二十二度
お待たせしました。
本編再開です。
☆雪花祭作品の評価方法を変更しました。
悪夢の季節がやって来る。
鉛色の空から恐怖を撒き散らしながら。
生きとし生けるものの身体機能を著しく低下させ永遠の眠りに誘う恐ろしい混沌の使者。
ーー冬
その恐ろしい季節と合わせて開催されるのが、雪花祭だ。
本格的な冬の訪れの前に三日間行われる雪祭りで、初日には一般人でもバルコニーから開催を宣言する国王と守護鳥シュバルツ様を拝見出来るとあって、王都を目指し地方や他国からも大勢の人が一目見ようと押し寄せるのだ。
無論向かう先々で村や町も宿泊や土産物など恩恵を預かるわ出店はあるわ商人達が張り切るわで国を挙げての一大イベントになっている。実にたくましい。
そしてもう一つのイベントが毎回テーマを決め開催される雪像氷像の祭典だ。
毎年盛大に行われており、これを目当てに訪れる者も少なくはないとか。
これだけ聞くと北国雪まつりの様なほのぼのとしたイメージだが、内情は違う。推薦と審査と抽選で選ばれた芸術家や素人たちが名誉と賞金と一部はパトロン探しを目標に、水面下では寒さも吹っ飛ぶ熱いバトルになっている。
過去には魔法で相手の作品を崩したり溶かしたりする事件が多発するわ、自分の贔屓する作者を入選させる為パトロンが他の有力視される参加者を脅すわと、いろいろあったらしい。
人間って欲望に忠実だ。
さて、品評会だが誰が優劣を決めるのか?
無論お貴族様だ。
午前中にお貴族様たちは家名入りの薄いプレートを入り口で渡される。王族は金色、上級貴族は銀色、その他の貴族は赤銅色のプレートを持って気に入った作品があれば、作品の側にいる執行員に渡し点数を入れる形式だ。入選作品を決めた後、午後から一般人も会場内に入ることが出来る。
惜しくも入選できなくても、お貴族様が作品を気に入れば製作者を自宅に招きそのままパトロンになる場合もあるとのこと。
であるので上級貴族は強制参加。
つまり公爵家も強制参加。
長女の私も例外は認められていない。
これまでは雪が降るたびにトラウマから熱を出し寝込んでいた為に欠席せざるを得なかったのだが、去年と今年と続き体調を崩す事もなくなった事から白銀祭初参加だ。
正直ほんっっっっきで外出したくは無い。パパさんたちからも出席しなくていいと言われたが、元社会人として、せめて子供にでも出来る貴族の義務は果たすべきだと宣言すれば、家族は元より使用人の皆さんに至るまで感動の嵐だった。
気恥ずかしくも嬉しいがそれでも言いたい。
親バカとシスコン。
「だからってソレはないだろ?」
「何か問題でも?」
呆れた顔でこちらを見下ろしているのはこの国の皇太子呼び名はベル坊っちゃん、、もといベル様だ。
出会った当初の幼児の丸みを帯びた顔立ちは年々すっきりしたものになっており、国王様に似た将来のちょいワルの片鱗を見せている。
「殿下、あなたの目は頭の中と同様に節穴ですか?セーラは何を着ても愛らしいのですよ」
「殿下は目がおかしい。今からでも主治医のところに行くべき」
背後から抱きしめているのはブラザーズ。
長男のルイス兄様に次男のロン兄様だ。
こらこら兄たちよ、睨まない睨まない。ベル坊っちゃんは殿下で未来の上司だからね。持ち上げつつ落とす時はここぞと言う時に落とさないと。え?違う?
煌めく金髪をサラリと搔き上げたルイス兄様は、性格と美貌に磨きがかかりキラキラ爽やかさんな中性的な雰囲気を醸し出している。噂では信者を量産中との事。若い頃のパパさんにそっくりと執事さんが喜んでいたが、それでいいのだろうか?
ロン兄様は無造作に肩まで伸びた髪を銀色のリボンで纏め上げているのだがチラリと見える襟足が魅惑的。エキゾチックな雰囲気と相まって、将来は女性の入れ食い状態になるのではと妹は不安です。
更にその後ろでは、三人の子持ちなのに未だに婚約の打診が殺到しているニコニコ顔のパパさんと、斜め後ろには長い冬もいつかは終わる。人生の春の訪れを待つダスティさんが親指を立てていたりする。
「だ、だけどよ。……やっぱ着込み過ぎじゃね?」
そうかな?
