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二十四度

今年の投稿ま、間に合いました(^◇^;)

皆様、拙い作品を見て頂きありがとうございます。

良いお年をお迎えください(^^)/~~~

「セーラ、お前が成人するまでには絶対なんとかするからな!だかっ〜〜!!」



ベル坊っちゃん。

何故か焦りつつ私の手を握ろうとし、エンニチに手を啄まれ悶えるベル坊っちゃん。君は一体何をしたかったのかい?



北国だからこそなのか基本国民全員寒さに強い。中にはベル坊っちゃんの様に魔法で暖をとる者もいるだろうが、部屋を暖める暖房器具は暖炉だけ。外出に至っては着込むだけとはこれは如何に?


ダスティさん曰く。

寒い?着込めばいいんすよ。

凄く寒い?体を動かせばポカポカす。

死ぬほど寒い?気合いで大丈夫。


分かり合う事は無理だと悟った瞬間だった。

あったかカイロ作りを研究してくれているベル坊っちゃんの今後の成長に期待している。

成功すれば儲かりまっせ。






会場内が賑やかなのに対し、若干テンションが下がるのは仕方がない。

しょんぼりしつつパパさんの腕に包まれながら雪像を見ていると、遠くからどこか聞き覚えのある甲高い笑い声が聞こえた気がした。

…寒過ぎて幻聴まで聞こえる様になったか?

耳当ての上からトントンと叩いてみるが、『おーほっほっほっ』……まだ聞こえる。

いや、幻聴では無かった。それを聞いたエンニチが胸ポケットから顔を出し目がギラリと殺気を帯びたのだから。

ひえっ!?な、なんだなんだ?

背後に仁王像を背負ったままポケットから飛び出そうとするエンニチを布ごと上から押さえ込み慌てて周囲に視線を走らせた。

何か分からんが、この殺るぜ!的なエンニチを出せばターゲットの血の雨が降ることだけは確信している。

何処だ、一体何がこんなにエンニチを駆り立ててーーあれ、か…………ああ成る程、狩り立てるのか。


おかしい、私の目は一体どうしたのだろう。何故あんなに大きな氷像に今まで気が付かなかったのか?…いや認めよう。脳が無意識に拒否していただけだ。寧ろ気付きたく無かった。


「…ベル様、あれ何ですか?」

「あ、そっか。セーラは雪花祭は初めてだったな。あれは姉上の氷像だ。確かに初めて見た奴は驚くよな。俺は毎年見てるから別に驚かないけどな」


痛むこめかみを押さえその物体に指を指し問えば、ベル坊っちゃんは至ってシンプルな回答だった。

見たまんまだな、おい。

指の先にはガン○ム程の巨大な縦ロール像が、背後に大輪の薔薇薔薇薔薇を背負い両手を組む姿は慈愛に満ちた聖母の様な表情を見せている。


宝塚ヅカか?

しかもどう見ても実物の5割り増し。

あんなに儚い美女では無い。詐欺だ。


何とも言えぬ精神的ダメージに打ちのめされている訳だが、パパさんやベル坊っちゃんたちも何故誰もダメージを受けていないのかと首を傾げたが、毎年恒例と言っていたな。アレを見て何も思わないとは既に感覚が麻痺しているのだろう。可哀想に。


「姉上がパトロンしてる奴に毎年作らせてるんだ。確かあっちには母上の像もあった筈だぞ」


身も蓋もなく金と権力に物を言わせているらしい。

いいのか?あんなに堂々と国の恥を晒して。


「お父様、この雪花祭には国内外からご招待した方々が来られていると聞きましたが、アレはいいのですか?」

「心配しなくても当国うちだけではなく、どこの国も王族の女性は皆華やかなんだよ。

そうだね例えば、以前東国クレストアの建国祭に出席した時は、絹糸の産地の名に相応しく王妃や皇太子妃の方々は原色系のギラギラとした非常にケバ…華々しい衣装に身を包んでおられたし、巨大な人形を担いで三日連続で盛大なパレードもあったね。アレに比べればまだマシな方さ」


リオのカーニバル的派手さと5割り増しは常識らしい。

ーーっと、こらエンニチ。

モゾモゾとポケットから首を出したエンニチが更に出ようとしている。ここからでは姿は見えないが、どうやら縦ロールは自分の雪像の前にいるようだ。

あかん、エンニチが一狩り行こうぜ!なノリでトドメを刺しに行こうとしている。なに?……祝福の魔法をかけて欲しいと?殺る気満々だな、おい!

