三十二度
ーーどういう事だ。
私の所為で家族が馬鹿にされているって事なのか?
公式な行事に参加しない謎の長女ぐらいは想像していたが、まさか生存そのものが疑われているとは考えもしなかった。
しかし時々ではあるが茶飲み友達、もとい守護鳥様や国王様とお茶をしに何度も登城しているぞ?
メンバーはパパさん、国王様、守護鳥様に時々ブラザーズやベルが参加する時もある。
後は給仕をする執事さんたち…うーむ。国王専属なら優秀だろうし外部に情報は漏らさないか。
神殿関係では、お爺ちゃん、お偉い一部の神官。後はデザイナーのリアンさん…おや?意外と少ないな。
これは由々しき問題だが今は後回しだ。
今騒いでもしょうがないし、せっかくのお出かけなのだ。今はめいっぱい楽しもう。
そう思いダスティさんに、にっこり笑ったのだが逆に引きつった顔をされた。失礼だな。
クルーシュと呼ばれる冬に実るツルリとした白い殻に包まれた木の実。とても硬いこの実を専用の器具で殻を割ると、これまた硬い実が出てくる。それを長い時間蒸して柔らかくなった実に蜂蜜をかけたものを食べながら歩くのが雪花祭の定番だとか。
表面は蜜が固まりパリッとして、中身はホクホクの蒸したお芋の食感だ。味は濃厚なクルミに似て、何となく後を引く。蜂蜜も絶品だが塩とバターでも合いそうだ。
暫く店を散策していると、周囲がそわそわしている事に気付いた。
そしてまた暫くするとぞろぞろと、それこそ店の従業員や店主まで揃って表に出始めたではないか。表に出た人たちは全員一様に空を見上げていた。
あれ?仕事はどうしたんだ。今から何が起こるんだ?
「まぁ、見てて下さいす。もうすぐ時間に…お、始まったすよ」
それは突然起こった。
…ああ、だから雪花祭というのか。
疑問がストンと腑に落ちた。
空からヒラヒラと舞い落ちるソレは儚く繊細な雪の結晶、雪の華だ。
あちらの世界ではダイヤモンドダストと似た現象が目の前で起こっている。
子供たちは両手を大きく広げ歓声をあげ、大人たちも童心に帰った顔で空を見上げ手を伸ばす。
皆んな華が降りて来るのを待っていた。
「これは毎年雪花祭のみ起こる現象す。よく分からないすけど、精霊の祝福?とか何とか。
小難しいすけど、綺麗なら何でもいいすよねー。毎年見ても飽きないすし。…セラ見てて下さいす」
そう言ってダスティさんは落ちてくる雪の華に手を伸ばすと、フッと幻の様に消えた。
「ね?掴もうとするとすぐに消えるす。
でも、ごく稀に結晶化してそのまま残る場合があるす。硬く溶けない雪花を女性に贈れば、二人の絆は強固なものになり幸せな結婚が出来ると言われてるすよ。最も毎年三、四人ぐらいすかね…俺も毎年取れないすけど」
成る程。
ーーだから、
「頼むーー」
「ぎゃああぁー」
「俺は今年こそミッシェルさんに告白するんだぁ!」
「精霊よっ俺に愛をぉぉ」
だから皆んな殺気立ってるのか。
…あ。
エンニチの上に落ちた雪が結晶化した?
「凄いよエンニチ!ほら頭に乗った雪花が王冠みたい。ふふふ王様みたいでカッコいいよ」
2センチぐらいの雪がエンニチの頭の上で結晶化して、透明な宝石の様だ。角度によってオパールの七色を映しキラキラしている。何だかゴージャスな王冠みたいだ。
褒められ、踏ん反り返る小さい王様の姿が何とも可愛いらしい。
いいさ、親バカと言ってくれ。
ダスティさんも驚きに目を見開いているが、例え珍しい現象でもエンニチならば納得だ。寧ろ前の世界で毎年三億円当たっても、エンニチだからねー、で終わると思う。
…おや?
