許された、王と揃いの王家の紋章が施されたマント。それを留めるのは、リシュエールの瞳の色と同じ琥珀だ。


 フェルディアドも似たように正装をしているだろう。

 騎士団の剣技大会は、神話の王の騎士探しに由来し、一種の儀式のような一面も持っていた。故にこのように仰々しい格好にするのだが、言ってしまうと、この格好でいなければいけないのは最初の宣誓のときのみだ。あとは気温が高いこともあるので、崩してもいいらしい。


「もっと楽にしてもよろしいのですよ?王妃さま。」


「いいえ……いいの、これで。リディエ、心配してくれてありがとう。」


 たがそれでも、リシュエールは気合いを入れて衣装を整えていた。

 だって騎士団に行くのだ。それはリシュエールにとって戦場に赴くのと同義。ただ剣の代わりに、美しさと権威という名の武器を持つだけで。


 

────陛下の御心が誰にあろうと、わたくしは王妃の勤めを果たさなければ。









 

 澄み切った晴天に、炎を吐く竜とレイピアの十字の旗。エスティグノア王国旗がはためく騎士団の詰め所には、貴族平民問わず多くの人が集まっていた。

 王都全体がお祭り騒ぎだった。若い娘たちは、お気に入りの騎士を探して歓声を送る。あまり身分差のないもの同士なら、差し入れなどをして、そこから恋人に発展する者もいるらしい。


────まるでお祭りのようね。


 と、思ったものの、実際お祭りを直に観たことはない。あって公務の一貫で視察にでたときくらいだ。民のように、楽しんだ記憶はないのだが。



 さて、騎士団剣術大会は、9月の初めに開かれる。

 上は騎士団長クラスから、下は下っ端騎士まで、その実力だけで競う大会だ。トーナメント戦で行われるが、その組み合わせはくじ引きのため、運のない人は初っ端から団長にあたったりする。(そして挫折と絶望を味わう……)

 もちろん、公開日1日ですべての試合をすることは不可能なので前もって予選を行い、それを突破したもののみが本戦に出場出来るのだ。

 上位騎士は自分のプライドのために負けることはできない。下位騎士は出世のためになんとしても勝ち残りたい。ということで、毎年騎士たちの本気の戦いが見られるのだという。




 国王夫妻の席は、観覧席中央の1番良いところにあった。ここからは闘技場と、観覧席がよく見渡せる。

 リシュエールは興味深々できょろきょろ辺りを見回していた。


「王妃、ちょっと落ち着きなよ。」


 フェルディアドが苦笑しながら、リシュエールの頬を摘まんだ。自然とリシュエールの顔はフェルディアドのほうに固定される。


「にゃにふるんでふか~」


 痛くはないが、民がたくさんいるところでは恥ずかしすぎるのだ。


「うん?なんて言ってるんだい?」


 くすくすと笑っているのだから、なんと言ったか分かっているはずだ。それなのにフェルディアドはリシュエールに意地悪をする。前はこんなことしなかったのに、最近なんだかうちの旦那様が紳士じゃない。


「ふぇっ……」


 頬を摘まんでいた手がすべって、リシュエールの髪を背に払った。


「私以外のことにそんなに夢中になるなんて、なんだか妬けるね。」


「はいっ……?」


「いや、なんでもないよ。」


 妬けるだなんて、まるでリシュエールのことが好きみたいな言い方をする。分からない人だな、とリシュエールは首を傾げた。


(あれかしら……自分の妻だから、所有欲、みたいな?愛情はなくても、そういう感情をもう人はいるって聞いたことがあるわ。)