パパさん笑ってないで助けて下さい。

ブラザーズよエンニチを煽るな。

ダスティさん、ベル坊っちゃん目を反らすな。

頼りにならない男性陣は当てにせず、取り敢えず今は自力でエンニチを落ち着かせる方が先だ。



「エンニチ、これが終わったらお城の中にあるお父様のお部屋で昼食だよ。お鍋だよお鍋。暖炉で温めて半分こして食べようね」


ピクリとエンニチが反応する。

よし、もう一声。


「最近は執事セバスに美味しいお茶の入れ方を習っているんだよ。今日は食後にエンニチにだけト・ク・ベ・ツ☆に淹れてあげる。だから早く終わらせようね〜」


貴方が私の特別なのよと、普段の三倍媚を売りながら懐柔する。

自分の事だが毎回キモい。前世でもした事はないぞ。

しかし己の羞恥心を犠牲にした甲斐あってか、普段?の冷徹なアサシンに戻ったエンニチが若干迷いつつも大人しく胸ポケットの中に引っ込んでいった。


ーーほっ。取り敢えずエンニチの脳内殺人で終わったか。

胸を撫で下ろしている私の隣ではベル坊っちゃんが年に似合わぬ表情で言った。


「セーラ、お前苦労してんだな」



ストレスで胃がヤられるより先に毎朝の日課のエンニチのどアップでポックリ逝きそうだがな。






そろそろ作品群も最後というところである一角でパパさんに足を止めてもらった。

これ、いいな。

パパさんの腕から降り、作品を眺め始めた私に近付いたベル坊っちゃんが氷像を見て首を傾げる。

何が気に入ったのか分からない様子だ。


「セーラ、この氷像が気に入ったのか?…このプレートは抽選枠?ふーんこれは南の孤児院の作品か。でも数は多いけど何かみんな大きさもチグハグしてんな」

「孤児院の子供達全員で作ったんだろうね。ふむ妖精と小人の雪像か」

「上手いのは年長組、下手なのは幼児組」

「確かに手の込んだ小人の横に、雪ダルマかな?二頭身の可愛い雪像や崩れた雪山になったのもいますね」

「んー、なぁなぁセーラ。あっちのはどうだ?あのシュバルツ様の像なんて大きくてカッコイイぞ。あ〜やっぱアレ人気あるな。他の奴らも集まって投票してるぞ」

「確かに作品だけならば、あちらのシュバルツ様の氷像が一番だと思います。

しかしながら当家の庭に咲く冬の花は色が薄くて背の低いものが多く、あの様に大きな氷像では花が霞んでしまいます。

ですがこの小さな妖精たちならばぴったりだと思いませんか」


そう、評価するだけならば向こうに見えるシュバルツ様の氷像が一番だと思う。

ここから見て分かるほど羽根の一枚一枚が繊細に彫られ、大きく広げられた翼は今にも飛び出して行きそうな躍動感だ。前世で友人の結婚式に出た鳥の氷像も感動したが、こちらの方が何倍も凄い。

しかしベル坊っちゃん、今回のテーマは《庭で楽しむ氷雪像》なのだよ。


「孤児院の子供達が作った雪像は大小様々な可愛らしい小人や妖精たちです。ほら、この座っている妖精は庭に生る小さな赤いベリーの側に置けばベリーを探している様に見えますし、少し崩れている小人たちは木の根元に置けば、遊んでいる様に見えませんか?私は想像しただけでワクワクしますよ」


