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Dearest  作者: 水上翡翠
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プロローグ

2020/12/31の23:59より大幅な改稿のため非公開設定に致します。ただ今より閲覧される方は、それをご承知置き下さい。

 

 きらきら光るルビーや、サファイア。髪を飾る金細工。

 衣装部屋に何着もあるドレスたちは、どれも上等の絹やレース、ベルベット。小さくなったドレスはもう着られないけれど、リシュエールは末っ子で、もう下に姉妹はいない。

 そうでなくとも、リシュエールの周りで“おさがり”なんてものはあり得ないだろう。


 自分はとても恵まれていると、リシュエールは常々思っている。衣食住が確保されているのはもちろんだが、趣向品がこれでもかというほど溢れているのだから。

 そして、大切に大切に育てられたということも、実感していた。今、リシュエールの目の前で外聞も気にせずに兄がおいおいと泣いてくれるほどに、リシュエールは家族に、城のみんなに愛されているのである。


「お、お兄さま、もうおやめになって。そんなに、謝っていただかなくとも………」


「いいや!謝らせてくれ!・・・私や、父上がふがいないばかりに、リシュに、愛する私たちのリシュに辛い思いをさせてしまうのだから!」


「ま、まぁ……」


 執務室の自分の椅子に腰かけて、唇を噛んで悔しそうにぶるぶると震えているのは、普段は威厳たっぷりでリシュエール自慢の父、ロスフェルティ王国国王ガイナルドだ。


 リシュエールはふかふかの執務室のソファに座って、横から兄エディクトに抱きしめられていた。


 向かい側では、母がリシュエールそっくりの顔を青くして震えている。この母は若い頃から妖精姫と呼ばれるほど美しい人で、子供を四人も生んだ今も、リシュエールの姉といわれても違和感ない若々しさだ。

 まぁ、それはさておき。


 家族がこんなにも悲壮感漂う様子なのには訳があった。

 

 ここロスフェルティ王国は音楽、絵画など芸術の面で有名な国である。過去、歴史に名を残してきた偉大な芸術家たちの多くがロスフェルティ王国の出身だった。

 痩せた土地で、これといった特産物のないロスフェルティ王国が300年という長い年月を生き残って来られたのは、ひとえにこの芸術産業のおかげである。

 しかしながら、のんびりとした気風のロスフェルティ王国は、うまい具合に隠されてはいるが、常に財政難である。それが今、いよいよあぶなくなって来た。このままだと、他国の侵略を受けてしまう。

 そんな時に、隣国エスティグノア王国が同盟を持ちかけてきたのは、ロスフェルティ王国にとっては渡りに船だった。

 新興国エスティグノアは、近隣諸国で最も力ある王国と言ってもいいと思う。だが、血統というものを重んじる王侯貴族のなかにあっては、エスティグノア王国は歴史が浅く、外交面で侮られがちだったのだ。

 歴史の重みが欲しいエスティグノア王国と、実質的な力が欲しいロスフェルティ王国の思惑が一致することは、目に見えてわかっていた。


 第一王女セレネスカはバーティア王国に、第二王女ティオラナはアルセニア王国に、同盟のため、政略結婚で嫁いでいったのは記憶に新しい。

 

 そしてついに、第三王女リシュエールにも、政略結婚のときが来たということだった。


 リシュエールはおっとりと首をかしげた。


 リシュエールだとて王女の義務くらい心得ていた。いくら甘やかされていると言っても、リシュエールは賢く聡い、王女として不足のない少女だったのだ。


「エスティグノア王国の王は、賢王と名高い方でしたよね。でしたら、同盟の証として嫁ぐわたくしのことをそれほど蔑ろにはなさらないと思うのですが………」


 ロスフェルティ王国は、強国でこそないが、長い歴史と多くの血族をもつ大国なのだ。あちらの国にもこちらの国にも、親戚がいる。

 そんな国の王女を手酷く扱うとは、リシュエールには考えられなかった。


「わたくしも王女として生まれた者。お母さまがお父さまに嫁いで来られたように、お姉さまたちが嫁いでいったように、わたくしもいつかどこかへ出て行くのだと分かっておりました。どのような状況でも、わたくし戦う前から逃げたりはいたしませんわ。」


 そう言うと、それまで黙っていた母がリシュエールをじっと見つめて微笑んだ。


「立派な、立派な子に育ちましたね。……それなら、何があっても何を聞いても、必ずエスティグノア王国へ参ると約束出来ますね?」


「な、母上っ!?」


「貴方は黙っていなさい、エディクト。」


 いつもふわふわと話す母に合わない、強い声でリシュエールに母は問う。


「リシュエール?」


「……わかりました、お母さま。」


 リシュエールの言葉ににっこりと笑った母は、一言も声を発していなかった父ガイナルドに目を向けた。

 父が小さくうめいて、リシュエールを見る。悲しげで寂しげで、どこか怒っているようだった。


「……黙っていても仕方ないでしょう?」


 母の言葉に、父はさらにうめいた。







「………………………エスティグノア国王には、どうやら恋人がいるらしい。」









「まぁ……」




 

 ロスフェルティ王国第三王女リシュエール、十七歳。

 母似のミルクティー色の髪、王族特有の琥珀色の瞳。

 おっとりとした、優しい美貌の女神のような王女と称えられる淑女の見本。



 そんな彼女の政略結婚は、前途多難のようである。




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