 うんうん、と勝手に納得しているリシュエールを、フェルディアドは不思議そうに見ていたのだがあいにく彼女は気付かなかった。


「しかし、将軍が出場しないとは驚いたな。ついこの前まで、老害と思われてもいいからあいつらの高い壁になりたいとか言っていたのに。」


「……まぁ、将軍も良いお年ですから。良いのではないでしょうか?」


「うん、長生きして、まだまだ私の治世を支えて欲しいからね。」


 剣の師でもある将軍を、フェルディアドは思っている以上に慕っているようだ。


「お次はだれですの?」


 今は第三試合が終わったところだ。次からは準決勝。勝ち残った騎士から組み合わせを考えると、


「次は……ほう、面白いことになりそうだよ王妃。第一騎士団長アレン対第四騎士団長レクリスだ。」


 聞き覚えのある名だった。


「レクリス……レクリス・テスラ・フォーレン?」


「そうだよ、よく知っているね。」


「先日、将軍に教えて頂きましたわ。陛下とも幼いころから仲が良いと伺いましたが?」


「うん、まぁね。腐れ縁のようなものかな。」


 レクリス・テスラ・フォーレンは、フォーレン侯爵家の長男でありながら騎士団で団長を勤める変わり者だ。しかしながら、その剣の腕前は凄まじいという。なんでも、剣の師は将軍ルーディスだという。つまり、フェルディアドと同じ師のもとで学んでいたのだ。二人は将軍の教え子のなかでも抜きん出て、剣の才があったと言われる。しかし二人には五歳の年の差があるため、フェルディアドは勝てたことがなかったとか……


「つい最近帰ってきたんだ。彼の率いる第四騎士団は、東の要塞に詰めていたんだけどね。」


「まぁ、では久しぶりの再会ですか?」


 そうだね、とフェルディアドは苦笑した。少し照れくさいのかもしれない。


 





 試合開始の合図がでた。しかし二人とも微動だにしない。ぴんっと張った糸のような張り詰めた空気が、観ているリシュエールたちにも突き刺さってきた。

 

 初めて姿を見たレクリス・テスラ・フォーレンは、眩いほどの金髪に青い瞳という色合いだけ(・・・・・)は王子さまのような美しい男性だった。

 その肩ほどの金髪が無造作に結われていて、青い瞳も若干灰色に濁っていても、雄々しさに拍車をかけるだけだ。

 その鋭い目つきが恐ろしいとか、細身なのに実はしっかりと筋肉がついている体はいかにも騎士といった長身なのだとかは、彼のもつ威圧感のようなオーラを引き立てている。

 色合いだけは、王子さまだとほんとうに思う。しかし、彼の纏う雰囲気は抜き身の剣のようで、彼のことを恐れる者も多いだろうと容易に想像できた。


「……いい雰囲気を持っている方ね。そこにいるだけで、人を圧倒しますわ。」


「あぁ……あいつはルーディス殿の後継者と呼ばれているからな。」


 まだ三十歳だが、今後ますます力をつけていきそうだと思われる。

 それこそ、経験を積んでいけば、将軍を超えるほどの逸材となるだろう。


「なるほど……」


 一撃目はアレンからだった。ばっと目にもとまらぬ速さでレクリスに詰め寄ると、彼の戦い方の特徴である積極的な技の展開が行われる。加えてアレンの剣には重みがあった。


「レクリス殿……押されていませんか?」


 次々と繰り出されるアレンの攻撃を、レクリスは淡々と受け止め、流している。完全に、守りに入っているようだった。


「いや、大丈夫だよ。よく見て、アレンは攻撃の繰り返しだから徐々に呼吸を荒くしてる。でもレクリスは……」


「……とっても、涼しい顔をしていらっしゃいますわ。」


「そのとおり。」


 むしろこれほどの激しい攻撃を、息を荒げずに受け止め続けることなど、普通の人間には出来ないだろう。


「第四騎士団にしておくのはもったいないのではなくて?」


 第一から第二までが王都勤務である。第四騎士団は先ほどフェルディアドが言ったとおり、地方警備の担当だ。

 団に序列はないがやはり手練れを置いておきたいのは中央であるし、そうなると必然的に優秀な者が集まる。そうして王都詰めの騎士のほうが格上、のような風潮が出来たのだが、正直、実力社会の騎士団内において身分格差をつけるのはいかがなものかとリシュエール思うのだが。とくに第一騎士団のアレン・ディートなどは……

 そんなことをつらつらと考えていると、フェルディアドがこちらを向いて小さく呟いた。


「……アレンを第一騎士団にしたのは失策だったかな。」


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