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二十七度


「初めまして、セラフィーナ様。マイヤ=ロッティンと申します」



パパさんたちに挨拶をした後、そう言って私の目の前に立った女性は教科書のお手本の様な優雅な仕草で腰を屈めた。

女性がかけている銀フレーム眼鏡の奥は深い藍色の切れ長の瞳。長い同色の髪は薄い黄色がかったバレッタで後毛一つ無くキッチリ綺麗にまとめ上げられている。

服装も華美では無く機能性の高い且つ、公爵家の訪問するのに失礼に当たらないドレスだ。



正に落ち着いた大人の女性!

仕事を持ってるデキる女性!

私の目指す場所にいる女性!


しかし微妙に惜しい!

もう少しで某アルプスな少女に登場する先生様と同じ名前だったのに。


おっと、こちらも挨拶をしなければ。




「初めまして、ロッティン様。セラフィーナ=グラージュと申します。

こちらは私の守護鳥のエンニチです」

「(コクリ)」

「ふふ。お噂通りとても可憐な方ですね。ご丁寧にありがとうございます。私の事はマイヤとお呼び頂けると嬉しいですわ」


一瞬エンニチの眼光に怯んだが、そのまま和かに返答した。表に出さないとはなかなかの精神力である。


「マイヤ氏は東のクレストア出身の方で、歴史学と考古学において数々の発見や論文を出している才女と名高い方だ。今は我が国に留学中でバ、ルイベット姫の歴史学の家庭教師をしている」



…パパさんよ。貴方今、縦ロールの事を馬鹿と言おうとしなかったか?

まあ一国の姫に心の中とはいえ、縦ロール呼びをしている私も大概だが。



「過分な評価で恐縮ですわ。

ああ申し遅れました。こちらが私の守護鳥ロバートソンです。

ロバートソンは英雄の名前から頂いたのですよ。ご存じの方もおられるかも知れませんが、ロバートソンはセッキ時代に活躍した方で、元々は小さな狩猟民族の出身でした。季節毎に移動しながら各地を転々とし糧を得ると同時に…」

『グゥゥー』

「…大変失礼致しました。歴史になるとつい熱が入ってしまいまして。こうやって時々ロバートソンが注意してくれるのです」



恥ずかし気に苦笑しながら鳥撫でる姿は正に美女と野獣。

そう。素敵女性に似合わないのが、側にいる鷹に似たデカい猛禽類。

灰色の中に青色のラインが一本入った不思議な羽の色だ。猛禽類らしく獲物を狙う鋭い眼差しと嘴。小さなエンニチなど羽ばたき一つで飛ばされてしまうであろう大きな羽と、通常の倍以上はあるかと思われる太い足と鋭い爪。

吊りあがり気味の瞳は深い琥珀色に赤を混ぜた様な色だ。ギョロッとこちらを見る猛禽類の力強い眼差しは小さな子供ならギャン泣きする程の迫力だが…ふっ。エンニチに比べれば可愛いものである。

こちらを暫し観察していたロバートソンは、マイヤさんの紹介が終わると絨毯を踏みしめ、エンニチに向かい威嚇するように大きく翼を広げた。

……どう見ても友好的なものではない。


それを見たエンニチが手の平から下り、ヒョコヒョコとお尻を振りながらロバートソンに向かい歩いて行く、が。あの後ろ姿のオーラを見る限り、こちらものんびりまったりと鳥仲間の会話を楽しむ雰囲気ではない。


「エ、エンニチさん?」


おかしい。何故か鎌首をもたげるハブと襲いかかろうとするマングースの幻影が見える。



タイマンか?

タイマンなのか?


オロオロする私にパパさんが苦笑しながら宥めるように肩に手を置く。



「知っている通り、守護鳥は基本的に何らかの力を持つのが多い。その力の強さ故なのか本能的に守護鳥同士の優位性を示す行動が暫し見られるんだ。貴族の集まりは同時に守護鳥も集まるからね。この様な行動は珍しくないんだよ」

「納得しました。でもそれって…」


「ご安心ください、セラフィーナ様。いま宰相様がおっしゃられた様に、鳥の中にはお互いの上下関係を決闘で決める場合があるのですが、ロバートソンは無闇矢鱈にか弱く小さなものを襲うような鳥ではありません。あれは威嚇だけ……え?」


「…エンニチの瞬殺ひとりがちで終わるのでは?、と言いたかったのですが…」

「ある意味予想を裏切らないね」

「意外性も何もないす」

「か弱い、全く違う」

「か弱いの言葉が居た堪れずに裸足で逃げ出しますよ」



痛み出したコメカミを押さえ指の隙間から覗いた先は…既に決着がついていた。

アサシンヒヨコの名に恥じず、私達が一瞬だけ目を離したその隙に。


翼を広げた状態で地面にべったりと伸びたロバートソンの頭に片足を乗せ、獲ったど〜、と何処ぞの芸人の如く胸を張るエンニチの姿。

凄い?凄い?強い?

