三十六度
いつも読んでいただきありがとうございます。
公私でバタバタしていますが、もう少しで以前のように戻れそうなので、もう少々お待ち下さい。
(*´ω`*)
お、落ち着け、落ち着くんだセラフィーナ。
今こそお昼寝前の羊のようにまったりとしている脳細胞を、戦闘本能に目覚めた闘羊の如くトップギアにして解決策を導くんだっ!
①ダンスは踊れませんと素直に言う。
②別の話題を持ちかけ意識を逸らす。
③エンニチをけしかける。
①はパパさんやブラザーズに恥をかかせてしまうので却下。
②は現在ベルに手を握られダンスのお誘いを受けている状態ではかなり高度な対人スキルを要するので私には無理。
③は個人的にはイチ押しなのだが、何にも解決しないどころか、シャレにならない状況になるので駄目。
…………私の脳ってトップギアにしてもこの程度なのか…。
がっくりと肩を落とす。
あまりの情けなさに涙も出ない。
「セーラ?」
「ヲホホホホホ。ナンデモアリマセンワー」
ニッコリと笑ってみた。
あちらこちらでガラスの割れる音がする。
誰だ、お高い食器を割ったのは?
いやいや、そんな事より今は自分だ。
へるぷみー。
兄たちも普段は幼馴染の関係とはいえ、一応臣下だ。今の状況では流石に横槍入れられないようだ。
うぐぐっ、い、胃が痛い。
「あ、あの殿、…」
「…もしかして、セラか?」
「マーーァ★コノヨウナバショデオアイデキルナンテエーーッ、オヒサシブリデスワネーー。ヲホホホ♫」
誰だか知らないが助かったー!!
はいはいはーいっ、あなたのセラですよーっ★
…ん…セラ?セーラじゃなくって?、、
「ランちゃん…?」
そこには落ち着いた礼服に身を包み髪を後ろに撫で付けた赤髪の美少年が、こちらを凝視している。
…ダレ?
「やっぱりセラやったか…。
コホンッ。お久しぶりには少し早い気もしますが、セラフィーナ姫、お元気そうでなによりです」
「は?ラン、ランディガル殿はセラフィーナ姫をご存知なのですか?」
「そうですね、彼女とは少し前に積雪や気温の低下が人体や周囲に与える影響について少々討論をいたしまして。ね?」
「えっ!?そ、そうですわねー。ヲホホホホ、ホォ…」
やっぱりランちゃん!?
あの時の私、ちゃんと男の子の姿になってた筈なのに何故にバレた?
それに気温の変化の討論ってたんに二人で愚痴を言い合ってただけのような…?
というか、何故にランちゃんがここにいるんだ!?
そしてベル相手に堂々と横やりを入れるなんて。
フッと印籠もといボタンの裏にあった紋章を思い出した。
あの時には見ていないフリをしたが、やはりランちゃんは正真正銘ハノアの王族だったかぁ…。
………
…あー、えーとですねぇ。
エンニチをけしかけて蹴り飛ばしたりしたのは不敬罪になりませんよねー?、、いやいや、アル…何だっけ?梨の妖精もどきの人形をプレゼントしたからプラマイゼロの筈だ。
図らずも賄賂を送っていたようだ。ありがとうエンニチ。
ランちゃんこと、ランディガル=アルター=ハノア。13番目の御子様である。
ハノアは情熱的なお国柄でも知られ、正妃と側室7人、御子は18人と子沢山だ。
聞けばベルとランちゃんは昔、ベルがハノアに行った時に年も近いことから意気投合したのが始まりとか。
そういえばうちとハノアとは友好国だったな。
サミローダからは氷石を始めとした香木や織物など。ハノアからは火石や果実、薬草など。特に氷石と火石はお互いに無くてはならない重要な貿易商品だ。
「しかし、ほんまコレええなー。読唇術対策もバッチリやし、何より周りに気いつかわんと楽でええわー。
なーなーセラの兄ちゃんたちー。俺にもこの魔法教えてーなー」
「ええ、ハノアは友好国ですし、ランディガル殿下は我が妹のご友人とか。もちろん構いませんよ」
「え、ほんまに!?」
「お安くする」
「金とるんかい!?」
素晴らしいボケとツッコミだ。
因みに堂々とバカ話をできるのは、ルイス兄とロン兄が周囲に風や光などを使って、私たちの声を聞き難くしているからだ。
日々周囲の目が鬱陶しく会話も注目されるため、ルイス兄とロン兄がチョチョイっと作ったとか。
チートブラザーズめ。
そんな便利な魔法があったなら、もう少し早く使って欲しかった。
「お兄様方はそのような魔法をつくられていたのですか。
確かに皆さま、女性に人気ですから日頃から大変ですね」
言外にモテる男はつらいな、と言ったところ周囲から生暖かい眼差しで見られた。
「どうかしましたか?」
「どうかしましたか?、って当の本人は無自覚かい」
「いや、これからセーラの方が大変になると思うよ」
「え?ルイスお兄様、私何かしましたか。
…エンニチをけしかけたのがバレたのか…コホンッ、
どちらにせよ私は、体が弱いので、この夜会が最初で最後ですわね」
「へー、セラは今回が初の夜会なんか?
