三十三度
遅くなり申し訳ございませんヽ( ̄д ̄;)ノ
風邪引いたら同僚二人にうつり、仕事が大変な事になりました(泣)
「雪が積もってんのに、『今日は暖かいですねぇ』って、頭おかしいんとちゃうか!?」
「分かりますっ、よーく分かりますよ。そして『え?こんな暖かい日に何でこの子厚着してるの?風邪でもひいてる?』なんて目で見るんですよ」
「そうやそうや。『ハノアの人は本当に寒がりね』、なんて残念な子を見るような目!ほんまムカつくわぁ。大体外はぎょうさん雪降ってんのに暖かいですねーなんて、お前らの頭ん中が常春の異常気象やっちゅーねん!」
「私、昔ダス…護衛の人に聞いたんです。厚着しても寒い日に外出しなければいけない時はどうすればいいのか、って。答えは【気合い】でした。…馬鹿かーっ!気合いで何とかなるんならこっちは苦労していないっ」
「ええぞもっと言ったれー。ホンマにサミローダの連中は常春頭やっ」
「…エンニチ」
「アダァッ!」
「自国民に対してそれはアウトですランちゃん。蹴りますよ」
「いっつ〜、もうこの凶暴ヒヨコが蹴っとるやんかー」
「……雪だるまが二つになってるす…一体何してるんすか?」
あ、ダスティさんだー。
待ってたよオカン!待ってたから、早くそのホコホコ湯気立つ温かいものプリーズ。
営業用スマイルで訴えるも、ダスティさんは呆れた顔を隠しもせずこちらを見ている。
何でも良いからそれ寄越せー。
「なんや?セラの連れが来たんか?」
「え?ええ、ランちゃん。紹介しますね。こちらは私の護衛のダスティです。ダスティ、この人はランディさん。先ほどお知り合いになった私の、、何だろう?メル友、じゃないな。ん〜この寒さを共感できる寒友??」
「お、ええなぁそれ!うんうん、俺とセラは寒友やで!んでダスティさん?よろしゅうな。俺の事は可愛くランちゃんって呼んでーな☆、、あれ?ダスティってどっかで聞いた名前やなぁ。…ま、ええわ。
ダスティ様ぁ〜ん♫俺にもそれ分けてくれへん?今にも凍死しそうや〜」
「ちょっ!?これはセラ様の分すよっ。だから、あんた誰すか!?」
「嫌やわ〜。ランちゃん言うてって☆」
「エンニチ、お味はいかが?…お、及第点なんだね」
傾けたコップからホットワインを啜ったエンニチが満足気に目を細める。
こう見えてエンニチはグルメなヒヨコなのだ。
数々ある武勇伝の一つに、料理長が面白半分にスパイスを並べ肉料理の隠し味を問い、見事に全て当て周囲を驚かせた事もある。…私?塩胡椒が分かれば充分だと思う。
余談だが、以前ダスティさんが昼食に小麦粉を冒涜するような、ぬちゃぬちゃお好み焼きもどきな創作料理を出した時には、こんな物食えるかっ!と星一徹ばりの見事なちゃぶ台返しならぬテーブル返しを披露してくれた。食の道は長く険しいのだ。
ゴクゴク。…はふぅ。
ホットワイン、うま〜っ。
独特の甘い風味と飲み終えた後に舌に残る微かにザラリとしたスパイスのカス。それにシナモンの強い香りがたまらないな。
昔からこれが大好きで、12月のクリスマスマーケットの時期になると、毎年専用のカップを持ち歩いてあっちの店こっちの店と、飲み比べしてたよな〜。
ん?勿論お一人様でですが何か?
