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二十三度

入院組も退院しこれでいつもの人数で仕事が……え、君寿退社するの?おめでとう…あれ?( ̄  ̄)


あれは私が3、4歳頃のお話。





誰もが一度は考えた事はないだろうか?



記憶はこのままで小さい頃に戻れたら。

過去に戻って一からやり直したい。

もし異世界に行ったら内政チートしてやるぜ。

等、様々だろう。私もその一人だった。

日本人の記憶がある状態での赤ちゃんライフ。

無双するはずだった。


ーーのに。



魔法=チート。しかし不要な氷魔法。


剣&護身術=忍耐の人ダスティさんが匙を投げた。残念ながら全く、これっぽっちもセンスが無いらしい。代わりにエンニチが襲いかかる複数の剣をひと蹴りで粉砕する必殺技を編み出した。何故だ?



ならば内政チート。


農業=夏休みの課題のアサガオを枯らしますが何か?


食事=とても美味しい

米が無いのは仕方ないとして、カリフワモチモチパンも旨味ギッシリまろやかなスープも全て美味しいく三つ星ホテル並。一般人の私が入る余地なし。却下。


内政=国には国の決まりがある。簡単に素人が口を出してはいけない。

例えば冷蔵庫が出来た所為で氷屋が、印刷が出来た所為で看板屋が、と下手に口を出せば廃業に追い込まれた人たちに恨みを買う可能性もある。最悪暗殺ルート?却下。


………あれ?何も無い。

唯一成功?したのは飴ちゃんぐらいだろうか?


仕方がないので身近なところから始めてみた。

無論暖房器具だ。



ストーブ=暖炉がある。

…あれ?いやいやいや、え〜っと他には。


懐炉かいろ

電気カーペット

電気炬燵でんきこたつ


ふっふっふっ。この辺りは世界に無い器具ばかりだ。私が介入する余地が…余地、、おや?


さて皆さん。袋を振ると発熱し丸一日温かい懐炉様。コンセントを差し込むと足からポカポカになる電気カーペット様と炬燵様。

一体どれくらいの人間が材料から始まり仕組みを理解し、且つ製造出来るでしょうか?

貴方なら分かりますか?


……分かる訳ないだろうがぁっっ!!(泣)


石灰?電気?配線?無理無理。

前世は高校を卒業後、商業系の専門学校からそのまま販売系の会社に就職。遠赤外線?なにそれ、電話応対にコンセントは必要ありません。

所詮しがない一般OLには無理な話だったのだ。


打ちひしがれたが、そこでフッと思い出したのがテレビで見たウォーミングパン。

小さなフライパンを重ね合わせた様な形で中に石炭を入れベッドを温める優れもの。

つまりお貴族様の寝床をポカポカにする器具だ。





皆さんが寝静まる深夜。


「エンニチ、まえにてきはいにゃい?」

「(コクコク)」

「みぎよーし、ひだりよーし。エンニチ、いまからさくせんこーどーをかいししましゅ」

「(コクコク)」


暗い廊下をシタタタタッと先にエンニチが先行し、後ろからふんわかコートとフードをかぶり小さなランタンを持った私がとてとて付いて行く。鳥は夜目がきかないと聞いた事があるがエンニチには全く関係ないようだ。

曲がり角ではエンニチが周囲を確認し合図を送ってくる。驚くほど順調だ。誰か一人ぐらい使用人に出くわすかと思ったが流石アサシンスキルの持ち主だ。


ん?何エンニチ。

途中の曲がり角で停止したエンニチの視線がジッと私の背後を見てる?

使用人てきかと慌てて背後を振り向くも誰もいない。

シンッとした廊下は物音ひとつ無く、手に持つ小さなランタンだけが唯一の光源だ。少し手を上げ翳してみるが奥まで光は届かず逆に怖さが増し、何かに襲われそうで闇から目を逸らせられない。


ーーブルルッ。


ーーエ、エンニチさん、君一体なにを見たのかな?


ま、まさか幽霊とかポルターガイストとか悪霊とか背後霊とか貞○とかですかーーっっ!?(泣)


ウワアァッ!!思わず目の前にいたエンニチを抱え込む。

前世の幼少期。父親に無理矢理お化け屋敷に連れて行かれ高熱を出した事から始まり、家の軋む音に怯え、夏の定番恐怖番組のCMに怯え、ホラー映画の主題歌に怯え、最後は元カレ、いや浮気者のクズは私を病院系のお化け屋敷にこれまた無理無理連れて行き半泣きし動けない私に逆ギレした。

ホラー系にはロクな思い出がない。



お化けは嫌だ〜!悪霊退散!お札聖水護符!誰か塩撒いておくれ〜!

プルプル震えるながら暫くエンニチに縋り付いていたが、ふっと思った。

エンニチは自分より大きな私が縋り付いても少しも動じていないと。それどころか安心させるかの様にポフポフと腕を叩く男前である。

ーーんん?

よくよく考えると、エンニチならば幽霊だろうがゾンビだろうが一撃ノックアウト出来るのではなかろうか?