「くぅー、エンニチ様も取れたんす!俺も頑張るすよ」
…え?これって…。
「このっこのっ」
ちょっ!?な、なんかおかしいっ?
「……ダメす。全部消えるす」
……いや、ま、待ってくれ、助けてダ、ダスティさんーっ!?
「…はぁ。セラも取れ、たぁーーーっっ!??」
やっと気付いてくれたか。
私とエンニチは埋もれかけていた。
子供一人を中ほどまで埋める量の雪花に。
ダスティさんの悲鳴と共に、両脇からズボッと持ち上げられた。
救出ありがとう。一枚一枚は軽くても量があれば潰される事が身をもって実証されたよ。
引き上げられる際、頭や服に付いていた無数の雪花が、シャラシャラと澄んだ音を立て落ちた。ーー綺麗だな。何て呑気に考えてたのもそこまでだった。
ーー目立ってる。
エンニチより、ダスティさんより、誰より自分が一番目立ってる。
……年に三、四人取れる=(イコール)三、四枚しか取れない筈の雪花が、軽く見積もっても数百枚はありそうな…ははは。
ダスティさんと目が合うと、彼も同じ事を考えているようだ。つまりーー逃げよう。
チャララチャッチャッチャッ♪チャララチャッチャッチャッ♫
某3分なクッキングのBGMと共に取り出したのは、エンニチ。
先ずこの子を地面に置きます。
するとあら不思議。まるでメデューサを見たかの如く、周囲にいた人たちが固まる現象が起きるのです。
小さく可愛らしいクリーム色のヒヨコ。黒くてパッチリとしたお目めもキュート。でもオーラが魔王。
そんなエンニチにみんなの視線は釘付けだぞ☆
無論、可愛くてラブリー系なものでは無く、目をそらせば殺られる殺伐系だ。
周囲が本能的に固まっている隙に、懐から袋を出したダスティさんが地面に落ちた雪花を素早く掻き集める。
私もお手伝いし二人で粗方袋に入れ終えると、両手が塞がっているダスティさんの首に手を回せば準備万端!
エンニチが肩に飛び乗るのを確認し、ダスティさんは猛ダッシュでその場を後にした。
あうううう。さーむーいー。
こんにちは、セラフィーナです。
精霊の加護の大安売り?大盤振る舞い?のおかげで逃走する羽目になりました。
ダスティさんの首にしがみ付いていただけなのに、ライフポイントはゼロ。もう一歩も動けませぬ。
細い路地に高く積まれた空き箱の陰で、アルフォンス三世君やお土産に囲まれダスティさんの帰り待ち。
そのダスティさんは温かいものを買い出し中。
私のそばを離れるのを相当渋ったが、動けない私を見て連れて行くのを諦めた。
因みに側を離れる際に、エンニチの側に行き、『セラフィーナお嬢様を攫おうとする馬鹿野郎は八つ裂きにして下さいすよ』と恐ろしい事を言った。
…エンニチ、そこで激しく同意しないの!
それにしても寒い。ダスティさんはまだなのかっ!?
………あーっもうっ!!
「寒いーっ!熱々濃厚とんこつラーメンっ!辛い火鍋ーっ!あっまーいホクホクの石焼き芋ーっ」
「この国の連中は皆んなアホちゃうか!?あーっ腹立つわぁ!詫びに今すぐにごっつう熱っっいコーヒー飲ませろやぁーーっ」
…………………………ん?
空き箱の反対側に誰かいるのか?
ソーッと顔を覗かせると、向こうも同じ動作をしていたらしく、目が合った。
「誰や?」
ーーどなた?
◆◆◆◆◆◆◆
(その頃のルイスとロン)
「ドルツ様、どうかしましたか?」
「い、いえ別に」
「顔色悪い」
「…ああ、本当に顔色が悪いですよ。
風邪がまだ治っていないのでは?二日前にお会いする予定が、今日っ!になりましたから」
「…そう。今日っになった」
「そうですね。でもロン。ドルツ様は風邪だったので今日っ!に延びたのは仕方がないですよ」
「な、何か分かりませんが、すみませんでしたーーっ」




