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二十六度

吹雪いています。(゜д゜lll)

皆様も体調にはお気をつけ下さい。

「えー、もうそんな時間なのかよー。俺デザートまだなのに」


約束どおりエンニチにお茶を淹れ、(何故か周りの温度が二、三度下がったような気がした)食後のデザートが来るまでまったりと寛いでいる途中、ベルぼっちゃんにお呼び出しがかかった。

肩を下げながらも嫌だと我が儘も言わず責務だと割り切り準備する姿に、もう坊っちゃんと子供扱いは出来ないなぁ、と思う。



少しだけ寂しく思いながら、デザートを食べ損ねたベルぼっ…ベルの側により、器型にさせた手の中に持っていた飴ちゃんをパラパラと降らせた。

定番のべっこう飴や香りの良いハーブを入れたもの、後は料理長特製のジャムを入れた飴ちゃんだ。



「…セーラと初めて会った時もこんな風に飴をくれたよな」

「そうでしたね。あれ以来ベル様が飴を欲しがるので常備する様になってしまいましたよ」

「はは、セーラの所為だから責任取って持ち歩いてくれよ。そろそろ行かないと」

「あ、こちらのジャム入りは早めに食べてくださいね。

ではベル様、お仕事頑張ってください」

「お、おう、任しとけ。行ってくるな!」



「……何か、噂に聞く新婚さん朝の風景みたいすね」





因みにデザートのフォンダンショコラは絶品だった。

余ったベルの分はブラザーズとエンニチと四等分で美味しく頂いた。

また飴ちゃんを差し入れするから許しておくれ。









ーーーー逃げ場が何処にもない。


「セーラ」



ーーーーあ、ああああ。





目の前には敵兵ポーンに囲まれたキングの姿。



「はい。チェックメイトだよ」

「……うぅ。また負けました」



戦い終えた疲労感で私はポフッと音を立て、クッションにもたれた。


貴族の嗜みの一つに遊戯がある。基本はチェスやカードゲームなど。

この世界の女性はお茶会や観劇鑑賞など華やかなものを好む傾向にあり、カードゲームなどは男性がする遊戯との認識があるらしいが、別に女性でもおかしい事では無いし、何より家族で楽しみたいではないか。

前世ではチェスどころか、将棋も囲碁もした事は無く、只今修行中だ。

前世プラス今世の脳を持ってしても勝てる未来が見えない。末恐ろしいお子様たちである。



ムッスリしている私にルイス兄が苦笑しながら頭を撫でる。

ふ、ふん。ご機嫌をとっても無駄なんだからな……あ、ミックスジュース?ありがとう。ゴクゴク…素晴らしい!相変わらずセレブな味がする。いやー、酷使した脳に糖分が染み渡るな。数種類の瑞々しく新鮮な果物を濃厚な味のバナナとまろやかなミルクが柔らかく包み込んで……。



「機嫌直った?セーラ」

「……はっ。少し遠くに行っていましたわ。

美味しかったです。ありがとうございます、ロンお兄様。…はぁ、また負けてしまいました。いつになったらお兄様たちから一勝出来るのでしょうか」

「セーラは殿下と良く似ているよ。真っ直ぐすぎるんだ。ほら、この場面はこっちに置かないと次の三手先で囲まれてるだろう?こちらに囮を置いてこのマスまで移動しないとダメだよ」

「でもおかしいです。攻撃は最大の防御なのでは?」

「セーラ。それ、チェスには不向き」

「むー。大体お兄様たちは強過ぎます」

「ふふ、だからハンデで何体か駒を抜いた状態でやろうと言ってるのに。時々セーラは頑固になるね」

「勝負の世界に情けは無用です。やるからには実力でのし上がってみせます」

「セーラ、男前」

「ぜーったい、ルイスお兄様とロンお兄様から一勝してみせます!」



側でムッスリとしながら試合を見ていたエンニチだが、以前パパさんとの試合で惜しいところで負け、何処ぞの野球少年の頑固父親のように、ちゃぶ台返しならぬボード返して癇癪を起こしたのは記憶に新しい。

