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三十四度

パパさんの執務室に戻るとまだ誰も帰って来ていなかった。



あの後、アルフォンス三世君を持ち上げ喜んでいたランちゃんだったが、いきなり『若様、お時間です』と渋い声が聞こえたかと思うと、現れた数人の黒づくめがあっと言う間に人形ごとランちゃんを連れ去ったのだ。

誘拐ーっ!?、と慌てる私に、遠くからまた会おうな〜、とエコーがかかったランちゃんの呑気な声にガックリ肩の力が抜けた。

私は全く気付かなかったが、ランちゃんの護衛の彼らはずっと側にいたのだとか。

何だかすぐに再会しそうな予感と共に、取り敢えずホッとしたが、私的には黒づくめのの護衛など怪しすぎてご遠慮したい。



うちはマトモな貴族で良かった。







優しい笑顔と温かい紅茶とサクサクのクッキーを用意してくれた執事さんに、使用人の皆様にとお土産を渡せば感激のあまり涙ぐんでいたが、、すまない。中身はただのハンドタオルだ。

あ、でもオマケに雪花を付けているからレアではあるのか?

因みに雪花を袋からザラザラと取り出す際には、真ん丸に目を見開いていた。大変珍しい顔ごちそうさまです。



執事さんによると、パパさんたちはもう少しかかるとの事。

丁度いい。確かお爺ちゃん(大神官)も雪花祭に出席していた筈だ。出来ればパパさんたちのいない時間がいいが、アポイントは取れるだろうか。

余談だが、一度だけ大神官様呼びをしたところ、マジ泣きされたので、有難くも(?)お爺ちゃんと呼ばせてもらっている。

執事さんに確かめると、お爺ちゃんのアポを取ってくれる上に、神出鬼没なルツの居場所にも心当たりがあるとか。

流石は万能執事。

性格も穏やかで、ご年配特有のたゆんたゆんした贅肉もなくルックスも素晴らしい。

若かりし頃はさぞかしモテたのではないだろうか?

私が幼女でなければ求婚したいぐらい素敵なおじ様だ。



だからお土産を大事に抱えて優雅に閉めた扉の向こうで、リズミカルな、そう。まるでスキップしているかの様な足音が遠ざかるのは気の所為だろう。








「セラフィーナちゃんっっ!」

「おじ、、ぐぇっ」


廊下を走る音と共にノックもせずに入って来たのは、言わずと知れたお爺ちゃん、って苦しいっ、ギブギブ!圧死する!エ、エンニチ助け、、ををう。視線の先には宿敵ルツに向かって高速回転蹴りを繰り出しているエンニチが。だ、誰か気付いてくれ…ぇ……。

ガックリと意識が遠のく中見えたのは、ダスティさんと執事さんが慌てて駆け寄る姿と、ルツがお爺ちゃん肩に乗ると何故か体がスルリと離れ、そこにエンニチと肩から降りたルツとのダブル跳び蹴りがお爺ちゃんの後頭部に炸裂し、潰れるような声を上げながら壁に激突した姿だった。


………。


…はっ、意識飛んでたぞ。…ふぅ、助かったよ。エンニチもルツもありがとう。ダスティさんも執事さんも心配かけてごめんなさい。

でも、誰か倒れているお爺ちゃんを助けに行ってあげて。





「セラフィーナちゃんからのお誘いなど初めてじゃから、お爺ちゃん。ちょーっとだけ興奮してしまったんじゃよ」


テヘッ☆と肩を竦め笑うお爺ちゃんだが、エンニチとルツのダブル飛び蹴りを受けてタンコブ一つですんだとは凄すぎる。

ここに来てお爺ちゃん人外説が浮上してきた。



冷めても美味しい紅茶で一息ついたが、大変疲れた。

子供の私が何故に人生に疲れた感を出しているのだろうか?


「あら?そう言えば、お爺ちゃんのお付きの人がいないようですが?」

「セラフィーナちゃんとの逢瀬に護衛は無粋じゃろう。

ささ、セラフィーナちゃんや。何かお願い事があるのかの?お爺ちゃんに言ってごらん。

大好きなお菓子屋さんが欲しいのかの?それとも誰かに呪いを掛けたいのかの?お爺ちゃんが、なーんでも叶えてやるぞい」


おいおい。孫の為に店乗っ取りから呪詛までとは、物騒なお爺ちゃん(神の使い)だな。

これ、私が前世の記憶があったおかげで大丈夫だが、年齢通りの子供の我が儘で好き放題してたら、とんでも無いことになってたんじゃないか?