私は大きく美しい氷像をどどんっと置くより下手でも庭の花々と一緒に気兼ねなく楽しめるものがいい。

昔見た幼稚園児向けの教育本で、小人が花と背比べしてたり昼寝をしている写真と雪像を重ね合わせてみる。

うん、いいじゃないか。メルヘンチックで。

何よりお高そうで繊細な氷像なんてポッキリと折れそうで怖いわ。


「そうだった。確かに庭にあれじゃ、どっちが主役か分からないもんな」

「成る程、セーラは良く見ているね。そこの君、我がグラージュ家はこの雪像に投票するよ」


パパさんが作品の側にいる関係者に告げる。

作品の側には関係者の人たちが立っており、家名の入った銀色のプレートを渡した。

ベル坊っちゃんも我先にと割り込み金色のプレートを押し付ける。


「あ、俺も俺も!ちゃんと皇太子評価って書いてくれよ。確か王族おれが50点で上級貴族が20点。その他の貴族が5点だったからこれで少なくても70点入るんだよな」

「合計点数は最後に発表されるんですか?」

「いろいろ問題がある。だから点数は表示されない」

「俺が聞いても教えてくれないもんな」

「え?では不正される可能性があるのではありませんか?」

「そうならない為に執行部があるんだよ。万が一にも不正もしくは不正控除をすれば一族郎等縛り首か運が良ければ国外追放だ。万が一にもそれは起こらないから安心していいよ」


どこをどう安心していいのか分かりませんパパさん。たかが雪祭りで意外とエグかった。

それだけ国の威信をかけているという事だろうけど、縛り首は無い。


「因みにここだけの話だけど王妃達の像は毎年恒例の50点だね」

「成る程、少なくともこの雪像は王妃達の像より点数は上ですか」

「なぁ、俺やちちうえでも知らないのに、どっからその情報来るんだ?」

「秘密とは人生のスパイスなのですよ殿下」

「意味わかんねえし」


ベル坊っちゃん。それはパパさんだから、で解決するんだよ。

でも50点って…自分で入れているのか。

点数が表示されないのをいい事に取り巻き達も入れていない、と。少しだけ同情するが、作品は本人知ってたら引くレベルの5割り増し。入れたくない周囲の気持ちの方がよく分かる。


ーーん?何だ。


「…ベル様、何か?」

「なんて言うか、俺カッコイイ像にしか目が行ってなかったんだ。見た目も良いし皆んなも見てるし。でもそうじゃ無いんだよな。 皆んなが投票してるから俺も、じゃなくてテーマに添った作品を選ばなきゃならないんだよな。

セーラはしっかり自分の意見を持って凄いカッコイイな、って思ってさ。俺も見習わないとな」


子供だってプライドはある。その子供が自分より年下のしかも女の子を認めるのは勇気がいる事だと思う。

意識せずそれが出来るベル坊っちゃんは、やはり王の器を持つ人間なのだろう。

良い子良い子、と何となくベル坊っちゃんの頭を撫でてみる。


「あのなぁ、俺はルイスと同い年って分かってるか?何か年上の俺が逆に守られているみたいだな。セーラが人誑しと言うか、計算しているルイスとは違って無意識な分本当目が離せない。おい、こんな時にだけ優しいとか反則だぞセーラ」


苦笑しながらこちらを見るベル坊っちゃんの視線が優しくて、なんだか落ち着かない。



…………を…ををう。


(お、落ち着け!何で動揺してるんだ私。ショタコンじゃない。シワタショタコンチガウ!な、何か言え私!えっと…ええっと)



「ほ、褒めても何も出ないんだからねっ!」



ーーほんっと何言ってんだ私。





◆◆◆◆◆◆◆





「旦那様たちは今回、殿下の邪魔しないんすね」

「まぁ偶には、ね。

今回殿下はセーラと白銀祭を共にする為に私の課題をクリアしつつ勉学、公務と相当無理をしたからね。ご褒美みたいなものかな」

「少しの時間だけ、許す」

「私たちの妨害にも耐える根性は認めますよ。でも私たちが何かしなくてもーー」


「「「エンニチ(様)が妨害するだろうし」」」



「…結局のところ応援したいんすか?邪魔したいんすか?」







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