二度
「セラフィーナ様は大人しくていい子でしゅね〜。さぁお尻ふきふきしましょうね〜」
「セーラはどこもぷにぷにして可愛いなぁ」
「僕も、(おしめ)替えたい」
ルイス兄よ、乙女のお尻をぷにぷに突くな!
ロン兄よ、人の用足しをジロジロ見んな!
ダスティさん早く私のおしめを取り替えてくれ!
羞恥心?そんなもの自然の摂理の前にはポイッだ、ポイッ。
ーーふぅ、スッキリした。
「綺麗になりましたね〜。セラフィーナ様可愛いいでしゅよ〜。ん〜」
お口にチュウをしようと近付いてくる唇を首を振って回避した。乙女の唇は安くないのだよ。
チッ、頬っぺたにチュウされたか。
ボカッ 、ガスッ
ゲシッゲシッゲシッ
何だ何だ?
反対側から何か聞こえるぞ?…おう、見えないじゃないか。
動きにくい手足を力の限りジタバタさせ漸く反対側に首を移動させれば、キラキラ笑顔のブラザーズと床に崩れ落ちたダスティさん。……何だ?一体何があったんだ?
やり遂げた感がある兄たちとダスティさんを見つめる視界を遮るように、にゅと差し出されたもの。
ジュースか、丁度喉が渇いていたのだよ。
ごくごく、ぷはぁっ、このリンゴジュースうまっ!!
ごくごく、あれ?私何しようとしてたんだ?ま、いいか。んくんくぷはぁっ。
このリンゴジュースマジうまっ。高級な味がするぞ。流石お貴族様だ。
オレンジジュースは酸味が強く感じられて赤ちゃんの舌にはキツイ。まだ飲んでいないがグレープジュースとかも苦味が強く感じるんだろう。しかしどうせなら高級果物で私の好きなミックスジュースを作ってくれないだろうか。はっ!?バナナ、バナナあるのか?私はバナナが入ってなければミックスジュースとは呼ばないぞ。
「ふふ、セーラ口が汚れているよ」
「セーラ、お菓子」
「あう〜」
高級リンゴジュースでベタベタの口をルイス兄がハンカチで拭ってくれ、横からはロン兄が赤ちゃん用のお菓子が入った器を持って来る。 ……何だこのセレブ感。ホストに貢ぐ女性の気持ちが幼児にして理解出来るなんて。
……将来が不安だ。
兄たちからチヤホヤとお世話されていると、コンコン、と扉を叩く音と共に開いた隙間からぬっと出てきたのはどでかいピンクのクマさんの顔。
「私のお姫様今帰ったよ。ルイス、ロンただいま。しっかりお姫様を護っていたかい?」
パパさん!
クマさんの横からひょっこりと顔を出したイケメンパパさんは身の丈ほどもあるヌイグルミを軽々片手で持ちながら部屋に入ってくる。
重くないのか?意外に力持ちだ。
「父上、お帰りなさい。……また、買ってきた」
「父上、お帰りなさい。はぁ、父上はセーラの部屋を動物園にでもするおつもりですか」
私の部屋はかなり広い。
生活フロアはゴージャスな絨毯、屋久杉に似たツヤツヤスベスベの一枚板で作られた重厚な感じのテーブルとイスは窓側の日が当たる場所に設置されている。
私が寝るふかふかベットの周りには、大きく高そうな革張りのソファーに刺繍入りのクッション。私のベッドから見える位置にある吹き抜けのデカいキッチンに窓にはステンドグラス、壁には金で装飾されているゴージャスお風呂、奥にある飴色の扉の向こうはパパさん達が寝る部屋まである。
そして部屋の壁側にある隙間はーーヌイグルミで埋め尽くされていた。
始めはパパさん、まだ着れない私にドレスや靴アクセサリー類を大量に購入。贈り物はその後も続き、ウエディングドレスを買って来たところで周りからストップが入った。
因みにウエディングドレスは買ったが嫁には出さないとの事。訳分からん。
次に買って来たのはヌイグルミ。どでかい紫色のウサたん。
前世でも街や店で見かけるだけでこんなに大きなヌイグルミなんてプレゼントされたことがない。私は喜んだ。お手てをパチパチ、キャッキャ笑って喜び、思わず大サービスにお礼のチュウを頬っぺにしてしまった。
パパさんが傀儡になった。
その日から毎日毎日、2体3体とヌイグルミは増え続け広い部屋は今ではヌイグルミの動物園だ。
しかし貰った本人はヌイグルミで遊べない。何故なら大き過ぎてこちらが潰される危険があるからだ。
小さいヌイグルミは枕元に置いてある物だけだ。ブラザーズが買ってくれた縁日で売っているような明るい緑色に着色されたヒヨコのヌイグルミ一つしかない。
パパよ、嬉しいが私のサイズを考えてくれ。
「ほーら、クマさんだよ。そうかい嬉しいかい。ふふふ…おや?ダスティは床で一体なにをしているんだい」
「暴漢を撃退しただけです。妹はわたし達が守りました」
「頬っぺた、チュウした。」
ピキッ。
……何の音だ?
「…………ほぅ、ダスティ。君は私のセーラの頬にキスをしたのかい?」
「い、いや可愛さの余りって言うか、何つーか、その俺なりの親愛の表現と言うかでしてね」
「最初は口にしようとしていました」
「セーラ、嫌がった」
…をや?
何か気温が下がったか?背筋がゾクゾクするぞ。
「……ふふ、なるほど。君なりの親愛の表現、か。
それでは私なりの親愛の表現をしようかな。ダスティ、あちらで二人で話そうじゃないか」
パパさん、笑っていますが目が怖いです。
青ざめたダスティさんをズルズルと引き摺りながら扉の向こうへ行ってしまった。
私の耳にどこからか遠くでドナドナが聞こえた気がした。
ダスティさん、安らかに眠れ。
……
パパさん、遅いぞ。
ルイス兄がふかふか毛布を、ロン兄がヒヨコのヌイグルミを持って来てくれる。
なでなでポンポン、なでなでポンポン。
……
……ふぁ、、。
眠い……ぐぅ。
◆◆◆◆◆◆◆
「お疲れ様でした父上」
「成敗、成敗」
「久々に体を動かせて良い運動になったよ。
しかしダスティは姉二人の所為で女性には嫌悪感しか持っていないはずだが……ふむ、現状では解雇は難しい。二人ともしっかりお姫様を護るんだよ。ダスティの生死は問わないから存分に攻撃しなさい」
「「 はい!! 」」
『誤解ですって〜』