「今年はお前を見に来ている奴らも多いんだぞ。見ろよ、彼奴らセーラを二度見して絶句してるぜ。
まぁ普通グラージュ家の真珠なんて呼ばれる奴が丸々肥えた雪ウサギみたいにな格好になってるなんて誰も思わないよな」
肥えたウサギとは失礼な。
ただ厚手の肌着三枚重ねに特殊な糸で織られた保温性に優れたドレス。暖かコートの上からモコモコのオフホワイト色の毛皮のコート。手にもモコモコ手袋二枚重ねに、首にはマフラーで口までぐるぐる巻きにし風が入り込む隙間もない。
特注した耳当てに、頭には毛皮のコートと同じくオフホワイト色の帽子を深く被りほとんど目しか出ていないだけだ。本当はゴーグルも欲しいが体裁を考え泣く泣く諦めた。
なのに寒い。ここまで防寒対策してもまだ寒い。この国の気候はどうなっているのか。
ベル坊っちゃん曰く、肥えた雪ウサギの様な姿らしいが、気にしたら凍死する。
オシャレは忍耐と聞いた事があるが、残念ながらオシャレで暖は得られないのだ。
「先ほども言いましたが、セーラは何を着ても愛らしいのですよ。だいたいその辺りの有象無象共にセーラの姿を見せるだけでも許し難いのに顔を見たい?可愛いセーラを見世物扱いですか?全員簀巻きにして雪山に放り出してやりましょうか。氷山のある極寒の海がいいでしょうか」
「いや、ルイス。それどっちも死ぬからな?」
「第一、セーラが顔を出したらこれまで以上に面倒くさくなる。毎年セーラの誕生日には従者が祝いの品と釣書持参で列をなすから追い返すのに大変。それとも殿下はセーラにお見合いさせたい?」
「うん!セーラは着膨れても可愛いなぁ!」
「………ありがとうございます?」
「似合ってるから安心しろ。
あれ?いつも側にいるあの黒い魔神は、、うぉっ!?お前そこにいたのかよ」
呼ばれて胸元からひょっこり顔を出したのはエンニチだ。
いつもは私の足元にいる事が多いのだが、ここは大勢の人がいる会場だ。
小さなエンニチが踏み潰される!何てことは欠片も想像していない。寧ろ踏み潰そうとした人たちが逆に蹴り飛ばされる未来しか見えない。
混乱を避けるため、お願いをしてコートの胸元にポケットを作ってもらったのだ。
淡いオフホワイト色のコートから顔だけ見せている小さなヒヨコ。
字面だけみれば可愛らしいほのぼのとしたマスコット的なものだが、ヒヨコをエンニチに置き換えるだけであら不思議。何故かマスコットがアサシンになる。
ある意味最強の御守りだ。
ザクザクと雪を踏みしめながら会場内を見て回る。
どれもこれも素晴らしい作品ばかりだが、前世と同じく今世でも凡人には理解出来ない物が多々ある。
例えば向こうの氷像。
側には製作者が熱心に語り、お貴族様にアピールしている。なになに。
「ーーからインスピレーションがわいたのです。つまりこれは心の内面を表現しており、ハリズナ時代の古代彫刻とアソトナ時代の古代織をヒントに自己流にアレンジを施しーー」
確か今回のテーマは《庭で楽しむ氷雪像》ではなかっただろうか?
古代と現代のコラボレーションと言っていた背の高い作品を見上げる。
うん、何の氷像か全く分からない。ゴチャゴチャしてて見た目だけを言うならばそうだなぁ…スカートをはいたモアイ像のてっぺんに何本か棒が刺さって更にその棒には花やら鳥が刺さっている。
あれってよくよく見たら怖いような……ん〜何かに似てるな……あ、早贄か!
因みに早贄と言うのは百舌という鳥が、捕まえたカエルや虫を木の棒に刺す行動の事だ。うん、このザックリ刺さっている姿はテレビで見たものとそっくりだ。
女装モアイ像イン早贄バージョン!