じゃ俺が一緒に踊ったろか」
私が初めての夜会だと驚いたランちゃんが、おそらく多分きっと善意で言ってくれたのだろうが、
しかしその話題を復活させるのはやめてくれ。
ベルが慌ててランちゃんに詰め寄る。
「おまっ、俺が先に申し込んでたんだぞっ」
「なんやー、お祭りやんかー。賓客に譲ってえなー、友達やんかー」
「それとこれとは話が別だ。第一セーラの初ダンスだぞ。俺がスマートにリードして『まぁ、ベル様って素敵』って言われたいんだっ」
いや、今の本音を聞いたら、『まぁ、ベル様って残念』と言いたい。
「いえいえ、本来ファーストダンスは身内とするものですので、私たちか父がいたします」
「婚約者でもない限り不可能」
「じゃあ、セ、セーラ、俺の俺の、「んじゃセラ、俺と婚約しよか?」ってコラーッ!!」
何故だ。
助かったと思ったら状況が悪化した。
会場内から微笑ましい視線と、一部嫉妬混じりの視線を受けている、が。
勘違いしないでほしい。
現実には妹の名誉を守ろうとしている兄二人と、悪意なく私を貶めようとしている王族二人だ。
なんて可愛らしいロマンスなんでしょう?
冗談じゃない。ハラハラドキドキなスリリングの間違いだーーっ!
…もう、エンニチ出してもいいよね?パパさん私頑張ったよね?ね?
『あーら、お二方とも私の守護鳥にぶつかって気を失われてしまいましたわー』で終わらせようよー。
向こう側にいるパパさんにポンポンとポケットを叩きジェスチャーで訴えるも、微笑むダンディは無情にも首を横に振る。
チッ。
まぁ半分は冗談だが。
ここは公式の場だ。いつのもようにエンニチをけしかけ相手を気絶させ有耶無耶にするのは流石にマズイことだけは理解している。
そう言うわけでブラザーズ、君たちだけが頼りだ。
私の名誉の為に頑張ってくれ。
兄たちに心の中でエールを送っていると、腰の辺りがグンっと勢いよく引っ張られ、体が傾き足がもつれそうになる。
ーーエンニチ?
どうしたのかと思う前に、パシャリと水音が近くで聞こえた。
胸のあたりからジワジワと広がって行く赤紫色のシミに頭の中が真っ白なる。
「まあっ!手が滑ってしまいましたわ。
でも今まで夜会にも出られなかった落ちぶれた貴族の貴女が着るドレスですもの。大した事ありませんわよね?」
…………………はい?
えっと…色々ツッコミたいが、取り敢えずパパさん。我が家はいつの間に没落したんだ?
混乱した頭で声の方を向けば、空のグラスを持ったストロベリーブロンドの女の子がいた。
ドレスに付けているギラギラと過剰な量の宝石かガラスだかは下品の一歩手前だが、白のドレスって祝い事以外で着てもよかったっけ?
青い目のビスクドールの様に愛らしい保護欲を誘う容姿だが、この世界の例に漏れず性格はなかなかの様だ。
目が合うと小馬鹿にしたように嘲笑い、空のグラスをテーブルに置くと、懐からピンク色のフワフワ羽がついたゴージャスな扇子を取り出し私の足元に放り投げる。
「お詫びにそれを差し上げますわ。
幻の鳥と言われるポーポー鳥の最高級の羽毛を使ったものですの。そのお粗末なドレスなど何着も買えますわよ。
それよりも貴女、みなさまがお優しいからと勘違いなどなさってませんわよね?
たんに田舎者が珍しいだけですのよ」
幻って大げさな。
家のお布団とかクッションとか帽子やコートとかに使われているアレだよね。
「あら?驚いていますのね。
仕方がありませんわ。希少な羽毛ですもの。一生のうちに目にする事などないでしょうし」
毎日目にしています。
多分、その扇子ではこのドレス買えないんですが。
あの、我が家は王都にあるのですが。
これ、うちの兄たちですが。
うち、公爵家なんですが。
入場、見てなかった?
この子、なんかすっっごく勘違いしてはいないかい?
……ん?
会場内の温度が……。
◆◆◆◆◆◆◆
「マイハニー、そ、そのくらいでデザートはやめておかないかい?」
「まぁまぁ。そんなに慌てて、ゴクゴク。貴方どうしましたの?ゴックン」
「い、いや。君の体重、、もとい健康がね…おや?何か周りが静かだね」
「先程、あちらにいる少女が、カリカリ、公爵様のご令嬢にジュースをかけたのですわー、カリカリ」
「バカ娘は遂にやらかしたか。
しかしまあ今回に関しては侮辱行為に対する謝罪とドレスの弁償で済めばいいだろうな」
「あらあら。では、サクサク、伯爵家はお取り潰しになるのかしらー?サクサク」
「普段ならともかく今夜は祝いの席だからなぁ。公爵家もそこまではなさらない、、と思うんだが…しないよね?」
「あら?違いますわー。パクパク。わたくしが言ってるのはドレスの弁償の事ですわー。パクパク」
「報復の方ではなくドレスかい?」
「オホホ、貴方。わたくし達のドレスはたんに身に纏うだけではなく、戦闘服でもあるのですわ。モグモグ。それこそ糸の質から染色、流行のデザイン、装飾品に至るまで気が抜けないのですよー。モグモグ。
しかもあのドレスは王妃様でも入手困難といわれるリアンの作とか。あの飾りが本物の雪花だった場合には、モグモグ。大変な額になるでしょうねー、モグモグ」
「なるほど、確かに本物だった場合には予測もつかない額になるだろう。伯爵家で払える金額なのか。
…ところでマイハニー。そろそろフォークと皿を置かないかい?」
「まだまだわたくし余裕ですわよー、ガリガリ、貴方はワインでも飲んでらして。あちらのテーブルにある、ガリガリ、色とりどりシフォンケーキがわたくしを呼んでいますのよー。ではまた後でー。ガリガリ」
「えっ!?ちょ、ま、待つんだ!呼んでない呼んでないぞっ、マイハニィィーーーッ!!」
なんか、この夫婦書きやすいんですよねぇ




