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閑話 エンニチの少しだけ特別な一日

お待たせ致しました。


デート。

ある人間のオスはこう言った。


人生の甘酸っぱい思い出、もしくは一生残る黒歴史と。


簡単に説明すると、お互いの事を知るために一定の時間を共にすることだとか。


……ん?


自分はセーラと一定の時間どころか、ほぼ離れる事なくずっと共に過ごしている。

これは毎日がデートではないだろうか?



首を傾げつつ、ベットの上で読んでいた自分より遥かに大きな本のページを足で掴みパタン、と閉じた。





先日、セーラとデートする事が決まった。

デートとは二人きりで一緒に外出するだけのものと思っていたのだが、しかし自分の認識は甘かった。書物によるとデートは奥が深いのである。

筋肉使用人がベッドの下に隠していた【これで貴方もモテモテ!女性の心を胸キュン!モテる男の攻略必勝術】というよく分からない題名の本には、デートとはまず初めにメスの自宅前に馬車でお出迎えをし、ショッピングで高級な洋服や宝石を買い楽しませ、昼食はオシャレで美味しいお店を予約し、食後は観劇やまたショッピング。三時には高級なカフェで紅茶とケーキを食し夕飯後は、また馬車で送るという一連の流れだが、その合間に行わなければならないスマートな仕草やメスに対する心得など細かく挙げればきりがない。

少々ウンザリする量の箇条書きを思い出し、本当にこれを実践しているのであれば世の人間のオスは大したものだと感心する。



…ショッピングや観劇か。セーラには一流のものを見せたいが困った。自分には先立つものがない。

いや待て。以前筋肉使用人が、狩った素材はギルドで換金できると言っていたな。ふむ、ドラゴンでも狩って換金でもするか。

しかし必要な金額も分からない。観劇や店など分からないものだらけだ。他の奴らはどの様にデートしているのかは聞くのが一番だろう。

自分の周りにいるオス達の顔を思い浮かべる。




宰相。

聞きたくない。

弱みを見せるのは嫌だ。

コロス。



親。

宰相と以下同文。



邪魔な兄弟。

お子ちゃまに相談?ありえない。

消す。



筋肉使用人。

噂ではメスにふられた数は2桁を超えるらしい。

聞く価値無し。

奴隷。



深い溜息を吐きつつ首を振る。

全く。自分の周りには碌でもないオスしかいない。

暫く考えた末、頭の中に浮かんだ人物に会いに行く為に部屋を出た。





「デート、で御座いますか。エンニチ様がセラフィーナお嬢様と」


使用人専用の休憩室で執事が淹れた紅茶を飲みながら相談してみる…宰相側の人間だが奴に聞くよりは遥かにマシだ。

…んむ。今日のは風味が変わっているが美味いな。柑橘系に似た爽やかな甘味を感じるが味に奥行きがある。ハーブをブレンドしたさっぱり夏向きの紅茶だな。

自分の満足げな様子を見た執事が目を細める。


「ふふ、気に入られましたか?この茶葉は個人的に裏ルートから仕入れたものです。

茶葉とハーブをブレンドしたわたくしオリジナルですが、味の分からない他の使用人らはハーブティーは草を煮出したもの、としか認識しておらず振る舞い甲斐がないのです。その点エンニチ様は味のお分かりになられる方でわたくし大変嬉しゅうございます」


煮出した汁……想像したら此方まで不味くなりそうだな。

クッキーで口直しをする自分を見ながら嬉しそうにしていた執事だったが、一転眉を下げ申し訳なさそうに答えた。


「…少々申し上げ難いのですが、セラフィーナお嬢様との外出は難しいかと。エンニチ様もご存知の通り女性が少ないことを理由に世の中には不埒な考えの者も大勢おります。外に出るだけで襲われるのは確実かと。万が一の事を考えると……は?全員潰される、と。

エンニチ様なら可能でしょうが領内を血の海にされるのは…。

無論セラフィーナお嬢様に手を出す不届き者にはそれなりの、例えば(ピーピー(放送禁止用語))や(ピーーー(自主規制))などの処罰は必要ですが、安全とは言えセラフィーナお嬢様が怖い思いをされるのはお可哀想ではありませんか?」


む。セーラが一瞬でも怖い思いをするのは嫌だ。

…仕方がない。外出は諦めよう。

デートは出来ないのかと落ち込んだ自分に、執事からアドバイスを貰った。


…なに、お家デートだと?