同じ味のホットワインでも微妙な味の違いがあるので味比べも楽しいものだ。
難点は毎年カップを買わなければいけない事と、そのカップが意外に重くて持ち歩きには少し不便だというとこか。
今飲んでいるのは使い捨ての紙コップ。客層の多くが男性の所為なのか、ワインは甘い風味だがかなりスパイシーで、体がポカポカしてくる。
因みに私のは酒精を抜いたお子ちゃま用。
くぅ、早く大人になりたい。
「…んで、二人はそこで意気投合したんすか」
先に飲み終えたダスティさんが、横で幸せな顔でホットワインを飲むランちゃんをチラ見する。
珍しく初見で意気投合したのは、人畜無害そうな細目に口調もエセ関西弁風で懐かしい事もあったが、あの路地で雪だるまになるまで着込んでいるお互いの顔を見た時に、ピーンと来た。
多分ランちゃんも同じ事を思ったのではないだろうか。
あ、この人同類だと。
「ほんま助かったわ〜。あのまま凍死するかと覚悟しとったもん。
そうや。命の恩人に何かお礼をせなあかんな」
飲み終えたランちゃんはそう言うと懐をゴソゴソ探し始めた。
ダスティさんが苦笑しながら御断りをする前に、差し出されたのは細長い丸い筒。材質は不明だが、卒業証書を入れる筒によく似ている。
聞けばこの筒は対になっていて、この中に手紙を入れると、ランちゃんが持っているもう一つの筒に手紙が送られるという便利なダンジョン産アイテムだった。
「じゃあ、この筒には手紙しか移動しないのですか」
「そうや。いろいろ他のもんで試してみたけど、紙以外ダメやったわ」
「実用的なダンジョン品ですか…お高いでしょうね」
「家にあったものパクっただけやから気にせんといて。これで手紙のやり取りしようや。俺とセラは寒友やし、ダスティさんは命の恩人やもんな」
寒友仲間は嬉しいが、君、家の物を勝手にパクったのかい?
厄介ごとには巻き込まないでおくれよ。
「あ、これはお礼やないで。本命はコレな」
そう言ってランちゃんは服に付いているボタンをむしり取り手渡した。
な、なんか卒業式の第二ボタンみたいで気恥ずかしいな。
内心照れつつ手の中にあるボタンを見ると細かな意匠が施されたピカピカのボタンだ。裏には模様なのか文字なのか図形の形に似た細工があるが、、これハノア王家の紋章に似てないかい?
…ををう。
「…ランちゃんこれは?」
「俺ん家、結構知られてるからセラが困った時にそれ上の者に見せればええよ。大概の事はそれで解決すると思うで。
例えばさっき話してた将来ハノアに移住したいとき「ありがたく頂きますね」、お、おお。大事に持っとてーな」
印籠ならぬ不動産バッチをゲットしたぞ。
厄介ごとになりそうなのでお返ししようかと思ったが、これで住居問題は安心だ。コネでも何でも使い将来の為に厳重に保管する事にしよう。紋章?似てない似てない。私の勘違いだ。
「ボタンはありがたく頂きますが、本当にこの筒貰っていいのですか?」
「いいねん。ほんまはこっちにいる知り合いにやろうと思っとたけど、アイツは家も知っとるから連絡とれるし、それならセラにやるわ」
「では、お預かりしますね…うーん。貰ってばかりですね。私からランちゃんに何かあげるものは、、」
子供に貰ってばかりでは心苦しいしなぁ。
大量にある雪花は、、何か大事になりそうなので止めとこ。後は、、ビーフジャーキー?
「な、なんやソレっ!」
ゴソゴソ物色していると、ランちゃんの驚きの声が上がった。
視線の先には縛っていたリボンが緩んでいたのか、袋からアルフォンス三世君の頭部が飛び出している。
ランちゃんは驚愕の眼差しで人形を指差した。
「な、何でアルサンがここにあるねん!?」
「あるさん?」
「アルフォンス三世、略してアルサンや!しかもマニア垂涎のアルサンプレミアムバージョンやないか。ほら、ここのリボンが普段は赤色なんやけど金色のラメになってるやろ。服は水色と白のストライプやねん。俺も欲しい!それ何処で売ってたんか?買いに行くわ!」
「多分もう無いかと。それ的投げの一等の景品ですし」
「げげっ、それ景品なん?あっちゃ〜。それは無理やわ」
そう言ってランちゃんは頭を抱えた。
よほど欲しかったのだろうが、自力ではキツイの一言だ。私も祭りでは、クリアファイルやペン以外は初めてだったからな。
年に二、三回は祭りに行ったが、一等は、誰か当たった人はいるのだろうか?
