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六度

もうすぐ三歳。

日本でも七五三や三つ子の魂百まで、といった言葉の通り三は縁起の良い数字と言われている。

そしてこの国、ダリク国でも三という数字は神聖な数とされている。

先ず第一に王との謁見が許可される。

無論これは貴族に限ったことであり、一般人は領主に謁見する。

始めに神殿で魔力測定と属性を確認した後、日を改めて拝謁するのが一般的な流れだ。

そう、三歳になれば憧れの魔法が使えるのだ。

本の記述では、世界には空気中に酸素やらと一緒に魔気というものが含まれているそうだ。

魔気とは魔力の源の事で呼吸する事により体内に酸素と魔気を取り入れ魔法が使える様になるらしい。

しかし生まれたばかりの赤児は精神、体内循環共に不安定で、下手をすると溜まった魔気が上手く循環出来ず内側から爆発などの可能性もあるそうだ。そこで出てくるのが神の使いである神鳥様達。

私たちには見えないが赤児が誕生する瞬間に空間が揺らぐらしい。その揺らぎを感知すると彼らが使役している精霊達が赤児が魔気を取り込まないよう結界、つまり蓋をして塞ぐのだ。

そうしてある程度安定した歳、つまり三歳に神殿、もしくは精霊の枷を外せる医師によりそれが取り払われる。

面倒くさいという事なかれ。

魔気とは例えるなら炭酸飲料。

固く締まったペットボトルの蓋を大人に開けてもらえば安全に飲めるが、小さな手で無理に開けようとすれば中身がシャツフルされ、開けた時には大惨事だ。

なので枷を取り除く作業は貴族だろうがスラムの子供だろうが無償で行っている。

まぁ、お金を出し渋った挙句に街中で暴走など洒落にならないからな。



パタン。

ルイス兄の教科書を読み終え閉じた。

疲れた目を閉じ、見た内容を頭の中で整頓する作業が好きだ。頭の中にある情報を要るものと要らないものに分別して手前の本棚と奥の本棚に入れていくイメージだ。

しかしなかなかこの世界は面白い。生活レベルも中世ヨーロッパ辺りだが魔法が有る分、特定のみ生活水準が遥かに高い。

教科書レベルでは当たり障りのない事しか書かれていないが、学問などはやはり地球の方が遥かに進んでいるし、歴史は戦争といった記述が殆どない。

これは神の使いが存在する事が一番の原因だが、人間以外の敵魔獣の存在も大きいだろう。

魔獣とは魔気が澱み固まった化け物でさらなる魔気を求め人を襲うのだ。

大半は神鳥様たちの結界で事なきを得ているが、それを掻い潜り抜けた魔獣に襲われる事件も少なくないが、国も騎士団を編成し討伐隊を組むなど対応は様々だ。

何故そんなに詳しいのかと?

秘密はパパさん宛の書簡だ。

国家レベルの秘密文書は暗号や古文で書かれているが私の敵ではない。

最近では隣国からのパパさん宛の書簡は面白かった。8割がた禿げろ!だのお偉いさんに対する呪詛と愚痴だったが国境の状態、作物の出来などが要所要所に書かれており、一般市民と国に携わる者の目線の違いに驚く事も多かった。



情報を整理し終えたタイミングでコンコン、とドアのノックと共にダスティさんが入って来る。


「だだ今帰りましたよ〜、セラフィーナ様は良い子にしていましたかい?寂しかったです、俺が!」


蕩けた笑顔で駆け寄り高い高いと私を持ち上げついでにチュッチュッ攻撃を仕掛けてくるが教科書ガードで抵抗する。エンニチのおかげで日々動体視力がレベルアップしている気がする。


「本よんでたからさみしくない。ダスティはどこにいってたの?」

「え?あ〜、ネズミ退治ですかね。エンニチがセラフィーナ様の側にいるから安心してますが、セラフィーナ様が見えないと寂しくて寂しくて〜 」


ネズミ退治だと?

……この屋敷には他に使用人は居ないのか。

し、か、し、だっ。

ダスティさんから甘い女性用香水の匂いがするのだ。思い返してみても最近ダスティさんが部屋に居る事が少なくなっている。

まさか綺麗なお姉さんの店に行っているのか?…許すまじ。


「エンニチ、いけ」

「いでっ、いでででっ!!」


私の掛け声と共に一瞬でダスティさんの足元に移動したエンニチがタスタスタスと足にくちばし攻撃を開始した。

アサシンヒヨコらしく的確に弁慶の泣き所を攻撃している。

恐ろしいヒヨコだ。


悲鳴を上げ逃げ惑うダスティさんと追うエンニチをのんびり眺めながら、電気ネズミと旅をする少年の気分を味わっていた。





◆◆◆◆◆◆◆





「最近セラフィーナ様から恨みがましい目で見られている気がするんすよね。最近ネズミ退治が忙しいかったんで側に居なかったのが寂しいんすかね」

「気の所為」

「ダスティさん、お疲れですか?」

「なんで君なんかを私の可愛いセーラが気にかけないといけないんだい?自意識過剰も此処まで行くと憐れみしか感じないね」

「うぐっ。…セラフィーナ様がいなかったら直ぐにでも辞めてやるのに」

「はははっ。護衛も出来てベビーシッターも出来る冒険者はなかなか居ないからね。その時には財力と権力をフル活用するよ」

「最悪だ」

「素晴らしいです父上。

ところでダスティさんこの甘い匂いはムスク?香水ですか?」

「甘ったるい匂い」

「へ?店員のオススメ香水臭いですか?高かったんすけど」

「ダスティ色気出した?」

「ロ、ロン坊ちゃん、何処でそんな言葉覚えて来たんすか?だいたいガサツな俺でも血の匂いを付けたままセラフィーナ様のお世話は出来ませんぜ」

「それは良い心がけだね。

しかしそろそろネズミも減って欲しいものだね。

ああ、今回の首謀者には平和的話し合いで解決したから安心していいよ。相手方は爵位返上したし」

「それのどこが平和的話し合いなんすか」

「血も流さない平和的解決じゃないですか。因みにダスティさんの付けている香水女性用ですよ。大方女性への贈り物と勘違いされたのではないですか」

「げっっ!!」

「子供の方が詳しいとはねぇ。君の婚期はまだまだ先かな」






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