よほど悔しかったのか、時々私の隣で専門書を読みリベンジするべくこちらも修行の真っ最中だ。

あまりにも熱心に読むのでチラ見をしてみたが、図解が載っているのにも関わらず全くわからなかった……。ほ、ほら、アレだ。女性らしく編み物をしようと本を買って来たのはいいが、写真も手順も載っているのに何故かチンプンカンプンで結局なにも編めないのと一緒だ。


これは一種の呪いみたいなもので、ヒヨコより知能が低い訳ではけっっっして無いはずだ。




ランクでは下から私とベルとダスティさんが団子状態→(超えられない壁)→ブラザーズ→エンニチ→パパさんと言った順番だ。

壁を越えブラザーズから一勝するのが私の目標だ。




パパさんが打ちひしがれた私を椅子に下ろし、ルイス兄がオレンジの紅茶を、ロン兄が最近下町で流行りの焼き菓子をお茶請けを用意している。

ご令嬢が見たらコロリとイチコロな笑顔で、それぞれ慣れた手つきで用意している姿を横目に常々疑問に思っていた事を側にいた執事さんに聞いてみた。

彼は公爵家に仕える言わば上級執事だ。私の知らない常識非常識を知っている筈。



「ねぇセバス。お父様もだけど、ルイスお兄様もロンお兄様も貴族なのに妹とはいえ、こうやって甲斐甲斐しく給仕するのは普通なの?他家もそうなの?」



首を傾げつつ問う私に、執事さんは笑みを浮かべ孫を見るような優しい眼差しでキッパリと答えた。



「セラフィーナお嬢様、昔から言うではありませんか。『うちはうち、よそはよそ』と。お気になさらない方が宜しいかと」



そういう問題だろうか?









エンニチを膝の上に乗せてブラザーズの対戦を見ながら、ぽかぽか暖炉の前でのんびりまったりしていた私の耳に執事さんのパパさんを呼ぶ声が聞こえる。


珍しい。

家族団欒の時は仕事を入れない人なのに。それほど緊急なのかと不安がよぎるが、パパさんはただの来客だと言った。

他国の貴族?面倒そうだなぁ……なに?女性でしかも学者だと、、働く女性ぃ!?


あ、会いたい!お出迎えします!



第一印象は大事だ。


絨毯に座り込んでいた為に皺になっている裾を手でササっと伸ばし、少しずれていたエンニチのペンダントの位置を直す。うんうん。胸を張らなくてもとても似合っているぞ。


ところで身支度をしている横でダスティさんが、『漸くあの一週間の苦労が報われるんすね』と疲れた表情で呟いていたのはなんの事だろう。







◆◆◆◆◆◆◆






「セーラは真っ直ぐ。だから簡単にあしらえる」

「確かに。チェスは言わば盤上の戦争だ。あれでは直ぐに勝負が付いてしまうね」

「正直エンニチ様がお強いのには驚きました。

私など足元にも及びません。父上が苦戦しているところなど、あの時初めて見ましたよ」

「そうそう。んでその後エンニチ様が負けて癇癪を起こしたのを見た時、旦那様の最後だー、と思ったす」

「ははは、確かにアレには私も肝を冷やしたよ。

しかしその後のエンニチ様がねぇ。ベッドを冷やしたり、コートの裏地に足跡を付けたり、インクの中身をジュースと入れ替えたり、と地味な嫌がらせをね」

「うわー。地味過ぎて逆に嫌す」

「大掛かりなのはセーラにバレる」

「癇癪を起こしたり嫌がらせをしたりと、エンニチ様もまだまだ子供だという事さ」






没ネタ


「なあ、セーラは魔王には勝ってるんじゃなかったか?」

「魔王って(苦笑)。ええ、連勝してますね」

「おお、すっげー」

「エンニチ的にバレていないつもりなのでしょうけど、駒をおかしな場所に置いたり、私が攻めやすい様に場所を空けたり」

「…………」

「…勝たせてもらっています…」

「…………なんか…ごめん」




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