宝くじと同じく見た事は無い。
つまりランちゃんがお祭りの景品としてアルフォンス三世君をゲットするには、お金に物を言わせクジ引きで全てのクジを買い占めるか、権力に物を言わせるかのどちらしかないだろう。
本当に欲しいのだろう。諦めきれないのか、チラチラ横目でアルフォンス三世君を見ている。正直、大人より子供にあげたいし、お礼もしたいが折角狩ってくれたエンニチの気持ちを考えるとなぁ。
「…エンニチ?」
私の肩から飛び降りたエンニチは、トコトコと人形の前に行くと私を見て、いい?と首を傾げた。
こ、これはもしかして。
取り敢えず頷くと、エンニチがアルフォンス三世君をランちゃんの方へ蹴り上げたではないか。
……な、
「エンニチっ、なんて良い子なのっ」
感動で思わず抱き締めてしまった。
うちの子一番!!
確かに目付きは悪いし、魔王様だし、気に入らないと直ぐに狩ろうとするし、味にうるさいし、執着心は凄いし、絵に描いたような傍若無人だが、良いとこも優しいとこもたくさんある子なのだ。
うう。感動で視界が滲む。そうだ!前に喜んでたお家デート、また今度しようね。
うちの子最高っ。
◆◆◆◆◆◆◆
「…あった〜。まだ頭ぁクラクラす〜る〜」
「大丈夫すか?人形が頭にモロ直撃だったすからね。
…ところで俺が言うのも何すけど、ハノア王家の紋章が入ったモンを良く知りもしない奴に渡すなんて正気の沙汰じゃないすよ。つーか、何で王族がフラフラ一人でいるんすか」
「あらま、ばれた?そんな睨まんといて。王族と言っても俺13番目やから、オマケみたいなもんやで。
それに折角の祭りに護衛に周りウロチョロされたら鬱陶しいもん…まぁ、もうその辺に来ているみたいやけど。
後、俺はちゃんとセラが気に入っとるし身元も確かやないかい。さっき思い出したけど、あんたAランクの雷撃やろ?んでそいつはこの国の宰相、グラージュ家の長女の護衛しとる聞くで。…セラなんて安易な偽名やな」
「セラフィーナお嬢様を馬鹿にするとエンニチ様に殺されるすよ」
「怖っ!殺されるって冗談に聞こえん。なんやそれセラが決めたんかい。黙っとこ。
しかし鳥ってあんな、ザマァ!的な顔も出来るん?俺初めて知ったわ」
「エンニチ様は普段無表情のくせに、そういう時にだけいい表情するんすよ。
大体セラフ、、セラ様は騙されているす。エンニチ様は可愛くもなければ優しくも無いす。
しかも今回は、目障りな奴に報復して序でに不要な物も排除した上、ちゃっかりセラ様の好感度まで上げて一石三鳥す」
「あのヒヨコ、ほんまセラの事が大好きなんやな。会話中、俺の事呪いそうな目付きで睨んどったもん。ん?じゃさっきぶつけられたのはワザとやろか?……ワザとか。ほらセラの後ろでこっちを見下した目で見とるわぁ。
…なぁ、あれ実は魔王とかが姿替えとるんとちゃうか?ほんまに何なん?」
「(意外と鋭いすね)前にセラ様が家に遊びに来た爺様にエンニチ様を紹介する時に、スッゲー的確な表現を使ってたすよ。
『立てば鬼神座れば魔王、歩く姿は破壊神』」
「最終兵器かいっ!?」
ランちゃんはエセ関西弁です。;^_^A




