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Dearest  作者: 水上翡翠
19/49

18、侍女の独り言※リディエ視点

リディエ視点です。

そして珍しく、一人称です。

短くて、ごめんなさいm(_ _)m

 王妃の間の前庭には、初夏の色鮮やかな花たちが咲き誇っています。


 わたくしは、白いカップにそっとお茶を注ぎました。

 はい、今日もとってもいい香り。高級、ということもありますが、わたくしの長年の侍女勤めのたまものですわ!


 滑らかな手つきでカップをリシュエールさまたちの前に置きます。


「ありがとう、リディエ。」


 そう言ってにこっと微笑まれるリシュエールさま。

 あぁ!今日もなんて美しいの!

 つやつやとミルクティー色の栗毛に、煌めく琥珀色の瞳は甘そう。真っ白い肌で、ピンクの頬は吸い付きたくなるような可愛らしさ!

 ふっくらと豊かな胸も、女性らしくって。  

 わたくしは知っているのですからね!陛下はリシュエールさまとお眠りになるとき、必ず胸にすり寄っているって!だって毎夜毎夜、所有印が刻まれていますし!?

 ……失礼、取り乱しましたわ。



 あ、ご挨拶が遅れましたわ。わたくしは、リディエ・ノーレン。エスティグノア王妃リシュエールさまの侍女をしております。祖国ロスフェルティでは、ノーレン伯爵令嬢と呼ばれていました。まぁ、もう二十一歳なので、令嬢とは言えませんが……


「さて、みなさまお揃いですわね。お茶会を始めますわ!」


 うきうきとリシュエールさまがそうおっしゃいました。

 みなさま、とはまずプロノヴァール公爵令嬢デリーナさま。そのほかはリシュエールさまの侍女をしております、カルラ、モニィ、エシュティ、アイナの四人ですね。

 ちなみに、わたくしは今日はお茶係。ミレーニアは…諜報活動です。


「それで?リシュエールさま、わたくしも呼ぶなんて、なにかあったんですの?」


 デリーナさまが楽しげにそうお尋ねになりました。それにすっと真剣な顔をなされたリシュエールさま。あぁっ、そんなお顔も素敵……あ、いや、何でもないです。


「今日みなさまに集まっていただいたのは他でもありません。わたくしに、教えて欲しいことがあるのですわ!」


「まぁ、教えて欲しいことですの?」


 エシュティがおっとりと首が傾げました。この方は日頃から、リシュエールさまに負けず劣らずののんびりっぷりですわ。


「あのね…恋って、どんなものか教えて欲しいのですの。」


 ……うん、我が愛しの主は爆弾を投下したようだわ。

 おっと、口調が乱れましたわ。


「まぁまぁ……」


「恋、ですか……」


「恋ですわ。恋をするって、どんな感じですの?わたくし物語を読んで分かるくらいしかしらなくて…」


 ほぅっ、と自分の頬に手を当ててため息をつかれる様は大変美しいのですが……

 まさかとは思いますが、これは不倫の相談とかではありませんわよね?

 ほら、みなさま戸惑っておいでですわ。


「えーっと、王妃さま?陛下のことはお好きではないのですか?」


 アイナが手をあげておそるおそるといった様子で聞きました。アイナ、偉いです。あとでお菓子をプレゼントいたしましょう。


「あら、好きよ?じゃなきゃ、いくら夫婦の義務だからって、毎日のようにある夜の営みを受け入れたりしませんわ。」


「……好き、が恋なのでは?」


「う~ん?違うと思うわ。だってわたくし、みんなのことも好きだもの。」


「じゃあ、急に会いたくなったり、笑顔を見たら嬉しくなったり、手が触れたらどきどきしたりは?他の女性と仲良くしているのを見て、苦しくなったりはしないのですか!?」


 うん、アイナ、とっても可愛い発言をありがとう。どうやら、アイナは自分の恋愛観を語ってくれたようですけれど、それは禁句でしたわー。


 ほら案の定、他の女性と、のところでリシュエールさまは固まってしまっていますわ。


 あ、カルラさん、微笑ましいって気持ちが顔に出ていますわ。貴女、今回のお茶会のお客様の中では唯一の既婚者ですものね。


「…うーん、どうかしらね。ねぇ、カルラは?旦那さまとはどうやって知り合ったの?」


 話をそらしましたね、リシュエールさま。

 ですがそれ、わたくしも気になります。…是非参考にしたい。


「わ、わたしですか?わたしは…お見合い、でしたから。」


 あら、お見合いだったのですね。でも、貴族なら珍しいことではありませんわ。

 それにカルラさんは今二十三歳。結婚して2年だというので、結婚は遅いほうですわ。二十一歳はもう子どもがいてもおかしくない年齢ですもの。……人のこと、言えませんけど。


「彼、とっても誠実で、穏やかな人で…わたし、あぁこの人じゃなきゃダメだって思ってしまって……」


 彼からプロポーズされたときは、あんまり嬉しくて泣いてしまいました。とカルラさんは照れながらおっしゃいました。……う、うらやましくなんてありません。


「…この人じゃなきゃダメ……」


 リシュエールさまが、ぽつりと呟かれました。


「モニィも、婚約者がいましたわね?」


「え、あぁ、はい。幼なじみですわ。」


 モニィは同じ男爵位の婚約者がいるのだそうです。エシュティは……いないのですね、ほっ。アイナは豪商の娘なので、むしろ自力で捕まえてこいと言われているそうです。なんてパワフル!


「どきどき…特別……」


 リシュエールさま、どうしたのでしょう。先ほどまであんなに楽しげだったのに、今は俯いていらっしゃいます。


「リディエ、リディエ。」


 と、デリーナさまがわたくしの袖を引っ張りました。


「なんでしょう?」


「あのヘタレ…っと、陛下ったら、またリシュエールさまを傷つけまして?」

 

 なんだか不敬な言葉が聞こえましたが、聞こえなかったことにいたしましょう。


「いいえ?わたくしが気づいた限りでは、ないかと……」


「そう……では、心の変化かしら?」


 デリーナは首を傾げられます。

 

「デリーナ、デリーナは恋人とかいらっしゃっらないの?」


「リシュエールさま、わたくし、理想が高いんですの。そこらの殿方では満足いたしませんわ~」


「まぁっ!デリーナったら!」


 そう言ってくすくすと笑ったリシュエールさまは、もういつも通りです。



 あ、お茶がなくなりますね。足さなくては。




 しかし、フェルディアド陛下。

 わたくしの。いいえ。

 わたくしたちの大切なリシュエールさまを傷つけたら、ただじゃおかないんですからね!



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