内容は日常の時間に少しだけ特別なことをするというものだった。

例えば料理を作ってあげたり、居心地の良い空間を作ってもてなしたりするらしい。


おもてなし。

聞いたことがあるぞ。セーラがよく呟く言葉だ。


執事おまえは天才か。

よし!自分はセーラをおもてなしするぞ。

そうと決まれば準備だ。



「……ほう、ほう。成る程、承知致しました。此方はお任せ下さいエンニチ様。セラフィーナお嬢様も大変喜ばれることでしょう」


当たり前だ。




向かったのは筋肉使用人の部屋だ。


「イテェッ!な、何なんすか一体!?……おわっ!いきなり本が出てきた……お菓子のレシピ本?……エンニチ様これ食いたいんすか?……はぁ!?この本のレシピ全部作れ?無理っすよ一体何種類あると思って…イダッ、イダダダッ!!イテェッ!分かった!やりますよやればいいんすよね!」


愚かな。素直に頷けば痛い思いをしなくて済んだものを。



脛を抑え蹲る筋肉使用人を背に、次に向かったのは庭師のところだったが、運良く途中で会った。

事情を説明すると庭師は笑い胸をどんっと叩く。


「分かりました。お任せ下さい。朝一でその日一番の花をお届けしますよ」



準備は万端だ。








「…え?こ、これエンニチが用意したの?」



デート当日。

お昼寝から起きたセーラを中庭に連れて行けば、驚きに藤色の目を真ん丸に見開いた。





ガーデンテラスに設置されたテーブルには、小さな花が刺繍された白いテーブルクロス。中央には薄い黄色や淡い水色の控えめな花が活けられている。

テーブルの上のティーセットは小さな白い花と赤い実が付いた物だ。前に城に行った時にセーラが気に入った様子なので城から全て移動させたものだ。

目の前で見ていた執事は何故か固まっていたが。

中央の花を囲む様に、周りには香り高い紅茶や甘酸っぱいオレンジ等のフレッシュジュースを始め、定番のプリン、二層になっているしっとりとしたオレンジとチョコレートのケーキ、ほろ苦い珈琲ゼリーの上のホイップクリームには瑞々しい緑のミントが飾られている。赤や青のカラフルな色のサクサクとした食感のマカロン、パリパリと香ばしい焼き色のついたクレームブリュレ。口直しのハムや卵を挟んだ一口サンドイッチも山盛りだ。

色鮮やかな菓子が所狭しと並べられている。


うむ。良くやった。

褒めてやろう。


今日の自分の首には、いつも付けている首飾りの上から水色と白のストライプのリボンを結んでいる。

自分にはよく分からないが、オシャレで似合っているとの事だ。

おもてなしの準備は万端だ。



「…ダ、ダイエットは明日から。私は出来る子やれば出来る子。うん。

……ありがとう、エンニチ。とても嬉しいよ」


セーラから満面の笑みと感謝のキスを貰えた。

独り占めだ。 羨ましいだろう。



テーブルに着くといつの間にいたのか執事が優雅な手つきで紅茶を入れる。セーラがお礼を言い飲む間に別の使用人にお菓子を取り分けさせる。 先ずはそのマカロンからだ。



色とりどりのお菓子を半分こで食べ大変満足だ。


デートとは良いものだな。

毎日でもいいかもしれない。



次の計画を練りながら、偶には筋肉使用人を褒めてやろうと考える。

序でに今回の礼に執事も。


何がいいだろうか。









オマケ


「…エンニチ様、これ唯の牙じゃないすよね?何すか?」

「…こちらはドラゴンの髭に似ていますね」



今回の礼に、ナイフや剣を使う筋肉使用人にはドラゴンの牙を、鞭が武器な執事にはドラゴンの髭をやっただけなのだが。

元手はタダなのだから素直に貰えばいいものを。何故手が震えている?


「……エンニチ様、私にはこの髭が金色に見えるのですが。それにダスティ様がお持ちの方も心なしか薄っすら光を帯びているように見えるのですが」

「あははは、執事さん冗談キツイすよー。金色のドラゴンなんて俺、西の守護竜様しか知らないすよ……あははは、あはははのはー」


よく分かったな、当たりだ。



二人とも卒倒した。


何故だ?






オマケのオマケ


『北の!貴様は一体二番目にどういう教育をしたのであるか!』

『なんだ西の。藪から棒に……二番目?』

『お前の子、あの目付きの悪い黒いのだ!いきなり連絡も無しに吾輩の前に現れたのだぞ。

急で驚いたが、礼儀として挨拶をしようとした吾輩の髭を問答無用で嘴で引っこ抜いた上に牙を蹴り折ったのであるぞ!』

『おやまあ。なかなかやるのぅ』

『おやまあ、では無い!!』

『直ぐに生えるし良いではないか。だいたい気を抜いていたお主の負けよ』

『初対面の幼子に戦闘態勢をとれと?奴は悪魔か魔王か!?

…いや悪魔かも知れん。彼奴、痛みに呻く吾輩に謝罪も無しに、髭と牙を持ってさっさと帰って行ったのであるぞ!無視か?吾輩無視されたのであるか!?』

『無視と言うよりも、おそらく二番目にはお主は素材にしか見えなんだのだろう』

『教育し直すのだーーっ!!』






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