…まぁ、いいか。ここは子供らしく私も我が儘を言うとしよう。



「お爺ちゃん、聞きたい事があるんです」

「なんじゃなんじゃ?お爺ちゃんがなんでも答えてやるぞい」


言質はとった。


「聞いたところによると、私が死んだなどと噂されているとか。しかもその所為でお父様やお兄様方が悪く言われているのは本当ですか?」

「ふむ。誰がセラフィーナちゃんの耳に入れたのかは知らんが、それが例え本当でも、あ奴らが泣き寝入りすると思っているのかの?

正直羽虫が飛んどるとしか思ってないと思うぞい。片手でペシッじゃペシッ」

「では本当なのですね」

「い、いや「お爺ちゃんがなんでも答えてくれるんですよね?」、、まぁ、そうじゃの」


…やっぱりか。


「お爺ちゃん。私、今日、、は無理だから明日の舞踏会に参加したいです」

「…理由を聞いてもいいかの?勿論お爺ちゃんは超ーっ嬉しいんじゃよ。ただセラフィーナちゃんは舞踏会には興味が無いと思っていたんじゃがの」

「今でも興味はありませんよ。

ただ姿を見せない事をいいことに、私を使ってお父様やお兄様たちを貶す輩がいるなら、こちらから姿を見せようかと」

「ををう。中々好戦的じゃのう。

しかしセラフィーナちゃんが表に出ることで起きる後始末の方が大変じゃろうて」


分かってる。

パパさん達なら何を言われても鼻で笑ってるだろう。

そしてお爺ちゃんの言う通り、私が表に出る方が後々厄介だと言うことも。


国や領地、人を動かすのに綺麗事だけではやっていけない事も多い筈だ。


パパさんの瞳の奥が揺らいでいる時もある。ルイス兄様の口数が少ない時も。ロン兄様が手を握り締めている時も。時々ダスティさんから時々香る、私が死んだ時と同じ血の匂いも。

それでも皆んな笑っている。

私の知らないところで、いろんなものから守ってくれている。

だから私は家族を見送ってお出迎えして。行ってらっしゃい、お帰りなさいと笑うんだ。

前世の記憶持ちという、薄気味悪い子供の全部を受け止めて、愛してくれる、そんな大切な家族を貶すだと?落とし入れるだと?


パパさんたちを悩ませる輩も後ろ暗い輩も欲にまみれ宰相家の血筋を取り込もうとする輩も、全部私が囮になればいい。

全部氷漬けにしてやる。


無論私に人を殺すのは無理だが、全身氷漬けの恐怖の後に、身体中しもやけの地獄の苦しみを味合わせた後、エンニチの飛び蹴り付きのトリプルコンボだ。


待ってろよ、と心の中でまだ見ぬ敵に中指を立てた。




「わかっていますよ。だからこれは私の我が儘なんです」


一歩も引くものかとにっこり笑えば、少し考える素振りを見せたお爺ちゃんだったが、直ぐに顔を上げこちらに向かいニヤリと笑みを浮かべた。


「ふむ…よかろう!後のことは大人に任せて思いっきりやるがいいぞい。

第一売られた喧嘩は買わんとのぅ」

「ありがとうございます!お爺ちゃん大好きです。

ふっふっふっ、私の家族たちを馬鹿にしてきた人たちを氷漬けにしてやりますよ。大丈夫です!『ゴメンなさい。セラフィーナ、子供だから上手く力の調整が出来なかったの☆』ですみますよ」

「お、お爺ちゃん大好き…大好き…大好きっ、、くうっっ!ワシの寿命が10年は延びたわい。

ワシはやるぞいっ!セラフィーナちゃんの敵はワシの敵じゃ!呪いじゃ、氷漬けじゃ、殲滅じゃー!」

「やりましょう!あるところの家訓では、『恩は二倍にして返せ、恨みは十倍にして返せ』と聞いた事がありますし。私頑張ります!」


いい家訓じゃのぅと、ふぉふぉふぉと良からぬことを企む笑い声のお爺ちゃんだが、ふっふっふっと笑う私もおそらく同じ笑みだろう。

血の繋がりはない筈なのに、お爺ちゃんと繋がりを感じるのは不思議だな。



「…教育に悪い環境すね」






取り敢えず大人たちが(私の精神年齢は大人だ)肩を寄せ合い、ある程度決めたところで私のドレスの話が出てきた。

ドレスなら売るほどあるが、今回は新作且つ目立つようなものが欲しいとか。しかし流石のリアン(オネエ)さんでも、明日の夕方までは無理じゃ…なに執事さん?発言を許可します。