こちらをジッと見る目が物語っていたりする。



こっそりマイヤさんを盗み見ると目の前の現実が信じられないのか、目と口が真ん丸にポカンと開けている。硬質な雰囲気が消えた無防備な姿は実年齢より幼く見え可愛らしい姿だ。

その姿を直視したダスティさんは顔を真っ赤にしていたりするが分からないでもない。

見た目は有能社長秘書でクールビューティな眼鏡女子。しかし素は可愛らしいとはスバラシイ。是非師匠と呼びたい。




その師匠はまだ戻って来ない。

全体がロバートソンの頭部にも満たない大きさのエンニチが勝った事がまだ信じられないのだろう。

しかしそんなに信じられない事だろうか?今までエンニチが、自分より大きなダスティさんやベルを一撃で伸している場面を見ているので、これくらいで驚くわけが無い。寧ろ通常モード。エンニチ最強説は我が家では常識だ。


…あれ?そうなると私の常識にちじょうは、もしかして非常識ひにちじょう?だんだん自分が世間様と離れていくようで怖い。

いやいや、大丈夫、まだ戻れる、大丈夫のはず、大丈夫だよね。


世間一般常識にちじょうよ、ウェルカム。



嫌な予感を振り払うように首を振ると、前から強い視線を感じた。あ、スマナイ忘れてた。

しかし私は大人だ。忘れていた事などおくびにも出さず、微笑みながら手招きでエンニチを呼ぶ。

うんうん。エンニチは凄くて強くてカッコイイから、取り敢えず頭から足を退けようか。


私の隣に飼い主がいるから居た堪れないんだよ。








「お恥ずかしいところをお見せしてしまい、申し訳ございませんでした」


そう謝罪すると、落ち着く為に紅茶を飲む姿は見惚れる様な優雅さであるが…タカタカ若干震えている手が内心を表している。

本当にうちの子が申し訳ない。ついでにロバートソンの頭部の毛がハゲ…コホンッ、ザビエルカットになっているのは気が付かなかった事にしよう。



ソーサーにカップを置き、居住まいを正したマイヤさんはパパさんに向かい頭を下げた。



「お願いします!最近宰相様がキザト地方の地下ダンジョンで手に入れたという物を見せては頂けませんでしょうか」


ダンジョン?

確か前にダスティさんが、何らかの原因で魔気が凝縮されコアが出来ると、周りの土地や魔気を取り込み形成されるものをダンジョンと呼ぶと言ってたな。

仕組みは未だ解明していないがダンジョンの種類は様々で、巨大鍾乳洞や水中洞窟、地下や螺旋状もあるらしい。

中でも多く見られるダンジョンは遺跡を取り込んで出来るもので、不思議な事にその時代の宝箱が多く出るとか。特に今では失われた魔法も数多く、オークションでは目玉が飛び出る程の高値になるとな。将来安泰ウハウハと思うそこの貴方、世の中そんなに甘くない。

ダスティさんに聞いた事がある。



「ダンジョンに宝箱なんてお得な上に夢があります」

「まあ、餌は良いものじゃないと誰も寄ってこないすからね。なかなかのモンが出るすよ」

「餌?」

「ダンジョンを構成しているのは魔気す。

だから内包している魔気が無くなると消滅するす。そこでお宝すよ。

ビックリするようなお宝があれば人間が寄ってくるす。そして人間を餌にする魔獣も寄ってくるす。

どちらが戦いで死んでも、個体が迷って死んでも魔気を効率よく吸収することが出来るす。ダンジョンも維持していくには魔気えいようが必要なんすねぇ」

「ダンジョンは食虫植物ウツボカズラか」



しかも宝箱はランダムに出現する上に、良いものほど最深部近くにある。ついでに奥に行けば行くほど魔獣の凶悪さもレベルアップしており命を落とす者も多いとか。

金のランクのダスティさんは、若かりし頃にダンジョン荒らしとの異名が付く程攻略して行ったらしいが、普段エンニチに虐げられている姿しか見た事がないので怪しいと睨んでいる。

私的には命を賭けた一攫千金より地道に働けと言いたいが、そこは個人の自由だ。


しかしパパさんにそんな収集癖があったとは知らなかった。



「おや?耳が早いね」



…微笑んだご尊顔は我が親ながら見惚れるほどダンディでそれはもう眼福なのだが、あの笑みは獲物が掛かったと喜ぶ狩人ハンターに似ているのだから素直に喜べない。

師匠は全く気付かずパパさんの手に持ったナイフのような物に目が釘付けだ。

震える手で受け取ると、頬を紅潮させた。


「ああっ!この反りっこの手触りっ!この刃文はインカン帝国時代かプトレマイース時代の物によく見られる特徴ですわっ!!

うふふ。細く優美な曲線は女性的ですわね。貴女のお名前は今日からキャサリンですわっ!

キャサリ〜ンちゃん♪貴女はいつの時代の子ですかぁ?ふふふふ」



……これアカん人だ。


「お父様、あの方大丈夫でしょうか?」

「噂に違わぬ方だったようだね。

でもセーラ。先ほど暖炉の前から離れなかったお前も似たような状態だったのだよ」


……私もアカん人だったのか。






◆◆◆◆◆◆◆






「見事に頭部に一撃すか。ほらココの毛がハゲてるす」

「情け容赦無し」

「まあ軽い脳震盪のようだから直ぐに目を覚ましますようですが…起きたようですね……ん?」

「…あれ何してる?」

「鳥の頭上にエンニチ様が乗ってるすね。しかもドヤ顔で」

「あ、セーラに見せに行きました…聞こえませんね。セーラは何を言ってるのでしょうか。ダスティ分かりますか?」

「…えっと、、『うんうん、絵本で見た騎士様みたい』と言ってるすよ」

「騎士様?」

「絵本の騎士様と言えばこーんなちっこい頃、セラフィーナ様が絵本見ながら『この世界でも騎士は白馬に乗ってるんだ。王道だね〜』って言ってたすけどそれの事すかね?」

「読めてきたよ。白馬ではないがマイヤ氏の守護鳥はグリグバード。直接的な攻撃に優れ、馬並みの健脚の持ち主だ。空を飛ぶより地上を走る方が早いと言われている」

「つまり馬代わり?」

「セラフィーナ様の関心があるものになりたいのは分かるすけど、何で今頃?…ああ、普通の馬じゃ大き過ぎてエンニチ様見えないすか」

「可哀想に。目をつけられたあの鳥はエンニチ様専用の馬に決定ですね」








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