…うんうん。幽霊がエンニチの跳び蹴りで霧散する絵面しか想像できなくなってきた。

安心すると強張っていた体の力が抜ける。


神様仏様エンニチ様。どうか私をお護りください。





最強の護衛を引き連れ無事に目的地キッチンに辿り着く。

コッソリと厨房から小さなフライパンと火石を拝借し部屋に戻って実験開始だ。


流石にフライパン二枚重ねは無理なので取り敢えず一枚で実験だ。

ここで使うのは石炭ではなく火石。

火石と言うのは空気に触れると発熱する石の事で、火の魔法を内包しており内部の魔気が無くなるまで発熱し続ける赤い不思議な石だ。普段は特殊な布で包む事で発火を防ぎ、使うときだけ布を外し煮炊きや暖炉など様々な場所で活用されている。

鍛冶職や旅の必需品。薪要らずで残りカスも有害物質も出さない。正に自然に優しいエコ。

そこの奥様、環境にも優しいお得な火石お一ついかがでしょうか?



冗談はさておき、よくお手入れされているフライパンにコロンと入れると石がだんだん熱を発し始めた。

おお!何か良い感じだぞ。

シーツの上から熱を持ったフライパンを横からスイースイーと滑らせるイメージだが、実際にはズルズルと引きずりながらはご愛嬌。


ほっ、よっ、とぉ!

子供には、な、なかなかの重労働だ。

スタスタスタ♫


むっ、やっ、はぁ!

スタタタタタン♫


…私の横で応援のつもりなのかエンニチがスタタン、スタスタスタと高速ステップを踏んでいるのだが、こ、このステップはもしやインディアンステップ?

上手い。無駄に上手い。なんだあのリズム感と素早い足捌きは?この子、出来ないことなんて無いのではないだろうか?



エンニチの応援を背に何度か繰り返していると呼吸と体温が上がり額に汗が滲み始めた。

労働の尊い汗だ。


ステップを止めハンカチを持って来たエンニチにお礼を言いフライパンを置き汗を拭う。

額の汗を拭い終わり作業再開をする為フライパンを持った瞬間、


「アッッ!!」

「ーー!!??」


熱っ、ジュッていったよ、ジュッって!

僅かな間放置していたフライパンだが、思っていたより熱を持っていたようだ。慌てた様子のエンニチが冷やそうとでもしてるのか羽でバサバサと手に風を送る…あれ?


「いたくにゃい」


先ほどまで鈍痛を伴いジンジンとしていた手の痛みが消えている。

本当に冷えた? どうして?

首を傾げ答えを探す前に異様な匂いがしてくる。



「……エンニチ、なんかごげくしゃい?」

「(ツンツン)」

「ん?にゃ…にぃーーっ!?」


ノオォォオッ!!?


わ、私の高級羽毛布団が燃えているー!?

な、なんでどうしてどないしてー!?火石!?フライパンを投げ出した時、外に出たのか!

イヤーーッ!そっちは私の安眠枕!やめてー!!



咄嗟に氷魔法で全てを凍らせる。


………………。


あ、ああ。


私のぬくぬく羽毛布団が、ぐっすり安眠枕が、ふわふわシーツが、私の桃源郷やすらぎのばしょが一瞬にして氷の世界に。


…今夜どうしよう。

眠れないから一緒におねんねしたいの☆攻撃で誰かのベッドに潜り込み、朝一で証拠隠滅するか。入り口を塞いで時間を稼ぐか。


そんなことを考えた所為でバチが当たったのか、バタバタと聞こえる複数人の足音。

通り過ぎて!との祈りも虚しく、ガチャリと扉を開く音が。ああ。


覚悟を決めギギギギギッ、と錆びたブリキのオモチャの様にゆっくり振り向けば、予想通りパパさんたちの姿。

笑顔なのに目が笑っていないパパさんの隣でブラザーズが顔を引きつらせ、ダスティさんが凍りついたベッドと私を見て憐れみ、使用人の皆様方が生温い目で此方を見ている。何だこのカオス。




「セーラ、何か言う事はあるかい?」



「ひぇっ!も、もうちわけごしゃいましぇんでちたぁーっ!」







後にお湯を入れる湯タンポの存在を思い出したが、作って欲しいと言える雰囲気でも無く、まして言う資格も無く今のところ封印状態である。






◆◆◆◆◆◆◆






「セーラ可哀想」

「殿下もぬか喜びをさせて」

「残念ながら3分くらいでは体は温まらないだろうね。セーラの寒がりは筋金入りだ。期待した分だけ落胆も大きいだろう。

ほら、前にボヤ騒ぎを起こした時も簡単に温める器具を発明中だったと言っていたぐらいだからね」

「あ、それ覚えています」

「…ああ、あれっすね。セラフィーナ様が夜中に起きたんで何処行くかと後ろから着いてたら、エンニチ様に着いてくるな!って睨まれましたよ。分かります?暗闇に同化して目だけがギラギラ見える状態で殺気混じりに睨まれるんす。あの時速攻逃げ出していなきゃ俺、今ここに居ないと思いますよ」

「ダスティ、ご愁傷様」

「執事さんや他の使用人さん達も全員ひと睨みで退散してたすね」

「うちの精鋭たちも形無しだね」

「その後、暗闇に怯えたセラフィーナ様に抱きつかれて、ドヤ顔してたんすけど」

「無性に腹が立ちます」








昔、真夏に車を駐車場から出す為にハンドルを握った瞬間、ジュッと軽い火傷をしました(泣)

真っ黒な車とハンドルだったしな〜( ̄  ̄)



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