…パパさんが発注した新作のドレスがあるだと?…雪花祭を頑張ったご褒美…、、、、パ〜パ〜さ〜ん〜っ(怒)あれ程ドレスは要らないと言っただろうがっ。

ドレスより食べ物やゲームが良いとお願いして少し落ち着いたのに…そのゲーム(チェス)でボロ負けしたがな。

しかし今回はそれに助けられたのが何とも複雑だ。



私とお爺ちゃんとのダブル演出に加え、もう少しインパクトのあるものが欲しいとの事だった。どんだけ目立つつもりなのか不安になってきたぞ。

…インパクトねぇ……エンニチをブローチ代わりに胸元に?、、いや下手したら周りにキレたエンニチにより、舞踏会が武闘会になり怪我人続出だ。

…それともアレを出すか?、いや止めておいた方が賢明だな………ん?エンニチ?

向こうからずりずりと、しかし軽々と自分よりも遥かに大きな例のアレ入り袋を持ってきたのだが…。



エンニチや、それは敢えて外していたんだよ。


誰が好んで厄介ごとにしかならなそうなブツを、自ら差し出すと思うのか。

しかし、どうっ?とエンニチの胸を張る仕草に苦笑がもれる。

結局のところそれが一番インパクトがあるからなぁ。


「あ、成る程。それをドレスに縫い付けるんすね…でも綺麗すけど模造品と勘違いされないすか?」

「それは大丈夫でしょう。模造品は多数ございますが、雪花は擦れ合うとシャラシャラと絵も言われぬ音を奏でます。これは他のどの鉱物にも出せぬ音ですので、偽物と思う貴族はいないかと」

「本当すね。へー、さっきはそんな余裕無かったすけど、綺麗な音すねー」


ダスティさんと執事さんはこれの事は知ってるが、初めて見たお爺ちゃんはポカンと口を開けている。


「………なんじゃこの大量の雪花は……昔の文献にどこぞの男の元へと空から数十枚の雪花が降ってきたとあったが、比べ物にならんのぅ、はぁ、長生きはするもんじゃな。相変わらずセラフィーナちゃんは非常識じゃ」


まて、エンニチやダスティさんもいるじゃないか。

何故私だと決めつける?納得いかないぞ。


「全くす。久々に本気で逃げたすよ」

「ああ、セラフィーナお嬢様方のお帰りがご予定より早かったのはその所為だったのですね」

「んで、その後ハノアの王族をナンパしてたすよ」

「おや?…それはそれは」

「何じゃと!?お爺ちゃんは認めんぞい!」




ワーワー騒ぐ大人たちから離れ、やさぐれた心を癒すため、アニマルセラピーならぬエンニチとルツを抱き締めて、取り敢えず思う事は一つ。



リアンさん、ゴメンなさい。

貴方には多分、大量の雪花の縫い付けという仕事が待っていると思います。


とっておきの半生ビーフジャーキーあげるから許してくれ。






◆◆◆◆◆◆◆






「い、生きてて良かった…っ」

「ば、馬鹿、泣くなよ。…グスッ…良かったなぁ」

「まさか俺たちにもお土産を買って来てくれるなんてなぁ。セラフィーナお嬢様は何てお優しいんだ」

「俺、女性から貰ったの初めてです」

「馬鹿野郎、皆んなそうだよっ。…そうだよな?」

「うう、セラフィーナお嬢様っ!僕一生ついて行きます」

「セラフィーナお嬢様バンザーイッ!!」

「万歳っ万歳っ」



「…ところで、このオマケだとセバスが置いて行った袋一杯の雪花って、、偽物ですよね?」







ここ二、三ヶ月、職場で配られるお土産が、全て夢の国のクッキーやらチョコやらがこんもりと。

何かそんな時期なのでしょうか。( ? _ ? )

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