五度
日本でのOL時代、朝食と昼食は前日の夕食の余り物。時間がなければコンビニおにぎりやお弁当、後はパン屋でサンドイッチや惣菜パン。
私的には焼きそばパンと塩パンは外せない。
そして今世、私のご飯はごっつい兄貴が作っている。人生とは面白いものだ。
因みに白地にピンククマさんのアップリケが付いたエプロン姿が笑えるほど似合っていない。
私はと言うと、キッチンで用意しているダスティさんの後ろ、デカいソファーの上で読書中だ。
絵本に紛れてブラザーズの教科書やパパさんの歴史書などを持ち出してはベットの上で読み漁っていたりする。
子供が大人の真似をしているのを周囲は微笑ましく見守っているが、
実は読めている。
理由は不明だが絵本も教科書も魔法書も、ついでにパパさんがテーブルに放置していた異国の書簡(グダグダ愚痴のみ)も驚く事に全て読めたのだ。
よく考えると初めから言葉も理解出来ていた。もしかしたら異国の言葉や古文書なども読めるのではないだろうか?それならば翻訳か通訳の仕事で将来安泰だ。(予定)
神様?仏様?ありがとう。
本から学んだ知識によると先ずこの世界、エルダリーの大地は四葉のクローバーの形をしており、四つの大陸とそれを取り巻く幾つかの小島で形成されている。
なので他国へは主に船が主流だが海賊や魔物も数多く生息している。陸路は全ての大陸の端が繋がっているので一度そこまで行く必要があるが、逃げ場のない海路より陸路は比較的安全というメリットもある。
結局は多少危険だが海路で早く行くか、そこそこ安全な陸路でゆっくりと行くかだ。
四大陸にはそれぞれ神鳥、神獣、神魚、神龍の神の使いが災害や魔物の被害から人々を守り守護している。
現在、私の居るこの国サミローダは神鳥シュバルツ様が守護している。
まだ会ったことはないが、絵本に描かれていた神鳥は純白に金色の星砂が散りばめられた様な神々しいものだった。本なので多少美化されているだろうが、こんなに美しい鳥ならば是非とも一目見てみたいものだ。
そして魔法。
地水火風を基本とし、レアに重力、雷、氷、治癒、光、闇などがある。
一人一つの属性だが高位貴族になると二属性三属性持ちも少なくない。
現にパパさんとルイス兄は二属性持ちだし、ダスティさんは一般人にもかかわらず三属性持ち、ロン兄に至っては何と五属性持ちだ。
一般人で三属性持ちは滅多におらず勧誘がひっきりなしだと聞くが、我が家でベビーシッターをしているあたり信憑性に欠ける情報だ。
そして面白いことに魔力の強弱は星の明るさでランク付けされている。
一説には魔力測定をする際に神殿に設置されている水晶に手をかざす時に発する光が星のように見える事からだとも言われている。
さて、そのランクだが、
0等星 人外レベル。レジェンドになれるぞ。
1等星 最高位。国に一人二人居るかいないか。
2等星 上級者。宮廷魔術師レベル、エリート。
3等星 中級者。一般的に魔法使いと呼べるレベル、高位貴族がほぼ割合を占めている。
4等星 5等級よりは多少強く持続時間が長い。貴族に多い。
5等星 一般人。主に種火や微風など。
この様になっている。
現在この国の1等級は二人。王様と今年6歳になる皇太子。国の将来は安泰のようだ。
三歳になると魔力測定と属性の有無を神殿で確認するそうなので個人的には温風ヒーター代わりになりそうな風と火であってほしいと切実に思っている。
冬でもぬくぬくだ。
もう一つは女性の数が少ないこと。
原因は不明だが、数百年前から緩やかに女性の出生率低下が始まり今では七対三、下手をすると八対二に近いかも知れない。
なので女の子が産まれると蝶よ花よと厳重かつ大事に育てられる。
その結果、ワガママ傲慢な性格の出来上がり。
家によっては厳しくお淑やかに育てられても社会に出ればチヤホヤ甘やかされ結局は世界でわたしが一番よ!的な思考になるらしい。
中にはマトモな女性もいるだろうが絶対的に数は少ないだろう事が容易に想像できる。
最初アレが母親なんて、と絶望したがこの世界では普通だったらしい。
しかし私もアレと血が繋がっているのか。
問題 将来アレのように振る舞う自分を想像してみた
答え 恥ずかしくて埋まりたくなった
よ、よし!アレを反面教師として将来はお淑やかに、陰で男性を立て、三歩下がって三つ指を立てる大和撫子を目指そう!パパさんやダスティさん、ブラザーズ達の溺愛攻撃に堕落したりするものか。
右手で握り拳を振り上げながら決意を新たにしているとタイミングよくダスティさんがお昼を運んで来る。
「は〜い、セラフィーナ様。お待たせちまちた〜。お腹空きまちたね〜」
「あい」
取り敢えず今は食事だ。
相変わらず不気味な赤ちゃん言葉で話しながら子供用のスプーンを渡してくれる。
ふむ、今日は野菜を柔らかく煮たスープとミルクに浸したパンだな。
ダスティさんは大盛りペペロンチーノか?ニンニクの香りが食欲を誘うが側に来ないでほしい。
さて、先ずはパンから頂くとするか。
お昼に目を奪われていた私はエンニチがじっと絵本を見つめていた事に気付かなかった。
◆◆◆◆◆◆◆
「くさい」
「ダスティさん、だから女性にモテないんですよ」
「トップクラスの冒険者なのだから優良物件なのだがねぇ。女性に対する気配りが足りないよ」
「ペペロンチーノ、美味いんすけどね」
「ニンニク男」
「女性であるセーラの前で食べるなんてありえませんね」
「前に散々女性に貢いだ挙句、別れ際の台詞は『ガサツな男は嫌いよ』だったかな?」
「うぐっ!セ、セラフィーナ様ぁ〜」
「ミルクのみゅ?」
「俺の味方はセラフィーナ様だけでずぅ〜〜」