………芸術とは大変奥が深い。
一体一体ゆっくりと眺めながらも先程の決意を忘れ、出席した事を後悔中だ。
事前に道がつくられているので雪に足がとられる事はないが、国内外から募るだけあり規模も大きく一回りするのに一苦労。いくら暖かモコモコブーツでも、歩けば歩くほど足の爪先から冷たくなるのを感じ眉間にシワが寄る。
途中パパさんが気付いて抱っこしてくれた。大好きですパパさん。イケメンでスマートに手助け出来る男性。女性が放っとかないのも納得です。
しかし寒いのには変わりない。
寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い。
くぅっ、誰だ過去に不正した奴は。
お陰で場内は魔法禁止だ。貴族や王族でも例外では無い=ベル坊っちゃんに温風ヒーターを出してもらう事も出来ない。
イライライライラ。
犯人を氷漬けしてやりたいっっ。
「ゔゔゔゔっっ!大体こんな寒い日に外に出るなんてバカですか?バカですよね?みんな死にたいんですか?」
「落ち着けって。だから今日はそこまで寒くないぞ。周りにいる奴らもみんな普通のコートだろ?」
ーー本当だ。
ベル坊っちゃんが指差す方には、遠目から見ても薄手と分かるピラピラなオシャレコートを羽織っている一団がいる。
何故に皆さん平気?私がおかしいのだろうか?
「やはり早々に南国移住計画をーー」
「おぉっと!!そうだ!俺セーラにプレゼントがあるんだ!!」
南国移住計画を真剣に考え始めたのに、ベル坊っちゃんは言葉を遮るとパパさんに抱っこされたままの私の右手を取り、懐から取り出した物を手に乗せる。
濃紺色の高そうな布に包まれている其れは楕円形のようだ。ゆっくりと布を取ると中からは私の掌より大きめのオレンジ色の石が出てきた。
はて?宝石でもなさそうだし、何方かと言えば見た目は青白い色の氷石や真っ赤な色の火石に似ている。だがオレンジ色などは見たことは無い。
内心首を傾げていると、手の中の石がぼんやりと光を帯び熱を発し始めた。
熱と言っても火傷するような熱さはなくお湯の様に包み込む温かさだ。
ーーはっ、こ、これはもしや。
パパさんの腕から降ろしてもらい、ベル坊っちゃんに詰め寄る。
「こ、ここ、これはあったかカイロ!?ポカポカ温かくなるやつですかぁっっ!!」
「お、おう。前にセーラが言っていただろ?持ち運び出来る大きさで身体が温まる道具が欲しいってさ」
つるりとしたオレンジ色の石の表面には目を凝らしても見え難いほど細かい文字が全体に刻まれている。
手の中の石はほんわか温かく、かじかんだ指先に温もりが戻っていく。
ほわ〜ぬくぬく。
う、嬉しい。今までベル坊っちゃんが贈ってくれた物の中で一番嬉しい贈り物かも。
何気に呟いていた言葉を覚えていてくれたのも嬉しい。
「ただし3分が限界だけどな」
「カップ麺か!?」
「かっぷめんか?」
思わずツッコミを入れてしまったが、カップ麺だってば。
まさかの3分。
カップ麺もテレビのキュ○ピーなクッキングも某正義のヒーローの活動時間も3分。
短すぎるわ!
……ゔゔ、温もりが無くなっていく。期待した分、心まで寒くなりそうだ。
こんな寒い日にはやはりアレがいいな。
コーンを入れた母の味的な味噌味や魚介類の旨みを凝縮した海の恵みの塩味。さっぱりとした日本の心醤油味や濃厚かつお肌に嬉しいコラーゲンなトンコツ味。
湯気が出る熱々のラーメンで心も身体もほっこりさせたい。
偶にはジャンクでチープな物を食べたいなぁ。
◆◆◆◆◆◆◆
「おや?お久しぶりですね、ケルン伯爵」
「おお、宰相ではありませんか。お久しぶりです昨年の白銀祭以来ですな」
「そうですね、ケルン伯爵は普段から王都に寄り付きもしませんから。お会いできるのは毎年この時期だけになりますね」
「ははは、都会の空気は田舎者には合わないのですよ。
おお、ご挨拶が遅れましたな。ルイス殿もロン殿も大きくなられて」
「お久しぶりですケルン伯爵」
「こんにちわ」
「うんうん、いい返事ですな。おっと、そう言えば今回噂の姫君が出席されると聞いて私も楽しみにしておりましてな。至宝と呼ばれるセラフィーナ姫は、、姫君…は?」
「何かありましたか?」
「…何と面妖な。あちらをご覧下さい。殿下のお側に雪だるまがおりますぞ」
「あれはセーラです。セーラは天使」
「世界一の妹なのです」
「可愛らしいでしょう?あの子が愛娘のセラフィーナです」
「……あれがセラフィーナ姫?……その雪だるまの様なお姿ですが、その…可愛い、のですか?」
「「「「 何か? 」」」」
「はいいぃぃっっ!!セラフィーナ様は世界一お可愛らしく天使のようでございますっ!!!(顔が見えないのにどうしろと?)」
とんこつラーメンが食べたい_φ( ̄ー ̄ )




